8.宇宙開発分野
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8.1 宇宙開発分野の概要

(1) 関連施策

1) 各政策の分野別取り組みについて

 中国政府は2000年11月、「中国宇宙白書」を公表し、国内外に向けて初めて中国の宇宙開発の現状と長期目標を明らかにした。また2006年10月に公表した「2006年中国宇宙白書」では、2010年までの開発目標と主要任務を明確に示した。

 中国政府は、2006年2月に「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006-2020年)」、また同3月には「国民経済・社会発展『第11次5ヵ年』規画綱要」を相次いで公表し、このなかで航空宇宙事業の発展を重要な施策の1つとして位置付けた。

 このうち「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006-2020年)」には、高度地球観測システムに加えて、有人宇宙飛行と月面探査計画の実施が重大特定プロジェクトとして盛り込まれた。

 一方、「国民経済・社会発展『第11次5ヵ年』規画綱要」では,ハイテク産業の発展を加速する一環として、宇宙産業については試験・応用型から業務サービス型への転換を促進し、通信・GPS等の衛星および応用面での発展をはかり関連製品の製造、運用サービスに関する産業チェーンを構築するという方針が明らかにされた。

 国防科学技術工業委員会(当時)は2007年1月、2つの規画綱要に基づき、「『第11次5ヵ年』宇宙空間科学発展規画」を策定し、宇宙事業の一層の発展を目指す意向を示した。具体的には、有人宇宙飛行、月探査プロジェクト、ブラックホールの物理研究、微重力科学・宇宙空間生命科学の実験・研究、中露火星宇宙空間環境探査計画等の国際協力プロジェクトへの参加、太陽探査プロジェクトの先行研究など、6つの目標を掲げた。

 国家発展改革委員会が2007年7月に公表した「ハイテク産業発展『第11次5ヵ年』規画」(「高技術産業発展"十一五"規劃」)では、重点的に発展させる8分野の1つとして航空宇宙産業が指定され、衛星の研究開発・製造水準の向上、衛星応用産業の発展に向けて努力を払う方針が打ち出された。また、新材料産業分野では、航空宇宙材料の研究を加速することが明記された。

 同規画では、重点的に実施する9の特定プロジェクトの1つとして衛星産業が指定され、衛星地上システムを集中的に建設するとともに、全国をカバーした衛星データ受信ネットワークと宇宙データの総合処理・サービス能力を構築し、衛星データ資源の共有を推進する考えを明らかにした。

 さらに、遠隔探査(リモートセンシング)応用システムを構築し、資源調査や土地利用、農作物、森林、湿地帯、海洋、災害モニタリング、環境モニタリングにおいて遠隔探査衛星を広範に利用するとしたうえで、端末製品の製造や運営サービスも含めた衛星産業チェーンを形成するとの方向性を示した。

 国防科学技術工業委員会(当時)は2007年10月、「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006-2020年)」と「国民経済・社会発展『第11次5ヵ年』規画綱要」等に基づいてまとめた「宇宙発展『第11次5ヵ年』規画」を公表した。

 同規画は、「第11次5ヵ年」期(2006~2010年)が中国の宇宙事業が飛躍的な発展を遂げるうえで重要な時期になると位置付け、宇宙技術と宇宙応用、宇宙科学を統一的に計画し歩調を合わせながら発展させるという基本的方針を再確認した。また、製品の供給やイノベーション、サービス提供、産業発展等の能力を飛躍的に高めるという全体的な方針を示した。

2) 重点分野推進政策

 中国政府は、「第10次5ヵ年」期(2001~2005年)において航空宇宙事業で大きな成果が得られたとの認識を示している。そのうえで、一連の発展規画に基づき、有人宇宙飛行や月面探査、高解像度の地球観測システム、新しい運搬ロケットなど、重要なプロジェクトおよび重点分野の優先プロジェクトを実施するとともに、基礎研究を強化し、航空宇宙科学技術の進歩とイノベーションを進める意向を明らかにしている。

 2008年12月15日の遠隔探査衛星「遥感衛星5号」の打ち上げによって、これまでの打ち上げ実績が114回に達した中国の運搬ロケット「長征」シリーズについては、低公害で高性能・低コスト・大推力のロケットを開発する計画になっている。「宇宙発展『第11次5ヵ年』規画」によると、地球低軌道の運搬能力については10~25トン、地球同期移動軌道の運搬能力については6~14トンを目指すとしている。

 また、推力が120トン級の液体酸素・ケロシン燃料を用いたロケットエンジンと推力50トン級の液体水素・液体燃料を用いたロケットエンジンの開発を「第11次5ヵ年」期間内に完成させ、「長征」シリーズの信頼性と打ち上げの適応性を高めるという目標が掲げられている。

 高解像度の地球観測システムプロジェクトの一環として、極軌道と静止軌道の気象衛星、海洋衛星、地球資源衛星、環境・災害モニタリング・予報用小型衛星の開発・打ち上げに加えて、立体測量・製図衛星など新型遠隔探査衛星の鍵を握る技術の研究も推進することになっている。

 有人宇宙飛行については、2008年9月25日の有人宇宙船「神舟7号」の打ち上げ成功によって着実に成果があがってきているが、中国としては今後、宇宙飛行士の船外活動を実現させ宇宙船のランデブー・ドッキング実験を行うことを当面の目標として掲げている。

 このほか、2010年までの重点推進策として、以下のようなものが含まれている。

  • 現有の遠隔探査衛星の地上システムを整理・統合し、国レベルの遠隔探査衛星データセンターを設立する。遠隔探査衛星の輻射校正場(radiation correction field)など、定量化の応用をサポートする施設を建設、整備し、遠隔探査データの共有を実現する。「衛星環境応用機構」と「衛星防災応用機構」を設立し、業務応用体系を構築する。
  • 長寿命で信頼性が高い大容量の地球静止軌道衛星とテレビ生中継衛星を開発し、打ち上げる。衛星実況放送、ブロードバンド・マルチメディア、衛星緊急通信、公益性を持った通信・放送などの技術を発展させる。衛星による通信・放送の一般的なサービスを強化し衛星通信分野の付加価値サービス業務を拡大する。衛星による通信・放送の商業化を積極的に推進し、通信・放送衛星ならびに応用の産業規模を拡大する。
  • 航行測位試験衛星システム「北斗」を完全なものに仕上げ、「北斗」衛星による航行測位システム計画を実施する。衛星による航行測位、時間告知の自主的応用技術・製品を開発し、衛星による航行測位と関係を持った基準となるシステムならびに普及シリーズ端末を確立し、応用分野と産業規模を拡大する。
  • 新しい技術を実験する衛星の開発・打ち上げを行い、新技術や新素材、新部品、新設備の宇宙飛行の検証を強化し、自主開発の水準ならびに製品の品質と信頼性を向上する。
  • 「育種」衛星の開発、打ち上げを行い、宇宙技術と農業育種技術の結合を推進し、農業科学技術研究分野での宇宙技術の応用を拡大する。
  • 宇宙望遠鏡、新型回収式科学衛星等を開発する。また、宇宙天文、宇宙物理、微小重力科学、宇宙生命科学の基礎研究を行い、重要かつ独創的な成果を取得する。宇宙環境と宇宙デブリ(debris)に対するモニタリング能力を強化し、宇宙環境モニタリング警報システムを確立する。
  • 月周回探査を実現し、月面探査の基本技術を突破する。また、中国最初の月面探査衛星「嫦娥1号」を開発、打ち上げ、月面の科学的探査、資源探査・研究を行う。
  • ロケット打ち上げ射場の総合的な試験能力と効率を上げるとともに、打ち上げ射場の配置の最適化を行い、施設や設備の信頼性と自動化水準を引き上げる。
  • 宇宙観測・制御網の技術水準と能力を着実に引き上げるとともに、カバーする範囲を拡大し深宇宙探査にあたって要求されるニーズを満たす。

(2) 研究予算

 「2007中国科技統計年鑑」によると、航空宇宙科学技術分野における研究開発機関の研究開発支出は、2006年実績で約119億元(約1785億円)となった。これは、2005年と比べると10%の減少であるが、集計された58分野では依然としてトップの地位を保っており、研究開発支出額全体の32.7%を占めた。

 研究開発機関の航空宇宙科学技術分野での研究開発テーマ件数と支出額は、2002年以降、増加傾向にあったが、2006年にはいずれも前年を下回った。

 一方、高等教育機関の航空宇宙科学技術分野での研究開発支出は2006年実績で約8億8000万元となり、研究開発機関の支出と比べると13分の1以下の規模となっている。また、機関別に見ると、研究開発機関の研究開発支出が連続してトップを維持しているのに対して、高等教育機関の研究開発支出は2006年実績で9番目に位置している。

 しかし、高等教育機関では2004年以降、航空宇宙科学技術分野の研究開発が件数、支出額とも顕著に上昇している。支出額で見ると、対前年比で2005年は46.7%、2006年は27.6%の高い伸びを示した。

表8.1機関別に見た航空宇宙科学技術分野の研究開発に関する内部支出とテーマ件数の推移(万元)

2001

2002

2003

2004

2005

2006

研究開発機関(全分野)
航空宇宙科学技術

1971759
(33784)

2093247
(35749)

2767834
(36889)

2834996
(37292)

3534911
(39072)

3653731
(42262)

721013
(1400)

713438
(1133)

961754
(1352)

1058591
(1382)

1328448
(1624)

1193664
(1592)

高等教育機関(全分野)
航空宇宙科学技術

758722
(141992)

957739
(169643)

1262116
(200120)

1477327
(237463)

1934537
(280327)

2870180
(365294)

38846
(1450)

36755
(1596)

51851
(1465)

47186
(1618)

69215
(2105)

88312
(2302)

注:( )内は研究開発テーマ件数出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

(3) 研究人材

 「2007中国科技統計年鑑」によると、2006年に航空宇宙科学技術分野に投入された人的資源は、研究者と技術者を含めて研究開発機関で3万6734人・年、高等教育機関で1378人・年であった。

 中国の研究開発機関では、過去6年間について見ると、2002年を除き、毎年3万人・年を超える人的資源が航空宇宙科学技術分野の研究開発に投入されている。研究開発機関の投入人的資源を分野別に見ると、航空宇宙分野が他の分野を圧倒しており、航空宇宙開発にかける中国政府の強い意気込みが感じられる。

 一方、高等教育機関における航空宇宙分野での研究開発に投入された人的資源は、他の分野に比べると際だって少なく、2006年の実績は1378人・年に過ぎない。これは、同年の全58分野中42番目であり、中国では航空宇宙分野での研究開発が研究開発機関に集中している実態が浮き彫りになった。

表8.2 機関別に見た航空宇宙科学技術分野の研究開発投入人的資源(研究者・技術者※)とテーマ件数の推移(人・年※※)

2001

2002

2003

2004

2005

2006

研究開発機関(全分野)
航空宇宙科学技術

127690
(33784)

118458
(35749)

129001
(36889)

124831
(37292)

133485
(39072)

157169
(42262)

30707
(1400)

26686
(1133)

31715
(1352)

31620
(1382)

34198
(1624)

36734
(1592)

高等教育機関(全分野)
航空宇宙科学技術

136380
(141992)

153190
(169643)

162384
(200120)

202633
(237463)

219487
(280327)

261159
(365294)

942
(1450)

1115
(1596)

1129
(1465)

1347
(1618)

1553
(2105)

1378
(2302)

( )内は研究開発テーマ件数
※研究者・技術者:高・中級技術のポストを有する科学技術活動に従事する人員と、高・中級技術のポストを有しない大学本科以上の学歴の人員を指す。なお高級技術職は日本の大学教授レベルに、また中級技術職は大学講師レベルに相当する。
※※:専従換算人員投入量:「専従人員」とは、当該年において研究開発活動に従事した時間が当該年の全作業時間の90%以上を占める人員を指す。また「非専従人員」とは、当該年において研究活動に従事した時間が当該年の全作業時間の10%以上-90%未満の人員を指す。「非専従人員」は、実際の作業時間に応じて「専従人員」に換算される。例えば、3人の「非専従人員」が当該年の全作業時間のそれぞれ20%、30%、70%を当該年の研究開発活動にあてた場合、「専従換算人員」は0.2+0.3+0.7=1.2(人・年)≒1(人・年)となる。したがって「専従換算人員投入量」は、「専従人員」に、作業時間に応じた「非専従人員」を加えたものである。例えば、2人の「専従人員」と3人の「非専従人員」(作業時間はそれぞれ20%、30%、70%)がいた場合、「専従換算人員投入量」は2+0.2+0.3+0.7=3.2(人・年)となる。
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

(4) 研究成果

 航空宇宙科学技術分野での研究成果の一応の目安となる特許については、2006年は申請件数が過去6年間と比べて大きく増加したものの、承認件数については100件程度で安定している。また、科学技術論文の収録実績を見ると、2004年を境に大きく増加している。

 同じくビッグプロジェクトとして位置付けられる原子力分野と比べると、特許件数ではそれほど大きな違いは見られないものの、書誌収録実績は原子力分野が2006年実績で合計333件であったのに対して、航空宇宙分野は951件となり原子力分野のほぼ3倍となっている。

表8.3 航空宇宙分野の特許申請・承認件数※1と書誌収録件数※2の推移

特許

書誌収録

申請

承認

SCI

EI

ISTP

合計

2000

177

47

30

45

240

315

2001

181

120

22

252

18

292

2002

244

110

29

251

21

301

2003

219

118

30

307

19

356

2004

293

80

40

508

11

559

2005

247

104

65

873

13

951

2006

428

102

※1:飛行機・航空・宇宙航行
※2:航空宇宙
SCI:Science Citation Index
EI:Engineering Index
ISTP:Index to Scientific & Technical Proceedings
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

(5) 宇宙関係機器製造業の研究開発・成果

 中国では一般的に企業による研究開発は低調で、専門の研究開発機関に委ねているケースがほとんどである。航空宇宙産業も例外ではない。

 「2007中国高技術産業統計年鑑」によると、2006年時点では宇宙関係機器(航空機関係を除く)の製造企業は29社あり、総従業員数は約30万人となっている。このうち2006年に研究開発に投入された人的資源はわずか2681人・年に過ぎない。過去5年間の実績で見ると、2003年には大きく減少したものの、同年以降は着実に増加している。

 これは、同年に高等教育機関の航空宇宙科学技術分野で投入された人的資源(1378人・年)に比べれば大きいものの、研究開発機関の3万6734人・年と比べれば13分の1以下に過ぎない。

 研究機関の中には航空関係の研究開発人員が含まれているため単純に比較することはできないが、中国では航空宇宙分野の研究開発が研究開発機関主導で行われている状況が改めて確認された。

 なお、航空機の製造・修理業では、2006年に研究開発向けとして2万4692人・年の人的資源が投入されており、企業ベースでも積極的な研究開発が行われている実態が明らかになった。

 一方、宇宙関係機器製造業における研究開発内部支出は増加傾向にあり、2006年は対前年比24%増の4億8157万元となった。研究開発人員と同じく2003年に一旦減少しているが、以降はやはり増加傾向にある。また、宇宙関係機器製造業の特許申請件数はきわめて低い水準にある。

表8.4 宇宙関係機器製造業における研究開発の実態

2002

2003

2004

2005

2006

投入人的資源(人・年)

3283

1649

1797

2150

2681

研究開発内部支出(万元)

21523

7977

36359

38813

48157

特許申請件数

8

2

2

14

33

出典:「2007中国高技術産業統計年鑑」(国家統計局・国家発展改革委員会・科学技術部編、中国統計出版社)をもとに作成

(5) 国際研究活動の展開

1) 基本方針

 中国政府は、宇宙空間は人類共通の財産であり、各国は宇宙空間と天体を自由に探索、開発、利用する権利を等しく持ち、各国が宇宙で実施する活動は、経済発展と社会進歩、人類の安全と生存、発展だけでなく、各国の友好的協力に役立てる必要があるとの基本的姿勢を示している。

 また中国政府は、宇宙分野での国際的な交流と協力を実施するにあたって、以下の政策を柱に据えている。

  • 独立自主の方針を堅持し、国の近代化建設方針に従い、内外市場を見据えて積極的かつ実務的な国際協力活動を展開する。
  • 宇宙空間の平和利用について、国連における各種活動を支持する。宇宙関連機関が政府間または非政府間において宇宙技術、宇宙応用、宇宙科学の発展に向けて展開する活動を支持する。
  • アジア太平洋地域の地域宇宙協力を重視し、世界およびその他の地域の宇宙協力を支持する。
  • 発展途上国との協力を強化し、先進国との協力を重視する。
  • 国内の科学研究機関、産業界、大学等が、国の政策と法規に基づきマルチステージでマルチタイプな国際宇宙交流と協力を展開することを奨励、支持する。

 さらに中国政府は、以下に示すような宇宙技術、宇宙応用、宇宙科学などの分野で国際協力を優先的に展開する意向を表明している。

  • 宇宙天文、宇宙物理、微小重力科学、宇宙生命科学、月面探査と惑星探査などの分野の科学研究
  • 地球観測衛星データの共有とサービス。資源調査、環境モニタリング、災害の防止と低減、地球変動のモニタリングと予報などの分野での応用と研究
  • 宇宙観測・制御網の資源の共有
  • 通信衛星と地球観測衛星の設計・製造
  • 衛星による通信、衛星による遠隔探査、衛星による航行測位と地上設備および重要部品の製造
  • 衛星による通信・放送の遠隔教育、遠隔医療などの分野での応用、衛星による放送・テレビ等への応用範囲の拡大、衛星による航行測位の関連サービス
  • 衛星の商業打ち上げサービス、衛星ならびに部品の輸出、衛星の陸地観測・制御と応用施設の建設および関連サービス
  • 宇宙分野での人員交流・養成

2) 二国間協力

 中国は、1985年以来、政府レベルまたは政府機関レベルで二国間協定や議定書、覚書を締結し、各国と宇宙分野で協力を行ってきた。具体的には、「第10次5ヵ年」期間中(2001~2005年)に多数の国と協力を行い、13の国、宇宙関連機関、国際機関との間で16件の協力協定または了解覚書に調印した。

 中国は2001年から2005年にかけて、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、フランス、マレーシア、パキスタン、ロシア、ウクライナ等の国および欧州宇宙機関(ESA)、欧州委員会との間で宇宙空間平和利用に関する協力協定、宇宙空間プロジェクトの協力取決めに調印した。

 このうち、ブラジル、フランス、ロシア、ウクライナとは、航空宇宙協力の小委員会または合同委員会という協力体制を構築した。また、インド、英国の航空宇宙機関と宇宙協力了解覚書に調印するとともに、アルジェリア、チリ、ドイツ、イタリア、日本、ペルー、米国の航空宇宙機関との間でも交流が行われた。

 中国とブラジルは2003年10月、地球資源を探査する「02衛星」を打ち上げたあとも協力関係を維持しており、両国政府は地球資源探査衛星「02B衛星」、「03衛星」、「04衛星」の共同開発・製作およびデータ応用システム協力などの補足議定書に調印した。同議定書は、地球資源探査衛星のデータの連続性を保持するとともに、データの応用範囲を拡大することをねらったものである。

 中国は、フランスとの間でも宇宙分野で広範な交流や協力を行っている。「2006年中国宇宙白書」によると、中仏宇宙合同委員会のもとで、宇宙科学や地球科学、生命科学、衛星の応用、衛星による観測・制御などの分野において両国の交流・協力が大きく進展したという。

 旧ソ連時代から協力関係にあるロシアとの間では、両国首相による定期会合の宇宙協力小委員会の場で長期協力計画が確定された。このほか、宇宙飛行士の養成を含めた有人宇宙飛行の分野でも交流・協力が行われている。

 中国科学院は2007年3月26日、中国国家宇宙(航天)局とロシア連邦宇宙局が共同で火星および火星の衛星「フォボス」を2009年に探査することで合意したことを明らかにしている。

 それによると、両国は2009年にロシアのロケットで中国の小型衛星とロシアのフォボス探査機を打ち上げるほか、小型衛星で火星空間の環境探査を実施する。また、ロシアは同探査機でフォボスに着陸し、表面土壌のサンプルを持ち帰り、両国で分析を共同で実施することになっている。

 また、ウクライナとの間では、中国・ウクライナ宇宙合同委員会のもとで、交流・協力が行われており、協力計画が確定している。

3) 欧州連合との協力

 中国は欧州連合(EU)との協力を積極的に進めている。中国は、EUが進める欧州独自の衛星測位システム「ガリレオ計画」に参加した最初の非EU加盟国である。同計画にかかる総費用は35億ユーロと見積られており、このうち2億ユーロを中国が負担する。開発段階の費用として7000万ユーロ、また実施段階の費用として1.3億ユーロが充てられる。

 中国は、「第10次5ヵ年」期間において、欧州宇宙機関(ESA)と協力して「地球宇宙空間双星探測計画」を行い、農業や林業、水利、気象、海洋、災害などの分野で、16件の遠隔探査応用プロジェクトを実施した。

 同計画は、中国が先進国と技術面、応用面で進める最初の協力事業であり、太陽の活動や惑星間の活動、電離層嵐などの物理的プロセスの研究を行い、電離層嵐の物理モデル、地球宇宙空間モニタリングのモデルと予報方法などを確立し、宇宙活動の安全および人の生存環境保全に向けた科学的なデータと対策を提供するというものである。

 中国は、2003年12月に「探測1号」衛星を、また2004年7月に「探測2号」を打ち上げ、これによって「双星計画」が具体化することになった。中国側の2機の衛星は、ESAの「クラスター2計画」で打ち上げられた4機の衛星とともに、宇宙空間の6ヵ所から地球を立体的に観測する観測システムを構築することになっている。

 観測結果は、中国とEUが共有し、中国としては宇宙空間物理学の発展を促進し、宇宙空間探測技術の革新的な能力を向上させ、宇宙空間科学技術分野での地位を確立するものと期待されている。

4) 多国間協力

 中国、バングラデシュ、インドネシア、イラン、モンゴル、パキスタン、ペルー、タイの8カ国政府による「アジア・太平洋宇宙協力機関(APSCO)公約」が2005年10月に締結された。2006年6月にはトルコ政府との間でも同公約が交わされた。同機関の本部は北京に設置されている。中国政府は、APSCOの正式な設立に向けて、重要な一歩が踏み出されたと高く評価している。

 中国は1992年、パキスタン、タイとの間で、「宇宙技術応用におけるアジア・太平洋多国間協力」(AP-MCSTA)を開始し、98年4月にはバングラデシュ、イラン、韓国、モンゴルを加えて「多国間小型衛星プロジェクトおよびその関連活動に関する政府間合意覚書」に署名した。

 中国は、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)およびその傘下にある科学技術小委員会と法律小委員会の各種活動に参加しており、国連が制定した「宇宙条約」、「宇宙救助返還協定」、「宇宙損害責任条約」、「宇宙物体登録条約」に加入している。

 また、国連宇宙空間平和利用委員会による第3回国連宇宙会議(UNISPACEⅢ)の提案実行活動へ参加し、カナダ、フランスとともに共同議長国として、同委員会加盟40カ国、15国際機関が参加した「宇宙システムを利用した防災と災害管理ワーキンググループ」(第7ワーキンググループ)や「防災と災害管理協調メカニズムの実行可能性を研究する特設専門家グループ」の活動にも参加している。

 さらに、国際宇宙機関間宇宙デブリ調整委員会(IADC)の各種活動に参加しており、「宇宙デブリ行動計画」を始動させ、宇宙デブリ研究分野で国際交流・協力を実施している。国際地球観測衛星委員会(CEOS)の活動にも参加し、2004年11月には北京で「国際地球観測衛星委員会第18回総会兼20周年祝典」を主催した。

 中国は2005年5月、国際地球観測グループ(GEO)に正式に加盟した。2006年7月には「第36回世界宇宙科学大会」、「第8回国際月面探査利用会議」が相次いで北京で開催された。このほか、国際電信連盟(ITU)、世界気象機関(WMO)、国際宇宙航空連合会、国際宇宙空間研究委員会(COSPAR)の活動にも参加している。

5) 商業活動

 中国は、宇宙ビジネスを積極的に展開しており、最近では2008年10月30日、西昌衛星発射センターから通信衛星「ベネズエラ1号」の打ち上げに成功した。

 「ベネズエラ1号」は、中国航天科技集団公司傘下の中国空間技術研究院によって「東方紅4号」をベースに研究・製造された。同衛星の設計寿命は15年で、南米およびカリブ海の大部分をカバーし、通信のほか放送や遠隔教育、遠隔治療などに利用される。衛星は、19世紀の南米の独立運動指導者にちなんで「シモン・ボリーバル」と命名された。

 今回、打ち上げを担当した中国長城工業総公司は、1990年以来、国外からの受注による衛星打ち上げを29回実施しており、これまでに35機の衛星を軌道に投入している。

 中国は、2004年12月にナイジェリアとの間で締結した契約に基づき、衛星の製造から打ち上げ、打ち上げ後の管理など一連の作業をすべて請け負い、2007年5月に「ナイジェリア通信衛星1号」を打ち上げた。

 なお、2007年9月19日には、中国とブラジルが共同開発した資源探査衛星「資源1号02B」が太原衛星発射センターから打ち上げられている。同機は、中国とブラジルだけでなく、その他の受信が可能な国・地域に向けて、農産物の収穫量の予測や環境保護・モニタリング、都市計画、国土資源測定等に活用可能な画像データをリアルタイムで発信する。

 長征ロケットを用いた商業打ち上げサービスの実績を表8.5に示す。

表8.5 長征ロケットによる国際商業衛星打ち上げ実績
No. プロジェクト 運搬
ロケット
ユーザー 打ち上げ
日時
備考
1 微重力試験装置 長征2号
丙F09
Matra(仏) 1987/08/05 搭載業務
2 微重力試験装置 長征2号
丙F11
Intospace( 独) 1988/08/05 搭載業務
3 Asiasat-1 通信衛星 長征3号 F07 アジア衛星公司(AsiaSat)
(香港)
1990/04/07 単機打ち上げ
4 Optus Simulation衛星&BADR-A衛星 長征2号 F01 BADR-A
(パキスタン)
1990/07/16 搭載業務
5 Optus-B1 長征2号 F02 Optus (豪州) 1992/08/14 単機打ち上げ
6 Freja 衛星 長征2号
丙F13
スウェーデン・スペース(スウェーデン)  1992/10/06 搭載業務
7 Optus-B2 長征2号 F03 Optus (豪州) 1992/12/21 単機打ち上げ
8 APS-1 通信衛星 長征3号 F09 アジア太平洋
衛星公司(Apstar)
(香港)
1994/07/21 単機打ち上げ
9 Optus-B3 長征2号 F04 Optus(豪州) 1994/08/28 単機打ち上げ
10 APS-2 通信衛星 長征2号 F05 アジア太平洋衛星公司(Apstar)
(香港)
1995/01/26 単機打ち上げ
11 Asiasat-2
通信衛星
長征2号 F06 (EPKM) アジア衛星公司(AsiaSat)
(香港)
1995/11/28 単機打ち上げ
12 Echostar-1
通信衛星
長征2号 F07 (EPKM) Echostar
(米国)
1995/12/28 単機打ち上げ
13 INTELSAT- 708 長征3号
乙F01
INTELSAT 1996/02/15 単機打ち上げ
14 APS-IA 通信衛星 長征3号F10 アジア太平洋衛星公司(Apstar)
(香港)
1996/07/03 単機打ち上げ
15 中星7号 通信衛星 長征3号
F11
中国通信広播衛星公司(ChinaSat) 1996/08/18 単機打ち上げ
16 微重力試験装置 長征2号丁 F03 丸紅株式会社
(日本)
1996/10/20 搭載業務
17 Mabuhay通信衛星 長征3号
乙F02
Mabuhay
(フィリピン)
1997/08/20 単機打ち上げ
18 APS-IIR 通信衛星 長征3号
乙F03
アジア太平洋衛星公司(Apstar)
(香港)
1997/10/17 単機打ち上げ
19 イリジュウム 長征2号
丙/SD F02
モトローラ
(米国)
1997/12/08 2機打ち上げ
20 イリジュウム 長征2号
丙/SD F03
モトローラ
(米国)
1998/03/26 2機打ち上げ
21 イリジュウム 長征2号
丙/SD F04
モトローラ
(米国)
1998/05/02 2機打ち上げ
22 中衛1号 通信衛星 長征3号
乙F04
中国東方衛星公司(ChinaOrient) 1998/05/30 単機打ち上げ
23 鑫諾衛星(SinoSat) 長征3号
乙F05
鑫諾衛星公司
(SinoSat)
(中国)
1998/07/18 単機打ち上げ
24 イリジュウム 長征2号
丙/SD F05
モトローラ
(米国)
1998/08/20 2機打ち上げ
25 イリジュウム 長征2号
丙/SD F06
モトローラ
(米国)
1998/12/19 2機打ち上げ
26 イリジュウム 長征2号
丙/SD F07
モトローラ
(米国)
1999/06/12 2機打ち上げ

27

中巴地球資源衛星1号(CBERS-1) 長征4号 乙F01 空間技術研究院(ブラジル) 1999/10/14 2機打ち上げ

28

中巴地球資源衛星2号(CBRS-2) 長征4号乙F04 空間技術研究院(ブラジル) 2003/10/21 2機打ち上げ

29

APS-6 長征3号乙F06 アジア太平洋衛星太公(Apstar)(香港) 2005/04/12 単機打ち上げ

30

ナイジェリア衛星1号(NIGCOMSAT-1) 長征3号乙F07 ナイジェリア通信衛星社 2007/5/14 単機打ち上げ

31

中星6B 長征3号乙F10 中国衛星通信集団公司 2007/07/05 単機打ち上げ

31

中巴地球資源衛星02B(CBRS-2B) 長征4号乙F17 空間技術研究院
(ブラジル) 
2007/9/19 単機打ち上げ

32

ベネズエラ1号通信衛星 長征3号乙 ベネズエラ 2008/10/30 単機打ち上げ
出典:中国航天科技集団公司HP「国際交流與合作」をもとに作成