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【19-26】有馬朗人、沖村憲樹両氏に中国建国70周年紀念章 中国政府招へい訪中団報告・壮行会も開催

2019年9月17日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 長年、日中の科学技術交流に取り組んできた科学技術振興機構中国総合研究・さくらサイエンスセンターの有馬朗人センター長(元文部相、元東京大学総長)と沖村憲樹上席フェローに12日、「中国建国70周年紀念章」が贈られた。同日夕、駐日中国大使館で行われた授与式で孔鉉佑駐日中国大使は、有馬、沖村両氏の長年にわたる貢献に謝意を述べるとともに「日中協力は日中両国の発展の新たな原動力になる」とさらなる協力推進を呼びかけた。

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(左から)沖村憲樹上席フェロー、孔鉉佑大使、有馬朗人センター長

 孔大使から紀念章を受け取った有馬氏は「これからはアジアの世紀。中国の論文数は米国を抜いて世界一になった。中国と日本が協力し、さらに韓国、ベトナム、シンガポールなどと一緒にアジアの世紀を築きたい」と力強いお礼の言葉を述べた。沖村氏も「中国には科学技術で国を興す、経済を興すという確固たる国家意志がある。この国家意志がある限り、中国は発展し続ける。これからの日中協力は日本が中国から教えてもらうことが多くなり、お互いに学び合い、ウィンウィンの関係で共に発展する」と、引き続き日中交流をさらに強力に進めていく意欲を示した。

 有馬、沖村両氏に対する「中国建国70周年紀念章」授与式は、中国政府が2016年から始めている「日本の若手科学技術関係者招へいプログラム」で10月から訪中する一行の壮行会とこれまで招へいされた人たちの報告会に併せて開かれた。報告会ではまず今年6月に訪中したばかりの鈴木正史愛知県あいち産業科学技術総合センター主任研究員が「大学からの技術移転が多く、企業との垣根が低い。政府も起業の一歩手前から資金や信用付与といった支援をしていると感じた」と中国の産学官連携のあり方に強い印象を受けたことを明かした。

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鈴木正史愛知県あいち産業科学技術総合センター主任研究員

 さらに同じく6月に訪中した小川覚之東京大学大学院医学系研究科助教は「中国からの留学生を10年くらい指導してきたが、中国へ行くのは初めてだった。到着した日から利用したWeChat(注)は帰国してからも中国の大学の人たちとの連絡に使っている」と、中国人との人的関係が訪中を機にさらに深まったことを強調していた。

(注:中国の大手IT「企業騰訊(テンセント)」の無料インスタントメッセンジャーアプリ)

 また昨年10月に訪中した森容子理化学研究所横浜事業所研究支援部副主幹は「産学連携がスムーズに進んでいるのがよく分かった。こつこつコミュニケーションをとるのが大事と気づき、現在、帰国後、日本の企業数社と連携の話し合いに活かしている」など、訪中によって「自分自身に起きた変化」を紹介した。初めての訪中で印象深かったことは、早瀬健彦農林水産省農林水産技術会議事務局研究調整課企画官も強調している。「社会へのリターンが大きいから研究には積極的に投資し、失敗も許容するという中国の考え方が参考になった」と報告していた。

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森容子理化学研究所横浜事業所研究支援部副主幹

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早瀬健彦農林水産省農林水産技術会議事務局研究調整課企画官

「日本の若手科学技術関係者招へいプログラム」は、科学技術振興機構が2014年に始めた「日本・アジア青少年サイエンス交流事業(さくらサイエンスプラン)」を高く評価した中国科学技術部が、中国も同じような交流事業を、と2016年からスタートさせた。駐日中国大使館もこれを後押ししたといわれている。さくらサイエンスプランでは、これまで中国から9,000人近い青少年が日本に招かれており、この日のあいさつの中で孔大使も、さくらサイエンスプランにより日中の青少年交流が深まったことを高く評価した。一方、「日本の若手科学技術関係者招へいプログラム」では、2016年から昨年までに437人の日本の若手若手行政官や大学人たちが中国を訪れている。今年も6月の第一陣を含め3回に分けて250人が招かれている。来賓としてあいさつした山脇良雄文部科学省文部科学審議官は「これまでの訪中者は、中国の発展の勢い、スピードの速さ、戦略性や地方政府、民間企業と一体となった科学技術政策を見ることができ、これからの日中協力をどう進めるかを考えるよい機会を与えていただいた」と謝意を述べた。

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山脇良雄文部科学省文部科学審議官

 この日の紀念章授与式、訪中団報告会・壮行会には、10月に訪中する予定の今年度第2陣とこれまで訪中した人たちを中心に約140人が参加した。10月に訪朝する予定の大桃由紀雄特許庁審査第四部情報処理特許審査官は「日本にはない研究の勢いが中国にはあると思う。その原動力がどこから来て、どのように維持されているのか見てきたい」と語っていた。同じくはじめての訪中という永田宏樹文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課調査員は「産学連携、とりわけ事業の創出や創業を支援するインキュベーションがどのように運営されているのか」に強い関心を示している。永田氏は起業支援に熱心に取り組む川崎市からの出向者。中国はインキュベーションの規模が違うようなので、よく見てきたいと期待していた。

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参加全員による集合写真

 また、松浦康之岐阜市立女子短期大学専任講師は、「中国で人工知能の研究がどのくらい進んでいるか見てきたい」と語っていた。松浦氏の専門は生体工学。心電図の解析などに人工知能が活用されるとの見通しから関心が高いということだった。

 この日は「中国建国70周年紀念章」を受賞した沖村憲樹氏の「中国の科学技術の発展について」と題する講演も行われた。沖村氏はさまざまなデータを列挙して、中国が「必ずイノベーションを成功させ、世界一の科学技術大国、教育大国となる」と断言し、「日中科学技術教育交流の進化が必要」と提言した。

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沖村氏による講演の様子

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