日中の教育最前線
トップ  > コラム&リポート 日中の教育最前線 >  File No.20-02

【20-02】世界の一流大学に照準―清華大学「ダブルE」計画でアカデミックエコシステムを構築

2020年2月21日 華凌(科技日報記者)

image

視覚中国提供

 自然科学の研究には瞬間的なインスピレーション、自由な方法、不確定なルートといった特徴がある。自然科学の基礎学科を発展させるには、イノベーションに有利な環境と文化を構築する必要がある。

 清華大学はこのほど「持続的な改革深化、自然科学発展水準の向上に関する実施意見」(以下「同意見」)を発表した。一流大学と一流学科の設置推進を加速し、独創的・学際的協力・世界一流の清華大学自然科学の新たな局面を構築するために、同大学は「アカデミックエコシステムを育み、学科の質の向上」を軸とする自然科学レベルアップ計画(以下「ダブルE計画」)を打ち出した。

 自然科学は同大学の優位性がある学科だ。にもかかわらずなぜこの時期に自然科学レベルアップ計画を打ち出したのだろうか。ダブルE計画はどのような先端学科に狙いを定めているのだろうか。いかに学術の独創性、学際的協力を奨励するのだろうか。それは清華大学にとってどのような積極的な意義を持つのだろうか。これらの疑問について、清華大学理学院長で、地球システム科学学部長の宮鵬教授を取材した。

学科の学際的融合でイノベーション力を向上させる

 宮氏は「大学は独自の目標と位置づけを持ち、既定の方向に基づき前進する必要がある。ダブルE計画は文系・工学系の構築促進に関する実施意見の発表に続き、本学が学科分類発展計画を推進するためのもう一つの重要な措置だ。本学の『双一流(世界一流大学・一流学科)』の構築・推進が内包する発展に対して重要な意義を持つ。これは本学が持続的に前進するためのガソリンスタンドと言える。教育部(省)は本学に一定の評価と認可を与えているが、本学の目標は世界一流の大学の水準に達することだ。歴史的に見ると、本学は国の発展・建設に一定の貢献を成し遂げているが、世界トップレベルの地位に立つためには、自然科学の更なる発展が依然として解消すべき問題となっている」と述べた。

「本学は多くの科学研究成果を創出しているが、けん引力が弱く、独創的な思想と理論が不十分だ。また1980年代から徐々に自然科学を復活させ、理学院の学科設置を展開し新たな学科を増やしてきたが、学科間の発展の度合いがアンバランスになっている。自然科学の各学科間、自然科学とその他の学科間の学際的融合が不十分だ。そのため、本学は新たな発展の実施意見を打ち出した」

 今回の「ダブルE計画」はいかに学術の独創性と、学科の学際的協力を奨励するのだろうか。宮氏によれば、「具体的な措置について、本学理学院は自然科学サロンと各種学術フォーラムを開催することで学術交流を強化し、自然科学内部および自然科学とその他の学科との学際的融合を促進する。活力を呼び起こすために、自然科学発展研究基金を設立し、草創段階の研究をサポートし、教員と学生が独創的な科学問題を打ち出すことを奨励する。科学研究の内的原動力を強化し、重大進展を遂げる可能性があり、革新的で破壊的な研究を重点的に支持する。さらに自然科学の異なる学科間および工学系、文系、生命医科学などその他の学科との深い学際的協力を奨励する」ということだ。

 説明によると、清華大学の自然科学の各学科は各自の得意分野に基づき、それぞれに適した方向性をプランニングし続けている。既存の重点基礎学科のほか、学際的な融合も具体的に示している。例えば数理面の理論物理、数学物理、人工知能(AI)、材料数学、データ科学、量子情報科学、工学物理、実験物理がある。化学学科の物理有機、ナノ触媒、地球システム科学と天文関連の地球システム観測・シミュレーション、グローバルな変化・持続可能な発展、系外惑星、高エネルギー天体物理などである。

 同大学はさらに各種措置による自然科学人材育成モデルを打ち出した。例えば学生の科学精神の育成を重視・強化し、教育・科学研究の過程において学生の自由な模索、批判的な思考を奨励し、異なる学術的意見に寛容な態度を取る。多様化育成モデルを展開し、個人に合わせた教育・個性の育成を十分に考慮し、学生に多くの選択肢を提供する。自然科学の中核カリキュラムを計画・設置し、関連学科の高水準教材を採用する。検討・探求などの学習形式により、自主学習と研究型学習を奨励する。「清華学堂人材育成計画」の実施を促進し、学術的な造詣が深く教育経験の豊富な、国際的な影響力を持つ学者を首席教授として招聘する。

自然科学のアカデミックエコシステムを構築

 宮氏は「自然科学の研究には瞬間的なインスピレーション、自由な方法、不確定なルートといった特徴がある。自然科学の基礎学科を発展させるには、イノベーションに有利な環境と文化を構築する必要がある。そのために、いかに良好なアカデミックエコシステムを作り、学術研究と独創的な活動のインスピレーションを絶えず引き出すかが、自然科学の発展にとってとりわけ重要になる」と指摘した。

「同意見」では次のことに言及している。清華大学の自然科学発展は「アカデミックエコシステムを育み、学科の質を高める」という構築の構想に沿って、自然科学教育および研究の法則を十分に尊重し、イノベーションに有利な環境と文化を作り、健全な科学者のエコロジカルグループを構築する。学者の自由な発想、大胆な仮説、弁証的な思考、真剣に実証を求めることを奨励する。科学的思考能力と模索・イノベーションの精神を持つ学生を育み、優れたアカデミックエコシステムにより学科の質を効果的に高める。

 宮氏は「本学は健康なエコロジカルグループを作り、過度な行政による干渉を減らし、管理を目に見えにくくすることで、科学者たちを支えていく」と述べた。

 調査によると、世界超一流大学の理学部には決まった構築モデルはないが、基本的に健全な科学者エコロジカルグループを育成・維持し、単純に論文発表数、引用数、または受賞状況だけで学科の建設状況を評価することはない、という一つの共通点がある。

 「そのため今回発表された同意見には、量化された審査基準は含まれていない。革新的な環境と文化の形成をとりわけ強調し、健全な科学者のエコロジカルグループを構築する」と宮氏。

 宮氏は最後に、「本学は自然科学発展プラットフォームの構築を推進中で、活力あふれるアカデミックエコシステムを構築し、理学院の学科構築における統括的・協調的役割を強化する。自然科学学術委員会を設立し、自然科学の学術発展についての全体計画と重要な学術研究計画を検討し、自然科学の戦略的発展計画にコンサルティングの意見を提供する」と説明した。

 一流の教員陣を作り上げるために、同大学は教員に向け良好な制度的条件と学術的環境を創出し、教員が研究と学術イノベーションに専念できる評価制度を構築・実施する。

〔関連〕清華大学の「3つの9年、3ステップの発展」

 清華大学は1985年にすでに世界一流の大学を作る上げるという長期目標を確立し、その後「3つの9年、3ステップの発展」全体戦略を明らかにした。具体的には、2020年に一部の学科を世界一流水準に到達させ、さらに幾つかの学科を世界一流の先頭の水準に到達させ、人材育成、科学技術イノベーション、社会サービス・サポート、文化伝承、国際交流・協力が含まれる五大卓越イノベーション体制を形成する。中国の特色ある近代的大学ガバナンス体制をほぼ形成する。大学の総合的実力と教育の質を大幅に高め、「四つの全面」という戦略的目標の実施、「一つ目の百年」の奮闘目標の実現に向け際立った貢献を成し遂げる。清華大学理学院には現在、数学科学部、物理学部、化学部、地球システム科学部、天文学部などの教育研究機関がある。学生数は2,500人以上、専任教員は300人以上。


※本稿は、科技日報「瞄準世界一流大学 清華"双E"計画発力学術生態建設」(2020年1月21日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。