第19期5中全会で決定された「十四五」の方向性
2021年01月19日 黄孝光/『中国新聞週刊』記者 江瑞/翻訳
10月29日、4日間の日程で開かれた中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議(第19期5中全会)が閉幕した。会議では「中国共産党中央 国民経済及び社会発展の第14次五カ年計画〔以下、「十四五」〕並びに2035年までの長期目標の制定に関する提案」が審議・採択された。
慣例に従えば、この後、国家発展改革委員会などの部門がこれを基に「十四五」綱領を完成させ、国務院を通じて来年の「両会」に提出し、両会で審議・採択された後に正式に外部に公布される。
「十四五」はこれまでのような時間軸上の単純な通過点ではなく、「小康社会〔ややゆとりのある社会〕」の全面的完成を前提に、今後30年の現代化建設という新たな道のりを歩みだすための最初の五カ年計画と位置づけられている。元中国共産党中央党校副校長の李君如(リー・ジュンルー)は取材に対し、「『十四五』の制定、実行がうまくいったか、計画通り、ひいては期日前に目標を達成できるかが、残りの25年の現代化に関わってくる。30年の最初の5年をどう歩んでいくかはいま現在にかかっている」と語った。
中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議は2020年10月26日から29日まで北京市内で開かれた。習近平、李克強、栗戦書、汪洋、王滬寧、趙楽際、韓正が議長席に並んだ。写真/新華社
際立つ「十四五」制定の重要性と難しさ
14期5中全会以降、5中全会の主な議題は五カ年計画の審議・採択となった。しかし今回の全会ではこれまでとは異なり、「十四五」だけでなく、「2035年までの長期目標」についても議論された。
「長期目標は一般的に特殊な時期や歴史的に重要な時期に制定する。今回の場合は、中国が小康社会の全面的完成を基盤に、現代化の新たな道のりを歩みだすという大きな転換期に当たる」と李君如は説明する。彼の言う転換期は、中国共産党第十五回全国代表大会〔十五大。1997年9月開催〕報告書で提示された「2つの100年」奮闘目標に基づいている。十九大の報告書では、現代化実現のステップを、①「2020年から2035年までに、小康社会の全面的完成及び1つ目の100年奮闘目標の実現を基盤にさらに15年奮闘し、社会主義現代化の基本的実現を成し遂げる」②「2035年から今世紀中頃までにさらに15年奮闘し、中国を強く豊かで民主的で文明的で調和の取れた美しい社会主義現代化強国にする」の2段階にさらに分けている。
「2つの15年で現代化を実現するためには、五カ年計画を制定する際、2035年までの長期目標を同時に制定し、五カ年計画を15年の中で全般的に考慮すると同時に、五カ年計画を基盤に、長期目標としての十五カ年計画をも立てる必要がある」。李君如は、これが今回の全会で「十四五」と「2035年までの長期目標」をまとめて提案内容に盛り込んだ理由だと考えている。
清華大学中国発展計画研究院執行副院長の董煜(ドン・ユー)は、これまで何度も国の五カ年計画制定作業に加わった経験がある。その経験を踏まえ、新たな発展段階に入って最初の五カ年計画である「十四五」は、現代化建設への道筋という時代的特徴を突出させると同時に、目下の国内外情勢と緊密に結びつけた内容にするべきだと主張する。
「十四五」のもう1つの背景は「100年に一度の局面の大変化」である。これは2年前、世界の勢力図の激しい移り変わりと国内統治の難易度が上がったことを受け、中央政治局が論じたものだ。「我々が過去に直面してきた予測不能な要素は、主に経済や市場関連のものだったが、今後は国際的な政治的対立、地政学的情勢の突発的変化、世論戦などによるものとなるだろう。特に一部の国が国内問題を国際問題化し、中国に対する圧力、包囲、恫喝を強化していることもあり、ただでさえ苦難の連続だったわが国の発展の道のりにさらなる障害がもたらされかねない」。董煜は発表した文章でこのように述べている。
清華大学国情研究院副院長の鄢一龍(イエン・イーロン)は、「局面の大変化」は国際的政治枠組みの転換、米中関係の悪化、反グローバリゼーションの出現、新たな科学技術革命と産業改革の深化など様々な面に現れているが、新型コロナウイルスの世界的大流行が国際環境の不安定性を加速させたと指摘する。
目下の特殊な時代背景及び複雑な外部環境を考えれば、「十四五」制定の重要性と難しさが際立ってくる。「『十四五』の制定はこれまで以上に難しいものとなるだろう。なぜなら中国はいま、改革開放以来の複雑な国内外環境に直面しているからだ」。前国家発展改革委員会計画司長で米中緑色基金董事長の徐林は、発表した文章でこのように述べている。浙江省の「十四五」専門家諮問委員会メンバーで元浙江省発展改革委員会副主任の劉亭は、「新世紀以降実施された4つの五カ年計画と比較すると、今回の『十四五』制定作業が恐らく最も難しいのではないだろうか。というのは、我々は未曾有の不確定性に直面しているからである」と述べている。
全会の公報によれば、社会主義現代化の基本的実現を内容とする「2035年までの長期目標」は、経済、科学技術、農工業、文化、教育、環境保護、対外開放、庶民の収入など多方面に及んでおり、それら1つ1つに段階的目標を設け、「十四五」に落とし込むという。「2つ目の100年目標は『十四五』が起点となる。目標に向かう過程で、目標を明確にし、方向性を定め、臨機応変な戦略を練り、『局面の大変化』のような大きな波に対応できるようにしておくことで、社会主義現代化強国という彼岸にたどり着くことができる」と鄢一龍は解説する。
「双循環」という新たな発展枠組みを推進
全会の公報では、新たな発展理念のたゆまぬ向上と徹底、並びに「国内の大循環を主体に、国内循環と国際循環の双循環が互いに促進しあう新たな発展枠組み」構築の加速が強調されているが、これも「十四五」の重点のひとつである。
国務院発展研究センター マクロ経済研究部研究員の張立群(ジャン・リージュン)は、「国内大循環」が指しているのは、中国経済の持続的高成長がもたらす巨大な「規模」であると分析する。「この『規模』は、一方では完全な産業チェーン、最大の製造業体系といった強大な生産・供給能力として、もう一方では超大規模な国内市場として現れる。中国経済がひと度うまく回りだせば、世界経済を牽引する力となり、『国内循環と国際循環の双循環』を促していくだろう」
「双循環」戦略は、新五カ年計画に盛り込まれる前からその予兆があった。2020年5月に開かれた中央政治局会議で、初めて「国内循環と国際循環の双循環が互いに促進しあう新たな発展枠組み」が提案された。9月28日の中央政治局会議では、「十四五」期の中国経済・社会の発展を推進するために、新たな発展枠組みの構築が不可欠であるとの認識が明確にされた。
中央政府は「危機の中でイニシアチブを模索し、局面の変化の中で新局面を切り開く」ことに長けていなければならないと繰り返し強調している。新たな発展枠組みは正に「局面の未曾有の大変化」に対応するために提案されたものだ、と鄢一龍は分析する。「『局面の大変化』を客観的に見たとき、中国はより高いレベルで独立自主と対外開放、国内と国際の2つの大局を統括していかなければならないと気づいた。具体的には、2つの市場、2つの生産、2つのイノベーションの統括だ。2つの市場では、国内市場への立脚を主体にしつつ、国内市場と国際市場の相互促進を図る。2つの生産では、国内産業チェーンの最適化とレベルアップを図りつつ、国内と国際の産業チェーンの相互補完を促す。2つのイノベーションでは、自主イノベーションを主体にしつつ、引き続き世界に学び、イノベーションに関する国際協力を推進する」
全会の公報によれば、新たな発展枠組みの戦略基盤は内需拡大である。このことは、循環促進のベースとなるのは国内市場であることを意味する。「『十三五』期に突出した中国の経済発展の問題は、効果的なニーズの不足、つまり生産能力の過剰だった。そのため経済はマイナス循環に陥ってしまった」と鄢一龍。これを教訓に、「十四五」期は重点的に埋もれている消費を掘り起こし、ニーズを拡大することで、需要と供給の大循環を促し、経済をマイナス循環からプラスの循環に転換していく必要があると指摘する。
一方、董煜は供給サイドの構造改革の重要性を強調する。「内需拡大は新たな発展枠組みにとって重要だが、いまはニーズもアップグレードし、ニーズの構造にも変化が生じている。供給サイドの改革を通じて需要と供給のマッチングを図らなければ、真に『内循環』を刺激できたことにならない」
「十三五」に引き続き、「十四五」でも供給サイドの構造改革を主旋律としていく。ただ、経済情勢の変化に伴い、供給サイドの構造改革の内容にも変化が生じている。董煜の分析によれば、全会の公報には「内需の体系的育成と整備を加速し、内需拡大戦略を供給サイドの構造改革と有機的に結びつけ、イノベーションを原動力、質の高い供給を牽引力に新たなニーズを生み出していく」との記述があり、これが供給サイドの構造改革に付加された新たな具体的内容であるという。
国内大循環を主体にすることは、国際循環を放棄することとイコールではない。董煜の考えでは、「十四五」期、中国は引き続き国内市場の規模を維持し、他の市場に差をつけ、安定的に世界最大の市場となると同時に、絶えず国内の市場環境を改善し、グローバルなカネ・ヒトに対する吸引力を強化し、協力を望む国又は地域及び企業とウィン・ウィンの関係を構築し、世界の生産ネットワークにおける中国サプライチェーンの地位を固め、さらに向上させていくことに努めなければならない。
「中国は門戸を可能な限り広く開き、よりハイレベルな開放を実施することで、アメリカによる包囲網に対抗するのが正解だ」と鄢一龍は強調する。
イノベーションの中核的地位を堅持
全会の公報では、「キー&コアテクノロジーで重要なブレイクスルーを実現し、イノベーション型国家のトップグループに入る」ことを、2035年までに社会主義現代化の基本的実現を成し遂げる長期目標に書き入れている。全会の公報ではまた、「十四五」期に、わが国の現代化建設の全局面におけるイノベーションの中核的地位を堅持し、科学技術の自立自強を国家発展の戦略的支柱とし、国家戦略としての科学技術力を強化し、企業の技術イノベーション能力を向上させ、人材イノベーションの活力を刺激し、科学技術イノベーション体制及びメカニズムを最適化させなければならないことも提示している。
5中全会に関する統計によると、全会の公報に高頻度で出現する語は「安全」及び「イノベーション」だ。「安全」は計25回、「イノベーション」は計15回出現している。「イノベーション」はより目につく位置に配置されている。
例年と比較すると、イノベーションの面で異なる記述が見られた。第18期5中全会の公報におけるイノベーションに関する記述は、「イノベーション駆動型発展を堅持する」、「必ずイノベーションを国家発展の全局面における中核的位置に据えなければならない」というものだった。今年の記述は、「わが国の現代化建設の全局面におけるイノベーションの中核的地位を堅持する」だった。
8月24日、中国共産党中央総書記兼国家主席・習近平(シー・ジンピン)が中南海で経済・社会分野の専門家座談会を主催し、「十四五」制定に対する研究者らの意見及び提案に耳を傾けた。習近平は座談会で次のように示した。「我々は自主イノベーション能力の向上にさらに注力し、可能な限り早期にキー&コアテクノロジーのブレイクスルーを実現しなければならない。これはわが国の発展の全局面に関わる重大な問題であり、国内大循環を主体とする双循環を形成するためのカギでもある」
キー&コアテクノロジーの停滞が、目下、中国が直面している発展のボトルネックのひとつだ。董煜は取材に対し、次のように述べた。「国家間の競争は、どんどんイノベーション能力の競争にシフトしている。中核技術をモノにできない国に未来はない。だが、目下、産業チェーンにおける停滞要素が、わが国の発展を著しく阻害している」
今年に入り、アメリカのファーウェイに対する半導体輸出規制が正式に発効し、注目を集めている。「中国は設計では既に世界最先端の水準に達している。ファーウェイのハイエンドチップ「Kirin」、陳氏兄弟という2人の若者が設計したAIチップ「寒武紀〔カンブリア紀〕」、他にも紫光集団のチップなども世界トップレベルだ。しかし、中国の設計は言うなれば『片足』。なぜなら、チップ設計のアシスタントソフトと多くの知的財産権は外国に握られているからだ」。北京大学国家発展研究院院長の姚洋は、発表した文章でこのように述べている。
チップ生産は、設計、ウェーハ材料、ウェーハ加工、クローズドβテストの4つの工程から成る。4つの工程すべてで世界トップレベルの技術を有するのは至難の業だ。「わが国はいま、2025年までにチップ自給率を3分の1から70%まで引き上げるという目標を掲げているが、難易度は非常に高いと感じる」。姚洋は、チップ関連の全業界を自国内でまかなうより、一部のコア技術でまずブレイクスルーを実現するほうがより現実的だと考えている。
董煜は、中国は中核コンポーネント、ソフトウェア技術、イノベーション人材などにおいて先進国にまだ水をあけられており、「十四五」で一足飛びに追いつくのは現実的でないと考えている。「2035年にはわが国がイノベーション主導型の発展を成し遂げ、他の国と肩を並べ、或いは他の国を追い越すことができると信じている。だがそれまでは、戦略力を維持し、地道に実力を磨く必要がある」
発展の速度と質のバランスを取る
「十四五」に関して、学術界で議論されているもうひとつの焦点は、経済発展の速度と質のバランスの問題だ。
国の五カ年計画の所期成長目標の合理性は、各地方の設定する五カ年計画の所期目標に大きな影響を与える。これまで何度も国の計画制定作業に加わった経験がある米中緑色基金董事長の徐林は、ある文章で「過去の経験から言うと、一般的に、国の所期目標が高すぎる場合、各地方もこれに追従して五カ年計画の所期目標を引き上げる傾向があり、最終的には、全体の目標が高すぎることから、計画の実施の際、不必要な刺激策を取り、レバレッジが急上昇し、規約違反が増え、生産能力が過剰になり、バブルが拡大するなどの副作用が生じ、結果として成長の質と持続可能性にも影響が生じてしまう」と述べている。
「最近、多くの専門家が、『十四五』期の中国の経済成長率を5%~6%の間と予測している。地方に対しては、ややもすると8%やそれ以上という予測も多く見られるが、やはり楽観的すぎると感じる」。元浙江省発展改革委員会副主任の劉亭はいくつもの地方の「十四五」制定に顧問として関わったが、多くの地方で「将来的に直面し得るリスクや挑戦に対する想定が足りない反面、所期の目標や位置づけの設定が高すぎる。理想論に過ぎる」と感じている。
清華大学中国発展計画研究院執行副院長の楊永恒(ヤン・ヨンホー)は、このほど発表した論文で、一部地方政府による、GDP成長率を発展の絶対的指標とみなす誤った現象について分析し、「十四五」ではGDP成長率の指標を強調せず、例えばGDPに占めるニューエコノミー・新原動力産業の増加値や、個人消費寄与度、資本係数のように、経済成長の効率や質を反映する指標を増やすよう提案している。
小康社会の全面的完成の絶対的指標は、2020年のGDPを2010年比で倍にするというものだった。そのため「十三五」の十大目標の中で、経済成長の維持が最優先された。対照的に、十九大の報告書では、「両歩走」に関する戦略計画にGDP何倍といった定量目標は設定されていない。これについては、「十四五」で成長目標を強調しないための伏線で、経済の質の高い発展を促すための条件づくりだったと評する向きもある。
鄢一龍は、全面的な質の高い発展が「十四五」の主題となると考えている。「経済だけでなく、社会、環境保護、文化、国家ガバナンス・システムなどのすべてが質の高い発展段階に突入し、規模拡大の発展モデルから、質、効率、効果をより重視する発展に全面転換していく」
国務院発展研究センター マクロ経済研究部研究員の張立群も同様に、より広い時間的・空間的視野に立って「十四五」を制定すべきだと考えている。「これまでの中国は、当面の急務を解決したり、最も差し迫った不足点を補うといった『補習』型の発展モデルだった。しかし、ある程度の発展を遂げた現在、2つ目の100年目標を見据え、いきあたりばったりのやり方ではなく、長期的視野に立ち、当初の計画を最後までやり遂げることが重要になってくるはずだ」
※本稿は『月刊中国ニュース』2021年2月号(Vol.108)より転載したものである。