《ランセット誌》中国・英国両チームの新型コロナワクチン試験:ルートは違えどゴールは同じ
2020年7月30日 房琳琳(科技日報)
グッドニュースが届いた。ランセット誌は7月20日、2本の論文をオンラインで同時に発表し、COVID-19ワクチンの2つの臨床試験結果を明らかにした。それぞれ中国と英国から、アデノウイルスベクターワクチンを追跡中の2つの「スター」が一対一の競争を繰り広げている。
同じ研究開発アプローチを採用しているにもかかわらず、臨床試験設計と結果の点でこの2つのワクチンの類似点と相違点は何なのか?中国製ワクチンの研究開発の特徴は何か? オックスフォード製ワクチンの潜在的可能性をどのように認識するか?
「2回投与防御」と「単回投与免疫」のどちらがより効果的か?
中国工程院院士で、軍事科学院軍事医学研究院の研究員陳薇氏が率いるAd5-nCoVは、第2相臨床試験に参加する世界初のCOVID-19ワクチンである。試験の最も重要な特徴は、508人の参加者の13%を占める60歳以上の適格な参加者が関与することである。
康希諾生物股份有限公司(CanSinoBIO)は、ワクチン開発に関して陳氏のチームと提携している。CanSinoBIOの宇学峰社長はインタビューに答え「試験設計の観点から、2つの試験は同じメカニズムを共有している。つまり、バランスの取れた体液性免疫反応と細胞性免疫反応を誘発している。また、相違点もある。オックスフォードチームが『2回投与』防御をさらにテストしているのに対し、われわれはパンデミック期間中に単回投与が効果的である可能性があることを期待している」と指摘した。
オックスフォード大学のウェブサイトに掲載されたニュースによると、Oxford Vaccine Groupを率いるAndrew Pollard教授は「2回のワクチン接種を受けた10人の参加者で最も強い免疫反応が見られ、これはワクチン接種の優れた戦略である可能性を示している」と語った。
しかし宇氏の見解は異なる。宇氏は、パンデミックのトレンドの下で「最速は単回投与注射となろう」と考えた。中国製ワクチンの第2相臨床試験の結果で、高用量群の参加者の95%と低用量群の91%がワクチン接種後28日目に細胞性または体液性の免疫反応を示したことが示された。
「これは、単回投与ワクチンが迅速に効果を発揮するだけでなく、ワクチン接種に有効である可能性があることを意味している」
注意すべきことの1つは、高齢の参加者はワクチンに対する忍容性が高いのに、免疫反応のレベルが低いことである。
陳氏の考えはメディアによって広く引用されている。ウイルスに感染すると、高齢者は深刻な病気や死に至る高いリスクに直面する。したがって、高齢者はCOVID-19ワクチンの重要な標的集団である。
宇氏は、使用量追加で免疫反応が効果的に強化されると指摘した。CanSinoBIOが同じ技術で開発したエボラワクチンの臨床試験で、2回接種の効果が実証された。将来の臨床試験では、高齢者保護強化を達成する方法を探ることができる。
チンパンジーと人間のどちらのベクターが安全か?
それらの有効性を別にして、2つのワクチンの安全性はどうか?
オックスフォードとアストラゼネカによるAZD1222ワクチンは、チンパンジーに感染を引き起こす一般的な風邪ウイルス(アデノウイルス)の弱められたバージョンと、SARS-CoV-2ウイルスの遺伝物質を組み合わせている。
宇氏によれば、Ad5-nCoVはアデノウイルス5型をベクターとして使用する。これは一般的なアデノウイルスの弱められたバージョンで、チンパンジーではなく人間に感染する可能性がある。「一部の参加者は、アデノウイルス5型の感染により『既存の免疫』を持ち、免疫応答に影響を与える可能性があるが、Ad5-nCoVはアデノウイルスベクターのソースからの安全性を最大限に保証する」
現在、2つのワクチンは、マスコミからの公開情報によって観察された「安全性評価」の点でほぼ同等に安全である。Andrew Pollard氏と同僚は、チンパンジーアデノウイルスベクター化のCOVID-19ワクチンを1回注射した第1/2相のランダム化試験を報告している。疲労、頭痛、局所圧痛などの局所および全身の有害事象は、COVID-19ワクチンで一般的に発生したが、忍容性があり、ほとんどがパラセタモールによって改善された。深刻な有害事象は発生しなかった。
陳氏と同僚は、Ad5ベクター化されたCOVID-19ワクチンの単回予防接種スケジュールの第2相ランダム化試験の結果を報告した。中国の参加者からのほとんどの注射部位および全身性応答反応は、軽度ないし中程度だった。この試験で発生した副作用には、発熱、疲労、頭痛、注射部位の痛みなどがある。
Naor Bar-Zeev教授とWilliam J Moss教授が書いたコメント論文によると、「全体として、両方の試験結果は、対象集団のベクター、地理的位置、および使用された中和アッセイの違いにもかかわらず概して類似しており、有望である。これらのCOVID-19ワクチンの試験は小規模であるため推論的な注意が必要であるが、調査は称賛に値する。これらの試験の両方での民族の多様性は非常に限られていた」。
「COVID-19ワクチンへの同等のグローバルアクセス」:中国と英国の共通の目標と取り組み
世界保健機関(WHO)緊急プログラムのエグゼクティブディレクターであるMike Ryan博士はこのデータがランセット誌で発表された直後にWHOジュネーブ本部で記者会見し、「グッドニュースだ」と述べ、「T細胞反応の生成と中和抗体の生成において、これはポジティブな結果である。しかしやはり、前途には長い道のりがある。われわれは今、大規模な現実世界での試験に移行する必要がある」と語った。
Ryan氏は、ワクチンの1つが効果的であることが証明されたら、次の課題は世界規模で配布するのに十分な用量があることを確認することになると述べた。
宇氏は「CanSinoBIOは、常に中国工程院院士の陳氏の研究チームおよびオックスフォード大学の研究チームと戦略的提携関係にある。しかしながらCanSinoBIOは、COVID-19ワクチン開発の初期段階で陳氏の研究チームと協力することを選択した、しかし、オックスフォードチーム・アストラゼネカ間の協力が、第3相臨床試験のボランティア募集で潜在的な優位性を持っていることは否定できない」と語った。
オックスフォードチームによって開発されたワクチンは、アデノウイルスワクチン製造ラインのレベルに関してCanSinoBIOに依然、遅れをとっているが、その開発の進展は、莫大な資金とグローバルなワクチン流通ネットワークの支援によって「加速」され、最終的には第3相臨床試験結果の公表後に大規模生産を達成することが見込まれる。
(翻訳:Long Yun、Lu Zijian)
※本稿は科技日報より提供された記事である。