《蘇州工業パーク》工場化からイノベーション化へ―人材エンジンは走るほどに加速
2020年8月12日 張 曄(科技日報記者)呂 依(科技日報特派員)
蘇州工業パーク内で新薬の研究開発を行う研究者(画像提供:蘇州工業パーク科信局宣伝部)
バイオ検査チップの研究開発を行う蘇州工業パーク内の企業(画像提供:蘇州工業パーク科信局宣伝部)
26年間の開発、建設の道を振り返ると、人材が蘇州工業パークのイノベーションの源泉になっていることが分かる。近年、同パークはキーテクノロジーをめぐる難題に焦点を合わせ、テクノロジー人材がオリジナル・イノベーション展開に没頭できるよう導き、産業技術イノベーションに力を注ぎ、イノベーション・起業の「楽園」づくりに取り組んでいる。
2008年、蘇州康寧傑瑞製薬有限公司(以下、康寧傑瑞)の会長兼社長の徐霆博士は、中国国内の薬品使用面における大きなウィークポイントを補うことを目標に掲げて帰国し、起業した。チームを率いて、独自の知的財産権を有するバイオ医薬品開発プラットホームを立ち上げ、十数年の研究開発を経て、3種類の薬品が国家重大新薬製造特定プロジェクトに指定された。
最近開催された第1回「蘇州科学者デー」において、徐博士は、第6期「蘇州傑出人材賞」を受賞し、十数年にわたる起業の道に花を咲かせた。
また、同じく蘇州工業パークの中国科学院上海薬物研究所蘇州薬物イノベーション研究院の蒋華良院士率いるチーム、蘇州漢天下電子有限公司の楊清華博士率いるチームも、蘇州市トップ人材(チーム)に認定されたほか、邁博斯生物医薬、信諾維(Sinovent)、思必馳信息科技(Aispeech)も姑蘇※重大イノベーションチームに認定された。
※編集部注(姑蘇=蘇州市の古称)
26年間の開発、建設の道を振り返ると、人材が蘇州工業パークのイノベーションの源泉になっていることが分かる。近年、同パークはキーテクノロジーをめぐる難題に焦点を合わせ、テクノロジー人材がオリジナル・イノベーションに没頭できるよう導き、産業技術イノベーションに力を注ぎ、イノベーション・起業の「楽園」づくりに取り組んでいることを背景に、イノベーション人材を引き寄せる「強い磁場」になっている。同パークは、人材というエンジンを頼りに、テクノロジーイノベーションや産業の融合反応を駆動し、新たな品質の高い発展のシグナルが発せられた。
イノベーションの力の源は「人材」
同パークでは、数えきれない起業型企業が密接に繋がり合うイノベーションネットワークを形成し、トップ人材がその最も輝く連結ポイントとなっている。同パークのトップ人材(チーム)とは、世界のテクノロジーの最先端、世界のトップレベルに位置し、キーとなるコアテクノロジーを確立し、蘇州の品質の高い発展に大きな影響を与え、重大なブレイクスルーを実現した戦略的科学者、学術リーダー、卓越した管理者などの中国国内外の一流人材(チーム)を指す。
中国科学院の院士である、中国科学院上海薬物研究所の研究者・蒋華良氏は、「テクノロジー人材、イノベーション技術、大学の研究所などのイノベーションリソースが集まり、既に非常に良好なエコシステムが形成されている」と、同パークの産業要素の「濃さ」を手放しで絶賛する。
2014年以来、中国科学院上海薬物研究所は、生産工程、製剤、薬物評価などの技術を下支えするプラットホーム、バイオ技術薬物研究開発体系などを重点的に展開し、プロジェクト企業43社をインキュベートもしくは誘致し、一類新薬5種類が臨床の認可を受けた。蒋氏は、「これらプロジェクト企業は、産業化に力を入れ、独自に発展し、損益の責任を自分たちで負っているものの、全てが一つになれば大きなプラットホームを形成し、産業発展の優良な生態が構築される」と説明する。
「一人の人材を誘致し、一部の企業を発展させ、一つの産業を牽引する」というのが同パークの「スローガン」ではなく、現実となっている。
半導体チップは中国の代表的な製品で、国力や生産力を測る重要な要素となる。蘇州漢天下電子有限公司は、ハイエンドIHフィルターチップの研究開発、製造に従事している企業で、長年にわたり技術を磨き続け、経験を積み重ね、中国国内で広い影響力と知名度を誇る集積回路設計企業、中国国内で先頭を走るMEMSフィルターサプライヤーとなっている。
10年以上の育成期間を経て、同パークのMEMS産業チェーンは、中国全土でトップクラスの地位を築き、マイクロ・ナノの分野の世界で代表的な8大エリアの1つになっている。蘇州漢天下電子有限公司の楊清華会長は、「それは、私たち企業とパークがすぐに意気投合する重要な原因だ。整ったMEMS産業チェーンは、当社の成長を加速させ、当社の加入により、パークのMEMS産業チェーンは競争力を高めることができる」と胸を張る。
イノベーションの道は、人材を得るに在りと言うが、良いプロジェクトというのは、結局のところ良い人材がもたらしてくる。2007年、同パークはテクノロジー分野のリーダー的人材の起業プロジェクトを始動、14年間にわたり、高度化し続ける優良なエコシステムが、イノベーション・起業を行うハイレベル人材を集め寄せた。そして、テクノロジーリーダー的人材プロジェクトに認定されたプロジェクトは14回を経て累計約1,700件に達し、数多くのリーディング企業がここで誕生した。
人材が発展を牽引し、産業集積がさらに多くの人材を呼び込む
同パークは、蘇州のモデル転換・イノベーションの主戦場で、ランドマークであるバイオ医薬品産業の中核エリアでもある。長年育んできた産業のレベルの高さと層の厚さが、テクノロジーイノベーションの広さと深さを左右し、産業の集積、発展を促進している。
徐博士は、自身の会社の発展に関して、「私は2008年に帰国して康寧傑瑞を立ち上げ、翌2009年に同パークのテクノロジー分野のリーダーに選ばれた。会社を立ち上げたばかりの頃は、1人だけだったが、2019年には、業界のトップ人材数百人が集まり、香港での上場も果たした。昔とは比べものにならない。これは、当社の戦略的方向性や中核製品が市場で認められたからであり、また、同パークの発展環境も当社に非常に強い下支えを提供してくれているからだ」と語り、同パークに対する称賛を惜しまない。
同パークの人材産業とともに発展してきた十数年、康寧傑瑞の会長兼社長である徐博士は、「蘇州傑出人材賞」も受賞、企業の成長を牽引し、チームと共に、複数の独自の知的財産権を有するたんぱく質・抗体プロジェクト化の技術プラットホームを立ち上げ、複数の国際特許も取得した。昨年12月12日、康寧傑瑞は香港証券取引所のメインボードに上場した。
12年にわたる「深耕」と育成を経て、同パークは努力とイノベーションをもってパーク内のバイオ医薬品企業を育て続けてきた。現在、同パークにはバイオ医薬品企業1,400社以上が集まり、信達生物や康寧傑瑞、博瑞医薬などの上場企業を誕生させてきた。
最近開かれた蘇州産業チェーングローバルクラウドマッチングイベント・バイオ医薬品・ハイエンド医療機器サブフォーラムの現場で、同パークの複数の企業が、近未来の発展の目標を発表した。
百賽飛生物科技は、今後1年に1億元(約15億円)の投資を呼び込み、企業の技術や管理などの面をアップグレードさせることをサポートするというのが目標だ。玉森新薬は、上場をできるだけ早く実現し、2021年をめどに、ハイテク企業向けの株式市場「科創板」に上場する初の中医薬企業になることが目標だ。克睿基因は、2年以内に、臨床において、腫瘍と遺伝性疾患の2つのゲノム編集においてブレークスルーを果たすことが目標だ。邁博斯生物医薬の目標は、3年以内に、蘇州に2ヶ所目となるハイエンド生産拠点を建設することだ。
活力みなぎるイノベーション・起業の生態が加速的に形成
産業のエコシステムは形のない腕のようなものであり、企業の発展の基礎を支えている。同パークでは、活力がみなぎるイノベーション・起業エコシステムの形成が加速している。
同パークのテクノロジーの分野のリーディング企業・思必馳信息科技の製品展示ホールに入ると、未来の世界にタイムスリップしたような気分になる。大きな目をキラキラさせているキッズロボットは、子供の顔や感情、行動を認識することができるほか、子供の声で会話をすることができる。スマート車載システムの中で、運転手は口を動かすだけで、車のほとんど全ての操作を行うことができる。中国で先頭を走るAI音声対話技術の提供者である思必馳信息科技は、阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント)、小米(シャオミ)などを含む有名企業と提携し、一連のAI関連製品を打ち出している。
技術、資金、人材を統合し、政策、環境、サービスを最適化し、イノベーション資源の優位性を発揮するなど、同パークは、テクノロジー管理体制の革新を続け、テクノロジーイノベーションサービスの最適化を絶えず行っている。
信諾維の創始者である強静会長が同パーク進出を決めた3つの要素は、「エコシステムが最も健全」、「実行効率が非常に高い」、「意思疎通が非常にスムーズ」で、「この3つの原因が、当社の研究開発のスピードを大きく加速させることができる。スピードは、薬の研究、開発において非常に重要だ」と説明する。
「First in Class」と本当の意味での「Best in Class」にだけ取り組むという立場を堅持する信諾維は、市場の競争において、終始先頭を走っている。設立から3年余りの同社は、同パーク内の本社を中心に、北京、上海、オーストラリア、米国・ボストンに4つの支社を設置し、整ったグローバル研究開発・生産システムを構築している。そして、これまでに受けた融資総額は計3億3,000万元(約50億円)に達し、低分子研究の新たな時代の先導者となっている。
10年かけて1つのことをコツコツと成し遂げるかのように、工場化からイノベーション化へ、工業パークから「非凡なタウン」へと成長し、テクノロジーのリーダー的人材プロジェクトは、同パークが力を集めてイノベーションを行う過程で重要な役割を果たしてきた。そして、ハイレベル人材がハイレベル発展を下支えするというスタイルを堅持し続けていることも、同パークの経験においてカギの要素となっている。
※本稿は、科技日報「従工廠化到創新化 蘇州工業園依靠人才引擎越跑越順」(2020年7月27日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。