新型コロナウイルスの変異に中国のワクチン研究開発はどう対応?
2020年10月30日 張佳星(科技日報記者)
新型コロナウイルスワクチンを追う
「新型コロナウイルスの変異は、それほど大きなものではない」。10月20日、中国国務院聯防聯控機制は記者会見を開き、新型コロナウイルスワクチンに関する現状を説明した。中国科技部(省)社会発展科技司の田保国副司長は中国各地の30あまりの科学研究機関が展開するウイルス変異の追跡研究について科学的解説を行った。
では、ウイルスの変異は、中国の新型コロナウイルスのワクチンの有効性に影響を与えるのだろうか? ワクチンの研究開発はどのように変異に対応しているのだろう?
ウイルスの変異はワクチンの「勢力範囲」内
変化するウイルスに対して、ワクチンは効果を発揮することができるかどうかは、主に、ウイルスの変化がワクチンの「勢力範囲」内にとどまっているかを見なければならない。
ワクチンの「勢力範囲」をどのように見極めるのか?
田副司長によると、中国国内外のワクチン研究開発は、主に新型コロナウイルスのSタンパク質を標的として行われている。
新型コロナウイルスのワクチンは、ウイルスのSタンパク質を支配し、コントロール可能な「勢力範囲」に抑えると理解することができる。新型コロナウイルスのSタンパク質が大きく変化すれば、ワクチンによってできた中和抗体を逃れることができるようになり、ワクチンの効果がなくなったり、低くなったりする。一方、Sタンパク質の変化が微小であれば、ワクチンは依然として有効性を保つことができる。
新型コロナウイルスのSタンパク質はどのように変化するのだろうか?
ウイルスの変異は科学的問題で、ウイルス自体にその答えを求めなければならない。田副司長によると、科学研究グループは、ウイルスの変異という問題を非常に注視し、中国各地の30あまりの科学研究機関がウイルス変異の追跡、研究を展開するよう計画。ウイルスの変異がワクチンの研究開発に影響を与えないか速やかに研究結果を分析し、検討評価する体制を整えている。
研究チームは、世界中に存在する新型コロナウイルスのゲノム配列をリアルタイムで追跡している。統計によると、世界のデータバンクには現在、113ヶ国から15万例近くの新型コロナウイルスのゲノム配列が集められている。中国の研究者はそのうち、品質の高い8万例ののウイルスゲノム配列を対象に比較・分析研究を実施し、新型コロナウイルスの変異の特徴を突き止めた。
現在のウイルスの変異は、正常な範囲内の変異の蓄積で、新型コロナウイルスのSタンパク質は比較的安定しており、Sタンパク質の特定の部分に突然変異が起こったとしても、タンパク質自体の構造に対する影響は小さいため、その免疫原性に対する影響もとても小さい。
こうした科学的検討評価に基づき、田副司長は、「ウイルス自体の変異は小さく、ワクチンの研究開発に実質的な影響はない」との見方を示す。
また、研究チームは、変異したウイルスに対する実験によりその結論を証明したといい、田副司長は、「結果は、現在臨床試験中のワクチンは変異した新型コロナウイルスを効果的に中和できることを示している」と説明する。
では、今後、新型コロナウイルスが、ワクチンの「勢力範囲」外に変異することはないのだろうか? 田副司長によれば、科学研究グループは引き続き追跡を行っており「同グループは今後もウイルスの変異状況の追跡を続け、速やかに分析研究を行うことで、ワクチン研究開発チームに早期に情報を伝え、参考データを提供する」としている。
第3段階の臨床試験 市販ワクチンの有効性に「証明書を付与」
中国国家薬品監督管理局薬品審査・評価センターの首席審査・評価員の王涛氏は、「ワクチンは市販される前に、必ず3段階の臨床試験を経て、ワクチンの有効性基準に達していることが証明されなければならない。第3段階は新型コロナウイルスのワクチンが市販されるうえでカギとなる臨床試験で、大規模臨床試験を通してデータを収集し、その有効性と安全性を見極める」と説明する。
関係者によると、中国の新型コロナウイルスのワクチンは、アラブ首長国連邦、ヨルダン、ペルー、アルゼンチン、エジプトなど複数の国で第3段階の臨床試験が実施されている。
各国で、変化している新型コロナウイルスを「迎え撃つ」中、ワクチンの有効性に関する答えが、第3段階の臨床試験データによって導き出される。
北京科興中維生物技術有限公司の関係者は取材に対して、「第3段階の臨床試験により、複数の国々でその有効性が証明されれば、現時点ではウイルスに大きな変異は起きていないことの証明となる。現時点ではウイルス株の変異により、ワクチンが有効でなくなったケースは見られない」と説明した。
同責任者は、「実際には、臨床前研究の段階で、異なる地域のウイルス株の交差中和試験を通して、それぞれのウイルス株に対する有効性が証明されている(関連の論文は、米科学誌『サイエンス』に掲載)。今後、実際にウイルスが変異してワクチンの効果がなくなったり、低くなったりした場合は、研究チームは、ウイルス株、または配列を変えて対応する。そのような状況は、季節性インフルエンザワクチンのウイルス株の変更を参考にすることができる」と語る。
有効な新型コロナウイルスワクチンの市販はいつ?
王氏は、「臨床試験により、十分な研究データが得られれば、ワクチンの保護効力が証明され、かつ許容可能な安全性の基礎、安定した商業化された大規模生産の品質が備わった時点で、申請者はワクチンの販売を申請することができる。中国国家薬品監督管理局は、法律に基づき、特殊なケースとして特別対応し、速やかにワクチンの技術審査・評価を行い、安全性、有効性、品質をコントロールできるワクチンをできるだけ早く市販できるようにする」と説明する。
だが、第3段階の臨床試験の十分なデータが得られるのはいつになるだろうか?
中国医薬集団の会長を務める党委員会書記の劉敬楨氏は、「中国医薬集団中国生物のワクチン開発は現在、長い戦いの最終段階にたどり着いた。第3段階の臨床試験により安全性と保護力のデータを取得し、審査・評価を経れば、ワクチンを市販することができる」と説明する。
一方、王氏は、「ワクチンの開発は多くの要素の制限を受ける。第3段階の臨床試験の進展の速さは被験者の人数や被験者登録のスピード、被験者の感染症例の取得スピード、試験の結果など具体的な状況次第になる。それら全てが開発のスピードを左右する要素で、プロセス全体において障害となる要素が数多くある」と、さらに冷静で客観的な見方を示す。
※本稿は、科技日報「新冠病毒確有変異 中国疫苗研発這様"応変"」(2020年10月21日付1面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。