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【19-07】中国の国際教育課程の導入と現状について―当事者に聴く中国教育事情

2019年7月17日 王璨(JTB日中教育交流中心)/伊藤裕子(日本語校正)

はじめに

 以前の記事で国際学校というテーマを取り上げ、中国の国際学校の現状について解説しましたが、近年ますます中国も日本も教育(学校)のグローバル化が進んでいます。学校内の教育課程も多様な国際教育課程・制度を導入しており、学生にとって国内で進学する以外の海外留学への選択肢も更に多様化しています。世界中で多くの学校がCambridge International教育システム※を導入し、中国において、その数は300校を越えています。また、最近は日本の大学も入学資格にIGCSEレベル試験とAレベル試験の成績を認定しています。中国人学生にとって日本留学への門戸が更に広がりました。

※ General Certificate of Education Advanced Level(通称GCE Aレベル)はイギリス本土で使われている高校卒業・終了証書で、本文Cambridge International教育システムはイギリス以外の海外学生が利用している国際教育課程を指します。

 今回は北京に拠点を置いているCambridge Assessment International Educationの東アジア地域総監、趙静(Zhao Jing)博士にインタビューしたものをまとめました。

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趙静博士

「中国の国際教育課程の導入と現状について」

1.Cambridge International 教育システムについてご紹介いただけますでしょうか。

趙博士: Cambridge International教育システムはイギリスのケンブリッジ大学から発足した国際教育システムで、5歳から19歳の学生に向け小学、中学、高校基礎(IGCSEレベル)、高校高級(Aレベル)の4段階の国際的な教育を提供しています。現在、世界の160カ国において1万校以上のケンブリッジ認定校がCambridge International教育システムを導入しており、およそ百万人の学生に授業を実施しています。多くの利用者がいることはCambridge International教育システムが教育機関や企業など社会に広く認められている証になります。

 Cambridge International教育システムが広く認可されるのには、いくつかの理由があります。まず、多様な科目選択が異なった国の異文化に融合できることを可能にしています。Cambridge International教育システムの高校教育段階にはIGCSEレベル(高校基礎)とAレベル(高校高級)教育プロセスに分けられています。IGCSEレベルは70科目以上、Aレベルは50科目以上を設置し、語学、数学、科学、人文社会学およびキャリアイノベーションなど広い学問分野をカバーしています。

 また、Cambridge International教育システムの開発や研究、評価制度などはプロの教育専門者が担当し、発行された証明書は世界中で広く認められています。また、グローバル化の進歩に伴い、新しく「グローバル視野科目」を開設し、全教育システムの学生に向け提供しています。

 また、Cambridge International教育システムはイギリス発足ですが、国際的な評価基準や専門性を有するため、評価制度がイギリスの教育政策変革により影響を受けない独立性を保っています。

2.東アジア、特に中国と日本においてCambridge International教育課程の導入現状についてお話を伺ってもよろしいでしょうか。

趙博士: 現時点の数字からみると中国では大盛況ともいえます。ケンブリッジ認定校数が300校を越え、今年だけで、およそ50校の学校がケンブリッジ認定校申請プロセスを行っています。その中で90%以上の学校は高校段階の教育プロセス(IGCSEレベル(高校基礎)とAレベル(高校高級))を実施しています。また、東アジアにおいて、Cambridge International教育を受けている学生数は12万人となり、そのうち中国人が10万人を占めています。これも東アジア地域の拠点を中国・北京に置いた理由です。本機構のデータによると、中国のケンブリッジ認定校数は上海、江蘇省、広州、北京という順番で並んでいます。

 日本の場合、ケンブリッジ認定校は12校で、およそ200人の学生がCambridge International教育を受けています。

3.なぜ中国と日本、それぞれCambridge International教育課程導入の現状が異なっているのかについて、ご意見をお聞かせいただけますか。

趙博士: それぞれ異なった国の政策と社会的要因があると思います。中国の場合、近年中間層が増え、家族の子供への教育投資が多くなり、特に大都市において海外留学ブームの余熱がまだ残っており、早い段階から子供を海外へ留学させる準備をし始めます。また、政府の私立資本の建学に対する政策緩和などがあって、多くの私立国際学校が建てられ、国際教育システムを導入し、多くの海外留学希望者の需要に応えています。

 2017年4月から日本の文部科学省よりCambridge International教育の証明書を高校卒業証明書として日本の大学に入学申し込みができると認可がおりました。しかしこれまでのところ本機構HPに登録されているCambridge International教育の証明書を認可している日本の大学は12校(国立・私立合計)のみです。

リンク:データベース登録認可大学一覧
http://recognition.cambridgeinternational.org/SearchRecognitionsResults.aspx?cnt=110&prv=&insnme=&ins=HFE&CIGCSE=&CIAS=1&PreU=&CID=&PDQ=&GPR=&WQ=-

 日本の教育もグローバル化が進んでおり、さまざまな教育推進政策が打ち出されています。今後期待しているのは「スーパーグローバル大学創成」プログラムです。まずこのプログラム内の大学と提携し、Cambridge International教育システムの良さを伝えていき、より多くの大学から認可をだしていただきたいと思います。

4.北京に拠点を置いて、どのような形でCambridge International教育システムを拡大しているのでしょうか。

趙博士: 東アジア拠点は2001年から北京に設置しています。当時はリエゾンオフィスの機能のみ果たしていましたが、2014年から東アジア地域におけるCambridge International教育が大いに発展していったにつれ、現在では北京、上海、広州、成都の4つの拠点で以下の五つの機能を果たしています。

(1)ケンブリッジ認定校の申請をしている学校への審査

(2)地域内の認定校のサポート(主に教員へのトレーニング)

(3)大学におけるCambridge International教育システム、特にIGCSEレベルとAレベルへの認可の拡大

(4)イベントの主催(ケンブリッジ優秀学生表彰式、ケンブリッジ認定校大会、留学フェアなど)

(5)その他機関主催のイベント参加

5.今後、東アジアにおいてのCambridge International教育システムについて、何か期待がありますでしょうか。

趙博士: 今後への期待というより、我々の今後のミッションは、Cambridge International教育システムを拡大すると同時に、「質と量」のバランスをよく取ることです。なぜかというと、ハイクオリティの教育を保つことが直接学生の学力養成につながります。個々のケンブリッジ認定校へのサポートと認定校申請への審査基準を厳しく維持することを非常に重要視しています。これは学校にだけではなく、高校入学する時点で海外留学を決めた学生個人に対する責任も強く持ちたいと思うからです。

 また、Cambridge International教育システムの東アジア地域は、主に中国(大陸部、香港、台湾、マカオ)、日本、韓国、モンゴルで構成されています。その中で最も積極的に取り組んでいるのは中国ですが、我々は日本の教育のグローバル化に大変期待しています。東アジア地域において重要な位置にあると認識しています。優秀な大学、先進的な教育制度、リーズナブルな学費などの要素により、日本は留学目的地として優れた選択肢になっています。

 本日インタビューを受けていただき、ありがとうございました。


※本稿は、JTB日中教育交流センターが発行しているメールマガジン「当事者に聴く中国教育事情」2019年・第74号を、JTB日中教育交流センターの許可を得て編集し転載したものである。

筆者より

 「当事者に聴く中国教育事情」は2010年に中国現地にいる日本留学志望者に資するために設立した大学連合事務所の定期情報として発刊しました。2015年4月に現在の名称・体裁に変更しました。私たちは中国の学生向けに日本の大学について定期的に情報を提供しておりますので、より多くの日本の大学と情報交換したいと思います。ぜひお気軽にご連絡ください。

 E-mail: image(代表) mail(王璨)