SDGs時代を迎えた中国はどこへ
2020年1月22日
中根 哲也(なかね てつや)
略歴
東京外国語大学中国語学科卒業後、清華大学公共管理学院で修士号を取得。北京にて環境ビジネス専門コンサルティング会社で5年勤務。留学から足掛け12年の北京生活を終え、2017年より愛知県在住。
最近では日刊紙でも頻繁に目にするようになった「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」。今回はSDGsの概念とその背景、そして中国の立ち位置と取り組み姿勢について概観する。
国連をはじめとした国際交渉場において、中国の立場が往々にして話題となる。直近の経済成長の鈍化が囁かれるものの、いまや米中二国で覇権争いをする大国となった中国だが、しばしば発展途上国の代表としての立ち回りでもその存在感を見せつけている。その代表例が気候変動枠組みを巡る協議である。京都議定書以来の国際的枠組となる2020年のパリ協定本格運用開始を前に各国の協議が進められてきたが、中国は途上国としての立場から先進国のさらなる譲歩を求めるなど、先進国と開発途上国の責任分担や目標負担の軽重を巡る妥結点が得られないまま、中国に次ぐ世界第2位の温室効果ガス排出国である米国が同協定からの離脱を正式に通告したこともあって、国際連携の足並みを揃えることが困難な状況にある。世界各国はそれぞれに課題を抱えており優先順位も大きく異なるため、気候変動に限らず、ワンイシューのみですべての国々を同じ方向へ向かせるのは、もはや困難と言っていいだろう。
SDGsは、2015年9月に国連本部で開催された「国連持続可能な開発サミット」の採択文書である「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた、17の目標と169のターゲットからなる2015年~2030年の開発目標である。このSDGsが策定される前段階として、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の経験がある。MDGsは、開発途上国の貧困削減を掲げ、8つの目標が設定され、1990年を基準年として2015年を達成年として取り組みがおこなわれた。期限を迎えた2015年、開発途上国で極度の貧困に暮らす人々の割合の減少、初等教育就学率の改善などを示し、一定の成果が挙げられたとされる一方で、先進国主導の取り組みに対する途上国の不満、地域の偏りの見落としに対する指摘のほか、経済・環境に関わる目標が不十分であったなど、課題が確認された。また、2012年6月に開催されたリオ+20の成果文書でも、経済・社会・環境的側面を統合し、それらの相関を認識し、あらゆるレベルで持続可能な開発(Sutainable Development.以下、SD)を主流としてさらに組み込んでいく必要があることを宣告している。
この具体的な手段として、MDGsの継承発展目標となるSDGsは、「誰も置き去りにしない」「世界の変革」を基本理念に据え、先進国と途上国が連携し、政府や企業、またNGOやNPOなどすべての組織・事業体が取り組むべきものとして定義した。途上国に限らず、先進国を含む全ての国に目標が適用される普遍性に加え、17に分類された各目標は相互に関連しており1つの目標だけに偏った取組は他の目標達成を妨げかねないことから、分野横断的なアプローチが必要となる。
貧困や飢餓、教育、ジェンダー、エネルギーなど17の目標は相互に関連しており、分野横断的なアプローチが求められる。
世界のSDGsの進捗について、国連が毎年SDGs進捗報告書を発表しているが、独最大の財団であるベルテルスマン財団と持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が、SDGs発効後2016ら各国のSDGs達成状況を分析したレポートを毎年発行している。同レポートによれば、分析可能な162カ国のうち、1位のデンマーク以下北欧3カ国が上位3位を占め、欧州勢が続き、アジアではわが国日本が15位(78.9ポイント)にランクされている。また、目標ごとに「主たる課題」をレッド、「大きな課題」をオレンジ、「課題が残る」をイエロー、「目標達成」をグリーンに色分けし、目標別の達成度を分析評価している。中国は、目標4(教育)、目標8(働きがい・経済成長)でグリーン評価である一方で、目標10(格差是正)、目標13(気候変動)、目標14(海洋資源保全)、目標16(平和と公正)でレッド評価がなされている。大まかではあるが、これだけ見てもある程度納得感のある評価ではないかと思われる。なお、総合ランキングでは中国は39位(73.2ポイント)に位置している。
中国政府は、2015年の国連総会においてSDGs達成に向けた施策として、「南南協力援助基金」の設立、国際発展知識センターの設立、最貧国に対する投資の拡大と内陸途上国・小規模島嶼途上国への無利子借款債務免除などを宣布し、2016年10月に「2030年SDアジェンダ実行のための国別方案」を発表した。近年の急速な経済発展を経て、中国は貧困者数の削減、大学進学率・識字率の向上、年金対象の拡大等により、MDGs目標を達成した一方で、大気汚染を始め環境破壊や貧富格差の拡大等を招き、SDの重要性は増してきている。このため、中国は、SDGsをイノベーション促進の手段と捉え、中長期計画である第13次五カ年計画(2016~2020年)や陸海の経済圏構想である一帯一路と連動した政府主導による政策統合を進めている。研究面でも、2017年1月にスイスのジュネーブで中国・スイス両首脳の立ち会いのもと、清華大学とジュネーブ大学の学長がSDGs協力覚書を取り交わし、2017年4月に世界で初めてSDGsを研究対象とする研究機関として清華大学公共管理学院に設立されたグローバルSDG研究院(TUSDG)が、中国側の研究の旗振り役となっている。中国国内社会におけるSDGsの浸透はこれからだが、中央政府・政策の大指針として打ち出されていることから、自国のプレゼンス維持拡大と国際社会からの要請との間でいかにして折り合いをつけていくか、今後の動向に注視していく必要があろう。
※本稿は『月刊中国ニュース』2020年2月号(Vol.96)より転載したものである。