第158号
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「自費」で企業にテクノロジーサービスを提供する東莞の特派チーム

2019年11月21日 龍躍梅(科技日報記者)、張友炳(科技日報特派員)

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視覚中国より

工場で論文を書き、作業場に実験室を設置

 広東省東莞市では企業テクノロジー特派員が大活躍している。彼らは、ほとんどが博士課程を修了した高学歴で、それぞれ得意分野を持っている。そして、手弁当で企業に直接足を運び無料でサービスを提供する。さらに、「挑戦」が大好きで、企業が抱える技術的な問題が難しければ、難しいほど、企業共通の難題であればあるほど、俄然やる気を出す。

 2008年、広東省政府や中国科技部(省)、中国教育部は中国全土で企業テクノロジー特派員行動計画の実施を始めた。東莞理工学院はこれを基礎として、イノベーションを通して、2016年にテクノロジーイノベーションサービスグループを立ち上げ、若手の教師、技術者の中から選抜したスタッフを東莞市や珠江デルタ内のテクノロジーパーク、技術イノベーションに力を入れる鎮、企業などに派遣して、技術研究開発や産学研連携などのテクノロジーイノベーションサービス特定項目プログラムを実施した。

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東莞理工学院テクノロジーグループは、ここ3年間で、32鎮・街の企業1,348社にテクノロジーサービスを提供し、東莞の製造業のモデル転換・高度化加速をサポートしてきた。画像は東莞市瑞立達玻璃盖板科技股份有限公司で技術指導を展開する胡耀華教授率いるチーム(撮影・張友炳)。

「自費で、ターゲットを絞ったサービス」を実施するグループに、大学はプロジェクトの種類に基づいて5万元(約77.5万円)から30万元(約465万円)の経費を出してサポートする。ここ3年で、合わせて900万元(約1.4億円)以上の経費が費やされ、企業1,348社にサービスを提供してきた。

 東莞理工学院の党委員会書記・成洪波氏は、「テクノロジーイノベーションサービスグループは、企業に足を運び、技術と成果をイノベーションの現場に提供することで、大学が持つ最先端の技術や成果を企業に応用するよう推進し、産業化の足並みを加速させている。同グループは工場で論文を書き、実験室を作業場に設置することで、大学のために、生産の第一線で働いた経験を持つ優秀な中年・青年教師、テクノロジースタッフ、学生を多数育成し、大学、企業が地域の経済、社会の発展に深く関与するよう促進している」と成果を強調する。

グループと企業が助け合って共に進歩し発展

 東莞市瑞立達玻璃盖板科技股份有限公司は、スマホの画面や腕時計に使われるガラスの設計、研究開発、生産、販売に携わるテクノロジー企業だ。2016年に届出た「新型ディスプレイパネルスマート製造新スタイル」は、中国工業・情報化部(省)により、「スマート製造総合基準化・新スタイル応用プロジェクト」に認定され、2億9,300億元の資金が投じられた。

 同社の副総経理、チーフエンジニアの胡煒氏は、「初めは少し困惑した。このプロジェクトはとても大きく、全体を指導、指揮する人が必要だった。当社は技法や作業場での生産は得意分野であるものの、全体的な解決策、プロジェクト全体の把握などの面では未熟だった」と率直に語る。

 その時、東莞理工学院ロボット学院の胡耀華院長が率いる「産業用ロボットによる自動・省人化を対象にしたテクノロジーイノベーションサービスグループ」が胡煒氏らに大きな自信を与えてくれたという。同グループは、企業のニーズに合わせて、企業に入り込み、プロジェクトの全体的な計画を策定し、具体的な技術案の指導や監督、管理を行い、プロジェクト実施に深く関与した。共同の取り組みにより、2018年10月、このプロジェクトの検査引き渡しがスムーズに完了した。現在、このスマート作業場は運用が始まり、生産効率が4.26倍向上し、不良率が50.2%低下、生産コストが35.2%削減された。

 大学が企業に自信を与え、企業も大学に自信を与えている。以下は、胡耀華院長が紹介してくれたエピソードだ。

 2018年6月、第17回全国大学生ロボットコンテストRobocon(南方地域予選)で、東莞理工学院は、決勝に進むことはできたものの、思うような成績を残すことはできず、決勝に進んだ14チーム中13位だった。

 その時、胡耀華院長は胡煒氏に相談することを思いつき、胡煒氏も二つ返事で引き受けて同校で指導を始めた。長年の実戦経験に基づいて、胡煒氏は同チームに「秘策」を伝授。決勝で、同チームは大躍進を見せ、準々決勝では優勝経験のあるチームを破って4強入りし、最終的に3位に食い込んだ。

「グループが企業にサービスを提供することで、当院と企業が緊密な関係を築くことができている。それにより、当院が教師や学生が実践能力を養うようサポートする面で非常に助けになっている」と胡耀華院長。

 東莞理工学院を取材すると、51グループ(専門スタッフ)が企業1,348社に直接サポートを提供していることが分かった。「クリーン生産を対象にしたテクノロジーイノベーションサービスグループ」が一部の機関と共同で研究開発した技術が、教育部の技術発明賞一等賞や国家技術発明賞二等賞を受賞し、「(東莞市)横瀝鎮の金具特色産業を対象にしたテクノロジーイノベーションサービスグループ」が推進したプロジェクトが2016年広東省科学技術賞特等賞を受賞した。

「自費」でサービスを提供し企業の負担はゼロ

 東莞は製造業が盛んで、粤港澳大湾区(広州、仏山、肇慶、深圳、東莞、恵州、珠海、中山、江門の9市と香港、澳門<マカオ>両特別行政区によって構成される都市クラスター)の重要な製造拠点や工業企業が17万4,000社、一定規模以上の工業企業(年売上高2,000万元以上の企業)が1万社以上あり、広東全体の5分の1を占めている。

 成洪波氏によると、2015年に、ハイレベルの理工科大学建設がスタートし、広東省党委員会と省政府、東莞市党委員会、市政府は大学に対して、「経済、社会の発展において、重要な役割を果たし、特に東莞の製造業のモデル転換・発展において重要な役割を果たすことを期待している」と明確に要求するようになった。「当時、十分な調査、研究、分析を行い、企業テクノロジー特派員を基礎にして、スタイル、コンテンツ、管理メカニズム、作業モデルなどのイノベーションを通じて、テクノロジーイノベーションサービスグループを立ち上げた」という。

 取材を通して、同グループには、「需要の方向性、学際的研究、全体的な連携、自費、ターゲットを絞ったサービス」というはっきりとした特徴があることが分かった。

 需要の方向性の面でグループはまず需要の調査研究を展開したうえで、プロジェクト提案書を作成し、審査クリアを待って、プロジェクト実施をサポートする。

 学際的研究の面ではグループの各メンバーはそれぞれ専門の分野や学科が異なり、技術研究開発の分野の人材もいれば、管理の分野の人材も揃っている。

 全体的な連携の面で、グループは企業の第一線に足を運んで需要を確認し、問題を見つけ、学校全体が一丸となって関連の問題を解決するよう努めている。

 費用の面では、グループは経費を自分たちで賄い、企業にサービスを提供している。「企業に負担をかけないということを第一に考えた。地方の大学の企業、産業、政府に対する公共サービス機能を果たし、条件をつけたり、見返りを求めたりすることはしない」と成洪波氏。

 グループがプロジェクトをサポートする場合、企業は最高で20万元の支援を受けることができるという。一人のサポートで十分なプロジェクトの場合は、最高で8万元の支援を受けることができる。

 ターゲットを絞ったサービスという点では、過去の「ばらまき」方式ではなく、業界や企業の早急な解決が必要な問題に的を絞り、業界や企業共通のキーテクノロジーをめぐる問題解決に取り組んでいる。機械エンジニアリング、建築エンジニアリング、化学エンジニアリング・技術、電子科学・技術など4つの主幹学科をめぐる分野、環境ガバナンスとエコエネルギー、文化サービスとテクノロジーイノベーションなど二つにまたがる分野において基盤技術の研究を展開している。

各方面が大歓迎し、サービスもアップグレード

 孫璨博士は、「経済ニュー・ノーマル下の東莞建築業スマートモデル転換・高度化を対象にしたイノベーションサービスグループ」のメンバーだ。同グループは、高性能建築材料の研究開発やプレキャストコンクリート(PC)構造力学性能、工作メカニズム研究、高性能、低炭素・エコプレハブ式建築材料研究開発などに注目している。

 孫氏は、「当グループは現地の建築企業20社を訪問し、6社で研究成果の応用を展開した。グループの複数の研究成果が企業で実用化、応用され、多くの企業がプロジェクトで直面する実際的な問題を解決するようサポートした」と強調する。

 広東中建科技有限公司は、同グループがサービスを提供している企業の一つだ。同社のチーフエンジニア・呉勇氏は取材に対して、「当社の運営開始間もない2016年、グループ側から連絡があった。ここ数年、当社と共にプロジェクト技術をめぐる問題の解決に取り組み、不定期で研修も開催してもらっている。どのサービスも無料であるなど大変感銘を受けた」と語った。

 企業が問題解決していくにつれて、同グループの評判もますます高まっていった。東莞理工学院も同グループを「バージョン2.0」へとアップグレードさせることを計画しており、大学と企業が長期にわたって効果的に協力し、研究成果を実用化する面に重きを置き、既に企業と協力して研究を進める基礎を築き、成熟度の高い成果、産業化能力、高い応用価値があり、明確な市場ビジョン分析、相応の研究成果の実用化というイノベーション発展の可能性を有するチームと個人に的を絞ってサポートを提供している。

 今年、モデル的役割や牽引的役割をさらに果たすために、グループは「自費」でサポートするだけでなく、企業がグループと共同で研究開発センターや連合実験室を設置するようにも取り組んでいる。東莞理工学院科技処の范洪波処長は、「初めは参加する企業がないのではと心配していたが、企業は非常に活発に参加している。30社以上の企業から申し込みがあり、その中から15プロジェクトを選んで実施をサポートしている。数年の取り組みの結果、企業は私たちを非常に信頼するようになっており、私たちと協力して実際の問題を解決したいと願っている」と語る。

 東莞市の劉煒副市長は、「グループは小さくても、影響は非常に大きく、東莞理工学院は地方産業の発展に寄与する能力や科学研究教育の水準、学科構築の水準を大幅に向上させた。企業、地方政府、大学など全てが歓迎している。今後もしっかりと取り組んでいく価値がある」と強調した。


※本稿は、科技日報「東莞這支科特派隊伍 自帯干糧服務企業」(2019年11月12日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。