日中の教育最前線
トップ  > コラム&リポート 日中の教育最前線 >  File No.20-07

【20-07】育成の新モデルを模索―中国人民大学に新設された二つの書院

2020年8月19日 張盖倫(科技日報記者)

image

画像提供:視覚中国

 中国で書院を設立した大学がまた一つ増えた。

 中国人民大学はこのほど、明徳書院と明理書院のプレート除幕式を開催した。2020年度の新入生の一部がこの二つの書院で学ぶことになる。

 書院は今後、人文基礎学科と理工基礎支援学科でまず模索を行い、学部の境界、専攻の境界を打破し、科類ごとに育成を行うスタイルに相応する管理体系・メカニズムを構築する計画だ。

 2005年、復旦大学、西安交通大学が書院制改革の実施を模索し始めた。大学の書院は今、年々増加しており、書院の発展スタイルも日に日に多様化している。大まかな統計によると、現在、中国の大学約50校が合わせて200近くの書院を設置している。

 中国人民大学教務処の龍永紅処長は、取材に対して、「書院制の実施は近年、中国の大学教育改革の模索の一環で、その最大の特徴は、科類ごとに学生を育成するための改革目標や要求に適応することだ」と語った。

万能性と専門性の結合による育成の要求に効果的に合わせる

 多くの大学は既に、科類ごとに新入生を募集し、育成するスタイルを導入している。同じ、または類似した学科を一つの科類にまとめ、科類ごとに、新入生を募集するスタイルだ。学生は入学後、1~2年の基礎課程を履修し、その後、自分の興味や意向に基づいて専門を選び、課程を履修することになる。

 そうすることで、学生は専攻分野をより理性的に選び、早い段階で、広く、しっかりとした、深みのある知識体系を構築することができる。

 また、中国の大学統一入学試験の総合改革が実施されていることを背景に、大学は、新入生募集のために、しっかりと足場を固めなければならなくなっている。もし、細かく分けた専門ごとに新入生を募集するとなれば、各専門の間に大きな点数の差が現れる可能性があり、新入生募集の面でバランスを取ることが難しくなる。そのため、大学は、学部間で力を合わせ、共同で新入生を募集するよう取り組まなければならない。

 しかし、学生を科類ごとに受け入れた後、どのように育成を行えばよいのだろう?

 龍処長は、「科類ごとの育成は近年、高等教育改革の目玉となっており、各大学はその状況に応じて、さまざまなガイドラインを実施している」とし、科類ごとの育成の趣旨と目標を達成するために克服すべき、三つの鍵となる要素について指摘した。

 一つ目は、課題を方向性として、継続的に見直し、反省、討論を行い、観念という面で、伝統的で、型にはまった専門的思想、理念、特に狭い学科、学部の帰属意識を取り除かなければならない。二つ目は、伝統的な学部教育を主導とする学部、クラス組織管理体系メカニズムを打破し、科類ごとの育成を実施し、カリキュラム、専門を選択する権利を学生に最大限与え、組織のメカニズムにおける障害を取り除かなければならない。三つ目は、本当の意味で科類ごとの育成を実施できる理念や目標を制定し、万能性と専門性の結合、基礎を固め、学生の個性を伸ばす育成要求に従い、人材成長の法則、教育の法則、学科・専門の法則にマッチした育成体系、カリキュラム体系、発展指導体系、育成管理メカニズムを構築しなければならない。

学部管理体制が科類ごとの育成の障壁に

 科類ごとの育成が行われる今、書院はどのような役割を果たすのだろう?

 報道によると、今回設置された明徳書院は、人文科学試験クラスの1年目の教育管理と学生管理を担い、明理書院は、理系試験クラスの1年目の学生管理業務を担う。

 龍処長は取材に対して、「人文試験クラスは100人近くで、人文基礎学科の3クラスの90人を加えると、合わせて190人。学生の専門は4つの学院に分散している。理系試験クラスは400人近くで、その専門は5つの学院に分散している」と説明する。

 学生は、専門ごとに分かれる前は、所属の学院が明確でないため、統一した教育、学生管理、課外学習・生活の組織が必要になる。書院が設立される前は、同大学は学院管理委託方式を採用していたものの、龍処長は、「それは科類ごとの育成理念や目標とはマッチしておらず、相反してさえいる」と指摘する。

 また、「実際には、従来の学部の封鎖的管理体制は、科類ごとの育成理念や目標を効果的に達成するうえで、大きな足かせとなっている。従来の学部の閉鎖的な思想という強固な障壁は、万能性と専門性の結合、守備範囲の広い人材育成、個性を伸ばす人材育成体系を構築・実施するうえで、根本的な障害となっている」と率直に指摘する。

 2018年4月、中国教育部(省)高等教育司の呉岩司長は、基礎学科の傑出した人材の育成計画に言及した際、「書院制の人材育成スタイルは、私たちが模索する必要のある人材育成スタイルの一つかもしれない」との見方を示した。実際には、書院制は、中国伝統の書院と、西洋のレジデンシャル・カレッジシステムの二つがルーツとなっている。現在、中国国内の大部分の書院制改革は主に西洋のレジデンシャル・カレッジシステムが基になっている。呉司長は、「西洋の書院と中国の書院をうまく組み合わせ、育成する学生は、優れた能力を持っているだけでなく、徳があり、優れた人格を持たなければならない」と指摘する。

 龍処長によると、「明徳書院と明理書院は、『学生の自主権、選択権を拡大し、学生が学科や専門の垣根を超えて学習するよう奨励し、学生が自分で専門やカリキュラムを選択することを認める』という考えを基にし、教育管理制度を改革し、大学のために科類ごとの育成改革の模索と、経験の蓄積を全面的に、一歩踏み込んで推進する」という。

 具体的には、明徳書院と明理書院は今後、書院管理に盛り込まれた傑出人材育成計画・プロジェクトなどの実施、建設・管理を担当し、教育部の目標、位置付けや中国人民大学の実施ガイドラインに基づいて、関連の学院、学科と協力して、大学内外、国内外の一流資源を集め、各種イノベーション制度を調和よく推進し、最先端の傑出人材育成体系、「開放的、研究的、国際的、かつ挑戦に満ち、個性化された』傑出人材育成プラットホーム」を構築する。

継続的な書院制改革が必要

 廈門大学試験研究センターの劉海峰センター長らは以前、「書院制教育組織スタイルが登場したのは、組織構造の面から、専門学院との相互提携、相互適応する学部教育組織の新スタイルを新たに設計するという試みで、本質的には、人材育成の地理的空間、人材育成のルートが単一的であるという状況を打破し、人材育成改革を多様化した形で実施して、人材育成にサービスを提供する」と指摘した。

 劉センター長の研究によると、書院制教育スタイルをめぐっては、書院と学院がどのように合理的に役割を分担し、協力するかというのが、長期にわたって難題となってきた。「改革が徹底さに欠け、境界がはっきりせず、役割分担が明確でない状況下で、書院の登場によって、管理主体や管理レベルが増加したため、専門学院と書院の関係が悪化したり、さらには対立したりするという困難な状況に陥ることがあった」。

 この問題に関して、龍処長は、「書院及び関連の専門が所在する学院は、人材育成共同体だ」と強調。「学院は人材育成を積極的に検討、計画し、書院の調整、組織の下、育成ガイドライン、育成計画の検討、制定に参加し、自校の学科・専門をよりどころにして専門の新設、教員の育成、カリキュラムの構築を積極的に展開し、教育研究、教育改革展開を積極的に組織し、課内外の教育資源を豊富にし、学院の人材育成の面における主体的職責を果たさなければならない。その他、学院は、大学と書院が統一して計画する新入生募集、教育、学生の課外活動の指導などを受け入れ、書院と協力して、学生管理を行う指導員、クラス担任に合わせて活動しなければならない」と指摘する。

 書院制改革は継続的に行わなければならず、書院設置後も、するべきことがたくさんある。

 龍処長は、「文化や制度に差があり、特に大学のガバナンス構造及び人材育成理念、体系、管理スタイルが大きく異なるため、西洋の書院制スタイルをそのまま中国で再現したとしても、まったくなじまないという問題が生じる。その問題の核心は、書院の位置付けがはっきりしていないという点で、人材育成体系、管理体系とメカニズムが協同・リンクできない」と指摘する。

 そして、「西洋の書院と中国の書院をうまく組み合わせるカギは、中国の歴史、文化の固有の特質とは何かを、根本からよく認識することだ。中国の書院の位置付け、構築は、それらの特質を土壌にし、人材育成理念、教育の法則、発展の現状、動向という観点から、中国の高等教育改革の発展方向、解決が急務な深いレベルの矛盾や問題をはっきりさせなければならない。書院制改革は、それらの矛盾、問題の解決を方向性として、関連の体制メカニズム改革と共に、全体的によく調和しながら推進しなければならない」との見方を示す。


※本稿は、科技日報「探索大類培養新模式這両个書院要給学生更多選択権」(2020年7月31日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。