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【21-09】国内接種率3.6%に留まる中国 副反応補償の新型コロナワクチン保険出現

2021年03月26日 小岩井忠道(アジア総合研究センター準備・承継事業推進室)

 新型コロナワクチンを69カ国に提供、28カ国に輸出している中国の国内ワクチン接種率は3.6%に留まることが、片山ゆきニッセイ基礎研究所准主任研究員の調査で明らかになった。国内接種が意外に少ない理由について片山氏は、国際的地位向上を重視する中国政府の方針に加え、国が直接関与(推進)しているワクチン接種の対象が感染リスクの高い医療従事者などに限られていることが影響しているとみている。このほか調査報告は、ワクチン接種による副反応などが現れた被害者に対し公的な救済措置がある日本と異なり、中国では実質的に民間保険に委ねられているという違いも明らかにしている。

69カ国、2国際機関にワクチン提供

 19日に公表された調査報告書によると、2月時点で、中国内で認可が得られているワクチンは、中国医薬集団(シノファーム)傘下の北京生物製品研究所と武漢生物製品研究所、科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)傘下の北京科興中維生物技術による3種類の不活化ワクチンと、康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)によるウイルスベクターワクチンを合わせた4種類。いずれも国内製薬企業の製品だ。

 これまで自国製の新型コロナワクチンを世界69カ国、2国際機関に提供、28カ国に輸出している。また、国際オリンピック委員会(IOC)に対して中国オリンピック委員会が、東京オリンピックの開催に際してワクチンを提供する意思を伝えた、との報道もある。一方、中国政府の新型コロナ専門家チームを率いる感染症専門家、鐘南山氏は、3月1日に清華大学と米国ブルッキングス研究所が共同開催したフォーラムで、中国の国内接種率が3.6%に留まることを明らかにした。鐘氏は、イスラエル92.5%、アラブ首長国連邦(UAE)60%超、英国30%超、米国22%という接種率に比べ、中国の接種率が非常に低いことを認めている。

 中国疾病コントロールセンターは、ワクチンを増産して来年半ばまでに9億~10億人分の接種量を確保し、国内の接種率を年末から来年半ばで70~80%まで一気に引き上げる方針を発表済み。1月には、ワクチン接種の無償化も発表している。これまで接種率が低かった理由として片山氏は、中央政府が昨年12月から医療関係者や出入国ゲート職員、海外での感染リスクがある人などに優先的に接種していることを挙げている。さらに一般市民の接種は地方政府が中心となって進めているため、北京市など接種が進む一部地域と遅れている地域とで大きな差ができている影響の可能性も指摘している。

副反応補償は民間任せ

 報告書でもう一つ目を引くのが、ワクチン接種による副反応などが現れた被害者に対する中国と日本の補償の違い。日本では、予防接種健康被害救済制度に基づいて、集団予防を目的としたワクチン接種の場合、死亡時は遺族に対して一時金4,420万円が支払われる。常に介護が必要な障害(1級)を被った場合にも、障害年金として年額505万6,800円(18歳以上の場合)が支払われるといった救済措置が適用される。

 これに対し中国は、疾病予防に伴うワクチン接種により死亡あるいは、高度後遺障害、器官・組織に傷害を受けた場合、補償を行うべきだ、と「中国ワクチン管理法」が定めてはいる。しかし、その金額は明示されてなく、補償については民間保険の活用を奨励するとしている。つまり、ワクチン接種の副反応への補償は、民間保険に委ねられている状態にある、と調査報告は指摘している。

低額の「ワクチン保険」や会員向け無料保険も

 こうした状況を受けて保険各社から販売され始めているのが、新型コロナウイルスのワクチン接種に特化した「ワクチン保険」。例えば国有最大手、PICC(中国人民人寿)の「ワクチンガード保険」(疫苗衛士医療意外保険)は、65歳までを対象にワクチン接種後の副反応による死亡、高度後遺障害、入院などに対して補償する。期間は1年で、保険料は20元(320円)と低額。死亡時には最高50万元(800万円)が給付される。

 

「ワクチンガード保険」の給付内容

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(ニッセイ基礎研究所レポート「『コロナワクチン保険』の出現(中国)」から)

 この保険は、偶然事象(ワクチン接種時に別の疾病の潜伏期間や発症前の状態で、接種後に発症するケース)の場合にも給付される。PICCが指定した医療機関で診断後、180日以内に死亡した場合は死亡保険金が、生命保険障害評定基準に基づいた障害に認定された場合は、障害レベルに応じた給付率を乗じた上で保険金が支払われる。死亡保険金は10歳未満が20万元(320万円)、10歳以上は50万元(800万円)だ。

 保険会社のこうした動きは、今後の接種拡大を見越したものだが、無料での保険サービス提供といった支援の広がりも見られる。テンセント(騰訊控股)グループ傘下の微保(WeSure)は、ユーザー向けに無料の「新型コロナワクチン接種お守り保険」(護身福・新冠疫苗接種意外保険)を提供している。対象年齢は100歳まで。医療機関で指定したワクチンを接種した後に副反応と診断され、180日以内に障害が認められた場合には最高2万元(32万円)が給付される。政府が指定した予防接種機関で接種したものの、ワクチンの免疫機能が発揮されず6カ月以内に新型コロナウイルスに感染した場合でも、5,000元(8万円)の補助が支給される。

相次ぐ偽ワクチン事件報道

 ワクチンの製造、供給能力のわりに中国国内でのワクチン接種率が少ない。こうした現実にあるいは関連するのではないか、ともみられる犯罪報道が最近目につく。国際刑事警察機構(ICPO、本部フランス・リヨン)は3月3日、南アフリカと中国の当局が、偽の新型コロナウイルスワクチンの密売組織を摘発し、計約80人を拘束したと発表した。南アフリカ当局はハウテン州の倉庫で、約2,400回分に当たる偽ワクチンの小瓶約400個を発見し、中国国籍の3人とザンビア国籍の1人を拘束した。また中国の警察は、偽ワクチンの密売ネットワークを突き止め、製造拠点を捜索して約80人を拘束し、多数の偽ワクチンを押収した、とされている。また、3月8日には、中国最高人民検察院(最高検)の張軍検察長(検事総長)が、偽ワクチン製造などの取り締まりを強化した結果、昨年1年間で、新型コロナウイルスに関連した犯罪による逮捕者が約7,000人、起訴した数が約1万1,000人に上ったことを明らかにしている。

関連サイト

ニッセイ基礎研究所レポート「『コロナワクチン保険』の出現(中国)

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