第159号
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安全面で細心の注意が必要な原子力施設の廃炉

2019年12月19日 陳瑜(科技日報記者)

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江蘇省連雲港市にある田湾原子力発電所(提供・視覚中国)

―中国初の研究用重水炉の廃炉はゴールではなくスタート

 歴史的使命を終えた原子力施設にとって、廃炉はゴールである。しかし、廃炉や放射性廃棄物の処理という観点から考えると、それは新興の産業や研究分野にとってのスタートでもある。

 中国政府はこのほど、中国初の研究用重水炉(以下「101炉」)の廃炉計画を承認した。では、101炉の廃炉にはどんな意義があるのだろうか?それは、一般的な原子力施設の廃炉とどのような違いがあるのだろうか?中国の原子力施設の廃炉の現状について、業界関係者を取材した。

原子力施設のライフサイクルの最終段階

 国際原子力機関(IAEA)は、原子力施設を「安全性についての配慮が必要な規模で放射性物質を生産・加工・利用・貯蔵・処理する施設で、その設備や建物、それに付属する場所を含む」と定義している。

 また、中国の「放射性汚染防治法」は、原子力施設について、「原子力を動力とする施設(原子力発電所、原子力熱発電所、原子力蒸気・熱供給設備)や原子炉(研究炉、実験炉、臨界装置など)、核燃料の生産・加工・貯蔵・後処理施設、放射性廃棄物の処理・処置施設」と具体的に定義している。

 他の非原子力施設と同じく、原子力施設にもライフサイクルがある。廃炉は、原子力施設のライフサイクルの最終段階で、ライフサイクル管理においてより重要な部分となる。

 IAEAは、原子力施設の廃炉について、「原子力施設の一部、または全ての監督・管理・コントロールを解除するために講じる事務的、技術的活動」と定義している。

 中国核工業集団の首席専門家で、中国原子能科学研究院の院長補佐を務める張生棟氏は、「歴史的使命を果たし終えた原子力施設にとって、廃炉はゴールである。しかし、廃炉や放射性廃棄物の処理という観点から考えると、それは新興の産業や研究分野にとってのスタートでもある」との見方を示す。

 今回廃炉計画が認可された101炉は、中国が1955年に旧ソ連の援助を受けて建設したものだ。それから約50年、事故なく稼働し、2007年末に恒久的に運転を停止して安全閉鎖期に入り、廃炉待ちとなった。

原子力施設の安全な廃炉は複雑で系統的なプロジェクト

 張氏は取材に対して、「原子力施設の廃炉は、使用寿命が近くなった住宅を専門的な手段を使って取り壊さなければならないのと同じだ」と説明する。

 普段の生活の中で、普通の建物は爆破解体することができ、爆破後は、瓦礫を埋め立て地などに運べばそれで完了だ。しかし、原子力施設の廃炉となると、安全に処理するのはそれほど簡単なことではない。どの廃炉も、安全に細心の注意を払いながら行わなければならない一大廃止プロジェクトである。

 張氏は、「原子力施設の廃炉は、非常に複雑で、系統的に行われるプロジェクトだ。まず、原子力施設内にある放射性廃棄物を処理し、廃炉が行われる場所の放射性核種の種類、放射線量、廃棄物の種類などのソースターム調査を行い、放射線量のレベルを明確にし、その後、メイン系統や設備などの除染を行い、放射線量を低下させる。それから、設備を解体し、汚染された場所の除染を行い、解体した放射性廃棄物を種類ごとに検査し、整備・処理し、施設内の汚染されていたすべての部分の数値が基準をクリアしたのを確認したうえで、建屋の解体を行い、更地にする。ちょうど汚れたたくさんの服を洗う前に、どんな洗剤を使うか決めてから、どのような順序で洗濯するかを考えるのと同じだ」と説明する。

 種類が多いことに加え、規模の大きさや立地条件、稼働状況などがそれぞれ異なるため、原子力施設によって廃炉の方法も大きく異なる。国際的には、廃炉として主に、即時解体、遅延解体、遮蔽隔離の3つの方法が採用されている。

「即時解体」とは、原子力施設の運転を恒久的に停止した後、できるだけ早く、原子力施設内の放射性物質の除染と処理を行い、跡地は制限を設け、あるいは無制限に利用する方法だ。「遅延解体」は、原子力施設の運転停止後、一部を簡単に除染・解体し、安全を確保した上で、原子力施設に対し長期間にわたる保管を行い、放射性核種が自然崩壊するのを待って、解体・撤去する方法だ。大型原子炉の廃炉には、「遅延解体」がベストな方法として採用されることが多い。「遮蔽隔離」は、原子力施設全体、またはその主要な部分を、そのままの位置、または原子力施設敷地内の地下に埋めて隔離する方法だ。

 中国初の研究用重水炉である101炉には、他の原子炉とは違った廃炉が採用される。

 101炉の廃炉を難しくしている一つ目の要因は、グラファイトの取り出しだ。101炉は重水炉であるため、レフレクター、中性子モデレーターとして50年以上使われていたグラファイトは照射により膨張し、柔軟性がなくなり、より活性化しており、塊のまま取り出すのは難しく、発火する危険もある。次に、101炉は生体遮蔽体が厚く、他の原子炉に比べて密度が高く、現時点で成熟したツールや技術がない。しかも、101炉は将来的に「中国原子炉博物館」になる計画で、非常に高い安全性が求められる。そのため、原子炉や生体遮蔽体の解体・撤去の難度が非常に高い。さらに、101炉はホットセルが地下にあり、地上のホットセルと比べると、汚染度が高く、ソースタームがはっきりしない。そして作業スペースが狭いため、ホットセルの解体・撤去の難度も非常に高い。

 張氏は、「中国の重要な原子力施設廃炉プロジェクトの一つである101炉の廃炉は、中国国内にも国外にも参考にできる経験がない。そのため、『簡単な作業を先に、難しい作業を後に』という原則に基づいて、まず周辺システム、メイン系統、その後に原子炉という順序で実施し、プロジェクトの科学研究検証を並行して展開する。今回認可されたのは第一段階のプロジェクトで、主に廃炉の前期準備と周辺システムの解体だ。このプロジェクトは、その後の2段階のプロジェクトを実施するための基礎を築き、中国の研究炉の廃炉能力体系構築やその他のタイプの原子炉の廃炉にとって技術的に参考となるモデルを提供するだろう。難度は非常に高いが、101炉の廃炉をめぐる問題を克服することができれば、原子力発電所の廃炉をめぐる問題も自然と解決する」と説明する。

施設の廃炉をめぐる統一的な計画策定が急務

 中国の原子力施設の廃炉は1990年代初めから始まり、主に初期の軍用原子力施設(一部の軍需産業の原子力施設は80年代から続々と運転を停止し、運転モニタリングの状態に入った)に的を絞り約20年の取り組みにより、一定の効果を挙げ一部の重要な原子力施設や放射性廃棄物の管理は既に実施段階に入っている。

 現在のところ、原子力施設のほとんどを占めているのが原子力発電所だ。

 2018年の世界原子力発電産業現状報告(The World Nuclear Industry Status Report )によると、同年の時点で、世界で115基の原子力発電設備の廃炉が実施されており、恒久的に運転停止中の原子力発電設備173基に占める割合は70%に達している。また、19基の廃炉(米国13基、ドイツ5基、日本1基)が終了し、うち10基があった跡地を緑地にしている。

 中国では、最も早く稼働が始まった秦山一期原子力発電所が2024年以降に運転を停止し、廃炉になることが決まっている。しかし、現状では、同発電所の廃炉に必要な技術研究はあまり行われておらず、廃炉の経験も不足している。

 張氏は「原子力施設の廃炉は、数々のハイテクを駆使した、非常に複雑で系統的なプロジェクトで、原子力化学工業や機械、自動化、放射線の防護、放射性廃棄物処理、環境ガバナンス・修復などさまざまな分野の技術分野と関連し、さらに資金運用やプロジェクト管理、監督管理などさまざまな業務が関係している。原子力施設の廃炉は運営者だけが考えるべき問題ではなく、国家や政府などもそれに参加し、できるだけ早く統一的な計画を策定し、科学的な管理を実施して、廃炉プロジェクトが安全に行われ、時間や労力、資金をできるだけ節約できるようにしなければならない」と説明する。

 張氏は続けて「まず、廃炉に関する的法律・法規を速やかに整備し、依るべき法律があり、従うべき規則や制度があるようにしなければならない」と指摘するものの、現在、原子力法はまだ発表されておらず、中国の原子力施設の廃炉の実施や検収基準などもまだ十分に整備されてはいない。

 その他、現在、中国の各種原子力施設の廃炉の全体的な計画はまだ明確ではなく、原子炉をどれほどの期間にわたって貯蔵するのが適切なのか、一部の原子力施設はその場に埋めて隔離しても問題はないのかなどの問題をめぐって論争があり、安全、経済的、かつスピーディーに廃炉計画を成し遂げるためには、的を絞った研究や論証を速やかに展開する必要がある。

 原子力施設の廃炉を実施するためには、十分な資金があることも前提となる。軍用原子力施設の廃炉経費は中央財政から拠出されるが、それ以外の民間用の原子力発電所の廃炉については、運営会社が十分な資金を準備しておく必要がある。

 中国は、「国家原子力発電発展特定項目計画(2005~2020年)」の最後の部分で、原子力発電所の廃炉についての規定を定めており、「発電所は商業運営を始めた時から、原子力発電所の廃炉にかかる費用を発電所の発電コストの中から義務的経費として計上し、積み立てることができる。中央財政に原子力発電所の廃炉特定項目基金口座を開設し、各原子力発電所の商業運営が行われている間は発電コストから計上して積み立てておく」としている。これは、同計画の重要ポイントであり、今後の原子力発電所の廃炉に必要な資金を準備する手立てともなっている。しかし、現時点で、中国国内には原子力発電所の廃炉費用の具体的な試算方法がないため、原子力発電所の発電コストの中からどれほど計上すれば適切なのかはまだ明確になっていない。

 多くの業界関係者は、「廃炉を単なる原子力施設や施設所在地のゴールと見なすべきではなく、再利用したり新たにプロジェクトを開発したりするためのスタートと見なすべきだ。廃炉計画の初期段階のうちから、再利用するのか、するのであればどのように再利用するのか、または新たにプロジェクトを開発するかを検討すべきだ。また、原子力施設廃炉の人材チーム構築も強化すべきだ」と強調している。


※本稿は、科技日報「核設施退役:一場驚心動魄的安全撤退」(2019年12月10日付4面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。