第185号
トップ  > 科学技術トピック>  第185号 >  山東省、実験室体系を再構築 国家戦略的力の「予備隊」を育成

山東省、実験室体系を再構築 国家戦略的力の「予備隊」を育成

2022年02月15日 王延斌(科技日報記者)郭一澎、馬文哲(科技日報通信員)

image

煙台先端材料・グリーン製造省実験室全体計画図 画像提供:山東省科技庁

 山東省科技庁は、このほど北京で、化学イメージング材料・技術国家重点実験室の省・部共同建設と、鉱山岩層スマートコントロール・グリーン採掘国家重点実験室省・部共同建設の申請報告論証会を開催した。これは、山東省がこの2つの実験室を「国家重点」実験室としての建設を申請し、「加速期」に入ったことを意味する。

 中国国内で注目される「基礎研究--応用開発--産業化モデル」という融通イノベーションの新たなモデルが構築されて以降、山東省は、引き続き基礎研究の力を強化し、実験室の体系を再構築し、国家実験室、国家重点実験室、山東省実験室、山東省重点実験室という、4ランクからなるピラミッド型の「1313」基礎研究プラットホームの態勢を整え、根本的なイノベーションの主要プラットホーム、重要な実行主体として、同省の戦略的テクノロジーの力を持続的に強化する。

 4ランクからなるピラミッド型構造とはどんな構造なのだろうか?また、どうすれば、省級実験室のコア競争力を向上させ、それを国家戦略的テクノロジーの力の「予備隊」へと成長させられるのだろうか?

一流のイノベーションプラットホームを参考に、成熟した所から始動

 山東省政府は7月5日、新たに6ヶ所の省実験室建設案を承認し、「済南粒子科学・応用技術省実験室」(以下「粒子実験室」)リストに組み込んだ。

 これは山東高等技術研究院をベースに立ち上げられたものだ。同院の名誉院長は、ノーベル物理学賞受賞者のサミュエル・ティン(中国名:丁肇中)氏で、院長は山東省政治協商会議の副主席・程林氏が務め、基礎的、先端的科学研究と応用基礎研究を主な方向性としている。

「高い出発点」、「高規格」、「高基準」という言葉で「粒子実験室」の設立を形容することができる。昨年12月12日、山東省科技庁は「粒子実験室」設立案の専門家論証会を開催し、中国科学院の院士4人を含む専門家グループによる会議を経て、同実験室が国家重要科学戦略の実施を任務とすることで意見が一致した。「粒子実験室」は、「0から1」というオリジナリティを方向性とすることを際立たせ、暗黒物質、反物質、宇宙線の起源といった基礎先端学際的科学の分野の研究、応用の基礎研究を展開する計画だ。研究分野、方向性は国家戦略のニーズともマッチしており、真空サブゼロなどのビッグサイエンス装置の中国の空白を埋めることになり、中国のテクノロジーの進歩、人類文明の促進などにおいて、重要な意義がある。

 これで、山東省は済南市、青島市、煙台市、濰坊市の4市で、粒子科学、サイバースペースセキュリティー、微小生態生物医学、新エネルギー、先端材料・グリーン製造といった分野をめぐる省実験室6ヶ所を建設し、専門家の論証を経て、建設が実施されている。

 第14次五カ年計画(2021‐25年)期間中に目を向けると、山東省は、省実験室約10ヶ所を建設し、市をメインとする原則に沿って省・市共同建設を実施し、特色、優位性を際立たせ、質の高い発展実現を目指す。

 科学研究には特有の法則があり、特に基礎科学研究には長期にわたる蓄積、根気強い努力が必要で、重要テクノロジー成果の誕生は、一夜にして実現できるようなものでは決してない。

 山東省のテクノロジー主管当局の関係責任者は、「省実験室は、世界と中国の一流のイノベーションプラットホームを目指して、中国内外の戦略テクノロジー資源の集積を推進し、成熟したところから、始動させていく。国家実験室の『予備隊』や国家実験室ネットワークメンバーを育てることを目標とし、国家重要戦略、全省の経済・社会の質の高い発展のためのニーズに寄与し、4つの向け(世界のテクノロジー先端向け、経済主戦場向け、国の重要ニーズ向け、人民の命・健康向け)を堅持し、一流の科学者やイノベーションチームを集め、育成し、重要テクノロジー任務の実施を計画し、将来を見据えた基礎研究、応用基礎研究を展開し、重要オリジナル科学研究成果を生み出し、山東省の特色を備え、中国内外に重要な影響力を持つ一流のテクノロジーイノベーションの先端分野、科学の中心地を構築する」と説明する。

籍は大学で、科学研究は実験室で

 取材では、雨後の筍のごとく誕生したこうした重点実験室には、「柔軟性」という共通の特徴があることが分かった。

 昨年11月初め、煙台先端材料・グリーン製造省実験室が山東省で率先して発足した。「率先」するという姿勢は、理念や制度のイノベーションといった面にも表れている。

 山東省実験室は、管理運営の十分な自主権を有しており、理事会、学術委員会、主任委員会からなる「三会」ガバナンス構造を構築し、新型研究開発機関の運営メカニズムに基づいて管理を行い、実験室のイノベーションの活力を最大限活性化させ、イノベーションの足かせとなる思想的障害や制度的障壁を打破し、プラットホーム機関を柔軟に設置できるようにしている。今年8月27日、煙台先端材料・グリーン製造省実験室は率先して、第1回理事会を開催した。現時点で、実験室主任、常務副主任の任命が完了しており、審議により実験室の規定、「三会」の規定、報酬体系といった制度の文書も可決された。

 煙台先端材料・グリーン製造省実験室は煙台大学や浜州医学院と、人材共同招聘合意書に調印し、「大学に在籍し、実験室で科学研究を行う」というアプローチに基づいて、柔軟に人材を誘致し、活用している。

 柔軟性は、人事管理制度の設計にとどまらない。

 省実験室の建設計画の過程で、山東省の省外のハイレベル優良資源が牽引し、省内の優位性を誇る資源で補完するという連携の構造を通して、戦略的科学技術力に力強い下支えを提供している。

 例えば、泉城の省実験室は、清華大学ネットワーク・サイエンス・サイバースペース研究院が建設に参加し、呉建平院士が実験室の室長を担当している。済南微小生態生物医学省実験室は、浙江大学との連携を強化し、感染症診断・治療国家重点実験室が科学研究チームを派遣して建設に参加し、李蘭娟院士が実験室の室長を担当している。青島新エネルギー省実験室は山東エネルギー研究院の人材チームと一体化建設を検討し、劉中民院士が実験室の室長を担当している。煙台先端材料・グリーン製造省実験室は、中国科学院蘭州化学物理研究所と共同建設され、劉維民院士が省実験室室長を担当している。

産業化に向けて基礎研究成果を深く消化

 院士を招聘した後は、国際的な視野やオリジナル能力、発展のポテンシャルを有する科学研究チームを招聘する必要がある。それは、プラットホーム、プロジェクト、人材の一体化発展において最も重要だからだ。

「粒子実験室」は既に主に中国内外の有名学術機関から来た科学研究者71人を招聘している。うち、50人以上は35歳前後の若手専門家、学者、技術者で、粒子物理・熱科学を研究するチームがほぼ出来上がっている。煙台先端材料・グリーン製造省実験室は一期に25億元(1元は約18.0円)を投じ、中国科学院蘭州化学物理研究所は、科学研究の中核を担う人材30人以上が同実験室で科学研究を展開するよう配置し、今年も世界からハイレベルのリーダー的存在の人材や科学研究チームを慎重に選抜した。また、濰坊現代農業省実験室は16の課題グループを立ち上げ、科学研究者130人を招聘している......。

 基礎研究成果を深く消化し、産業化に通じる効果的なチャンネルを模索するというのが、山東省の基礎研究の特徴であり、多くの経験を積み重ねている。

 取材では、こうした実験室は、それぞれ異なる方式で建設され、計画しながら、建設、科学研究、産出も進めるという作業コンセプトで、統一して同時に推進されていることが分かった。

「粒子実験室」は、粒子物理研究センター、熱科学研究センターを設置し、AMSデータセンターが既に完成・稼働しており、小型マイクロスケール表面放熱実験プラットホームといった科学研究プラットホームの建設も計画されている。煙台先端材料・グリーン製造省実験室は、世界レベルの近代的なテクノロジーの新しいランドマークの建設に力を入れており、先端材料や大型成形・製造といった5つの研究の方向性が確定しているほか、国、省の重要テクノロジー戦略、煙台市の重点産業チェーンの足かせとなっている難問の解決に取り組み、関係する研究内容が省自然基金重要基礎研究プロジェクト1件、煙台市リスト公開制プロジェクト2件の承認を受けた。

 イノベーション駆動の発展戦略を実施し、従来のエネルギーから新しいエネルギーへとシフトする重要プロジェクトを一歩踏み込んで推進し、ハイレベルな総合実験室を建設することは、強力なブースターのような存在で、こうした実験室の未来に期待は高まるばかりだ。


※本稿は、科技日報「山東重塑実験室体系 打造国家戦略力量"予備隊"」(2021年11月12日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。