第177号
トップ  > 科学技術トピック>  第177号 >  蘇州が繰り出す3枚の「切り札」―航空宇宙産業のさらなる「飛躍」へ

蘇州が繰り出す3枚の「切り札」―航空宇宙産業のさらなる「飛躍」へ

2021年06月15日 金 鳳(科技日報記者)

image

写真提供:視覚中国

江蘇省蘇州市は2023年をめどに、航空宇宙産業チェーンの関連企業を500社以上集め、産業チェーンの売上高を600億元(約1兆円)にまで引き上げることができるよう取り組み、大型機産業や宇宙産業、ゼネラル・アビエーション産業、航空スマート設備、航空機能サービスなどの分野に重点的に注力する計画である。

 中国政府から、核技術および宇宙技術の同時開発プロジェクト「両弾一星(原爆・水爆・人工衛星)」功労勲賞を授与された科学者23人のうち4人が蘇州出身で、有人宇宙船「神舟」や宇宙ステーション「天宮」、衛星測位システム「北斗」、さらに、月探査計画、火星探査に至るまで、その背後には「メイドイン蘇州」の貢献がある。

 中国の航空宇宙と「深い縁」をもつ蘇州は4月26日、「航空宇宙産業発展大会」を開催し、「蘇州市航空宇宙産業発展3年行動計画」や「蘇州市航空宇宙産業の発展を促進するための若干の措置」を発表。2023年をめどに、航空宇宙産業チェーンの関連企業を500社以上集め、産業チェーンの売上高を600億元にまで引き上げることができるよう取り組み、大型機産業や宇宙産業、ゼネラル・アビエーション産業、航空スマート設備、航空機能サービスなど分野に重点的に力を注ぐ計画であることを明らかにした。ハイレベルなイノベーションチームやリーダー的役割を担う人材には、それぞれ最高で5,000万元(約8.5兆円)と500万元(約8,500万円)のプロジェクト支援金、300万元(約5,100万円)の定住補助金が支給される。

1日で総額約230億元の航空宇宙産業プロジェクト78件の契約締結

 上海蘇州一体化の効果が継続的に強化され、中国国産大型機市場の前途が一層明るくなっている。江蘇省党委員会の常務委員である、蘇州市党委員会の許昆林書記によると、蘇州の航空宇宙関連産業の規模は現在300億元に達し、重要な部品メーカーや関連企業が200社以上あり、動力システム、電気機械システム、アビオニクスシステム、航空材料など幅広い分野をカバーし、民間航空機製造会社「中国商用飛機」の関連のプロジェクトに参加している企業も約30社ある。

 産業が協力し合いながら、それぞれが持ち味を発揮すると同時に、蘇州が管轄する各区・市は近年、共同で航空宇宙産業チェーンの布石を打ちを推進し、産業の規模を拡大、増強している。例えば、太倉市は、航空宇宙産業クラスターの形成に力を入れ、昆山市や呉中区は民間機の部品の加工に力を注いでいる。蘇州工業パークには、数多くの外資系航空設備企業が集まり、蘇州ハイテクパークは、軍事産業の航空宇宙企業がメインとなり、呉江区は航空ハイエンド設備や関連の部品の分野に的を絞って力を入れている。その他、張家港市や常熟市は、航空標準部品や新材料に重点を置き、相城区は、航空宇宙材料、航空エンジンなどの産業チェーンの構築に力を入れ、姑蘇区は航空業界の拡張サービスのレベル向上に大々的に取り組んでいる。

 イノベーションの要素が次から次へと集まり、蘇州は航空宇宙業界の発展にひたすら集中して取り組むことができるようになっている。西北工業大学長江デルタ研究院や中国科学院空天情報イノベーション研究院、北京航空航天大学蘇州イノベーション研究院、南京航空航天大学蘇州研究院、海鷹空天材料研究院などの重要イノベーションの担い手が蘇州に設置され、市全域の航空宇宙企業には、省級プロジェクトセンター1カ所、省級工業設計センター1カ所、省級企業技術センターが9カ所ある。

 4月26日に開催された「航空宇宙産業発展大会」では、「大型機蘇州産業研究センター」と「大型機蘇州航空産業パーク」の発足が発表された。

 蘇州は現在、全面的に布石を打つ取り組みを行い、上海大型機産業のエコロジカルネットワークに積極的に溶け込み、産業のスマートで高度な発展促進を加速させ、特色が鮮明な航空宇宙産業の新体系を全力で構築している。

 同日、総投資額が230億元(約3,900億円)以上に達する、航空宇宙産業プロジェクト78件の契約が締結された。許書記は、「今後、プロジェクトの実施を加速させ、大型機産業チェーン・サプライチェーン蘇州促進センターの設立を目指し、中国商用飛機、中国航空工業集団、中国航空発動機集団、中国航天科技集団、中国航天科工集団などのリーディングカンパニーと、世界的大手航空機メーカーのボーイングやエアバスなどが蘇州で投資をめぐる提携を実施できるようサポートする計画である」と話す。

ハイレベルイノベーションチームには最高で5,000万元のプロジェクト支援金

 中国の「第14次五カ年計画」(2021‐25年)と2035年までの長期目標概要は、「航空宇宙など戦略性新興産業に的を絞り、基幹核心技術、イノベーションの応用を加速させ、産業発展に影響する各要素をしっかりと提供する能力を強化し、産業発展の新たな原動力を育て、増強しなければならない」と言及している。

「航空宇宙産業発展大会」で発表された「蘇州市航空宇宙産業発展3年行動計画」における志は非常に高く、蘇州は2023年をめどに、市全域に集まる航空宇宙産業チェーン関連企業を500社以上に増やし、産業チェーンの売上高を600億元にまで引き上げ、特色ある航空宇宙産業パークを複数構築し、多くの航空宇宙産業イノベーションセンターを設置し、一定の影響力を持つ航空宇宙産業研究開発・製造拠点を作り上げたい考えだ。

 その目標を達成するために、蘇州は5つの取り組みを計画している。まず、産業クラスターの形成だ。部品の精密加工、新材料の推進と応用、電子デバイス、スマートデバイスなどの重点分野に重きを置く計画だ。次に、イノベーションプラットフォームの構築。大型機蘇州産業研究センターのほか、航空宇宙製品イノベーションセンター・産業イノベーションセンターを設置する計画だ。3つ目は、企業の競争力の強化。厳選した企業の育成バンクを立ち上げ、中国商用飛機の2番目の商品供給源開発計画実施をサポートする計画だ。4つ目は、協同イノベーションの促進。民用航空宇宙設備分野におけるテクノロジーの難関突破の成果の実用化や応用を加速させる計画だ。最後に、産業発展に影響する各要素をしっかりと提供する能力の強化。必要な政策を制定したり、措置を講じたりすることで、人材の呼び込み、育成を強化し、金融サービスを強化する計画だ。

 航空宇宙産業がさらに高く、遠くへと「飛躍」することができるように、蘇州は「フル装備」の政策を打ち出している。許書記は、「航空宇宙産業を発展させるために、蘇州は今後、『政策』、『金融』、『人材』という3枚の切り札を出すことで、最適のサービス保障を提供し、政策が末端、企業にダイレクトに影響を及ぼすようにし、さらに多くの社会資本が航空宇宙産業に流れるように導き、産業のハイレベル人材育成を協力して進める」と計画を語る。


※本稿は、科技日報「蘇州打出"三張牌",力促航空航天産業"高飛"」(2021年5月7日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。