第175号
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上海、機能型プラットフォームで研究成果の実用化を加速

2021年04月28日 侯樹文、王 春(科技日報記者)

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画像提供:視覚中国

 先ごろ、フランスのEMリヨン経営学大学院による中国のスマート製造関連企業1万5,000社余りの評価を発表した「2020中国スマート製造企業トップ100社」には、上海の企業が13社ランクインしていた。スマート製造のビジネスエコシステムの発展が加速する背後で、産学研の架け橋となっている上海の新型研究開発機関が注目されている。

 科学技術と産業の間にずっと存在している「二元構造」問題を解決するため、国から地方までが積極的にその突破のための道を模索している。イノベーションセンターとしての大命題と、ハイテク産業発信地の育成という大きな使命を前にして、上海は2015年から産業革新に向けた研究開発・実用化機能型プラットフォームの試行をスタートさせた。

 上海イノベーションセンターの「屋台骨」となる重要な構成部分として、これらの研究開発・実用化機能型プラットフォームは、産業チェーンの革新、重大製品の研究開発・実用化およびイノベーションと起業の下支えとなり、市場の不足を補い、研究室の成果と市場での実用化の間に横たわる「死の谷」を越えることをサポートしている。上海は数年来、集積回路やバイオ医薬、新材料、新世代情報技術、先進製造業といった先端技術分野をめぐって、複数の分野が融合され、複数の学科を跨ぎ、複数の機能を集約した機能型プラットフォームを15ヶ所立ち上げ、産業界と学術界を結ぶ架け橋として科学技術研究成果の実用化を加速させており、新興産業にとってのエンジンとなっている。

「象牙の塔」から出るキー&コアテクノロジーの研究成果

 数年前、上海市スマート製造研究開発・実用化機能型プラットフォーム(以下、「スマート製造機能型プラットフォーム」)の習俊通総経理は、ドイツのArena2036プラットフォーム上の自動車生産ラインを見学した後、伝統的な製造業に対する認識を覆された。

 先進的な製造業と国内の製造業の現状の差を目にし、習氏はスマート製造機能型プラットフォームが克服すべき難点には次のようなものがあるという考えに至った。その難点とは、製品供給方式の変化によって、生産組織方式はフレキシブルで再編成ができることが求められ、設備の移載においては、生産組織方式の変化に技術上の空間ポジショニングや位置の追跡、視覚識別などが追いつけることが求められているが、国内産業で用いられている基盤技術は依然として弱いという点だ。

 習氏は、「スマート製造は、製造や情報など多くの技術分野と関わっている。一企業が全ての部分をカバーするのは困難だ。まとまって取り組む方式で総合的に解決しなければならない」と語った。

 高密度燃料電池スタックの研究開発・生産においては、スタックを大量生産できる生産ラインに必要な部品は1,700以上に上り、人による管理では製品の一致性や品質を保証できない。そこでスマート製造機能型プラットフォームは、上海氫(水素)晨新能源科技有限公司向けにデジタル化された生産ラインを設計・設置した。プラットフォーム上での検査技術やスマート組立など、基盤となるキーテクノロジーを同社のスタックのスマート生産システムに導入。スマート化生産効率は従来型製造より少なくとも150~200%向上した。

 2020年度、スマート製造機能型プラットフォーム技術サービス企業37社の売上高は2,000万元(約3.3億円)となった。関連製品とソリューションは、外高橋や滬東船廠、華域汽車、上汽通用五菱、国家電網などの企業で応用されている。

産業チェーン協力・ウィンウィンの原動力に

 賑やかな市中心部から離れた上海臨港地区では、スマート製造機能型プラットフォームの向かい側で、インダストリアル・インターネット機能型プラットフォームも基盤となるキーテクノロジーの研究開発と試験検証、応用実施など産業化サービスの重任を担っている。すでに30社以上の企業に技術とコンサルティングサービスを提供し、累計で5,000万元(約8.4億円)以上の利益を上げた。

 中国国内にもインダストリアル・インターネットやスマート化工場の例は多いが、中国のインダストリアル・インターネットは依然として初期段階にあり、まだ個別化ソリューションのカスタマイズや大規模普及といった成熟段階までは発展していない。また、周辺機器接続やデータ分析、インダストリアル・メカニズム・モデル設定や産業応用開発面で、インダストリアル・インターネットのソフト・ハードウェアインフラには解決が必要な技術的ボトルネックが存在している。

 臨港地区製造業の実際のニーズをめぐり、インダストリアル・インターネット機能型プラットフォームはインダストリアル・ネットワークや識別解析、プラットフォーム・セキュリティなどの方向性から、コアテクノロジーの難題攻略と産業サービスを展開している。

 インダストリアル・インターネット機能型プラットフォームは、産業チェーン上のトップ企業が応用のモデルとなって川下企業を牽引するアプローチモデルで技術の普及と応用を進めており、いくつも成功例が生まれている。工業互聯網創新中心(上海)の鄭忠斌総経理によると、識別解析面では、航空や原子力発電、新材料、機械加工、医療機器といった分野で、識別解析二級ノードの設置に協力した。また、ネットワーク面では、商飛熱処理の生産現場に熱処理設備のデジタルツイン模型を作り、独自の知的財産権を持つ熱処理生産現場スマート管理コントロールシステムを作り上げた。上海電気核電(原子力発電)設備有限公司には、現場の作業をカバーするインダストリアル・ネットワークを配置し、数十種類の異なるタイプのNC工作機械、溶接機といった設備のネットワーク接続、データ収集・分析を実現し、溶接品質過程管理システムを構築した。上海三一重機股份有限公司では、5G+AR/VRが応用されている。また、プラットフォームでは、樹根互聯(ROOTCLOUD)と共同で、工作機械業界ヘテロデータ融合の技術的難関攻略を展開している。

複数チャネルの革新で切り札を作る

 上海の新型研究開発機関の大きな特色は研究開発・実用化機能型プラットフォームの運営であり、上海が国際イノベーションセンターを作り上げるために実施した革新的措置だ。国外研究開発機関の管理運営ノウハウの長所を採用したこのモデルは、現在のところまだスタートと模索の段階にある。これらの機能型プラットフォームは、グラフェンやロボット、集積回路、バイオ医薬といった分野における革新的な部分に照準を合わせている。それらは企業だが、大多数の企業とは異なり、その業務は研究開発業界にとって基盤となるキーテクノロジーであり、公共技術サービスを提供している。

 2015年、上海交通大学の精鋭チームが臨港地区にやって来て、上海スマート製造研究院の立ち上げに着手した。上海スマート製造研究院が模索・構築したスマート製造機能型プラットフォームは、産業界の精鋭チームと手を組むと同時に、大学におけるトップレベルの科学研究チームとも連携。産業の土壌に根差し、体制・メカニズム上の障害を乗り越えて、スマート製造成果実用化分野で新天地を切り開いた。

「モデル革新を優先し、技術革新を源とし、産業での応用を中心として、知識・技術・産業間の障害をなくし、チェーンを切り開く」というのが、このプラットフォームが自身に与えたポジショニングだ。

 スマート製造機能型プラットフォームは、「プラットフォーム+プロジェクト企業」というモデルを採用して、チームソースの多元化と資金源の多元化を実現し、政府資金を積極的に申請し、リスク投資を広く取り入れ、管理チームの株式取得を進めている。同時に、研究開発技術を選定し、大学において最も実力があり、産業への応用の将来性があるプロジェクトを選んでプラットフォームでの実用化・産業化を行っている。しかもプロジェクトの目標は明確であり、3~5年以内に明確な市場応用ニーズを生み、産業化させるとしている。

 産業化プラットフォームに合理的なインセンティブメカニズムがない場合も、長期的に維持することはできない。スマート製造機能型プラットフォームでは、起業を支援した混合所有制企業に対して株式所有構造を設定している。混合所有制企業はプロジェクトチームによって発起され、そのチームの持株比率は通常60%以上となっている。また、母体企業の持株比率は15%以下で、その他の株式は市場・社会主体に向けて開放する。このような株式所有構造は創業チームの経営主導権を確保するもので、同時に研究院やプラットフォーム企業の優位性資源を十分に動員することも可能にしている。

 スマート製造技術と産業との間に立ちはだかる壁を打ち破るには、科学研究人材が必要であるとともに、産業的背景を持つ人材も求められる。スマート製造機能型プラットフォームの180人以上から成る運営チームのうち、産業界からの人材が3分の1を占めている。上海氫晨新能源科技の副総経理である李紅涛博士は2007年に上海交通大学大学院を卒業し、その後GEやシーメンスという世界トップ500企業で高精度先進製造科学研究に従事してきた。スマート製造機能型プラットフォームの習総経理は、「大企業で経験を積んだことで、彼らは独自の科学研究チームを取りまとめる能力とプロジェクトチーム管理能力を備えている。このような制度化され、規範化された管理は、技術産業化の過程において非常に重要だ」と言う。

 体制・メカニズムの革新によって技術と産業の間の壁が打ち破られ、スマート製造技術が航空宇宙、自動車製造、新エネルギー車、原子力発電設備といった分野へと向かうためのゲートが開かれた。

 この5年、スマート製造機能型プラットフォームを通じて、水素燃料電池バイポーラ板、水素燃料電池スタック、マイクロウェーブスマート感知、工業視覚検査といったスマート製造のコア&キーテクノロジーが上海交通大学の研究室から出て、技術の実用化が実現。さらに自動車や船舶、地下鉄レールなど大型設備製造トップ企業の工場で用いられるようになり、国産スマート製造の新興パワーとなっている。

 工業互聯網創新中心はインダストリアル・インターネットの機能型プラットフォームを担っており、中国情報通信研究院の100%出資子会社だ。インダストリアル・インターネット機能型プラットフォームは工業互聯網創新中心を母体企業としている。商業化ガバナンスモデルを採用して、社会からの投資と産業育成を促しており、研究成果実用化の遺伝子が絶えず活性化されている。多くの高水準の地方大学、インダストリアル・インターネットの公共技術資源の開放・共有をよりどころとして、産業に対するサポートとサービスを強化し、一連の革新的措置を絶えず打ち出している。

 従来通りのコンフォートゾーンを突破し、科学研究をさらに市場化されたより活力あるものにするには、体制による制約の突破を模索する新興の事物である研究開発・実用化機能型プラットフォームは、まだ長い道のりを歩く必要がある。


※本稿は、科技日報「抓"共性"有箇性 上海功能型平台為成果転化加速」(2021年3月12日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。