第158号
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気象情報取得に病虫対策―AIで農場をワンマン管理

2019年11月13日 張佳星(科技日報記者)

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視覚中国より

 山東省淄博市の泓基農業専業合作社の于昌江社長は、社長という肩書があるものの、実際には「一人親方」。それでも、ゆとりをもって農作業をしている。

「以前は2人で1日かけても0.33ヘクタールしか水やりできず、約86.6ヘクタールあるパーク全体に水をやるには1ヶ月以上かかっていた。でも、今は私1人で水やりしながら、さらに別の仕事をする時間もある」。中国水利部(省)が展開した「節水中国行・国家節水キャンペーンの実施(節水中国行・落実国家節水行動)」をテーマにした取材イベントで、于社長は、「スマート農業はとてもいい。野菜・果物の生産管理の過程で、スマート化コントロールシステムを採用し、ロボットの助っ人のおかげで、節水率は平均50%、節電率は平均30%、さらに作業の手間は平均90%が省け、本当に楽になった」と話した。

 広大な農村の農地で活躍する一部の「ロボット」は、産業用ロボットのようにはっきりと目に見えることはないものの、神経ネットワークのようにあらゆる仕事に浸透し、スマート化を実現している。例えば、天気を予測したり、害虫対策を行ったり、土壌の肥沃の程度を調べたり、苗の成長を見守ったりというのは言うまでもなく、野菜や果実の大きさや甘みなどを測定するための「光スペクトラムアナライザ」という強力な道具まで備えており、仕分けをプロ並みのレベルで行える。近年、人工知能の農業の分野への応用がどんどん進んでいる。選種、土壤管理、水やり管理、用水、天気予測、作物の選別など、各段階に人工知能が使用されるようになっている。

農場環境の情報を収集して水やり・施肥を自動化

 農作物のダイナミックな成長は、周囲の環境と密接な関係がある。現代の農業管理においては、土壌の中の水分や肥沃の程度、さらに農場環境のさまざまな分野の情報が細分化されている。

「温度、湿度、土壤、水や肥料が必要でないかなどの情報が農場にあるセンサーから収集され、システムに送られる」。泓基農場では、ブドウの根部から上の約1mの高さに、畝に沿って黒いパイプが設置されている。于社長によると、パイプの小さな穴から、異なる液体を、異なる速さで落としているが、それらを変更する根拠となる情報は、すべて1台の「頭脳」から出てくる。

 于社長は、「システムが農地を分析し、それに基づいて提案と指示を出す。中にはイスラエルに送信され処理されるシグナルもある」とし、パークの灌漑システムは、イスラエルの特許技術を使っており、パークの野菜・果物への点滴灌漑を行っている。情報化プロジェクトにより、それぞれの野菜・果物の栽培農地の実際の状況に応じて、的を絞った水やりや施肥を行い、化学肥料や農薬が原因となる環境汚染を減らすことができると述べた。

 時には、インターネットへの接続がうまくいかず、システムにアクセスできなくなり、「頭脳」との分断が起きてしまう。「現在、中国国内で分析処理が行えるよう、提携できる中国国内の企業を探している」と于社長。

 中国では、ビッグデータの農業分野への応用は始まったばかりで、各種の踏み込んだ研究はまだ実施されていない。「中国国内で検索できる農業ビッグデータの文献の数は、農業の他の研究分野の文献よりはるかに少ない」。成都大学の王雄氏らは中国知網(CNKI)の文献を検索して、農業ビッグデータ文献が占める割合を分析した。統計によると、農業情報化、農業IoT(モノのインターネット)、農業ビッグデータの3分野の文献は合わせて1万本ほどだ。うち農業ビッグデータの文献はわずか407本にとどまっている。一方、農業機械、農業経済、農業管理の文献の合計は前者の7倍もある。

 王氏は、「ビッグデータはデータ科学で、農業生産の各段階で産まれる基礎データ、環境データ、生産データ、市場データなどを含んでいる」とする。しかし、まだ十分に合理的な運用がなされていない。ビッグデータ技術を基礎にして、実際の業界での使用を結びつけ、問題解決のためにベストな方法を研究する。そうすれば、農業の発展を牽引し、末端の使用者が農業スマート化システムを利用する際、逆に手間がかかってしまうという状況を避けなければならない」と指摘する。

自動運転農機にはさらに高精度の測位システムが不可欠

 農作物の点滴灌漑のコントロール、栄養の科学的な比率などを、「頭脳」である農業AIに頼る以外、自動運転の農機・農具の形は産業用ロボットと似ている。

 衛星の設置・調整と研究開発の経験を持つ北京栄航集星科技公司の何徐華社長は、「自動運転の農機・農具は広大な土地で仕事をするので、産業用ロボットよりも高いレベルの時間や空間のデータ処理が必要になってくる。GPSなどの衛星測位システムを利用して得られる測位情報も高い精度が求められる。特に屋外では、環境と設備の相性は良くなく、ハードウェアが乗り越えるべきハードルは高い」と指摘する。

 地上のちょっとしたことが、大きな誤差につながる。街中で、建物の位置などに基づいてGPSの誤差修正が常に行えるのとは違い、広大で何もない農場では、常に測位システムの誤差修正を行い、正確な位置情報を提供するのは至難の業だ。何社長は例を挙げて、「実際の応用において、GPS観測柱を地面と垂直にすべきだが、夏の暑い日になると、太陽の当たっている面と、陰の面に温度差ができ、設備がわずかに歪んでしまう。そうなると、電波を受信する設備に計算できない角度ができ、測位の精度に影響が出る」と説明する。

 何社長は、「そのように誘導を行うと、トラクターは農地の端から端まで走る間に、250メートルほど曲がってしまう」とし、2010年から、栄航集星は北京農業スマート装備技術研究センターが主導する農機北斗自動測位技術商品と応用プロジェクトに参加するようになり、温度が一定のアルミ観測柱などの独自技術を応用するようになったという。

 そして「今は多くの技術がまだ未成熟だ。例えば、自動施肥で、今のマシンで作物の近くに穴を掘り、化学肥料を入れても、精度がかなり低い。しかし、今、多くの人が、マシンが地上の作物の根系の近くにより深い穴を掘り、化学肥料を直接作物に与えることができることを望むようになっている」と説明する。

 農機の自動運転の精度を向上させるためには、さらに制度の高い測位システムが必要になる。遼寧省農業マシン化技術普及ステーションの楊方氏などは関連の論文の中で、「北斗衛星測位システムが登場し、中国の農機の自動測位は海外のGPSシステムに頼っているという局面に終止符が打たれた。そして、精度の高い農業技術製品の国産化の面で、先導的役割を果たしている。現在、北斗農機自動測位運転システムは、新疆ウイグル自治区、黒竜江省、河南省、甘粛省、江蘇省をはじめとする建設兵団や農場の耕作、栽培に広く応用されている」としている。

 情報収集やアルゴリズム解析をしたうえで、どのようにすればそれを活かして精度の高い農作業を行うことができるのだろう?何社長は、「低コスト、ハイレベルのセンサーがカギ。それにより、農業ロボットは、『手際よく』、『丹念に作物を世話する』という水準に達する。マシンの耕作作業は、実際には、電気信号駆動で、電気信号から機械力への転換は、自動化農機設備の構造設計および設備センサーの合理的設計によって決まる」と説明する。

5G時代が到来すれば農作業にも大きな変革か

 何社長は「測位システムの時間測定、測位を活用した技術ロードマップが、5G(第5世代移動通信システム)が到来に伴い変化するかもしれない。現在の農機車両は、常に衛星と繋がった状態で、位置を『本部』に報告しなければならないが、5Gネットワークを活用すれば、超低遅延が実現し、農機車両間、車両と環境間の情報交換は、5G通信を使って、ポイント・ツー・ポイント通信が可能になる。実際の効果は、プログラムを組み入れると、農機は既定路線に基づいて耕作作業を行うことができ、人の手はほとんど必要なくなる」と説明する。

 今後は画像測位も可能になる見込みだ。中国農業大学は現在、トウモロコシに施肥するスマートマシンを研究開発している。そのマシンは画像に基づいて自動測位ができるほか、トウモロコシが発芽した後、その成長の度合いに基づいて施肥を行うことができる。

 将来的には、農場管理は「1人で十分」というのが「常識」となるかもしれない。何社長は、「水やり、土地分析などは全てスマート化できる。数人で大農場を運営し、スマート設備のメンテナンスは専門企業の設立によってできるようになるだろう。農作業は将来、『工場』のようになり、集約化、高精度、高効率、エコ、さらにトレーサビリティも実現するだろう」と今後を展望する。

 伝統的な農業生産では人間の経験が生かされ、一方のスマート農業では、環境や温度などの要素に基づいて、常にベストなソリューションを導き出す。必要なデータを相応の分析モジュールにインプットして処理するというのが、データの応用だ。実際には、スマート農業自体も、新たなデータを生み出している。

 農業産業にとっては、農業ビッグデータを活用すると、さまざまなルート、情報源から集めた情報、マルチタイプのデータを統一して分析・管理し、データバンクや各種機能モジュールを構築し、農産品ネットワークの経営状況を把握しやすくなり、農業情報のシェアが実現することになる。そして、各地域の農業産業情報、商品目録、サービス体系などの総合分析を行い、農業産業情報マップを作成し、農産品の生産、販売、経営のネットワークを秩序正しく構築し、農業資源の体系化管理を実現させる。

 何社長は、「全ての農産物の状況をアーカイブし、それを収集してさらに大きなデータバンクを構築すれば、さらに多くの新たな、そして実情に合う研究方法が見つかるだろう。これは、中国の農業科学化発展に対してさらに深い推進的役割があるだろう」との見方を示す。


※本稿は、科技日報「知気象、管病虫 AI譲農場主楽当"光杆司令"」(2019年10月31日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。