8.宇宙開発分野
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8.1 宇宙開発分野の概要

(1) 関連施策

1) 各政策の分野別取り組みについて

 中国政府は2000年11月、「中国宇宙白書」を公表し、国内外に向けて初めて中国の宇宙開発の現状と長期目標を明らかにした。また2006年10月に公表した「2006年中国宇宙白書」では、2010年までの開発目標と主要任務を明確に示した。

 中国政府は、2006年2月に「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006-2020年)」、また同3月には「国民経済・社会発展『第11次5ヵ年』規画綱要」を相次いで公表し、このなかで航空宇宙事業の発展を重要な施策の1つとして位置付けた。

 このうち「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006-2020年)」には、高度地球観測システムに加えて、有人宇宙飛行と月面探査計画の実施が重大特定プロジェクトとして盛り込まれた。

 一方、「国民経済・社会発展『第11次5ヵ年』規画綱要」では,ハイテク産業の発展を加速する一環として、宇宙産業については試験・応用型から業務サービス型への転換を促進し、通信・GPS等の衛星および応用面での発展をはかり関連製品の製造、運用サービスに関する産業チェーンを構築するという方針が明らかにされた。

 国防科学技術工業委員会(当時)は2007年1月、2つの規画綱要に基づき、「『第11次5ヵ年』宇宙空間科学発展規画」を策定し、宇宙事業の一層の発展を目指す意向を示した。具体的には、有人宇宙飛行、月探査プロジェクト、ブラックホールの物理研究、微重力科学・宇宙空間生命科学の実験・研究、中露火星宇宙空間環境探査計画等の国際協力プロジェクトへの参加、太陽探査プロジェクトの先行研究など、6つの目標を掲げた。

 国家発展改革委員会が2007年7月に公表した「ハイテク産業発展『第11次5ヵ年』規画」(「高技術産業発展"十一五"規劃」)では、重点的に発展させる8分野の1つとして航空宇宙産業が指定され、衛星の研究開発・製造水準の向上、衛星応用産業の発展に向けて努力を払う方針が打ち出された。また、新材料産業分野では、航空宇宙材料の研究を加速することが明記された。

 同規画では、重点的に実施する9の特定プロジェクトの1つとして衛星産業が指定され、衛星地上システムを集中的に建設するとともに、全国をカバーした衛星データ受信ネットワークと宇宙データの総合処理・サービス能力を構築し、衛星データ資源の共有を推進する考えを明らかにした。

 さらに、遠隔探査(リモートセンシング)応用システムを構築し、資源調査や土地利用、農作物、森林、湿地帯、海洋、災害モニタリング、環境モニタリングにおいて遠隔探査衛星を広範に利用するとしたうえで、端末製品の製造や運営サービスも含めた衛星産業チェーンを形成するとの方向性を示した。

 国防科学技術工業委員会(当時)は2007年10月、「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006-2020年)」と「国民経済・社会発展『第11次5ヵ年』規画綱要」等に基づいてまとめた「宇宙発展『第11次5ヵ年』規画」を公表した。

 同規画は、「第11次5ヵ年」期(2006~2010年)が中国の宇宙事業が飛躍的な発展を遂げるうえで重要な時期になると位置付け、宇宙技術と宇宙応用、宇宙科学を統一的に計画し歩調を合わせながら発展させるという基本的方針を再確認した。また、製品の供給やイノベーション、サービス提供、産業発展等の能力を飛躍的に高めるという全体的な方針を示した。

2) 重点分野推進政策

 中国政府は、「第10次5ヵ年」期(2001~2005年)において航空宇宙事業で大きな成果が得られたとの認識を示している。そのうえで、一連の発展規画に基づき、有人宇宙飛行や月面探査、高解像度の地球観測システム、新しい運搬ロケットなど、重要なプロジェクトおよび重点分野の優先プロジェクトを実施するとともに、基礎研究を強化し、航空宇宙科学技術の進歩とイノベーションを進める意向を明らかにしている。

 2008年12月15日の遠隔探査衛星「遥感衛星5号」の打ち上げによって、これまでの打ち上げ実績が114回に達した中国の運搬ロケット「長征」シリーズについては、低公害で高性能・低コスト・大推力のロケットを開発する計画になっている。「宇宙発展『第11次5ヵ年』規画」によると、地球低軌道の運搬能力については10~25トン、地球同期移動軌道の運搬能力については6~14トンを目指すとしている。

 また、推力が120トン級の液体酸素・ケロシン燃料を用いたロケットエンジンと推力50トン級の液体水素・液体燃料を用いたロケットエンジンの開発を「第11次5ヵ年」期間内に完成させ、「長征」シリーズの信頼性と打ち上げの適応性を高めるという目標が掲げられている。

 高解像度の地球観測システムプロジェクトの一環として、極軌道と静止軌道の気象衛星、海洋衛星、地球資源衛星、環境・災害モニタリング・予報用小型衛星の開発・打ち上げに加えて、立体測量・製図衛星など新型遠隔探査衛星の鍵を握る技術の研究も推進することになっている。

 有人宇宙飛行については、2008年9月25日の有人宇宙船「神舟7号」の打ち上げ成功によって着実に成果があがってきているが、中国としては今後、宇宙飛行士の船外活動を実現させ宇宙船のランデブー・ドッキング実験を行うことを当面の目標として掲げている。

 このほか、2010年までの重点推進策として、以下のようなものが含まれている。

  • 現有の遠隔探査衛星の地上システムを整理・統合し、国レベルの遠隔探査衛星データセンターを設立する。遠隔探査衛星の輻射校正場(radiation correction field)など、定量化の応用をサポートする施設を建設、整備し、遠隔探査データの共有を実現する。「衛星環境応用機構」と「衛星防災応用機構」を設立し、業務応用体系を構築する。
  • 長寿命で信頼性が高い大容量の地球静止軌道衛星とテレビ生中継衛星を開発し、打ち上げる。衛星実況放送、ブロードバンド・マルチメディア、衛星緊急通信、公益性を持った通信・放送などの技術を発展させる。衛星による通信・放送の一般的なサービスを強化し衛星通信分野の付加価値サービス業務を拡大する。衛星による通信・放送の商業化を積極的に推進し、通信・放送衛星ならびに応用の産業規模を拡大する。
  • 航行測位試験衛星システム「北斗」を完全なものに仕上げ、「北斗」衛星による航行測位システム計画を実施する。衛星による航行測位、時間告知の自主的応用技術・製品を開発し、衛星による航行測位と関係を持った基準となるシステムならびに普及シリーズ端末を確立し、応用分野と産業規模を拡大する。
  • 新しい技術を実験する衛星の開発・打ち上げを行い、新技術や新素材、新部品、新設備の宇宙飛行の検証を強化し、自主開発の水準ならびに製品の品質と信頼性を向上する。
  • 「育種」衛星の開発、打ち上げを行い、宇宙技術と農業育種技術の結合を推進し、農業科学技術研究分野での宇宙技術の応用を拡大する。
  • 宇宙望遠鏡、新型回収式科学衛星等を開発する。また、宇宙天文、宇宙物理、微小重力科学、宇宙生命科学の基礎研究を行い、重要かつ独創的な成果を取得する。宇宙環境と宇宙デブリ(debris)に対するモニタリング能力を強化し、宇宙環境モニタリング警報システムを確立する。
  • 月周回探査を実現し、月面探査の基本技術を突破する。また、中国最初の月面探査衛星「嫦娥1号」を開発、打ち上げ、月面の科学的探査、資源探査・研究を行う。
  • ロケット打ち上げ射場の総合的な試験能力と効率を上げるとともに、打ち上げ射場の配置の最適化を行い、施設や設備の信頼性と自動化水準を引き上げる。
  • 宇宙観測・制御網の技術水準と能力を着実に引き上げるとともに、カバーする範囲を拡大し深宇宙探査にあたって要求されるニーズを満たす。
 

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