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【22-04】老後保障中国の大きな課題に 新型コロナ禍と高齢社会突入で

2022年02月18日 小岩井忠道(科学記者)

 中国は昨年、65歳以上の高齢者の総人口に占める割合が初めて14%を超し、「高齢社会」入りした。65歳以上の割合が7%を超す「高齢化社会」から「高齢社会」に移行するまでに要した期間は20年。このスピードは、1994年に高齢社会に入った日本の24年を上回る。さらに新型コロナウイルス感染拡大が年金財政を直撃し、2020年の公的年金の積立金残高は前年に比べ大幅に減少した。片山ゆきニッセイ基礎研究所准主任研究員は、中国の年金や保険の現状を詳しく紹介したレポートの中で、老後保障にかかわる制度の整備や年金市場の育成が中国にとってさらに重要な課題になっている、と指摘している。

65歳以上が総人口の14.2%に

 片山氏は15日、「高齢社会に突入した中国と年金市場」と題するレポートを公表した。中国の65歳以上の人口は2021年に2億56万人となり、総人口(14億1,260万人)に占める割合は14.2%。出生数は前年比140万人減少の1,062万人となり、出生率も1,000人あたり7.52と最低となった。出生数から死亡数を差し引いた人口の純増はわずか48万人。片山氏は中国国家統計局が今年1月17日に公表したこうした数字を紹介し、「このままの状態では近い将来、総人口の減少についても現実味を帯びることになる」との見通しを明らかにしている。

「高齢化社会」から「高齢社会」へ移行するのに要した年数は、アジアは欧州に比べて総じて短い。中国の20年という年数は、シンガポールと同じで、韓国の18年よりは長いが日本の24年より短い。公的年金制度など中国の老後の生活を支える柱がどのような状況にあるかを片山氏は詳しく紹介している。

 豊かになる前に高齢化が進展することを意味する「未富先老」は、すでに中国の大きな問題となっている。急速に進む高齢化対応として中国政府は、公的年金制度を第一の柱、企業を中心とした年金制度を第二の柱、私的年金を第三の柱に、老後の生活を支えようとしている。ただし、第二、第三の柱は、普及はこれからという段階にあり、第一の柱であり公的年金制度が大きな位置を占めるのが現状。公的年金制度は、主に都市の会社員と公務員を対象とした「都市職工年金」(強制加入)と、都市部の非就労者・農村部住民を対象とした「都市・農村住民年金」(任意加入)から成る。「都市職工年金」の保険料率は、基本的に雇用主負担が16%、従業員負担が8%の計24%となっている。

公的年金積立金2020年に減少

 公的年金制度については、新型コロナ禍以前からさまざまな課題を抱えることが、日本の研究者によっても指摘されていた。都市職工年金と都市・農村住民年金とも保険料の収支が悪化、2016年には合わせて4,000億元を超す赤字に陥っていることを、澤田ゆかり東京外国語大学総合国際学研究院教授が2019年7月、科学技術振興機構主催の研究会で明らかにしている。

 片山氏のレポートによると、2020年の公的年金の積立金総額は約5兆8000億元。このうち83%の約4兆8,000億元が「都市職工年金」だ。前年に比べ大幅に減少し、前々年よりも下回った。大幅減の理由は、都市職工年金のうち公務員を除く都市の会社員を対象とした保険料収入が、前年比30.4%減となったことが大きい。新型コロナ禍対応として企業の負担軽減を目的に2020年に実施された保険料負担の減免措置のためだ。財政補填(てん)を前年比12.2%増の6,271億元まで増加したものの支出(給付)がまかなえず、単年度収支は6,494億元の赤字となった。

 中国社会科学院は2019年4月、企業負担の保険料率(16%)のままで推移した場合、2027年に積立金が減少に転じ、2035年に枯渇するとの推算を発表した。新型コロナ禍により、この見通しも大幅に狂ったことになる。

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(片山ゆきニッセイ基礎研究所准主任研究員レポート「高齢社会に突入した中国と年金市場」から)

公務員優遇の格差是正も課題に

 新型コロナ禍対応として企業の保険料負担減免措置とともに2020年に実施された社会保険への財政補填は総額2兆1,016億元(前年比10.0%増)に上るが、このうち年金関連が1兆4854億元(前年比12.5%増)と全体の70.7%を占めた。年金関連の財政補填のうち、保険料が減免された都市の会社員向け基金へは6,271億元、公務員向けの基金へは5,448億元が拠出された。これは4,000万人ほどの公務員や団体職員年金制度に、約4億人の都市の会社員とほぼ同規模の財政補填がされていることを示す。公務員の年金制度への優遇が財政面からも明確なことから、「制度間の受給格差を是正する上で公的年金制度の構造的な改革や見直しも必要」と、片山氏は中国政府が抱える新たな課題を指摘している。

役割増す企業年金、私的年金

 公的年金以外の第二、第三の柱について中国政府の対応はどうか。公的年金制度については、地域格差が拡大している問題点がすでに澤田ゆかり東京外国語大学教授らによって明らかにされていたが、片山氏もすでに昨年7月に公表したレポートの中で、地域格差が大きい現行年金制度を補完する民間保険の役割が大きくなっていることを指摘している。今回のレポートの中でも、企業を中心とした年金制度(第二の柱)、私的年金(第三の柱)への加入を奨励する中国政府の取り組みを紹介している。特に第三の柱とする私的年金については、課税繰り延べ型の年金保険の販売、地域を指定した年金保険の開発など、中国政府が規制緩和や新たな取り組みを通じてさらなる普及を目指している現状に注意を促した。

 2025年までに、責任準備金の規模を2020年の10倍に相当する6兆元まで拡大するという目標も掲げ、年金市場を運用する保険資産管理会社の外資出資比率の上限(25%)撤廃などの検討も始まっている。こうした中国政府の動きも紹介したうえで片山氏は「中国が高齢社会に突入したことによって、老後保障にかかわる制度の整備や年金市場の育成はその重要性をさらに増している」と、今後の中国政府の取り組みを注視している。

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(片山ゆきニッセイ基礎研究所准主任研究員レポート「高齢社会に突入した中国と年金市場」から)

 中国の急速な高齢化については、中国政府自身が重要視しており、現在の第14次5カ年計画(2021-2025年)でも、高齢化問題への対応は国家戦略に位置付けられている。昨年、中国が日本を上回るスピードで高齢化社会から高齢社会に移行したことについて片山氏は「新型コロナによる出産を控えた点の影響はあろうかとは思うが、長期にわたる人口抑制政策、それによる出生数の減少、出生に対する考え方の変化によるものが大きいと考えられる」との見方を示している。

関連サイト

 片山ゆきニッセイ基礎研究所准主任研究員レポート「高齢社会に突入した中国と年金市場

 中国国家統計局「2021年国民経済持続恢復発展予期目標較好完成」(2022年1月17日)

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