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【20-25】新型コロナで都市封鎖中も営業継続 武漢のイオン責任者が活動報告

2020年9月14日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 新型コロナウイルス感染の発生地、武漢市で、1月下旬から2カ月半に及ぶ都市封鎖中も営業を続けた総合スーパー「イオン(湖北)商業有限公司」の杜若政彦総経理が8日、武漢市内からビデオ会議システムを利用して記者会見し、武漢市民の生活を支えた活動を詳しく報告した。日本記者クラブ主催の記者会見には、南愼一郎イオンモール(湖北)商業管理有限公司総経理も同席し、武漢市、湖北省の新型コロナウイルス感染対策の様子などについても詳しく説明した。

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都市封鎖でほとんど人がいない武漢市目抜き通り(杜若政彦総経理、南愼一郎総経理の記者会見資料から)

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都市封鎖中も営業を続けた「イオン(湖北)商業有限公司」の総合スーパー(杜若政彦総経理、南愼一郎総経理の記者会見資料から)

「イオン(湖北)商業有限公司」は武漢市内に総合スーパー5店舗を持ち、イオンモール(湖北)商業管理有限公司は、三つのモール施設を展開している。武漢市が新型コロナウイルス感染拡大を理由に都市封鎖に踏み切ったのは1月23日。翌24日の午前10時以降、武漢市内の全ての交通機関が止まった。病院、薬局、一部食品小売店を除く、武漢市内の大型商業施設や大多数の企業も休業となる。「ちょうど春節の帰省ラッシュと重なり、食料などの買い置きもない市民が多かった」と杜若氏は武漢市民の混乱ぶりを語った。

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武漢市内からビデオ会議システムを利用して記者会見する杜若政彦イオン(湖北)商業有限公司総経理

 イオンモールも休業を強いられたが、総合スーパーは24日以降も営業を続ける。実際に武漢市で感染が始まったのは昨年12月とされている。しかし、イオンは12月31日の時点で原因不明の肺炎対策として従業員の体調管理の徹底、マスク着用、事務所入室時のアルコール消毒などの対策を始めたという。1月20日には自社基準による「パンデミックアラート(感染爆発警告)期」としての体制、対応に切り替え、館内の消毒、従業員のマスク着用の徹底、館内換気を実施した。武漢市政府が、ショッピングセンター内での来店客と従業員に対するマスク着用命令を発するのは、その2日後だった。こうした早目の対応について杜若氏は、中国広東省で最初の患者が見つかり、2002年から2003年にかけて世界で8,000人を超す感染者が出た重症急性呼吸器症候群(SARS)の経験などが生きた、と明かす。

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(杜若政彦総経理、南愼一郎総経理の記者会見資料から)

 都市封鎖が始まった1月24日以降も、イオン(湖北)商業有限公司の総合スーパーが営業を続けられたのはなぜか。「24日は春節の前日で大晦日にあたる日だったため、商品はいつもより多くそろえていた」。杜若は理由の一つをこのように説明した。品薄になった際には武漢以外のイオン店舗から商品提供支援も受けたという。さらに中国語と日本語で全従業員に向けてSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)発信を始め、営業を続け、商品価格も平常時と同じにすることを明らかにし、従業員の協力を求めたことも強調した。さらに5店舗交代で週に1日の定休日を設け、従業員の心と体のケアだけでなく自分が必要な買い物などもできるようにすることで、従業員たちの信頼も得たことも明らかにした。「中国人従業員の皆さんが勇敢に働いてくれた」と杜若氏は振り返る。

 武漢市民たちの生活が一段と厳しくなったのは、市民の買い物外出が3日に1回、2時間のみに制限された2月10日以降。「生鮮品は午前中に売り切れ。カップ麺、小麦粉、調味料、冷凍食品も15時の閉店時には売り切れ」(杜若氏)という状況になった。さらに2月下旬になって一切の外出禁止令が武漢市政府から発せられ、来店客がゼロになったため、ネット販売に切り替える。武漢市には20~40階建ての高層マンションが多い。バス会社や武漢市政府の支援のほか大学生ボランティアの協力も得て、商品をバスで運び、高層マンションの全居住者あての商品をマンションの管理人と受け渡しするといった方法をとった。

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(杜若政彦総経理、南愼一郎総経理の記者会見資料から)

「当初、店舗の周囲3~5キロ圏内の市民に配送していたがSNSでイオンの商品の評判が広まり配送要請が増えたため、地域を拡大し毎日3,000~5,000件、約3万人の客に50日間、配送を続けた」。杜若氏は商品調達が困難な状況で手配と価格を維持し続けたことの根底に、イオン創業家の家訓があることも強調した。困難な状況で相場が上がったときにも価格を上げることをせず、下がったときにたくさん売ってお客さんに貢献することをうたった家訓という。

 4月1日の営業再開まで専門店の休業を強いられた南愼一郎イオンモール(湖北)商業管理有限公司総経理は、新型コロナウイルスと闘う病院へ果物、マットレス、清涼飲料などを寄贈したことや、営業再開後の積極的な活動を紹介した。6月11日にイオンモール武漢金橋をリニューアルオープンし、食物販ゾーンに人気専門店26店舗を新たに出店した。さらに7月31日にはイオンモール武漢金銀潭の4階駐車場部分を店舗化し、約50店舗が新たに出店したという。

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武漢市内からビデオ会議システムを利用して記者会見する南愼一郎イオンモール(湖北)商業管理有限公司総経理

 南氏が明らかにしたことの一つに、日本政府の対応とは大きく異なる新型コロナウイルス感染に対する中国政府の積極的な取り組みがある。武漢市民1,000万人にPCR検査を実施することが発表されたのは、5月11日。イオンモール(湖北)商業管理有限公司のモール内にもPCR検査場が設けられ、イオンモール(湖北)商業管理有限公司の全従業員にPCR検査が実施され、全員陰性であることが確認されたという。

 また、武漢市が位置する湖北省の全市、自治州、区ごとにそれぞれ支援する他の省や市が割り振られていることも南氏は紹介した。この方式は、中国語では「対口支援」と呼ばれる。「口」は人を意味し、「対口」は互いにペアを組むという意味。全国の力を活かして地震被害地域の復興再建を促進するため、2008年5月12日に発生した中国四川省の汶川大地震(死者・行方不明者8万5千人)で導入された支援方式だ。山東省と北川羌族自治県、上海と都江堰市など東部と中部の19の省と市が、被災地とペアを組んでそれぞれの被災地に支援を行い、復興の大きな原動力となった。

 南氏が紹介した地図によると、今回の新型コロナウイルス感染に対しても同じ支援方式が採られている。上海市と天門市、安徽省と黄石市、江蘇省と孝感市など湖北省以外の省、市と感染者が集中した湖北省内の市、自治州のペアができていることが分かる。

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(杜若政彦総経理、南愼一郎総経理の記者会見資料から)

関連サイト

日本記者クラブ会見リポート「『新型コロナウイルス』そのとき武漢は 杜若政彦イオン(湖北)総経理、南慎一郎イオンモール(湖北)総経理

同「YouTube会見動画

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