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【20-050】福建農林大学の笠原教授らの研究グループ、「砂糖イネ」の開発に成功

JST北京事務所 2020年10月28日

 福建農林大学の笠原竜四郎教授(元 名古屋大学博士研究員)と、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の桑田啓子特任助教、名古屋大学生物機能開発利用研究センターの野田口理孝准教授のグループが、イネが受精に失敗すると米粒の代わりに高純度の砂糖水を生成することを発見した。

 研究グループは、双子葉植物であるシロイヌナズナで受精が失敗すると、その胚珠が受精をすることなしに肥大するPOEM現象(笠原ら2016年)を発見していたが、その現象を単子葉植物であるイネでも観察できるかどうか、CRISPR/CAS9のゲノム編集技術を用いて実験を続けた結果、イネでも受精に失敗すると胚珠が肥大することがわかった。さらに肥大した胚珠の中は、デンプンではなく液体で満たされており、遺伝子解析の結果デンプン形成の前駆体であるショ糖が含まれている可能性が高いという。

 この液体の成分分析を行ったところ、この液体には糖成分のうち、ショ糖が98%、果糖とブドウ糖が僅か1%ずつ含まれており、精製しなくても既に非常に高純度なショ糖液であることが判明した。

 現在、世界でショ糖を生産する植物はサトウキビと甜菜の2種類のみであり、その他にも糖を生産する植物は存在するとはいえ、この2つに匹敵するショ糖純度を保持するものはなかった。しかし、今回作成できた「砂糖イネ」は、世界に「第3の製糖植物」を提供できる可能性を示している。

 サトウキビは熱帯、亜熱帯地方を中心に、また甜菜は寒冷地を中心に分布する植物であり、これらの植物は、低温あるいは高温の条件下では、著しく糖生産の効率が下がることが知られているが、イネが現在北海道から沖縄まで生産可能であることから、砂糖イネも同様に、日本の場合はどこでも糖生産が可能であることを示唆しており、今後、世界的に糖生産の限界を超える新規作物として期待される。

 なお、笠原教授は、2013年にJSTのさきがけ「二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用のための基盤技術の創出」に採択されており、POEM現象の発見はさきがけでの成果である。

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イネのgcs1変異体の表現型と液体を蓄積した砂糖イネ

(A) 左が日本晴の種子(我々が普通に食べている米粒)、右が今回作成した砂糖イネ(gcs1変異体)の肥大胚珠。双方の大きさに有意差は認められなかった。

(B) 砂糖イネは矢印に示すように胚珠内にデンプンではなく液体を充満させていた。

(C, D) 固定後の日本晴の種子。胚、胚乳が観察される。

(E, F) 砂糖イネの胚珠内部。日本晴種子と比較すると胚、胚乳が全く形成されておらず、内部は液体で占められていることがわかる。D, Fはトルイジンブルーで染色後にイメージを取得。スケールバー:1mm。

(プレスリリース資料より)


なお本研究成果は2020年10月27日(英国時間※日本時間では10月28日)に英科学誌Communications Biology誌に掲載された。

掲載論文:

  • Yujiro Honma, Prakash Babu Adhikari, Keiko Kuwata, Tomoko Kagenishi, Ken Yokawa, Michitaka Notaguchi, Kenichi Kurotani, Erika Toda, Kanako Bessho-Uehara, Xiaoyan Liu, Shaowei Zhu, Xiaoyan Wu & Ryushiro D. Kasahara, High-quality sugar production by osgcs1 rice, Communications Biology , (2020) 3:617, October 2020.
    https://www.nature.com/articles/s42003-020-01329-x

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