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【20-13】血管の「ツアー」やバーチャル解剖―現代テクノロジーが医学教育を変える

2020年12月23日 唐 芳(科技日報記者)

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画像提供:視覚中国

 12月26日と27日の2日間、中国では2021年度の大学院統一試験が行われる。全体的な動向を考慮して、多くの大学は医学系の学科を増やし、その募集枠を拡大して、受験生の注目を集めようと躍起になっている。

 中国高等教育学会医学専業委員会の理事長を務める北京大学の前常務副学長で、中華医学会の副会長である柯楊氏は、「中国の医学教育は近年、大きく進歩している。しかし、教育の仕方は依然として古く、後れを取っており、学科の発展が不均衡などの問題も存在している」と指摘し、「教育、授業において、オンラインリソースや人工知能(AI)を活用したバーチャル教育の応用、公共衛生医学教育などを強化する」ことを提案している。

 新型コロナウイルスの流行により、医療の水準が試され、医学教育に新たな要求をつきつけている。新時代における医学教育はどのような課題に直面しているのだろう? 現代テクノロジーをどのように医学教育でさらに活用すれば良いのだろう? そのような疑問を持ちながら、関連の専門家を取材した。

大学院試験と実技の水準の両方重視が不可欠

 新時代における医学教育について、昆明医科大学薬学院の李璠教授は取材に対して、「全ての医学生が医学が好きなわけでも、それに適しているわけでもない。多くの学生は親の要望に従って医学を選んでいる。教員は授業の時、往往にして医学技術などのハードの面の知識を伝え、それをテストすることに重きを置いている。一方、医学の分野の人的・文化的配慮をめぐる教育や生命教育は十分に浸透していない」との見方を示した。

 整形外科博士課程在学中の陳丹さんは、医学教育に存在する問題について、「多くの医科大学の教育の仕方は依然として、教材の知識を伝えることをメインとしている。理論と実践が十分に結び付けられていないため、多くの複雑で難解な知識を、学生は直観的に理解することができていない」としながらも、「教員も大変だ。医学は覚えなければならないこと、難しい概念や知識があまりにもたくさんあるから」と一定の理解も示した。

 医科大学の教員の負担も非常に大きい。現在、中国国内の多くの医科大学の教員は授業、科学研究、臨床の3つを掛け持ちしている。李教授は、「科学研究論文は臨床について書くべきだ。患者のニーズを方向性として、科学研究が教育を促進するようにすべきだ」とし、「5重視(学歴重視、キャリア重視、評判重視、論文重視、プロジェクト重視)の状態を打破することが呼び掛けられるようになり、状況が好転し、授業より科学研究が重視される現象がやや是正された」との見方を示した。

 しかし、医学の実践教育は、学部の段階で「ボトルネック」に直面している。一部の医学生は「学部の段階の大学は理想的な環境ではなく、大学院試験で現状を変えることを願っているため、臨床・実践が形式的になってしまっている」と指摘する。その点について、陳さんも、「多くの学科と同じで、全体的な流れにより、医学生の多くは大学院試験を受けて活路を見いだそうとしている。試験の準備があるため、実習に打ち込むことはできないという学生は少なくない」と説明する。

 李教授は、「医学生が大学院試験を受けることには大賛成」とし、「医学は知識密集型の学科。学部の段階では病気に関する初期段階の理解を得ることができる。しかし、難病の治療には、専門職学位を持つ実践型のハイレベル医学生を育成する必要がある」との見方を示す一方で、「大学院試験と実習時間をできるだけずらし、互いに邪魔し合うことがないようにすべきだ。大学院試験を受ける学生は往々にして試験の成績はいいものの、医学技術・スキルは相対的に不足している。今後は教養試験や医師国家試験などの実技試験を強化し、学生の実技のレベルを向上させる必要がある」と指摘する。

現代テクノロジーが医学教育の飛躍の「翼」に

 医学生が学ぶ必要のある内容は非常に多い。天津大学医学部の医学科学・エンジニアリング学院の何峰院長によると、ほとんどの医学生は毎日、朝早く起きて、湖のほとりに行って教科書の内容を暗記している。

 何院長は、「現代技術によって、従来の医学教育スタイルが革新され続けている。現代テクノロジーの医学教育への融合が加速するにつれて、従来の文字によって知識を伝える方法がより生き生きとし、理解しやすいスタイルへと変化している。AI技術やバーチャル・リアリティ(VR)技術を活用して、人体の内部構造をより直観的に、3Dで見ることができるようになっている。学生は人体の内部を透視し、世界でも最も精密な構造である人体がどのような作りになっているのかを観察することができる」と説明する。

 2018年、何院長が所属する天津大学は、中国初のスマート医学エンジニアリング学科を開設した。それから2年近くにわたり、中国各地の20以上の大学が同学科を設置し、医学教育とAIの結合、医学と工学の融合発展が促進されている。

 何院長は、「以前、教員は書物や壁掛けの図、模型などの教具、実物標本などを使って、学生に人体解剖を説明し、教えていた。ただ、静的教具や標本では、血液の流れや心臓の拍動などの生命現象を示すことはできなかった。それに対して、今は、学生らはVRゴーグルを使って解剖の知識を学ぶことができる。没入感があるため、その学習効果は従来の壁掛けの図より明らかに高い。バーチャル解剖台では、バーチャル人体の肌や筋肉、骨格、神経などの各系統を層ごとに剥離することができる。また、消化器官や血管などの中に入ることのできる『バーチャルツアー』ソフトもある。さらに、拡張現実(AR)技術を活用して、人体の内部構造を本当の人間の体の上に表示することができるほか、心臓の鼓動を人体模型に再現することができ、各臓器の動きをリアル、直観的に見ることができる」と説明する。

 技術が医学生の臨床実践や訓練スタイルにも変革をもたらしている。何院長は、「従来のマネキンと違い、今の心肺蘇生法の訓練用マネキンは、複数のセンサーと繋いで、マッサージの力や回数などのデータを収集することができる。学生はフィードバックを参考にして、反復練習し、正確なマッサージの仕方をマスターできる。従来の医学教育は、試行錯誤にかかるコストが高く、医師を育成するのにも非常に時間がかかっていた。一方、現代技術に支えられた医学生は、バーチャル・リアリティ技術を通して、比較的短期間で集中訓練を受けることができ、豊富な臨床経験を積むことができる。そのため、人材育成にかかる時間が短縮できると期待されている」と述べた。

 それ以外に、5Gの高速ブロードバンドや低遅延などの特徴を活用して、手術のパノラマ配信を実施し、学生はテレビなどの端末を通して、名医の手さばきを見ることができる。また、執刀医が頭に装着したカメラを通して、執刀医の視点から手術のテクニックを観察することができ、臨床手術の経験を増やすことができる。そして、3Dプリント技術を活用して、整形外科が使う負傷状況を再現した模型や手術で使う材料をより簡単かつ柔軟に製作できるようになり、手術前のプランをはっきりと、直観的にイメージできるようになっている。

 何院長と、「VRやARなどの技術が成熟するのに合わせて、医学とハイテクの融合も進み、一部のコンセプト製品が日に日に成熟している。特に、フィードバックなどの先端技術を活用して、一部のシステムは単純な表示から、全面的な実技訓練の方向に向かって進化している。近い将来、現代テクノロジーのバックアップの下、医学教育はきっと、臨床の実際の応用とさらに緊密に結び合わせられるようになるだろう」と確信を込めて語る。

 陳さんは、テクノロジーのサポートが医学教育に寄与することへの期待について言及し、「バーチャル技術やAI技術が、三・四線都市の医科大学でも活用され、学生が細分化、可視化された人体解剖を通して学び、各診療科・部門の通常実技の実物シミュレーションができるようになることを願っている。そうなれば、医学教育のさらなる発展が促進されるだろう」と語った。

オンライン教育が医学教育にもたらした重大な変革

「新型コロナウイルスの影響で、医科を志望する学生が目に見えて増えた」と話す何院長によると、中国各地の湖北省医療支援チームの感動的なエピソードがメディアを通して報道されたことが幅広く影響を与え、多くの学生が医学を志すきっかけとなった。また、数年前に、頻繁に報道されていた医師・患者関係にできていた溝も改善され、ほとんどの人が医師という職業に対する理解を深め、寛容な態度を示すようになったという。

 李教授は、「オンライン教育が一層常態化し、オンライン医学教育リソースが発掘、開発され続けている。また、医学関連の科学普及教育は一層広く普及し、臨床実践能力を方向性とする育成が一層重視されるようになったほか、バイオセキュリティ教育、公共衛生教育も速いスピードで発展している。教員として、時代と共に変わるそれらの変化に順応し、インターネットやAIなどの新技術をマスターし、受け身になって学ぶのではなく、自発的に学ぶ必要がある。医科大学はオンライン教育、学習の科学的な評価体系を構築する必要がある」との見方を示す。

 新型コロナウイルスが医学教育にもたらした変化について、何院長は、「オンライン教育などの技術の質的飛躍、中国国内外、先進地域と辺鄙な地域の教育リソースの共有が促進された。新型コロナウイルス終息後も、オンライン教育が医学教育に深くもたらした変革は後戻りすることなく、発展し続けるだろう」と語った。

 その他、新型コロナウイルス流行期間中、中国の公共衛生を専門とする人材が明らかに不足した。何院長は、「今後数年、医科大学、総合大学で公共衛生関連の学科を増やすブームが来るだろう。医学の発展には、理工系の下支えが欠かせず、今後、医科大学と総合大学の学際的融合、一歩踏み込んだ連携がその視野をさらに広げ、一層均衡的に発展するようになるだろう」との予測を語った。


※本稿は、科技日報「漫遊"血管、虚擬解剖 現代科技這様改変医学教育」(2020年12月11日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。