第187号
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マイクロ・ナノメートルのレベルで模様を刻むフェムト秒レーザー

2022年04月13日 洪恒飛 柯溢能 呉雅蘭 江 耘(科技日報記者)

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フェムト秒レーザーを使ってガラスに3D直接描画された灰チタン石ナノ結晶のカラー発光模様とホログラフィックディスプレイ 画像提供:取材先

 研究チームはフェムト秒レーザーが誘導する空間選択性マイクロ・ナノ相分離とイオン交換の法則を発見することで、フェムト秒レーザー3D極端製造新技術を開発し、初めて無色透明のガラス材料内部で、バンドギャップをコントロールできる3D半導体ナノ結晶構造を実現した。この成果は、次世代ディスプレイやストレージ技術に新たな方向性を提供することになると期待されている。

 近視矯正手術で使われる角膜弁の製作やステントといった医療器具の加工・成形を含めた医療のほか、情報や環境、エネルギーといった複数の分野で今、「フェムト秒レーザー」という"ナイフ"が活用されている。

 フェムト秒とは時間の長さを計測するための単位の一つで、1フェムト秒は1000兆分の1秒だ。フェムト秒レーザーとは、フェムト秒という極めて短いパルス幅をもつパルスレーザーのことで、1980年代に科学者によって発明された。フェムト秒レーザーと物質が互いに作用し合うメカニズムは非常に複雑で、多くの謎の解決が待たれる。

 1月21日、浙江大学、之江実験室、上海理工大学からなる研究チームの研究成果である「ガラスにおいて安定した灰チタン石ナノ結晶体の3D直接描画」が学術誌「サイエンス」に掲載された。研究チームは、フェムト秒レーザーが誘導する空間選択性マイクロ・ナノ相分離とイオン交換の法則を発見することで、フェムト秒レーザー3D極端製造新技術を開発し、初めて無色透明のガラス材料内部で、バンドギャップをコントロールできる3D半導体ナノ結晶構造を実現した。この成果は、次世代ディスプレイやストレージ技術に新たな方向性を提供することになると期待されている。

フェムト秒レーザーは光学部品の加工に応用

 フェムト秒レーザーにはどのような驚くべき特徴があるのだろう?第一に、パルス幅が極めて短い。光でさえ1フェムト秒の間に0.3マイクロメートルしか進むことができない。第二に、ピーク出力はペタワットに到達する。第三に、髪の直径より小さい空間内に集光することができ、その電磁場の強度は、原子核の周囲の電子に与える力よりも強い。

 同論文の連絡著者で、浙江大学光電科学・工程学院の邱建栄教授は、フェムト秒レーザーを手術に活用する理由について、「目には神経や血管がたくさん集まっており、手術を素早く、正確にコントロールして行う必要がある。この"メス"の特徴は、集光ポイントを決めて、そこにだけ作用させ、周囲の環境に影響を与えないからだ」と説明する。

 レーザーは、その特徴から、超微細加工の分野で、多くの従来型技術とは比べ物にならない素晴らしい特性を備えている。超高速パルスレーザーファミリーの重要な一員としてのフェムト秒レーザーは、マイクロ・ナノ製造、スペクトル解析といった分野で重要な役割を担うようになっている。

 フェムト秒レーザーは、パルス幅が極端に短く、瞬間的に極めて高いエネルギー密度を生み出し、材料が非線形吸収を起こすよう誘導することができるため、加工の空間分解能が大きく向上する。パルス幅が短いことにより、材料加工の過程で、余分なエネルギーが発生しないことを保証し、材料がひび割れたり、破損したり、溶けたりすることを避けることができる。

 また、エネルギー密度の高さをバックに、透明の材料や割れやすい材料、融点の高い材料、熱で分解、変形する材料といった、他のレーザーでは加工が難しい材料にも活用することができる。

 注目すべきは、科学研究者が、フェムト秒レーザーが起こす多光子吸収を利用して、透明の材料の内部で、良い空間選択性を活用し、複数の種類の微細構造変化を形成し、材料内部で3D加工、または改質という目的を達成できることだ。

 邱教授によると、フェムト秒レーザーを透明の材料内部に集光した際、複数の種類の高度な非線形効果に基づく、一連の物理・化学・動力学の反応速度論のプロセスが発生する。近年、フェムト秒レーザーが誘導する石英やガラス、晶体といった透明の材料の内部構造で発生する関連の変化を利用し、3D光学微細部品の製造、3D光ストレージといった工程革新を展開できるというのが、学界の研究において注目度の高い部分となっている。

ガラス溶解後に静かに起きる"変異"

 邱教授は、「チームの過去の関連成果に基づき、空間選択性イオン原子価状態コントロール、3D光導波路直接描画、機能ナノ結晶体の析出、イレーズといった新技術を開発し、一部の成果は関連分野で応用されている。それでも、現段階の研究では、フェムト秒レーザーのメカニズムについて分かっていることは依然として非常に少なく、その応用にはまだ大きな発展の余地がある」との見方を示す。

 灰チタン石成は近年、光学分野の「新星」となっており、このナノメートルレベルの半導体材料は、特殊な発光性能をバックに、ディスプレイや照明といった分野で巨大な応用のポテンシャルを秘めている。

 今回の研究において、研究チームは3D直接描画技術、特にフェムト秒レーザーパルスが生み出す局部的な溶解やその後できる結晶を利用して、金属酸化物が混ざるガラスにおいて、成分を調整できる、バンドギャップの灰チタン石ナノ結晶を作り出した。

 超高速のレーザーをガラス内部に集光すると、焦点付近で超高強度電場、超高温、超高圧といった現象が起きる。その原理に基づき、局部的に高温、高圧になっている状況で、超高速レーザーの焦点であるマイクロメートルレベルの範囲のガラスで、ナノメートル相分離が発生する。端的に言うと、ガラスが溶解した後、局部的にナノメートルレベルの新しい相が発生する。

 論文の共同連絡著者で、之江実験室光電スマートコンピューティング研究センターの専門家・譚徳志博士は、「レーザーパラメーターを調整して、焦点範囲の温度・圧力を調整することで、ナノメートル相の元素組成を調整することができる。また、レーザーの照射時間をコントロールすることで、ナノメートル相と周囲の溶解したガラス基質の間でイオン交換が起き、ナノメートル相の元素組成をさらにコントロールすることができる。レーザーをオフにした後、こうした分散したナノメートル相は結晶化し、ナノ結晶を形成する」と説明した。

 研究チームは実験を通して、フェムト秒レーザーは、無色透明のガラス内で、バンドギャップをコントロールでき、形状を思い通りに調整できる3D半導体ナノ結晶構造を実現できることを発見した。このほか、むらなく透明で、フェムト秒レーザー加工に適した前駆体ガラスの焼成でも、この理想的な3D彫刻技術の検証が行われた。

 邱教授は、「ガラスの中に少しでも気泡や異物ができたり、模様が入ったりすると、屈折率の分布に影響し、多光子効果に基づく光とガラスの相互作用効果による激しい変化が起きてしまう」と説明する。

新技術をストレージ・ディスプレイなどの機能の応用へ

 現代の人々は、普段の仕事や生活において、携帯電話やパソコン、テレビ、腕時計などさまざまなスクリーンに囲まれている。しかし、それらはどれも2Dスクリーンだ。材料のイノベーションを通して、スクリーン装置を改良し、本当の意味での3D立体ディスプレイを実現することは可能なのだろうか?

 譚博士は、「レーザーを使うと、ナノ結晶の発行色がダイレクトに変わり、青色光から赤色光への連続調整を実現することできる。これも今回の研究で遂げた進展の一つだ。これまで、材料内部で発光を連続でコントロールできるマイクロ・ナノ構造をライティングするというのは、ほとんど想像できなかった」との見方を示す。

 そして、「灰チタン石には、不安定というデメリットが存在し、光の照射や熱処理、酸素、水蒸気などが、その光電気性能が良好な灰チタン石の構造を、非灰チタン石の構造に変えてしまう。そのため、完全な密封処理を施さなければならない。一方、研究チームは今回、ガラス内でレーザーによる直接描画を実現したため、密封は必要ない」と付け加える。

 研究チームが今回形成したナノ結晶は、紫外線を照射したり、有機溶剤に浸したり、250℃という高温の環境に置いたりしても、安定性が際立っており、この3D構造ナノメートル材料を光ストレージやMicro-LED、ホログラフィックディスプレイなどに応用することができることが示された。

 今回の研究において、研究チームは、ホログラフィックディスプレイを、フェムト秒レーザーが誘導した灰チタン石ナノ結晶3次元制御可能分布の無色透明の複合材料にも応用し、3次元分布の量子ドットに光を当て、アクティブ立体カラーホログラフィックディスプレイを初めて実現した。

 同技術の特徴をさらに際立たせるために、研究チームは、マイクロメートル級の精度で、多次元情報コーディングや偽造防止の灰チタン石ナノ結晶カラーパタニング、Cl--Br--I共添加ガラス内部のオールカラー発光模様、3Dマイクロスパイラル直接描画、3Dホログラフィックディスプレイへの応用も実現した。

 超高速レーザーが誘導する液相ナノメートル分離は、ガラス内部で局部的にしか発生しないため、3Dレーザー直接描画技術により、材料合成や部品加工の過程における有機成分(試薬と溶媒)の汚染が排除された。このほか、安定性の実験で、同類の部品は、各種環境において長期間使用できることが分かった。

 譚博士は、「この技術成果では、ナノ結晶及びその光電気部品の調合工程を減らすことができるほか、全ての過程で有機物が関わることが全くないため、コストを大幅に削減することができる上、材料と部品の安定性も向上した。研究で、ナノ結晶ガラスは、高密度データストレージやMicro-LED、3Dディスプレイ、ホログラフィックディスプレイといった複数の分野で応用できる大きな可能性を秘めている」と説明する。


※本稿は、科技日報「飛秒激光"刀"微納米尺度展現"雕花"功夫」(2022年1月26日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。