第160号
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水素エネルギー+5G 「中国プラン」でグリーンでスマートな港を構築

2020年1月28日 陳曦、王建高(科技日報記者)

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写真提供:山東港口青島港

 山東港口青島港自動化埠頭操作部の李波マネージャーは、取材に対して「世界初のマシンビジョン+自動化技術により、人工知能(AI)を活用して岸側の海上コンテナトラックをスマート自動識別し、スマートかつ安全で、高効率の作業を実現し、車両が港に停留する時間が明らかに短縮された。車両が到着して、カードをかざすと、すぐに自動で積み降ろしができる。サービスが改善され、各作業の循環時間が平均約25秒短縮され、格納エリアの作業効率が13%向上した。現在、海上コンテナトラックの港でのターンアラウンドタイムは13分だが、作業員が処理すると、最短でも30分かかる。社会の輸送車両運営コストを削減する点で大きな助けになっている」と説明した。

 山東港口青島港全自動化埠頭(二期)(以下「二期埠頭」)は既に稼働している。同プロジェクトには、山東港口独自の研究開発とイノベーションの集大成である水素を動力源とする自動化ガントリークレーンや5G+自動化技術など6件の世界初の科学技術研究成果が導入されている。全自動化埠頭としては最先端のテクノロジー水準を誇り、中国のスマート製造、クリエイテッド・イン・チャイナ(中国創造)を通して、世界の埠頭事業業界に「中国プラン」を提供している。

世界の自動化埠頭の最高峰目指す

 1年ほど前、山東港口青島港自動化埠頭の張連鋼社長が、自身が率いるチームに対して、「水素燃料電池を使って、二期埠頭の大型機械に動力を提供する」と話した際、懐疑的な見方をする人もいた。

 山東港口青島港全自動化コンテナ埠頭一期(以下「一期埠頭」)のプロジェクトの商業運営が始まって以降、設備やシステムは安定しており、自動化の程度は、ロッテルダム港など世界クラスの港を既に上回っている。しかし、山東港口青島港自動化埠頭二期プロジェクトは、単に一期の技術をコピーすることはなく、独自に研究開発する道を選択し、再び前人未到の世界自動化埠頭の最高峰を目指した。

 水素を動力源とする自動化ガントリークレーンを採用するためには、ガントリークレーンの上の直径6メートル、重さ約3トンの高圧ケーブルリール装置を撤去する必要がある。同装置は、電気供給ケーブルだけでなく、ケーブルコントロールも含み、ガントリークレーンが流れるようにスムーズに作業できるかは、その「遠隔転送」に依存している。

 コントロールケーブルを撤去した後、いかに「遠隔転送」を高精度に行えるか―。水素を動力源とする自動化ガントリークレーンを実現するために、必ず乗り越えなければならない非常に重要な前提条件だ。山東港口青島港自動化埠頭公司の楊傑敏常務副社長は、「各種論証を経て、高圧リールコントロールケーブル装置の代わりとなるものとして、最終的に『5G+自動化技術』を選んで、その難題を解決した。しかし、16ミリ秒の遅延時間でも作業の潜在リスクを招く恐れがあるため、テストの実施をおろそかにできない。限りなく遅延時間をなくすため、当社はメーカーと共に1万回に及ぶテストを行った。そして、最終的に、『5G+自動化技術』が埠頭全体をカバーできるようになった。5Gの信号伝送方法によって、5Gネットワーク下のコンテナクレーン、ガントリークレーンの自動コントロール・操作、荷役、コンテナ輸送、高画質動画ビッグデータの中継回線などのシーンへの応用を実現している」と説明する。

「遠隔転送」の問題を解決した後にも、水素燃料電池システムの設計・応用というもう一つの大きな課題が残っていた。前期に十分な分析と設計を行ったうえで、水素燃料電池システムを実装・調整する過程において、設計図に基づき、技術者は寒さの中、空中ゴンドラに乗って、高さ8メートルの基底部の上に水素燃料電池システムを取り付け、電源やソフトウェアの接続ポイント350ヶ所のテストを行い、ついに水素を動力源とするガントリークレーンプロジェクトを成功裏に完了させた。

 水素動力と「5G+自動化技術」のほか、二期埠頭のシステム・設備、ソフトウェアは全面的にアップグレードしており、スマート化の程度もさらに向上している。世界のスマート埠頭の建設において、トップレベルのスマートテクノロジーを活用した「中国プラン」、「中国インテリジェント」、「中国パワー」を十分に示している。

水素動力採用で二酸化炭素の排出2万トン削減

 水素を動力源とする自動化ガントリークレーンには、独自に研究開発した水素燃料電池パックが動力を提供しており、設備の重量が軽くなり、その構造の複雑度も下がり、メンテナンスが楽になり、その費用も軽減されただけでなく、発電効率も高い。一方で、石油や石炭の代わりに水素を使うことで、ガントリークレーンのゼロエミッションが実現し、環境保全という点でも大きな意義がある。

 同済大学スマート型新エネルギー車協同イノベーションセンターのセンター長を務める余卓平教授は、「水素エネルギーは非常にクリーンで、世界の温暖化抑制にもプラスになる。将来的には、太陽エネルギーや風力エネルギーなどの再生可能エネルギーで水素を作り出すことができるようになり、エネルギーの利用効率も向上するだろう。水素動力は、積載量が大きく、長距離で、長時間運行する設備に適しており、山東港口青島港が水素動力を、作業が急ピッチで行われる埠頭の設備に採用したというのは、水素エネルギー技術のイノベーション・応用という面で、非常に重要な意義があり、中国全土のモデルケースとなっている」と評価する。

 格納エリアで、コンテナ1基を移動させるのに約6kWh必要で、6kWhの発電に対して、二酸化炭素が2.1キロ排出されると試算されている。また、微小粒子状物質や窒素酸化物、二酸化硫黄なども排出され、一期埠頭と二期埠頭の年間コンテナ取扱数が300万基であるとすると、格納エリアから排出される二酸化炭素は年間約2.1万トン、二酸化硫黄は690トンという計算になる。山東港口青島港全自動化埠頭技術部の呂向東副部長は、「青島周辺の工業では、大量の水素が副産されており、その水素は今のところ、活用されることなく排出されている。それらを集めて動力に使うことができれば、燃やす石炭の量を減らすことができる。二期埠頭は、水素を動力とするモデルへの転換と高度化を試みている。水素燃料電池とリチウム電池を組み合わせた動力スタイルで、エネルギーのベストな利用を実現している。もし、格納エリアで全て水素を利用すると、毎年2,100トンの水素が必要で、石炭1万700トンに相当し、二酸化炭素約2万トンの排出を削減できる」と説明する。

 楊常務副社長は、「水素を動力とする自動化ガントリークレーンを実現するために5G技術を採用した。実際には5Gを展開する意義はこれにとどまらない。5Gを展開したことで、スマート埠頭は低コストで、よりスピーディーな情報の『高速道路』を構築できた。今後は、5Gネットワークの活用によりさらにスマートな機能が実現するだろう。5Gネットワークを活用するもう一つのメリットは、従来の人工埠頭の高度化を進める際、いろんな所を掘ってケーブルなどを設置する必要がない点だ。埠頭に溝を掘れば、稼働を半分停止せざるをえなくなる。今は、5Gを通して、情報や通信の伝送を行うことができるため、稼働を停止することなく埠頭の改造を実施できる。テストの結果、二期埠頭の大型設備の通信は低遅延、大帯域幅を実現しており、干渉に強く、周波数スペクトルが安定している5Gネットワークのカバーにより、一層スムーズに作業が行えるようになっている。

「匠の精神」でよりハイクオリティの埠頭を構築

 水素動力や「5G+自動化技術」およびスマートハイテクを採用しているほか、山東港口青島港の全自動化コンテナ埠頭二期プロジェクトの建設はインフラ建設大国である中国への認識を改め続けている。

 世界初のメンテナンス不要の格納エリアは、「格納エリアの地面の不均衡沈下」という問題を解決するために設計された。格納エリアの地下には、「骨格」となる、1本当たり約36メートルのPHCパイルが8,069本埋められている。その長さは繋げると膠州湾トンネル37本または青島海湾大橋8本の長さに相当する。それらパイルは、力強い手のように、重さ計6万3,500トンのビームを支えている。そして、ビームを平にするしか、格納エリアを平らにすることはできない。そこで、工事の過程で、ビームの施工方法を刷新し、並んでいるビームの上部の高さや平度の誤差を±2.5ミリ以内に正確に抑え、コンクリート施工の誤差をミリ単位に抑えることで、鉄骨構造の設置よりもさらに精度を高くした。

 山東港口青島港自動化埠頭で土木建築プロジェクトの管理に携わっている周兆君氏は、「格納エリアの杭打ちやビーム案を改善したことにより、建設コストが少し増えたものの、格納エリア全体のメンテナンスが必要でなくなったため、埠頭が新たな能力を備える点で大きな助けになっている」と説明する。

 呂副部長によると、「埠頭はさらに、省エネ・排ガス減少の面で一つの進展を遂げた。格納エリアの設備は、1度にコンテナ2基を吊り上げることができる。そのため、移動する回数が1回減るため、省エネや作業効率が効果的に向上しており、集約的発展の要求も満たしている。だが、1度にコンテナ2基を吊り上げることができる新機能は、トロリーの部品に大きな負担がかかり、より高い精度が求められる。山東港口青島港が新機軸を打ち出し製作しているトロリーの専用加工治具の精度は、不可能とも思える0.02ミリメートルを達成しており、国際基準をさらに0.01ミリメートル上回っている」という。

 山東港口は今後も、世界一流の新たな科学技術研究成果を持続的に開発・応用し、水素エネルギー、人工知能、5G、ビッグデータ、クラウドプラットフォーム、自動化コントロールなどの技術を全自動化埠頭に応用することに注力し、スマートでグリーンな埠頭の建設に取り組んでいく。


※本稿は、科技日報「氫動力+5G "中国方案"打造緑色智慧港口」(2020年1月3日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。