未だ実験室レベルにとどまる全固体電池
2021年03月05日 劉 艷(科技日報記者)
主要メーカーの全固体電池の量産は依然として青写真の段階にあるが、中国の電気自動車(EV)メーカーである蔚来汽車(NIO)がこのほど行った発表に、市場は「全固体電池が搭載されたEVが間もなく実用化される」と期待を高め、その期待は関連の産業チェーンの資本市場に波及している。
1月9日、蔚来汽車は容量150kWhの固体電池パックを発表した。また、この技術が搭載されたEVの納車が2022年の第4四半期にスタートする計画で、航続距離は1,000キロ以上になる見込みだという。
次世代の電池技術と呼ばれるのは一種類だけではなく、技術の面でも応用の面でも、少しでも進歩があるとその度に注目を浴びている。今回の注目ポイントとなっているのは、全固体電池が本当に既に数々のブレイクスルーを果たし、量産してEVに搭載できるようになったのかという点だ。
材料と製法の2つの面におけるイノベーションは進んだものの、蔚来汽車が今回発表した電池には依然として隔膜(セパレータ)や液体電解質などが使われているため「半固体電池」に分類されるべきであり、市場はその点を十分に理解していない。
全固体電池と従来のリチウム電池の最も大きな違いは、電池内部の電解質の物理的形態にある。中国国内の新エネ車に搭載されている液体電池に使用されているのは液体電解質だ。一方、固体電解質を使用した固体電池は、理論的には電池の寿命がより長くなり、同じ容量であればその体積はより小さく、安全性もより高いといったメリットがあり、それらの点はまさに現行の新エネ車の泣き所となっている。
しかし、たとえ全固体電池を量産できる態勢が整ったとしても、大量生産となるとさらなる技術の向上が必要で、液体リチウム電池よりもコストがかかるという課題も解決しなければならない。
蔚来汽車の創始者で会長兼最高経営責任者(CEO)の李斌氏は、「固体電池の量産が難しいのはコストが高いからだ。しかし当社のBaaS(バッテリ・アズ・ア・サービス)モデルなら、規模の効果が生まれやすくなり、製品単体のコスト低下につながる」と語る。
BaaSとは、蔚来汽車のEV向けバッテリーのレンタルサービスで、シェア自転車と同じように、バッテリーの財産権は蔚来汽車の電池資産有限公司が有し、ユーザーは車を購入する際、バッテリーを電池資産会社からレンタルするスタイルだ。このように自動車とバッテリーを「セット」にせず、分離するスタイルを採用することで、新エネ車の残存価額が大幅に下がってしまうというユーザーの悩みを効果的に解決し、蔚来汽車がさらに強い競争力を有することができるだけでなく、バッテリーだけを交換してアップグレードするということもできる。
李斌氏は「固体電池はこれまで量産することができなかったが、当社のビジネスモデルでは、固体電池の量産を始めるために必要な量を確保できるようになった。そのため、当社が固体電池を量産するための原動力は他のメーカーよりもはるかに大きい。自動車に搭載する固体電池の量産は、誰かが始めなければならない。当社は、全面的な評価を行ったうえで、量産ができると判断している。業界全体で量産ができるようになるよりも少なくとも1~2年早く、当社は量産できるようになるだろう」と自信を見せる。
全固体電池にも課題があるにもかかわらず、産業のレベルでも政策のレベルでも、その技術の進歩や市場のポテンシャルは高く評価されており、早くから展開されてきた。
バッテリー市場調査機関「SNEリサーチ」は、2025年に中国の固体電池市場は30億元(約480億円)規模に拡大し、2030年には200億元(約3,200億円)に達する見込みだと試算している。
技術や製法、コストなどをめぐる難題が解決されるにつれて、全固体電池の実用化は時間の問題となっている。
中国科学院物理研究所の研究員である李泓氏は、リチウムイオン電池メーカー国軒高科の第10回テクノロジーカンファレンスで、全固体電池の産業化の進展に言及した際「市場占有率を高めていくには、発展の尺度を10年単位で見るようにして初めて可能となる」との見方を示した。
それは産業の判断とも基本的に一致しており、中国の動力バッテリーのリーディングカンパニーである寧徳時代(CATL)の発展の度合いから見ても、全固体電池は依然として開発段階で、商品化は2030年以降になると見られている。
自動車業界のベテランメディア関係者である陳小兵氏は「今後の電力バッテリー市場は多元化の趨勢にあり、また全固体電池は依然として実験室レベルにとどまっているため、液体バッテリーが今後も長期にわたって新エネ車に搭載され続けるだろう。動力バッテリーは完成車においてコストが最も高い部分であるものの、新エネ車の競争が依然としてその総合的な実力をめぐって展開されている点は注目に値する」と指摘している。
※本稿は、科技日報「固態電池尚未走出実験室」(2021年1月14日付3面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。