放射線治療は「ピンポイント」照射の時代に
2021年12月21日 代小佩(科技日報記者)
独自の知的財産権を持つピンポイントの放射線治療ができる「麒麟刀」(画像提供:視覚中国)
新しい放射線療法には重要な臨床的意義がある。まず、腫瘍に照射する放射線量が増え、腫瘍の局所制御率と患者の生存率を向上させることができる。また、正常な組織に照射される放射線が減るため、正常な組織への副作用も減り、放射線療法の応用範囲が拡大する―李曄雄(中国医学科学院腫瘤病院放射線治療科科長)
最近、とある特殊な手術が放射線療法がメディアの間で注目を集めている。中国工程院の院士である北京清華長庚病院の董家鴻院長が率いるチームが専門家と共同で、海南博鰲(ボアオ)超級(スーパー)病院で、末期の肝臓がん患者に実施したイットリウム[90Y]樹脂マイクロスフェア治療がきっかけで最近、放射線療法がメディアの間で注目を集めている。これは中国初のイットリウム[90Y]放射性マイクロスフェア治療で、中国初の放射性マイクロスフェアと医療機器を組み合わせた治療法が資格審査をクリアし、特許を取得したことを意味する。
10月23日、第4回華夏腫瘍サミットフォーラムで、中国医学科学院腫瘤病院の放射線治療科の科長・李曄雄氏は、中国の放射線治療の発展と現状について説明した際、「ここ30年、中国の放射線治療は急速に発展しているが、地域によって発展のレベルが異なるほか、放射線治療用の加速器の不足が深刻だ。世界保健機関(WHO)が推奨する放射線治療用の加速器の配置は人口100万人当たり2~4台。一方、中国の現状は2019年の時点で100万人当たり1.5台にとどまっていた」と指摘した。
放射線療法の「外部照射」と「内部照射」の違いとは?
知っている人はそれほど多くないかもしれないが、放射線治療はすでに120年以上の歴史がある。しかし、李氏によると、「本当の意味での近代化放射線治療はここ20~30年の産物だ」という。
北京清華長庚病院肝胆膵外科の副科長である馮暁彬氏によると、臨床で応用されている放射線療法は、「遠距離照射と近距離照射」と、「外部照射と内部照射」の2つのタイプに分けることができる。
現段階で、外部照射療法には、陽子線治療、中性子治療、光子線治療などがある。医療技術が発展するにつれて、臨床においては、強度変調放射線療法や断層治療、TOMO、弓形照射、定位放射線治療、ガンマナイフ、ジャイロスコープナイフ、サイバーナイフなども登場している。内部照射療法には腔内照射や術中照射、小線源療法、マーカー埋め込み療法、血管内放射線治療、放射性同位元素内用療法などがある。
内部照射療法と外部照射療法の違いについて、馮氏は、「外部照射よりも内部照射のほうが、放射線量が多く放射線線源と標的の距離も近いため、その精度が高くなる。その他、内部照射は、腫瘍組織に集中的に放射線を照射することができると同時に、周囲の組織や臓器への影響を最大限減らすことができる。内部照射の場合、放射線線源から放出される放射線のほとんどは標的の組織が吸収するのに対して、外部照射の場合は、そのほとんどがコリメータと電子線アプリケーターによって吸収される。内部照射を行っている時、放射線線源は物理的手段、または生物的方法を通じて標的を識別し、従来の外部照射のように体の表面の正常な組織を通過させる必要はないため、正常な組織に対するダメージを減らすことができる」と説明する。
上記のイットリウム[90Y]樹脂マイクロスフェア治療は、内部照射療法に属する。中国国家がんセンターの副センター長を務める、中国医学科学院腫瘤病院の蔡建強副院長は取材に対して、「イットリウム[90Y]は、特殊な放射線線源で、放射されるエネルギー量が多く、最高で2.27兆電子ボルトに達する。しかし、照射距離が近く、平均わずか約2.5ミリ。がん細胞を死滅させることができるだけでなく、周囲の正常な細胞や組織に与えるダメージも極めて小さい。イットリウム[90Y]樹脂マイクロスフェア療法はよりピンポイントな治療で、ハイレベルな放射線療法に属する。末期の肝臓がん治療においては重要な手段となる」と説明する。
新たな放射線療法が持つ重要な臨床的意義
馮氏は、「内部照射と外部照射の臨床における応用の前途は非常に明るい。病気の治療においてどちらを選ぶかは、患者の病状や腫瘍の大きさ、範囲といった要素次第だ」と説明する。
外部照射は現在、子宮頸癌や肺がん、乳がんといったがんの治療に活用されている。
また内部照射は臨床においても幅広く応用されている。馮氏によると、例えば、177LuをメインとするRDC類の標的放射性医薬品は、神経内分泌腫瘍、前立腺がん、腎臓がんなどの治療に、166Hoや90Yといった放射線塞栓療法は、原発性、または転移性肝臓がんの治療に、131Iは、甲状腺がんや甲状腺機能亢進症といった、甲状腺疾患の治療に、223Raは前立腺がんの骨への転移や腫瘍の再発抑制に、125I線源埋め込み療法は、肺がんや前立腺がん、肝臓がんといったがんの治療にそれぞれ活用することができる。
ただ、馮氏は、「従来の体外照射療法は、照射野の形状と腫瘍の3次元形状が全く一致するわけではないため、腫瘍の周りの正常な組織も照射してしまうことになり、正常な組織がダメージを受ける」と強調する。
周囲の正常な組織が受けるダメージを減らすために、定位放射線療法、3次元原体照射、画像誘導放射線治療といった新しい外部照射療法が次々と登場している。
李氏も、「新しい放射線療法には重要な臨床的意義がある。まず、腫瘍に照射する放射線量が増え、腫瘍の局所制御率と患者の生存率を向上させることができる。また、正常な組織に照射される放射線が減るため、正常な組織に対する副作用も減り、放射線療法の応用範囲を拡大させている」と説明する。
そして、「例えば、強度変調放射線治療は、頭頸部がんの患者の生存率を上げ、正常な組織の変形や長期にわたる副作用を減らし、患者の生存の質を改善し、患者の長期生存率も向上させることができる。位置照合用CTとヘリカル回転式の放射線治療装置を一体化させたトモセラピーを応用すると、心血管疾患リスクを明確に下げることができる。陽子線治療は、二次原発がんのリスクを顕著に下げることができる。そして前立腺がんの治療において、重粒子線治療は、二次原発がんのリスクを明らかに下げることができる」と強調する。
新技術の普及には課題が山積み
ここ30年、中国の放射線治療は急速に発展している。李氏によると、中国放射線治療センターは1986年の364カ所から、2019年には1,463カ所にまで増え、放射線療法関連に従事する医療従事者の数も急増している。その他、コンピューター技術や映像技術の発展が追い風となり、中国の放射線療法が急速に発展し、重粒子線治療、MRIシミュレータ、MRI加速器などが少しずつ応用されるようになっている。
馮氏は、「全体的に見れば、中国の放射線療法は設備や技術の面で世界レベルに肩を並べている」との見方を示す。
専門家によると、放射線治療の設備の面を見ると、中国では設備が急速に普及しており、多くの県級病院にも、比較的最先端の放射線治療設備が設置されるようになっている。「北京や上海、広州といった、発展した都市の一部の病院の放射線治療科にある関連の設備は、米国などの西洋諸国の設備の先を進んでいる」と馮氏。
技術の面を見ると、中国の多くの大型病院の放射線治療レベルは国際レベルに肩を並べ、なかにはトップレベルにある病院もある。例えば、中国の鼻咽頭がんの放射線療法は、世界のトップを走っている。
また理念の面を見ると、中国の放射線治療の分野では、ピンポイント放射線治療の方針が形成されている。
しかし、中国の放射線治療のレベルは、地域や病院によって不均衡であるという点を見過ごすことができない。
さらに、中国の放射線治療用の加速器の不足も深刻だ。特に、独自開発した加速器が不足している。蔡副院長は、「中国の放射線治療のレベルは、全体的に見れば、世界とほとんど差はない。しかし、中国の80~90%の放射線治療用加速器は海外製で、中国が最先端の放射線療法を活用する上で足かせとなっている。中国が独自開発した加速器も少しずつ応用されるようになっているものの、市場で広くPRする程度にまでは至っていない。そのため、医療用加速器の独自開発を強化しなければならない」と指摘する。
李氏は、「放射線治療の新技術の応用にもたくさんの課題がある。例えば、新しい放射線療法を使うためには、標的の境界や放射線量を正確に把握できる能力を備えた医師が必要だ。また、治療計画を制定し、放射線治療をスムーズに行って、その質を高めることができる能力を備えた医学物理士も必要だ。しかし、病院の放射線治療科の人材は不足している」と指摘する。
馮氏は、「中国には放射線治療について誤解しているがん患者が多いことは注目に値する。こうした口コミを通じて、多くの人が放射線治療に悪いイメージを抱いている」と指摘する。
そして、「中国の放射線療法の発展を促進するためには、基礎人材の育成と病院の診療科別のスタイルの改革を同時進行させなければならない。人材チームの構築には、学校教育から始め、画像下治療学科を増設し、医学物理・腫瘍学を専攻する学生を増やし、さらに、学生に海外で最先端設備の使い方などを学ぶよう奨励することが必要だ」との見方を示した。
※本稿は、科技日報「新技術譲放療告別"模糊掃射"時代」(2021年10月27日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。