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【20-09】大学の人材招致に一役 TV番組だけでなく教授にも企業が冠スポンサーに

2020年10月07日 張盖倫(科技日報記者)

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写真提供:視覚中国

冠教授には、その学科の学科構築計画を立てて実施し、当該学科のリーダー的地位を構築もしくは強化し、学校の学術的地位と社会的影響力を高めることが求められる。

 9月15日、深圳大学で「騰訊(テンセント)創業者同窓生チーム」冠教授任命式が行われ、第一陣として3人の教授が任命された。これは、深圳大学の冠教授制度が全面的に実施されたことを示している。

 冠教授任命の人選は、同校が招聘予定もしくは在任中の常勤教師から選抜を行った。講座教授と特任教授の2種類に分かれており、契約期間内は1人あたり毎年最高で30万元(約465万円)を助成する。

 教授に支給される助成金は、深圳大学冠教授基金から拠出され、この基金は深圳大学人材基金に属している。これより前、同校創立35周年の際に、馬化騰氏ら騰訊の創業者4人は、「騰訊創業者同窓生チーム」の名義で母校に3.5億元(約54億円)を寄付し、深圳大学人材基金プロジェクトを共同で立ち上げた。

 冠教授制度は、大学がハイレベル人材を招致するためのルートの一つだ。熾烈な世界での競争を背景に、大学は多元化した資金調達ルートを切り開き、意中の人材にふさわしい高給を支払う必要が生じている。

冠教授はすでに成熟した制度

 実のところ、よく知られている「この番組は〇〇の提供でお送りします」という冠スポンサーの意味と同じように、ここで言う冠教授も、教授の一部の給与と科学研究経費が個人や企業、または基金から賛助されていることを意味している。

 多くの大学で、冠教授はすでに成熟した制度となっている。冠教授は寄付講座教授の形式の一つで、大学は寄付講座を設け、社会の資金を活用し、学内の最も優秀な教授に対するインセンティブとするか、もしくは他機関から専門分野でトップレベルの学者を招聘する。

 一般的に、寄付講座教授のポジションは社会からの寄付と密切に関わっている。寄付講座制度と社会からの寄付、現代基金管理制度が結びついて出来上がった「寄付講座基金」モデルは、世界の有名大学が社会資源を導入し、一流の学者を引き留め、社会的影響力を高めるための効果的な手段となっている。

 国外では、寄付講座制度にはすでに数百年の歴史がある。例えば、英国ケンブリッジ大学の寄付講座は最初イングランド王室が設立したもので、17世紀になってから個人の寄付による寄付講座教授が設けられた。

 国内では、各名門大学が最初にこの新たな試みを行った。

 2001年、清華大学が「清華大学寄付講座教授試行条例」を採択し、寄付講座基金を設立して、世界の著名な学者を同大学での教学に招聘した。2018年、清華大学は常勤の寄付講座教授と冠教授制度を全面的に推進し、校内外から常勤の寄付講座教授を招聘し、冠講座教授と冠教授という2種類の形式で助成を行うことを決めた。

 2006年、北京大学が大学レベルで初となる寄付講座教授基金を設立。寄付者は香港の実業家である葉謀遵氏で、500万元(約7,750万円)を寄付して「葉氏魯迅社会科学寄付講座教授基金」を設立し、第一期として香港都市大学元学長の張信剛教授と著名な経済学者の曹鳳岐教授を招いた。

 現在では、ますます多くの大学が冠教授制度を試行している。

高い報酬でトップレベルの学者を引き留める

 同済大学高等教育研究所副所長で、同済大学教育政策研究センター主任を務める張端鴻氏は筆者の取材に対し、「伝統的に、中国の大学教員の給与は主に、国の固定給与、地方が支給する特別手当、学校の在職手当という3つの部分から成っている。現有の給与体系を突破するには、大学が社会の資源を導入し、資金を増やす改革を実行する必要がある」と語った。

「冠教授制度は、学部や学科の報酬面での競争力を著しく高めることができ、大学が人材導入や人材へのインセンティブを図る助けになる」と張氏は言う。

 2010年7月29日、新華社が授権・発表した「国家中長期教育改革・発展計画綱要(2010-2020年)」には、「社会からの資金投入は教育資金投入の重要な構成部分だ。全社会の教育実施に対する積極性を十分に引き出し、社会資源が教育への投入ルートを拡大し、複数のルートから教育への資金投入を増やす必要がある」と明確に指摘した。

 上海交通大学高等教育研究院の喩愷氏らは文章で、「寄付講座を設置すれば、ある程度大学の原有資源の不足を補い、学者の価値を体現することができる。大学の学術雇用体系の革新だ」と指摘している。

 実際、トップクラスの学者を引き留めるには、国際的に競争力のある報酬を支払う必要がある。多元化された資金調達ルートを切り開き、社会から寄付を募ることも、大学の能力の一つだと言えるだろう。張氏は、「一般的には、寄付講座教授を設置できる大学や学院は、伝統的な意味における名門大学・大学院だ。こうした学校はブランド効果が高く、名声もあり、大学や大学院から傑出した卒業生を輩出しており、自ずから人気の寄付対象となる。資金力があり羽振りのいい大学であれば、人材獲得戦においても底力があり、彼らは通常、様々な方法を採用してハイレベル人材獲得に役立てることが可能だ。

高額報酬での雇用にはそれに見合う価値も必要

 能力が高ければ高いほど、責任も大きくなるものだ。大学が高額報酬で寄付講座教授を雇うのは、ハイレベル人材がその大学の学科構築に貢献することを期待してのことでもある。

 例えば北京外国語大学の場合、冠教授には、その学科の学科構築計画を立てて実施し、当該学科のリーダー的な地位を構築もしくは強化し、学校の学術的地位と社会的影響力を高めることが求められる。また、学校と国内外の有名大学・著名機関との提携促進や、青年教員の育成を担う必要もある。さらに、学科構築のブレークスルーを実現して、国際的に先進的なレベルの科学研究成果を上げることも求められる。

 張氏は、「全体として、冠教授制度は、大学が広く優秀な人材を雇用するのに役立つ。しかし、大学としても自前の教師陣を育成するようにしなければならない。学校や学院は、多額の資金を投じて外部から人材を招き、雇用すると同時に、大学内の人材をサポートすることも必要だ。

 2000年、企業7社が220万元を出資し、上海交通大学の教授36人の冠スポンサー権を取得した。当時、このニュースは大きな論議を呼んだ。「まったく節操がない」と痛烈に批判する文章を書いた人もいれば、教授の冠スポンサーなど聞いたことがないと直言し、「君子は財を欲するも、その取得には徳行というものがある」、つまり教師たるもの、不道徳な手段で金儲けをしてはならないと考え、企業が教授の冠スポンサーになるのは一種の道徳的欠陥だとする人もいた。

 現在では、冠教授は目新しいことではなくなったが、こうした論議は依然として存在する。

 人々は学術と商業にははっきりとした線引きがあるべきだと考え、一部には、「企業の冠がついた教授が学術的な独立性を保てるのか?」という疑問を持つ人もいる。張氏はこれについて、「学術的な独立性は学術共同体の重要な準則だ。大学や学部管理の角度から見て、冠教授と賛助企業との間に私的な利益の関わりが生じる確率は低い。大学は社会の資金を導入する際、もともと評判の高い企業を選ぶ。そうでなければ教授本人もスポンサーになってもらうことを望まないからだ。大多数の教授にとって、学術は収入より重要なものだ」と率直な意見を述べる。

 喩氏も、「大学が社会の資金を導入する際には、明確な資金調達機関があるべきだ。学校の校長や副校長などの管理者とそのチームが責任を負い、大学教員チームが学術研究活動を資金調達などの商業活動と関連付けないようにし、大学の教学と科学研究の独立性と純潔性を保障するべきだ」と指摘している。


※本稿は、科技日報「為高校引才加碼 被企業冠名的不隻節目還有教授」(2020年09月25日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。