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【20-12】見劣り目立つ日本のPCR検査数 OECDが新型コロナで報告書

2020年4月24日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 経済開発協力機構(OECD)は4月16日、新型コロナウイルス感染に関し、感染拡大を防ぐための検査と追跡、さらにデジタル技術を活用した追跡法によるプライバシーへの影響に関する二つの報告書を公表した。報告書は、各国が取り組むべき多くの課題を提示している。一方、報告書からは、大規模な検査と追跡に関する日本政府の取り組みが、OECD加盟国やパートナー国に比べ、明らかに見劣りする実態がうかがわれる。

 報告書は、ウイルスの拡散を抑えるための大規模な検査と、新たな感染発生を防ぐための大半の感染者に対する追跡調査が重要、と指摘するとともに、感染者を特定するためにPCR検査が有効であることを強調している。そのためには、それぞれの国の政府が検査能力を大幅に高め、接触者の追跡調査と感染の疑いのある人々を隔離する厳格な措置を講じる方法を確立する必要がある、としている。

 報告書はこうした検査・追跡戦略を徹底して行った国として、韓国とシンガポールの取り組みを詳しく紹介している。報告書によると、韓国は4月6日の時点で、1,000人当たり10人もの人たちに対し、PCRテストを実施済み。人口5,000万人以上の国ではドイツとイタリアに次ぐ多さだ。乗用車に乗ったまま検査が受けられるドライブスルーの検査センターが600以上設置された。この中には医療従事者が透明な電話ボックスのような囲いの中から検査者ののどに綿棒を差し入れて検体を取り出すことができるような検査センターもある。

 検査で陽性とされた人たちは携帯電話から位置が自動的に記録されるため、ほぼ全員が追跡できる。これは電話会社がすべての顧客に名前と国の登録番号の提供を要求して可能になった。感染者の接触者を突き止めるために使われた監視カメラは、公共の場所に100万台以上が設置済み。韓国はキャッシュレス取引の割合が世界でも最も高く、キャッシュレス取引記録も追跡に使用されている。

 シンガポールもまた、国民の日常生活に大きな支障をきたすことなく、新型コロナウイルスの流行を抑える強力な検査・追跡戦略を実施したことが詳しく紹介されている。PCR検査の実施数は、人口570万人の国としては1日2,200人という多さ。韓国同様、病院だけでなくドライブスルーの検査センターも設置された。感染者との接触者を追跡する作業は、公衆衛生当局、軍隊、警察が協力して行う態勢ができている。接触者と特定された人たちには感染者と同様、監視カメラなどによる可視化されたデータに加え、7日間の行動履歴を直接、問い質すという追跡方法が採られた。領収書やカード支払いの調査も含まれる。

 OECD報告書は、4月15日までに人口1,000人当たり何人がPCR検査を受けたかを比較したグラフを示している。ほとんどのOECD加盟国のPCR検査実施数が分かる。日本の検査数は1,000人当たりわずか1.1人。メキシコの0.2人に次ぐ少なさとなっている。韓国の10.4人に比べると1桁少なく、OECD加盟国平均の15.2人よりもはるかに少ない。イタリア18.2人、ドイツ17.0人、米国9.3人、フランス5.1人、英国4.5人など多くの感染者を出している欧米諸国に比べても差が目立つ。

OECD諸国のPCR検査実施人数(4月15日まで、人口1,000人当たり)

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(OECD報告書から)

 「感染が疑われる人を検査し、感染者と感染者の接触者を追跡する効果的戦略が新型コロナウイルスの流行を減らす。感染した人に接触した人の70〜90%を追跡し、検査で感染が確認されたら隔離することで新たな『第2波』の流行が発生するリスクを減らせる。そのためには、各国が検査能力を高めることが必要」と報告書は指摘している。

 一方、新型コロナウイルスに対する戦略を強化するうえで重要なこととして報告書は、プライバシーとの関連を特に取り上げている。「デジタル技術、特にモバイルおよび生体認識技術が革新的な方法として採用され、新型コロナウイルスの発生を追跡するための貴重な情報が得られている」。このように評価する一方、プライバシーとデータ保護にさまざまな影響を及ぼすことに注意喚起している。

 「個人データの収集、処理、共有に関連する利点とリスクのバランスをとるために、完全に透明で説明責任を持つプライバシー保護策を検査・追跡戦略に組み込む必要がある。データは、特定の目的を果たすために必要な間だけ保持すべきだ」と、必要な対策を指摘している。

 日本のPCR検査実施数が少ないことは、当初から予想されていた。新型コロナウイルス感染症対策本部」(本部長・安倍晋三首相)の下に設置された「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」は、2月24日に公表した見解の中で「設備や人員の制約のため、全ての人にPCR検査をすることはできない」と認めている。4月17日に記者会見した横倉義武日本医師会会長も、そもそも検査する人員、資材ともに不足していたという実態を明らかにしている。

 横倉会長は、検査する人間が検体を採取する際に必要なN95マスクなどの感染防護資材が不足していたため多くの検体採取ができなかったことや、検査の窓口になっている保健所と保健所職員の数が減らされてきているといった日本の実態を明らかにしたうえで、次のような反省の言葉も述べていた。

「感染症に対してわれわれ医師も国も常に準備しておかなければならないという危機意識を持つべきだった、という思いはある」

 報告書はまた、今後の新型コロナウイルス対策として抗体検査の必要にも触れている。抗体があることが分かった人はそれまでの感染によりで免疫を持ったことで、安全に仕事に復帰できるとみなされる。さらに、多くの人の抗体検査結果から今後の流行の進展を予測する情報も得られる。こうした利点があることを挙げて、報告書は、抗体検査の大規模な展開に向けて、検査キットを開発し、その性能を確認する必要を指摘している。

関連サイト

OECD「Testing for COVID-19: A way to lift confinement restrictions

OECD「Tracking and tracing COVID: Protecting privacy and data while using apps and biometrics

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