「最強ブレーン」を利用―福建省莆田市「イノベーションの原動力」を活性化
2021年03月29日 謝開飛(科技日報記者)、林章武、黄晶忠、洪子民(科技日報特派員)
「中国科学院STS福建センター莆田サブセンターは、科学研究の成果や人材、技術の優位性を活用し、中国科学院の研究成果が莆田市で実用化されるよう推進し、産業モデル転換・高度化、質の高い発展のために、力強い下支えを提供しなければならない。」(劉建洋・福建省莆田市党委員会書記)
うれしい飛躍の例として、中国科学院上海技術物理研究所の技術的サポートを得て、福建飛陽光電股份有限公司は、世界初のニッケル製法に基づくタッチパネルの完全製造プロセス・生産ラインを開発した。企業のサプライチェーンは、以前のミドル・ローエンドの小さなメーカーから、世界のハイクラスクライアント群へと進んでいる。これも、莆田が中国科学院の科学研究資源のマッチングを積極的に進め、「最強ブレーン」を活用してイノベーション発展をする生き生きとした実例だ。
航海・漁業を護る海の女神・媽祖の故郷である莆田は、近年台頭している新興の港湾都市だ。莆田市科技局の推進の下、三棵樹塗料股份有限公司は、中国科学院海西イノベーション研究院と共同で、高性能グラフェン水性防腐塗料プロジェクトを実施し、福聯集成電路有限公司と、中国科学院上海マイクロシステム・情報技術研究所は共同でRF(無線周波)チップを開発するなど、先端的プロジェクトが市全体の質の高い発展の底力となっている。
劉建洋・莆田市党委員会書記はこのほど、科学技術イノベーションに関する業務を現場視察する際、「中国科学院STS福建センター莆田サブセンターは、科学研究の成果や人材、技術の優位性を活用し、中国科学院の研究成果が莆田市で実用化されるよう推進し、産業モデル転換・高度化、質の高い発展のために、力強い下支えを提供しなければならない」と求めた。
ハイテクを活用して新興産業の技術革新を牽引
塗料業界において、防腐塗料は、建築塗料に次いで、規模が2番目に大きな塗料種類だ。防腐塗料は水性であれば、環境汚染を少なくできる。しかし、中国はこの分野に着手した時期が遅いため、従来の油性の塗料が占める割合が依然として70%以上となっている。
では、どのようにして油性から水性への舵切りを加速させ、産業の並走から、リードへの発展を実現できるのだろう? 中国国内の塗料の分野のリーディングカンパニー・三棵樹塗料股份有限公司は、グラフェンに狙いを定め、この画期的な技術を通して、塗料産業のテクノロジー革命・技術革新を牽引することにした。
三棵樹科学研究院の付紹祥ディレクターは、「グラフェンの技術を水性塗料のキーテクノロジーに採用すると、その特有の構造が塗料の中でセパレート効果を発揮するだけでなく、塗料に良好な機械的性質を与えることができる」と説明する。
だが、グラフェンには疎水性があるため、水性の防腐塗料に混ぜて、長期間にわたって安定して分散させるためには、適切な高分子化合物の機能化処理と分散技術が必要になる。
中国国内の企業が科学研究機関とマッチングする際、情報交換がスムーズにできないなどの問題が存在していることに対して、莆田市科技局が橋渡し役となり、中国科学院STS莆田サブセンターと共同でマッチングを行い、三棵樹塗料股份有限公司と中国科学院海西研究院新材料課題グループが「高性能グラフェン水性防腐塗料」プロジェクトの始動を推進させた。
同プロジェクトは、機能化グラフェンの低コストで、大規模な製造技術、グラフェンの分散技術など、カギとなる問題を重点的に解決し、低コストで、高品質のグラフェン分散サンプルを開発したほか、高性能のグラフェン水性防腐塗料の調合技術研究を進めている。
新興の港湾都市としての莆田は、科学技術イノベーションプラットフォームの力が弱く、ハイレベルのリーダー的人材が少ないという弱点を抱えていた。
2002年という早い時期に、莆田市政府と中国科学院は提携することで合意し、省全体で中国科学院と地域の提携を展開するとともに、2018年6月には、中国科学院STS福建センター莆田サブセンターを共同建設した。莆田市科技局の張福清局長は、「中国科学院STS莆田サブセンターの力を借りて、業界内、地域内のシェアリングのイノベーションサービスプラットフォームを構築し、さらに多くの中国科学院系統の人材、技術などの資源を誘致し、テクノロジー型企業の質の高い発展のためにエネルギーを注入する」と説明する。
中国科学院と地域の全面的な提携のメリットを受け、共同でイノベーションを行う効果を最大限発揮させることで、三棵樹塗料股份有限公司の「高性能グラフェン水性防腐塗料」プロジェクトは、短期間で大きな進展を得ることできた。その他、同社の別の商品「水性グラフェンエポキシ樹脂ジンクリッチプライマー」の耐塩水噴霧性も4,000時間から6,000時間に向上し、かつコストは20%低減、亜鉛の使用量も15%減らすことができた。それら技術革新は、中国国内の工業用防腐塗料の水性化の条件を整え、年間売上高が3,000万元(約4億8,600円)以上増えた。
新材料の研究・実験を行う三棵樹の技術者 画像提供:取材先
産業のボトルネックを打破し、グローバルバリューチェーンにおけるミドル・ハイクラスを目指す
新型半導体材料の一種であるITO(酸化インジウムスズ)フィルムは、導電性が高く、可視光領域の透過率が高いという良好な性能があり、車載用タッチパネル、ディスプレイ、ソーラーパネルなどの分野に広く応用され、世界の静電容量方式タッチパネル市場の規模は1千億元を超えると予想されている。
飛陽光電の責任者・林鉖氏は、「この応用において、ITOのリード線は局部的に金属化し、その表面はニッケルメッキを施す必要がある。しかし、従来のリード線に採用されている、銀ペーストやモリブデン酸アルミニウムメッキなどの製法は工程が複雑で、信頼性も低く、生産コストが高いなどのウィークポイントが存在している」と説明する。
そこで、飛陽光電は中国科学院上海技術物理研究所と提携し、同研究所の設備や研究開発能力などを十分に活用し、共同で中国科学院STSの地域における重点プロジェクトの研究開発に取り組んだ。双方は率先して表面化学ニッケル銅合金メッキ技術を開発し、世界唯一のニッケル銅合金タッチパネルの全製造生産ラインを構築して、製品の合格率、導電性を大幅に向上させた。
このコア技術のブレイクスルーを通して、以前は車載用タッチパネルのパーツの製造だけに従事していた飛陽光電の事業は、車載、工業自動化コントロール、医療、軍事工業など応用の先端分野へと拡大し、市全体における関連の川上・川下産業チェーンの共同発展を牽引するようになった。
また、同社は中国科学院上海物理技術研究所と共同でAIスマート認証品質検査ロボットを開発し、既に試験生産の段階に入っている。このロボットは、人間の代わりに作業を行うことができ、歩留まり率や認証効率が向上し、生産コストは低減する。
張局長によると、莆田市は中国科学院のテクノロジーサービスネットワーク計画をよりどころに、中国科学院、省と積極的に提携し、常態化したマッチング業務メカニズムが構築されている。科技局が筆頭となって企業の技術をめぐるニーズを収集・分析し、科学研究機関と連絡を取って、仲介役となり、企業をインキュベートさせ、定期的に監督、評価を展開して、「仲介、収集、インキュベート、評価」の一貫サービスを提供している。
昨年以降、莆田市は特定技術のニーズをめぐる調査・研究を4回展開してきた。そして、企業の技術をめぐるニーズ、研究開発の難題が60件以上収集された。さらに、企業経営者が中国科学院系統の研究所を訪問するよう企画し、中国科学院系統の研究所の専門家30人以上を視察に招き、複数の技術研究開発協力プロジェクトを促進してきた。その他、研究中のSTS(Science and Technology Service Network Initiative)プロジェクト16件を追跡してサービスを提供し、企業40社以上を組織し、省級、市級のSTSプロジェクトの申請をするよう取り組み、中国科学院の成果が莆田で急速に実用化されるよう促進してきた。
イエローライトの部屋で検査を行う飛陽公司の研究開発者 撮影・王傑然
国外チップの独占状態を打破し地域発展の新たな成長の極を育成
短期間の間に、月間生産量3,000枚の6インチ半導体ウェハー新型生産ラインを建設し、国外技術の独占状態を打破し、国内「RFチップテープアウトプラットフォーム」の構築に成功し、国内トップクラスのレベルに達した......。
莆田国家ハイテクパークでは、福聯集成電路公司が中国でトップクラスの半導体ウェハーのOEM工場へと急成長している。
5G時代が到来するにつれて、無線短波(HF)通信産業が急発展している。無線通信設備の基本パーツとしてのRFパーツの性能は向上し続けている。従来の単結晶シリコン半導体では、RFの性能向上の必要を満たすことはできず、新型化合物半導体が幅広くRFの分野で応用されるようになっている。しかし、中国国内の4--6インチ半絶縁性チップは依然として多くを輸入に頼っており、国産チップによる代替ニーズが非常に高くなっている。
中国科学院と地域の提携を見ると、福建省の電子情報製造業のチップ・ディスプレイの分野強化戦略における重要な部分として、福聯集成電路公司と中国科学院上海マイクロシステム・情報技術研究所がRFチップを共同開発している。双方はテープアウト、テスト、最適化を何度も重ね、国外の同類のチップの代わりにできるチップの開発に成功し、各種指標が国外の同類のチップの指標に肩を並べるようになり、一部の指標に関しては、それを上回るようにもなっている。
先頭を切って第一歩を踏み出し、広い範囲でリードするようになるまで発展し、大きな研究機関と提携して経済の質の高い発展を下支えするイノベーションの道筋がよりはっきりと見えるようになっている。
莆田の電子情報、設備製造などの急成長する産業、食品加工、工芸・美術、靴製造などの優位性を誇る産業に的を絞って、莆田市科技局は各分野との一歩踏み込んだ提携をさらに開拓し、提携の主体を、単一の所と企業の提携から、産業イノベーション戦略アライアンスへと舵を切るよう推進し、整った技術イノベーションチェーンを構築している。
張局長は、「テクノロジー型企業は、現代産業体系の媒介役、技術イノベーションの主体だ。新たな改革の道のりにおいて、さらに多くのテクノロジー型企業が『主役の座』を目指して競争を展開することを期待している。莆田は今後も、世界の先端技術に焦点を絞り、国家戦略にしっかりとついていく。そして、中国科学院と地域の提携内容をより濃いものにし、メカニズム建設とプロジェクト計画を強化し、ハイテク企業の倍増計画実施を加速させる。リーディングカンパニーが牽引し、中小・零細企業が専門性の高い製品、精密化管理で生産された優品、特色のある製品やサービス、先端的製品に注力し、産業クラスターが先を競い合いながら発展する局面を作り出し、市全体の産業モデル転換・高度化のために強力なイノベーションの原動力を提供する」と語る。
チップに異常はないかチェックする福聯集成電路公司の作業員 撮影・毛江川
※本稿は、科技日報「借智"最強大脳" 福建莆田"第一動力"澎湃」(2021年1月29日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。