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【24-05】2023年中央経済工作会議を読み解く(その3)

2024年01月23日

田中修

田中 修(たなか おさむ)氏:
拓殖大学大学院経済学研究科 客員教授
財務省財務総合政策研究所特別研究官(中国研究交流顧問)

略歴

 1958年東京に生まれる。1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信州大学経済学部教授、内閣府参事官、財務総合政策研究所副所長、税務大学校長を歴任。現在、財務総合政策研究所特別研究官(中国研究交流顧問)。2018年4月~22年3月奈良県立大学特任教授。2018年12月~23年3月ジェトロ・アジア経済研究所上席主任調査研究員。2019年4月~拓殖大学大学院経済学研究科客員教授。2024年1月~三井物産戦略研究所特別研究フェロー。学術博士(東京大学)

その2 よりつづき)

5.総括[5]

 経済情勢に対する党中央の科学的判断を深く理解し、経済政策をしっかり実施することへの責任感・使命感を確実に増強し、全ての有利なタイミングをしっかり掴み、全ての有利な条件を利用し、見定めたらしっかり取り組み、できる事を一層実施し、自身の政策の確実性によって情勢変化の不確定性に対応するよう努力しなければならない。

 24年の経済政策の総体要求を全面貫徹し、速度・質、マクロデータとミクロの感覚、経済発展と民生改善、発展と安全保障の関係のしっかりとした把握・処理に注意し、経済の回復上昇・好転の態勢を不断に強固化・増強しなければならない。

 24年の経済政策の政策方向を正確に把握し、政策実施面では協同・連動、組合せ効果を拡大し、政策準備面では前倒しするもの・残しておくものの度合いを調整し、政策効果の評価面では有効性と獲得感の増強を重視し、質の高い発展をマクロ政策が支援する効果の向上に力を入れなければならない。

 政策推進の方式・方法を講究し、主要な矛盾をしっかり掴み、ボトルネックの制約を突破し、将来を見据えた配置を重視し、24年の経済政策の重点任務の実施・実現を確保しなければならない。

 奮起して取り組む精神状態を常に維持し、「国の大事」を胸に抱き、主動的に責任感をもって取り組み、協同・連携を強化し、牽引性・呼び水効果の強い政策の掴みどころを積極的に計画し、しっかり用いて、質の高い発展を着実に推進しなければならない。

 党の全面指導を堅持・強化し、経済政策に対する党中央の重大政策決定・手配を質高く実施しなければならない。

 割り引くことなく実施に取り組み、最終効果の党中央の政策決定意図への合致を確保しなければならない。厳格・迅速に実施に取り組み、タイミング・程度・効果を統一的に把握しなければならない。実務に励み、形式主義・官僚主義を断固是正しなければならない。勇気をもって取り組み、正確な人材起用方向を堅持し、各レベル指導幹部の積極性・主動性・創造性を十分発揮しなければならない。

 テーマ教育の成果を強固にして拡大し、質の高い発展推進の成果に転化しなければならない。

 年末・年初の重要民生商品の供給保障・価格安定にしっかり取り組み、出稼ぎ農民の賃金が期日通り全額支払われることを保障し、困窮大衆の仕事・生活に関心を払い、安全生産の責任制を深く実施し、人民大衆の生命・財産と身体の健康をしっかり守護しなければならない。

 全党は習近平同志を核心とする党中央周囲に緊密に団結し、自信を確固とし、開拓・奮闘・前進し、経済社会発展の各項目・目標任務の実現に努力し、質の高い発展の実際行動・成果によって、中国式現代化による強国建設・民族復興の偉業を全面推進するために、新たにより大きい貢献を行わなければならない。

おわりに

 今回の会議の特徴としては、以下の点が挙げられよう。

 第1に、党3中全会が開催されない状態で、中央経済工作会議が先行したことである。

 本来であれば、党大会ないし党中全会が先に開催され、その内容を踏まえて中央経済工作会議が翌年度の経済政策を決定することになる。しかし、今回は党3中全会の開催が間に合わなかったため、表現は慎重な言い回しとなっている。

 第2に、「5つの必須」が習近平経済思想に新たに組み込まれた。

 ①質の高い発展を堅持することを新時代の絶対的道理とし、②サプライサイド構造改革の深化と、有効需要の拡大への注力に協同で力を発揮することを堅持し、③改革開放に依拠して発展の内生動力を増強し、④質の高い発展とハイレベルの安全保障の良性の相互作用を堅持し、⑤中国式現代化の推進を最大の政治としなければならない、という「5つの必須」は、習近平経済思想を更に豊富に発展させたものと受け止められており、今後は経済政策の柱となるものと考えられる。

 第3に、マクロ政策の基本方針では、新規の表現がみられた。

 これまでの「『穏(安定・安全)』の字を第一とし、安定の中で前進を求めることを堅持する」という表現が、「安定の中で前進を求め、前進により安定を促し、先に新制度を打ち立てて(「立」)から旧制度を廃止(「破」)することを堅持する」に改められた。前進が安定と対等な位置づけとなり、新制度の確立優先が強調されたことにより、全体としてこれまでよりも表現が前向きになっている。今の経済の停滞感を打ち破るためには、このような表現の変更が必要と考えられたのであろう。

 第4に、財政・金融政策について、これまで大型の景気刺激策を求める声があったにも関わらず、表現は比較的穏やかなものとなっている。

 財政政策については、「適度に力を加える」となっているが、国務院発展研究センターマクロ経済研究部の張立群研究員は、「この『適度』は、中国は一部の先進国のように、バラマキ式の強い刺激を行わず、むしろ政策の質・効率を重視し、より正確に当を得た程度で経済発展を推進することを意味している」と説明している(新華社北京電2023年12月13日)。

 既に、10月末の1兆元国債増発で、財政赤字の対GDP比は3%から3.8%に引き上げられているので、「適度に力を加える」とは、24年の比率を最終的に4%程度に高めることを念頭に置いているのかもしれない。

 1兆元の追加国債のうち、元々5000億元は24年に使用されることになっており、23年分の5000億元も2ヵ月で全額使い切ることは難しく、最初に下達された金額は2379億元でしかない。この内訳は、災害復旧・再建と防災・減災・災害救助能力向上補助金が1075億元、東北地域と北京・天津・河北被災地域の高基準農地整備補助金が1254億元、重点自然災害総合対策システム建設プロジェクト補助金が50億元となっている(新華社2023年12月18日)。資金使用先がかなり限定的となっており、バラマキを防ごうとしていることが分かる。また、12月末には第2弾として5646億元が下達されているが、具体的プロジェクトの実施は24年になるものと思われ、資金的にはまだ余裕があるため、当面は「適度」としたのであろう。

 他方で、「財政の持続可能性の増強」という政府債務の膨張に歯止めをかける表現も、記述の場所が後方に下がったものの、まだ存続している。

 第5に、政策の統合・一致性が強調されている。

 経済政策の総体要求では、「内需拡大とサプライサイド構造改革の深化を統一し、新しいタイプの都市化と農村の全面振興を統一し、質の高い発展とハイレベルの安全保障を統一」することが要求され、重点政策では「消費と投資が相互促進する良性循環を形成する」、

「不動産・地方債務・中小金融機関等のリスクを統一的に解消する」、「新しいタイプの都市化と農村の全面振興を有機的に結びつけ、都市・農村の融合発展の新たな枠組を形成しなければならない」とされた。各政策相互の関連性を重視し、これまでの官庁ごとの縦割りの政策を総合化しようとする姿勢がみられる。

 また、「財政・金融・雇用・産業・地域・科学技術・環境保護等の政策の協調・連携を強化し、経済以外の政策をマクロ政策の方向の一致性の評価に組み入れる」こととされた。現在の最大の課題は、経済の早急な回復・好転であり、24年は経済以外の政策もこの目的に奉仕することとされたのである。

 第6に、科学技術イノベーションが一層重視されている。

 経済政策の総体要求に「ハイレベルの科学技術の自立自強を推進しなければならない」という表現が初めて盛り込まれ、重点政策の筆頭も「科学技術イノベーションにより現代化産業システムの建設をリードする」とされた。特に重視されているのは、「新たな質の生産力」であり、その中心はバイオ製造・商業宇宙活動・低空域経済等の戦略的新興産業と、量子・生命科学等の未来産業である。先進国のデリスク政策が強化されるなか、科学技術イノベーションの加速が重要課題となっているのであろう。

 第7に、精神主義的な表現が目立つ。

 今回は、「自信」「気力」「活力」という言葉が強調され、そのために「経済の宣伝と輿論の誘導を強化し、中国経済光明論を鳴り響かせなければならない」とされている。民営企業・外資企業が中国経済の先行きに確信がもてず、新規投資・事業拡張に慎重になっている情況を、中央がいかに懸念しているかが分かる。

 このため、重点政策では「民営経済の発展・壮大化を促進」し、「社会(民間)資本が新しいタイプのインフラ等の分野の建設に参加することを支援」し、「外国籍者の中国でのビジネス・学習・観光の制約を確実に打破する」と、民営企業・外資企業に気を遣った表現が目立つ。

 ただ、民営企業・外資企業に、輝かしい未来のストーリーを華々しく宣伝するだけでは、彼らの自信を回復させるには不十分であろう。必要なのは、「改革の全面深化」「ハイレベルの開放拡大」「市場経済化の一層の推進」「民営企業・外資企業と企業家の財産権・権益の保護」といった、彼らが中国経済の将来に確信がもてるような表現が、今後開催される党3中全会決定にしっかりと盛り込まれ、実際に関連政策が着実に実施されることである。

(おわり)


5 以下は、李強総理の総括講話の概要とみられる。


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