【20-01】深圳市の高等教育機関 「深圳スピード」で急速に発展
2020年1月23日 劉伝書(科技日報記者)
深圳市では経済が急速に成長、高等教育の発展も「深圳スピード」の代弁者に(筆者撮影)
外地人材の定住を受け入れ、国の発展も支援
「粤港澳大湾区」(香港・マカオ・珠江デルタの9都市を統合したグレーターベイエリア。以下、「大湾区」)の中核的エンジンとして、中国の特色ある「社会主義先行モデル区」である深圳市の戦略的ポジションは非常に重要である。「211工程(21世紀に向けて中国の100の大学に重点的に投資する計画)や985工程(中国の大学での研究活動の質を国際レベルに上げるために、211工程の中で限られた重点大学に重点的に投資していくプログラム)、双一流大学(世界一流大学・一流学科の略称。21世紀中葉に高等教育強国を築くことを目標とした高等教育政策)といった政策の力がなければ、深圳は人材を誘致できただろうか。地域発展のための人材ニーズに応える上で、他に拠り所はなかっただろう」。深圳に関心のある人なら、誰でもこう語るだろう。
深圳の人々には、はっきりとした自覚がある。「深圳の高等教育は一定の進歩を遂げたが、北京、上海、広州等の一線都市と同列に論じられるものではない。都市独自のイノベーションや発展のニーズとは大きな隔たりがあり、『社会主義先行モデル区』として先行して模範を示すという責任を果たすには遠く及ばない」と、深圳市教育局の許建領副局長も言う。
しかし、現在の深圳には変化が見られる。中国教育部弁公庁はこのほど「2019年度国家級および省級の一流本科大学専攻構築ポイントリスト」を公布したが、深圳大学の15専攻がこのリストに選ばれたのだ。
昨年、中国共産党中央政治局と国務院は「粤港澳大湾区発展計画綱要」を公布し、大湾区を教育と人材の面で影響力を持つ重要なエリアとして育て上げ、大湾区における国際教育モデル地区の構築を支援し、世界の有名大学や特色ある学科を誘致し、世界一流大学と一流学科の構築を推進することを明確に打ち出した。
かつては「教育砂漠」だった深圳も、今や「教育の緑樹」があふれるようになったのである。
「一夜にして台頭」した深圳の高等教育
「深圳スピード」には高等教育の不足を補う速度がある。深圳大学は1983年に創立されたが、当時の深圳市の年間財政収入は1億元にも満たなかったのに、5,000万元が大学の立ち上げに捻出された。深圳大学は設立計画からわずか8ヶ月で第一期生を募集し、開学した。当時、深圳市に2台しかなかったベンツの車も、1台は市長に、もう1台は深圳大学の学長に支給された。
2012年設立の南方科技大学も、数十年、さらには百年の歴史を誇る中国の他の名門校と比べれば確かに歴史が浅く、人気も劣るが、2019年9月12日に発表された「世界大学ランキング」(2020年版)にランクインした中国の81大学の中で9位に入り、深圳大学は21位となった。多くの985工程や211工程、双一流大学に含まれる大学を振り切って上位に躍り出たこの2つの大学は、まさに「一夜にして台頭した」大学と称するにふさわしい。
また、高等教育における改革は、深圳の高等教育全体に及んでいる。たとえば、南方科技大学では学生募集の成績評価に「6+1+3」の総合評価モデルを採用しており、「高考」(大学入学統一試験)の成績を60%、高等学校での「高中学業水平考試」の成績を10%として評価した上に、同大学の行う能力試験の成績を30%として加えて合格者を決めている。これは、中国の高等教育機関ではほとんど見られない方法だ。さらに、同大学は設立からわずか6年で博士学位授与機関として認可され、中国において最短スピードでこの認可を受けた高等教育機関となった。
一方、深圳大学では人材誘致を重点に位置づけ、諸外国の研究者や中国の各種計画人材等を100人以上採用している。南方科技大学も設立当初から国際化を行っており、諸外国の研究者が39人在籍し、教員の90%以上に海外での勤務経験があり、60%以上に世界の上位100大学での勤務経験や就学経験がある。
2019年に設立された深圳技術大学で新入生を迎えたのは、商学部長のホルガー・ハルデンワン博士であり、かつてはドイツのレーゲンスブルク応用科学大学で副学長を務めていた。
こうして、トップ人材の誘致を特に重視した大学は、教育版「深圳スピード」の代弁者となっている。
「来てしまえば深圳人」
深圳大学、南方科技大学、深圳技術大学は深圳市自らが設立した大学の例に過ぎない。これ以外に、中国内外からさらに多くの高等教育機関が深圳市にやってきて、大学を設立している。過去20年の間に、有名校のトップを誇る人材リソースが深圳に相次いで押し寄せてきており、その例としては清華大学深圳研究生院(大学院)、北京大学深圳研究生院、中国科学院大学深圳キャンパス、香港中文大学(深圳)、中国科学院深圳理工大学等が挙げられる。深圳市が公布した「高等教育の発展を加速することに関する若干の意見」によれば、深圳市では2025年までに高等教育機関を20ヵ所前後に、全日制の大学生を25万人に増やし、中国の高等教育における先進都市となることを目標としている。
また、深圳市ではハイレベル人材への補助金を無差別に支給しており、条件を満たしさえすれば、どの大学に進学しても政府からの補助金を受けられる。「深圳大学城」(University Town of Shenzhen)は深圳市政府の「ターンキー・プロジェクト」であり、大学は一銭も払わずとも入居できる。深圳市は高等教育に大規模な投資を行っており、財政投資は年20%以上のスピードで増加している。その投資規模は北京市、上海市に次ぐもので、学生1人あたりの経費基準は同省内の他の高等教育機関の2倍に上る。
こうして、より多くの優秀な大学入学希望者や試験の高得点者が深圳市での就学・就職を選ぶようになり、深圳市ではより多くのトップ人材の定住を受け入れている。北京大学の匯豊商学院は2011年にノーベル経済学賞を受賞したトーマス・サージェント氏を迎えて同氏を所長とする「サージェント数量経済・金融研究所」を設立し、西洋経済学の博士課程の大学院生の受け入れを開始した。香港中文大学(深圳)もノーベル賞受賞者を含む多数の有名な教授や研究者を誘致し、大学本科生向けにノーベル賞受賞者による講座を開講している。
深圳市は歴史的に他の地方の出身者のいない場所であり、地元の人間もいない場所だ。その開放的な性質から、どこの高等教育機関であっても「来てしまえば深圳人」になり得る。域外資本も合弁資本も、地元資本と変わるところなく、全てが「深圳の大学」になれるのだ。
複雑な環境には「高等教育特区」が必要
「深圳市全体の高等教育機関を総合的に見ても、ハイレベル人材は主に外からの誘致にかかっている。深圳市独自のイノベーションに対して高等教育機関は貢献不足であり、深圳市のハイテク産業の発展のニーズに応えられていない。有名大学の分校を誘致したり、提携したりすれば一定の問題は解決できるが、深圳市では中国本土のハイレベルな高等教育機関と都市の科学技術産業体制との高度な融合や相互発展が不足している」。南方科技大学の陳十一学長は、2019年の「深圳市両会」(人民代表大会・人民政治協商会議)でこう発言した。
また、深圳大学の李清泉学長も、「高等教育・科学イノベーション・湾区(ベイエリア)」シンポジウムにおいて、「一流のベイエリアには一流の人材と一流のイノベーション成果が必須だ。誘致に完全に頼ってはならない。大湾区には高い資質のある人材とハイレベルなオリジナルの研究成果を生む能力が必須であり、これには世界一流の大学群を建設する必要がある」と語っている。
実際のところ、李清泉学長は2018年の全国両会(全国人民代表大会・全国人民政治協商会議)で湾区連合大学の構想を提起している。李学長は、「『粤港澳』3地区(広東省、香港、マカオ)の政府は、大学との提携や社会からの協力を通じて新たな時代の新しい連合大学として『湾区連合大学』を設立し、これを地域の高等教育の協力の場やセンターとして育成し、これによって『粤港澳』3地区の高等教育交流・協力体制における障壁を打破し、香港・マカオの青年の国家意識と愛国精神を深め、大湾区における高等教育の協調的発展を推進する」ことを提案した。また、2019年の全国両会においても、李学長は再び「深圳高等教育特区」を設立するという構想を提案している。つまり、政府が特区に与える一連の高等教育の先行的な改革政策を通じて、大湾区の高等教育における協力体制に存在する障壁を打破し、世界レベルの大湾区(グレートベイエリア)の建設にふさわしい高等教育の協調的イノベーション・発展に向けた新たな体制や新たな体系の構築を模索するというものだ。李学長によれば、「大湾区には1つの国家、2つの制度、3つの関税区とそれぞれの行政管理体制があり、世界中のベイエリアでも最も複雑な構成であることも、大湾区での高等教育建設に高い要求をつきつけている。このため、『粤港澳大湾区高等教育合作基金』を設立し、これを大湾区における高等教育の融合的発展に関するプロジェクトに利用して関連計画を実現したり、または教員同士の相互招聘・相互訪問や単位互換、奨学金の設立等の費用として利用したりできるようにする必要がある」。
陳学長も同様の考えがあり、「粤港澳湾区大学の設立こそ、大湾区における今後の発展の極めて重要な一歩であり、中国の高等教育にとって重要な一歩でもある」と語る。
深圳の人々はまさに広い視野で高等教育の発展を画策している。彼らが思い描くのは、深圳市の高等教育機関の単なる連携・協力にとどまらず、高等教育機関の連携が大湾区や「社会主義先行モデル区」としての深圳市の発展の下支えとなることである。陳学長は、「深圳市は改革都市である。イノベーションさえあれば、時代を改革する精神を持つ都市から有名大学が誕生するのも時間の問題だ」と語る。
※本稿は、科技日報「深圳高校建設也跑出"深圳速度"」(2020年1月9日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。