AI人気は高いが、なぜ実用化が難しいのか?
2021年09月27日 華凌(科技日報記者)
画像提供:視覚中国
現在、産業界におけるAIの主な実用化シーンは、スマートセンシング、インテリジェントなインタラクション、インテリジェントな意思決定の3つに分けられる。この3つのシーンでAIが真に実用化されるには、ハッシュレートのコストを下げ、アルゴリズムとアーキテクチャの性能を高める必要がある。そうして初めて、AIの実用化に際し、高すぎるコストを理由にビジネス価値を失わずに済み、商業化や大規模化を実現させることができる。
----譚茗洲(遠望智庫・人工知能事業部部長、図霊機器人・最高戦略責任者)
この10年間、5Gやビッグデータ、クラウドコンピューティング等の新興技術の後押しを受けて、AIは急速に発展してきたが、その「実用化の難しさ」という問題も顕著になってきた。先日、「深圳経済特区人工知能産業促進条例(草案)」が初めて公表されて審議の申請がなされた。これにより人工知能の産業発展にふさわしい製品の参入制度の構築が模索され、リスクの低い人工知能製品とサービスの先行的な試行が支援されることとなった。これは、人工知能分野で全国初の地方性法規でもある。
しかし、AI製品の実用化の難しさは、何も個別のケースではない。AI製品をいかにスムーズに実用化させ、イノベーションの「最後の1マイル」を開通させるか。人工知能の応用段階で解決が待たれる問題となっている。
実用化には、まずは良好なデータが必要
AIによって労働効率が上がり、労働力の開放も実現するが、各業界の応用面での進みは実際には遅い。なぜか。
「AIの実用化について知るのは容易だが、実行は難しい。データは、AI実用化の成功を制限する一大要素だ。なぜなら、AIの基本的なアルゴリズムのトレーニングは、データに依存しながら行われるからだ。意義のある質の高いデータを取得することは、AI実用化の成功に非常に重要だ。統一され、標準化された質の高いデータが存在しなければ、AIの応用は、絵に描いた餅のように土台のない物事のようだ」と、遠望智庫・人工知能事業部部長で、図霊機器人(Turing Robot)・最高戦略責任者でもある譚茗洲氏は、筆者の取材に応える。
ある専門家によれば、データには「自由で散漫」という「罪」がある。「自由」とは、例えばサーバを利用してデータを集めると、その多くには問題があって使い物にならないと気づくことである。例えば、あるイギリスの調査機関は、80%の人が1911年11月11日に生まれたことを発見した。このような状況が生まれるのは、被検者の一部がプライバシーに関する問いへの返答を望まず、生年月日の入力欄に00と入力しようとしたが、システムが00を受け付けないために11と入力したことから、回答者の80%の生年月日は適当に入力されているためである。「散漫」とは、データは至る所に散らばっており、データの更新速度が遅い(訳注:中国語では、「散慢」の「慢」という字で表す)ことを指す。
また、製造業では「大量のデータが生まれるため、データの質とその管理の問題は非常に重要である」と譚氏はいう。しかし、製造業のデータ、特に生産ラインのような煩雑な製造環境や、極度の劣悪な操作条件において収集されたデータには偏差とタイムラグがあり、エラーだらけの場合もある。
加えて、データのリスクやコンプライアンスといった要素も無視できない。「AIのおかげで、企業は大量の機器からのサポートに依存しながら意思決定をすることに慣れ始めている。このプロセスには、プライバシーの保護やAIの信頼性(クレディビリティー)、倫理的また社会的問題等がつきものであり、いずれもAIの実用化プロセスで解決しなければならない問題だ」と譚氏は強調する。また、大規模化も難しい問題の一つだ。ほとんどの企業でAIイノベーションは点状のもので、実験的性質のものであり、局部的なイノベーションに過ぎず、大規模化や商業化、運用状態の構図が欠落している。
コスト削減が商業化実現の鍵
どのような新技術であれ、業界内で大規模実用を実現するには、企業向けにコストを削減し、効率を高めるとともに、企業にイノベーションを模索する機会を与えなければならない。現在のAI技術の水準では、多くの場合、産業の一部の段階や一部のプロセスでしか「コスト削減、効率の向上、イノベーション」を実現できず、AI技術はごくわずかな状況でしか人の手の完全な代替となりえない。
「現在、産業界におけるAIの主な実用化シーンは、スマートセンシング、インテリジェントなインタラクション、インテリジェントな意思決定の3つに分けられる。この3つのシーンでAIが真に実用化されるには、ハッシュレートのコストを下げ、アルゴリズムとアーキテクチャの性能を高める必要がある。そうして初めて、AIの実用化に際し、高すぎるコストを理由にビジネス価値を失わずに済み、商業化や大規模化を実現させることができる」と譚氏は語る。
そして、譚氏はこう続ける。「AI技術の実用化のための5大要素は、応用シーン、資源とインフラ、アルゴリズムとモデル、スマート設備、データによって構成される。実用化シーンの中でこれら5つの要素をいかに調和させるかが、産業界におけるAI技術の実用化でのもう一つの重要ポイントとなる。スマートセンシング、インテリジェントな意思決定、インテリジェントなインタラクションの実現に際しては、いずれの一つの要素の変化も、往々にして他の要素の変化を導きうる。例えば、アルゴリズムモデルに変化が生じれば、それに伴って設備の資源管理も変えなければならない。つまり、実用化の実行の際は、アルゴリズム、設備、資源のそれぞれの専門家と応用開発の協力パートナーの全員がその場に居合わせなければならないのである。このために、AI実用化のコストは最終的に高すぎるものになり、産業応用において真の意味で大規模に展開できないのである」。
それでは、どうすればAI実用化の全体コストを商業価値のある水準まで下げられるのだろうか。「それには、前述の要素を並行して発展させて、どんな時もいずれの要素にも配慮せずとも良いようにしなければならない。つまり、アルゴリズムの専門家は応用がどのような状況かに関心を払わずとも良く、設備のサプライヤーもアルゴリズムの問題に関心を払わずとも良いようにする。前述の5つの要素を切り離し、一つの要素の透明性を他の複数の要素よりも高めるのである。考え方から見れば、これはPCのオペレーティングシステム(OS)にも似たところがある。マウスやキーボード等のいずれの装置の間の複雑度も一つの標準化されたプロトコルによってブロックし、装置を相互に切り離すことによって、それぞれの強みに集中してコストを削減できるようにするのである。こうして初めて、AIは真に大規模化され、商業上の成功を実現できる」と譚氏は言う。
AI的思考と言語を理解する人材の備蓄
それでは、真の意味でのAIの応用とは、どのような応用を指すのだろうか。「将来的には、シーンとユーザー体験を結びつけて改めて設計を行い、AI自身の方法で思考することによって、真の意味でのAIの応用が生まれるだろう」と雲知声智能科技(Unisound)の董事長であり、CTO(最高技術責任者)でもある梁家恩氏は考える。これからの5年間で真の意味でのAIの応用が登場し、AIの能力も極致に達するだろう。その頃には、AIはすでに「バックグラウンドの技術」として普及し、消費者はそれを全く意識することもなくなるだろう。なぜなら、技術が無意識のものになることこそ、技術応用の最高の境地だからだ。
人工知能の専門家の丁磊氏は、その新著『AI思維』(AI的思考)において、「AIは単なる技術やツールではなく思考の方法だ。大量のデータの効果的な分析を支援するのみならず、そこから予測を生み、意思決定の助けにもなる」と強調する。つまり、AI実用化のプロセスにおいては、AI的な思考や言語を理解する人材の備蓄が特に重要になる。
ところが、実際にはほとんどの企業シーンにおいて、エンジニアや科学者と担当者の話は別の言語で語られているのかと思うほど異なり、相互間に良好な交流のルートは存在しない。こうした状況によって、AIの実用化は一層難しいものになっている。
譚氏によれば、経験豊かな人工知能の専門家を招くのは難しいことが、全ての業界の企業にとって課題となっている。AIプロジェクトの実施のためには、一般的にはデータサイエンティストやML(機械学習)エンジニア、ソフトウェア・アーキテクト、BI(ビジネスインテリジェンス)アナリストと中小企業の関係者により構成される多分野にわたる専門家チームを構築する必要がある。また、AI実用化のプロセスでは、企業経営者または業務担当者、ひいては第一線で働く一部の業務担当者のAI的思考を向上させ、教育する必要が生じる。彼らがAIのデータ的思考におけるクローズドループのロジックを真の意味で理解してからAI実用化を実施するほうが、はるかにスムーズに進む。
高度人材を育成し、人工知能を専門とする高等教育期間を設置することが「突撃隊」につながることは疑いようもない。現在、一部の高等教育機関では学生に学際的意識を植え付けることに関心を払い始めており、特色ある専門分野と結びつけて、「人工知能+(プラス)」に関する育成計画を策定している。
AI教育は本質的にいえば知識レベルの教育ではなく、思考能力や思考方法の教育であると譚氏はいう。したがって、多くの青少年がAIの意識を確立できるように幼少時から支援し、彼らの科学的素養を向上し続け、人工知能への興味を呼び起こし、熱中するように仕向けなければならない。現在、小中学校で実施されている人工知能関連のカリキュラムは基礎的なプログラミング教育に偏っており、ロボットにサッカーをさせたり、歩行させたりするなど、モジュール化された操作を通じていくらかのインテリジェント機能を実現しようとしている。この方法であれば、青少年たちに機械学習の考え方を教育し、小中学生に人工知能に関する初級段階の認識を確立させることができる。
※本稿は、科技日報「為什幺AI很火,落地却很難」(2021年7月26日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。