第160号
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デジタル経済を開拓する中元双創パーク

2020年1月14日 王延斌、馬愛平(科技日報記者)、蒋麗君、遅方園(科技日報特派員)

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北京市・天津市・河北省一体化国家戦略テクノロジー成果の実用化拠点としての中元双創パークは徳州が新しい使命を果たすための重要な媒介役で、主に北京・天津地域のテクノロジー型イノベーション・起業プロジェクト産業化に包括的なサービスを提供している。(画像は取材先機関提供)

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スマートライト医薬品検査機のテストを行う中元双創パークの技術者。(撮影・趙慶川)

「中国でトップを走るデジタル経済集積地構築」を目指す山東省にとっては、先導者を探して、再現・推進が可能な道を模索することが非常に重要となっている。

 12月、2019年度山東省デジタル経済パーク(試行)リストが発表され、36のパークがリスト入りした。「優良プロジェクトしか実施しない」ことで知られる「徳州中元テクノロジーイノベーション・起業パーク・高度人材起業デジタル経済産業インキュベーターパーク」(徳州中元科技創新創業園高端人才創業数字経済産業孵化園、以下「中元インキュベーターパーク」)も無事リスト入りし、正式に山東省の成長型デジタル経済パーク試行事業になった。これは同パークが今後、山東省のデジタル経済パーク発展のために新たなルートを模索する重責を担うことを意味する。

 中元インキュベーターパークの所在地である国家級徳州経済技術開発区にとって、同パークがその地位を向上させていることは意外ではなく、これまでの取り組みの成果と言える。では、同パークは今後、デジタル経済パーク発展の新ルートをどのように模索すればよいのだろう?その地位の向上は、なぜ「自然な流れ」と見られているのだろう?

国家戦略の下でイノベーション・起業者に包括的サービスを提供

「北京市・天津市・河北省の協同発展」が重大国家戦略として提起されて以降、山東省の北西部の「入口」であり、北側が河北省に隣接している徳州市は、「北京市・天津市・河北省一体化国家戦略テクノロジー成果実用化拠点」という新しい使命を帯びるようになった。徳州経済技術開発区科学技術局の局長を務める、中元テクノロジーイノベーション・起業パーク(以下「中元双創パーク」)管理委員会弁公室の趙興室長は、「当パークは、徳州が新しい使命を果たすための重要な媒介役だ。当パークは主に、北京・天津のテクノロジー型イノベーション・起業プロジェクトの産業化に、包括的なサービスを提供する」と説明する。

 通常、地域的な経済開発区には、科学研究を推進するためにハイテク産業を開発する所もあれば、外資を集めるために、輸出を拡大する所もある。徳州経済技術開発区にとっては、国家戦略を確実なものにし、新たな使命を背負い、北京市・天津市・河北省のテクノロジー成果を呼び込むというのが最重要事項となっており、中元双創パークがその中心的力を担うようになっている。しかし、なぜ、中元双創パークが北京市・天津市・河北省に資源を提供するようになっているのか?どのように、包括的なサービスをイノベーションや起業を行う者に提供するというのだろうか?

 筆者が徳州での取材を進めると、中元双創パークが出している「答え」を様々な角度から見ることができた。

 車で京台高速道路(北京-台湾高速道路)の徳州で降りて、東に5分ほど走ると、中元双創パークに到着する。北京から高速道路で1時間、ここから山東省の省都・済南市には20分で行くことができる位置だ。「1時間仕事圏」、北京、済南の「衛星都市」と言われる徳州市は、資源を呼び寄せる自信と資本を備えている。

「北京市・天津市・河北省の協同発展」は、国家戦略の重要部分で、京滬高速鉄道の沿線に位置し、北に上がれば北京があり、南に下がれば上海がある徳州は無視できない「宿場町」だ。一方で、国が北京市・天津市・河北省の産業展開に期待しているのに対して、徳州は、新エネ車や部品、バイオ技術、医療・高齢者ケア・ヘルス、近代農業などの面における優位性が際立っており、徳州の中元双創パークも的を絞った位置付けをすることができる。

 現在、「デジタル経済」がトレンドとなっており、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、ブロックチェーン、人工知能などの技術が、新旧原動力転換を模索する企業などに応用シーンを提供し、転換成功の希望を与えるようになっている。これはまさに中元双創パークの管理者が目を付けているところだ。

 徳州経済技術開発区党活動委員会の委員を務める、電子情報産業部の趙文彬部長は、「中元双創パークというプラットフォームができて、徳州経済技術開発区がデジタル化産業プロジェクトを導入するのは自然な流れとなった。デジタル都市を構築するための第一歩を踏み出すことができたと言えるだろう。事実もそのことを示しており、同区のほとんどのテクノロジー系デジタル化産業が同パークに集まっている」との見方を示す。

新旧原動力転換の動力源をめざす

 5年前、上海自由貿易試験区で登録、設立された上海鯤程電子科技有限公司(以下「鯤程電子」)が、はるばる徳州までやって来て中元双創パークに入居した経緯も非常に興味深い。

 2017年10月から、鯤程電子の厖新・最高経営責任者(CEO)は北京と上海を往復する時にいつも徳州を通り、中元双創パークの配置と規模に特に注目していた。そして、「昨年のある時そこを通ると、中元双創パークがちょうど始動した時で、中に入って実地視察を行った」という。

 厖CEOは、地理的条件が良く、責任者が熱心であるほか、徳州は優秀な人材を切望しており、先例のないことにチャレンジする勇気も持っていることに心を動かされたという。また一方、徳州経済技術開発区も、鯤程電子が新型産業を牽引していることに魅力を感じ、両者の思惑が一致した形だ。

 データレイクは、オリジナルデータを種類ごとに保存し、各データクラスターのデータを直接取り出すことができる統一したフォーマットに変換する。この方式には大きな商業的価値があり、ビッグデータ解析にも極めて大きく寄与している。同パークに入居している北京易華録信息技術股份有限公司は中央企業(中央政府直属の国有企業)の傘下にあり、都市ガバナンスや公共サービス、産業発展などとデータの有機的融合を実現し、中国国内の300以上の都市や多くの海外の国に技術サービスを提供している。

 徳州市の関係責任者は、「率先して行政データを導入し、徳州現地の主導産業クラスターに盛り込み、ビッグデータや人工知能など新興産業データのルートマップを吸収することで、ビッグデータの導入範囲を徐々に拡大させている。同時に、徳州経済技術開発区を円の中心として、その周りに波及するようにして、山東省北西部都市のデータレイク産業パークが、(企業の)育成や誘致などにより、50社のビッグデータ、人工知能企業が徳州に進出し、20億元(約310億円)規模のビッグデータ産業クラスターを形成していく」と説明する。

 わずか1年あまりの間に、中元双創パークでは、清控啓迪、中関村天使街など10の専門プラットフォーム型起業・イノベーション機関のプロジェクト162件が実施された。うち、24件が国家級、または省・部級認定のサポートプロジェクトだ。元をたどれば、PRして企業を呼び込み、インキュベーションを継続的に実施するというのが、そのカギとなる手段だ。

 徳州の人々は、「人脈」を活用した人材呼び込みも行っている。例えば、北京、上海、広州、深圳でビジネスを展開する徳州出身の企業家らが故郷に資源を送り込んでいる。多くの人が、中元双創パークが成長し続け、徳州の新旧原動力転換の動力源、徳州のデジタル経済と実体経済の深い融合のパイオニアになることを期待し、そのために努力している。

政策を活用して「一芸に秀でた」企業を育成

 徳州市の県級市・楽陵市は、皮がうすく肉厚で、水分たっぷりのナツメの生産地として有名だ。以前はナツメの収穫は全て人の手で行っていた。今は、スマートピッキングマシンがあり、腐敗、鳥がつついた跡、裂け目、変形、しわなどの具合をスピーディに検出して、等級分けすることもできる。

 この技術を開発した深華光電科技有限公司(以下「深華光電」)も、中元インキュベーターで成長した。同社の創始者である焦文華氏は取材に対して、「当社は国家級のハイテク企業で、製薬、食品・飲料、自動車部品、ガラス検査などの分野で、オンライン視覚品質検査機器を続々と開発し、その分野における視覚品質検査の人手を解放している」と話す。

 その細分化された分野で際立つ成果を出している同社は、「一芸のチャンピオン」企業となり、まだ起業して「間もない」にもかかわらず、その評価価格は1億元を超えている。

 徳州経済技術開発区には、深華光電のようなテクノロジー型企業がたくさんある。山東省の成長型デジタル経済パークの試行事業になるということは、政策のサポートを受けることができることを意味するだけでなく、多くの難関を突破するという重責を担うことも意味している。それこそが、「試行事業」に指定されて与えられる大きな権限の意義だ。

 もちろん、同パークの管理者、起業者らは、経済が発展している山東省の地級市(省と県の中間にある行政単位)の中にあって、徳州市は国内総生産(GDP)の数字がそれほど優位性を持つわけではないため、さらなる飛躍が必要であることはよくわかっている。徳州経済技術開発区では、「行政が環境を整え、企業が富を創出」という理念が人々の心に深く刻まれている。同区は、テクノロジープロジェクトを呼び込むことが最重要課題とし、経済の質の高い発展の原動力として、情報化、デジタル化産業プロジェクトを継続的に呼び込んでいる。「デジタル経済の畑を耕す徳州経済技術開発区は野心的で、着実な取り組みを実施している」とそこを見学して感嘆の声を上げている人がいる。

 徳州経済技術開発区は現在、未来に目を向けた産業のモデル転換の道を探るために、正しい方向に向かって歩みを進めていると言える。


※本稿は、科技日報「深耕数字経済 中元双創園使出関鍵招数」(2019年12月23日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。