深い知識と高い技術が必要な高レベル放射性廃棄物の深部地下埋設
2022年03月18日 孫瑜(科技日報実習記者)
画像提供:視覚中国
高レベル放射性廃棄物とは、環境汚染の潜在リスクが高い放射性廃棄物のことだ。「高レベル」とは「中レベル」、「低レベル」の廃棄物と比較するものだ。原子力工業から発生する放射性廃棄物のうち99%はある程度の時間が経つと、放射能は無害なレベルにまで減衰する中・低レベルの廃棄物で、残りの1%は高レベル放射性廃棄物となる。
中国国家原子力機関の張克儉主任は、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長と共にビデオ会議に出席し、IAEAと中核集団原子力工業北京地質研究院(以下「核地研院」)が核地研院に「IAEA高レベル放射性廃棄物地層処分協力センター」を設置することで合意する文書に署名するのを見守った。
このIAEAが設置した初の高レベル放射性廃棄物地層処分協力センターが正式に発足すれば、双方は中国北山高レベル放射性廃棄物地層処分地下実験室(以下「北山地下実験室」)を重要プラットフォームとし、共同で高レベル放射性廃棄物地層処分関連の技術研究を展開する計画だ。
高レベル放射性廃棄物の過去と現在
これほど処理に手間がかかる高レベル放射性廃棄物とは一体何なのだろう?
核地研院の副院長を務める北山地下実験室のチーフエンジニア・王駒氏によると、高レベル放射性廃棄物は、環境汚染の潜在リスクが高い放射性廃棄物のことだ。「高レベル」とは「中レベル」、「低レベル」の廃棄物と比較するもので、原子力工業から発生する放射性廃棄物のうち99%は中レベル、低レベルの廃棄物で、ある程度の時間が経つと、放射性物質が無害なレベルにまで減衰するのに対して、残りの1%が高レベル放射性廃棄物で、それを合理的かつ安全な方法で処理しなければ、人類の生存環境に大きな影響を与えることになる。
高レベル放射性廃棄物の大部分は、原子力発電所の使用済み核燃料から発生する。設計の燃焼度に達した使用済みの核燃料の後処理、または直接処理及びその他の国防軍事施設から発生し、放射性核種の含有量または濃度が高く、毒性が強く、発熱し、半減期が長い長寿命の核種を含んでいるというのがその特徴だ。「半減期が長い」ということは、高レベル放射性廃棄物からは、かなり長い期間にわたり強い放射能を発するということを意味する。
王氏は「高レベル放射性廃棄物の地層処分は、原子力工業産業チェーンの最終段階で、国際社会が注目している重要な段階でもある」と強調する。
高レベル放射性廃棄物の安全な処理という世界的難題をめぐり、科学者らは宇宙にロケットなどで打ち上げる宇宙処分、岩石溶融処分、海の底に廃棄する海洋投棄などを検討してきた。しかし、安全や環境保護、実行可能性、コストなどを考慮した結果、それらの処分方法は、研究段階に留まったり、暗礁に乗り上げたり、さらには禁止されたりしてきた。例えば、海洋投棄は、高レベル放射性廃棄物を決まった海域に投棄し、海洋の希釈、自己修復、調整能力を利用して、放射性廃棄物を地上などの環境から隔離しようというものだが、海洋の環境への影響を網羅的に評価することはできないため、国際社会では大きな議論が存在しており、「ロンドン条約」や「バーゼル条約」といった国際条約に基づいて、1993年以降は世界各国で全面的に禁止されている。
核地研院の劉旭東博士は取材に対して、「世界の科学者の数十年に及ぶ研究や模索を経て、現時点で世界公認の高レベル放射性廃棄物の処分方法は、地下数百メートルの安定した地層に埋設する方法だ」と説明する。
劉氏は、「現在、高レベル放射性廃棄物の処分について語る場合、地層処分について語るのが大部分だ。地層処分とは、高レベル放射性廃棄物をオーバーパックと呼ばれる金属などの容器に封入して、多重防御(バリア)システムによって、有害な核種の生物圏に対する悪影響を遮断し、地表から約500~1000メートルの深さの深部地下に埋設することだ。オーバーパックは、時間が経つと起きる各種変化や不確定要素の影響の下でも、有害な核種を1万年以上封じ込めて隔離でき、長期にわたる安全を確保し、監督・管理の要求を満たすことができるようにしなければならない」と説明する。
数十年の発展と整備を経て、世界各国は、高レベル放射性廃棄物の地層処分の面で豊富な経験を積んできた。そして、適切な場所選びをベースに、地下実験室の一歩踏み込んだ研究を展開するほか、多重バリアシステムを整備し、オーバーパックを通して放射性核種を封じ込めて隔離して、人と環境の長期にわたる安全を確保できるようになっている。
高レベル放射性廃棄物の安全な処分場の選定
分かりやすく言うと、地層処分とは、深い穴を掘り、高レベル放射性廃棄物を埋めてしまうことだ。しかし、穴を掘る場所や穴の掘り方、埋め方、埋めた後の長期的な安全性の確保の仕方など、どの段階にも非常に深い知識と高い技術が求められる。
甘粛省の北山という理想の場所を選定するために、核地研院の高レベル放射性廃棄物地層処分研究チームは35年もの時間を費やした。
中国では1985年から高レベル放射性廃棄物の地層処分の研究開発が始まり、2011年に、国家国防科技工業局と国家環境保護部(省)が共同で専門家評価・審査会を開催し、甘粛省の北山を高レベル放射性廃棄物の地層処場の候補地に決定した。
では、なぜ甘粛省の北山が候補地になったのだろう?
王氏は取材に対して、「適切な『穴』になるためには、いろんな要素を考慮しなければならない。地質という観点だけを見ても、地域の地形が平坦で、地殻が安定しているほか、地表の水系が発達しておらず、地下水が乏しく、岩盤が整っており、岩盤の質や地質条件が作業を実施するのに適しているなどの条件を満たしていなければならない。それら全ては、高レベル放射性廃棄物を確実に遮断するためだ。例えば、地殻が安定しておらず、大きな動きがあると、地下の貯蔵庫が破損してしまう。また、地表水と地下水があるとそれが浸透して地下の貯蔵庫が腐食してしまうため、乾燥していて水が不足しているという自然環境は非常に重要だ」と説明する。
また、高レベル放射性廃棄物の安全な処分場を選定するためには、経済的条件や社会的効果なども総合的に検討しなければならない。地域の人口はできるだけ少なく、アクセスが便利で、土地は耕作の価値がなく、動植物資源、鉱産物資源が乏しい場所でなければ、将来の地域経済や社会発展に対する影響を避けることができない。
甘粛省の北山はこうした条件を満たした"理想"の地域なのだ。研究チームは北山において、掘削を行い、大量の極めて整った岩盤を大量に取得した。中国内外の同業者も、北山の周辺岩体は現時点で、世界の高レベル放射性廃棄物処分場の中で最も整った花崗岩であるとの見方で一致している。
※本稿は、科技日報「把高放廃物深埋地下 科学"挖坑"有講究」(2021年12月9日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。