玲龍一号:多目的小型モジュール加圧水型炉の開発
2021年10月29日 孫 瑜(科技日報実習記者)
海南省昌江の玲龍一号の工事現場(撮影:新華社)
10億キロワットアワー:
玲龍一号は、竣工の暁には年間発電量が10億キロワットアワーに達し、一般家庭52万6千世帯の年間電力消費量をまかなう見込みだ。玲龍一号の各ユニットの年間発電量によって、二酸化炭素の排出が88万トン削減され、樹木750万本分が植林されるのに相当する―。
「中国沿海部の経済発展地域では土地が資源として貴重なため、大型原子炉を建設すれば周辺設備が制約を受けるのは必至だ。これを小型原子炉に代えれば、広い土地を必要としない上に、原子炉に必要な冷却水も『現地調達』できる」。9月10日、中国核工業集団公司(以下、「中核集団」)の玲龍一号主任設計者を務める宋丹戎氏はこう話し、沿海部に小型原子炉を建設すれば、沿海都市向けの「充電」が可能になると説明した。
玲龍一号はいわば、「原子力発電のモバイルバッテリー」のようなものだ。玲龍一号(旧称:ACP100)は中核集団が10年余りの研究を経て独自に開発し、知的財産権を持つ多目的小型モジュール加圧水型炉であり、第3世代の原子炉「華龍一号」に続く新たな独自イノベーションの重要な成果である。2021年7月13日に海南省昌江で着工された玲龍一号は、世界で初めて建設が開始された陸上の商用化小型モジュール炉であり、建設期間は58カ月で、2026年の完成予定だ。
小型でも、技術水準は高い
国際原子力機関(IAEA)の定義によれば、小型原子炉とは出力が30万キロワット以下の原子炉である。
小型原子炉はかつて、中国工程院の葉奇蓁院士に原子力発電の「ゲームチェンジャー」であると称賛された。「小型原子炉によって、コジェネレーションシステムの多様なソリューションが高い安全レベルで提供可能となった。しかし、それには真のイノベーション理念を取り入れる必要がある。第3世代の原子炉の単なる縮小版であってはならない」と葉院士は考えている。
2021年1月30日、分散配置を採用した出力100万キロワットの第3世代大型原子炉、華龍一号の世界初の商業運用が開始された。その華龍一号と比べると玲龍一号はずっとコンパクトで、占有面積は華龍一号のわずか3分の1で済み、出力は12万5千キロワットで一体配置を採用している。
また、「双龍」(華龍一号と玲龍一号のふたつの龍)はその大きさと配置の違いだけでなく、実用シーンや技術開発においても異なる側面に重点を置く。
玲龍一号プロジェクトの劉承敏総経理によれば、華龍一号は主に原子力発電に利用されるが、玲龍一号は主に原子力の総合利用を目的とする。玲龍一号は発電以外にも、例えば都市の熱供給や海水の淡水化、石油の採掘などさまざまなニーズを満たし、工業団地や島、エネルギー多消費企業によるエネルギーの自主配備など、多様なシーンに適用できる。
劉総経理によれば、「小型原子炉の最も優れた特徴は一体化設計、モジュール化建設と完全な受動的安全(パッシブセーフティ)システムである」。
玲龍一号では蒸気発生器、原子炉、主ポンプ、主パイプ等を一体に集約しており、工場内でのモジュール化製造と組み立てが可能なため、現場に運んで直接設置し、テスト調整することができる。量産化と急速建造によって現場の施工期間と工期が短縮され、規模の経済効果が実現された。
受動的安全システムは、玲龍一号の安全性を保障する「切り札」と言える。設計者は「固有の安全性に受動的安全性を加える」という設計理念取り入れ、設計の段階で潜在的な事故を予測してその可能性を取り除くとともに、原子炉がエネルギー供給能力を失うという極端な状況においても自然現象とその法則に則って原子炉の安全性を確保し、事故後も長期にわたって人的干渉を必要としないようにした。玲龍一号は大型炉に比べて出力が小さく、使用する核燃料も少なく、緊急時区域を発電所のエリア内に収められるために、都市や工業団地の近くに配置することができる。
「従来の原子炉とは大きく異なり、イノベーションの程度や技術の差が大きい。玲龍一号は完全な独自イノベーションの設計に基づく」と宋氏は語る。この画期的な原子炉の開発にあたっては、中国核動力研究設計院が原子炉の熱工学・水力、安全システムの検証、力学性能等の重要技術を攻略し、主ポンプ、駆動機構、直流蒸気発生器等の20余りの重要設備を開発し、大量の実用新案と発明特許を取得した。安全性の十分な検証のために、開発チームはさらにアジア最大の受動的安全システム総合実験ベンチを建設し、試験を行っている。
「出力12万5千キロワットの小型モジュール炉は人類史上初のものだ。われわれは英知により、玲龍一号の建造をゼロから実現した」。中核集団で玲龍一号の副主任設計者を務める秦忠氏は語る。
試練を乗り越え、ついに誕生
2010年に中核集団が小型原子炉の研究開発を正式にスタートし、玲龍一号が図面から現実の物となるまでは、まさに「関門を次々に突破する」必要があった。
第一の関門は、建設コストの工面だ。
宋氏は取材に対し、「玲龍一号は主に設計の革新、システムの簡素化と量産化建設によって建設コストを引き下げた。また、小型炉は大型炉に比べて土地の占用を大幅に減らせることも、関連費用の削減につながった」と答えた。
さらに、「大型炉は主に発電によって経済性を実現するが、小型炉は『熱供給』によって経済性を実現するという新たな道を切り開いた。発電については送電網を利用すれば長距離輸送が実現できる。一方で、熱供給は、より近隣のユーザー向けの分散型エネルギーだ」と宋氏は説明する。つまり、「炭素排出ピークアウトとカーボンニュートラルという世界のエネルギー生産・消費革命による時代のニーズに応える上で、安定性に優れたクリーンエネルギーは、高い価格競争力を持つ」のである。
第二の関門は、いかに安全性を確保するかである。
開発チームは既存の標準規範を積極的に参照し、検証を重ねた結果、国内の許可証と世界的な「通行証」を得た。2016年、玲龍一号は国際原子力機関(IAEA)の安全審査に合格した世界初の小型原子炉となった。このことは、将来的には海外への輸出が可能になり、世界のエネルギー供給に中国の能力で貢献できることを意味するものだ。
また、中国国内では、国家核安全局が国家核・放射能安全センター、蘇州核安全センターの専門家によって構成される安全審査合同チームを組織し、玲龍一号の安全性について検証を行った。2020年6月に国家原子力安全専門家委員会は同合同チームが玲龍一号に行った安全評価レポートを採択し、2021年7月に国家核安全局は玲龍一号モデルプロジェクトの建造許可証を交付し、玲龍一号が正式に着工する運びとなった。
このほかに、設備製造のための資材供給という難題があった。不確実な工期に対応するために、玲龍一号の開発チームは十分な「模型シミュレーション」を行った。つまり、プロジェクト建設の組み立てプロセスのシミュレーションを行って工事進度のリスクを認識し、対応措置を提示することによって、玲龍一号の工期の決定を支援し、建設の先導役を果たしたのである。
「双炭」目標と独自ブランドの「走出去」を支援
原子力発電は低排出で効率の高い新型エネルギーであり、安全かつ人類に優しく、低炭素で環境にも優しく、経済効率が高い等の多重の強みがある。原子炉を安全に、かつ、積極的に秩序をもって量産できれば、「双炭」(炭素排出ピークアウトとカーボンニュートラル)目標を継続的かつ安定的に達成することができ、中国のエネルギー転換の推進とエネルギー構造の最適化を高度に支援できる。
中核集団によれば、玲龍一号は、竣工の暁には年間発電量が10億キロワットアワーに達し、一般家庭52万6千世帯の年間電力消費量をまかなう見込みだ。玲龍一号の各ユニットの年間発電量によって、二酸化炭素の排出が88万トン削減され、樹木750万本分が植林されるのに相当する。その実用化と普及によって中国における化石燃料の消費は大幅に減り、省エネ・排出削減が促されることから、原子力発電の安全な発展と独自イノベーションに重要な意味を持つようになる。
玲龍一号は、「双炭」目標の実現のための強力な助っ人であるだけでなく、「走出去」(対外輸出)という広大な市場がある。玲龍一号は中国核電が全株式を保有しており、その建造によって小型原子炉技術がオールグランドに実現かつ検証され、小型モジュール炉領域における中国の独自イノベーション能力の向上が加速され、同分野における中国の先発的優位性が固められ、独自の原子炉ブランドが形成されるだろう。
国際原子力機関が発表した「2050年に向けた原子力技術のロードマップ」によれば、小型原子炉マーケットを確立するための第一の条件は、サプライヤーがまずは自国で一基目の小型原子炉の建造に成功することであり、それがない限り、他国での普及は検討してもらえない。したがって、玲龍一号の建設は、独自ブランドの「走出去」という重要な模範的価値も持つのである。
「小型原子炉は国際競争における関心事のひとつである。小型原子炉はその柔軟性と多目的性のおかげで、他に代えられない強みがある」と、海南核電有限公司の董事長であり共産党委員会書記も務める魏国良氏は語る。例えば、中小規模の送電網や地区送電網での利用においては、大型よりも小型原子炉のほうが経済的である。
宋氏も先の取材で、「この種の応用は、中国国内での需要は少ないだろうが、英米諸国や中東諸国、アフリカ諸国、ならびに領土面積が小さく、人口の少ない中小の国々では高い市場競争力を持つだろう」と語っていた。
「住民がわずか数万人の小さな島にとっては、大型原子炉では発電効率が高すぎ、小型原子炉がちょうど良い。その上、海水の淡水化もできるため水の供給も可能だ」と中国核電の共産党委員会書記の盧鉄忠氏は分析する。「南シナ海方面を見れば、フィリピンやインドネシア、マレーシア等の『一帯一路』沿線国の一部には小さな島々が多い。また、サウジアラビア等の国の辺境地区においても、同様のニーズはあるだろう」。
※本稿は、科技日報「小身躯、大用途 玲竜一号不隻是核能"充電宝"」(2021年9月14日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。