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【22-01】イノベーション・起業と大学発展の「ウィンウィン」を実現

2022年03月10日 羅洪焱 、陳 科

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画像提供:視覚中国

 12月初め、中国科学技術部(省)は教育部(省)と、第三者専門評価機関に委託して、大学テクノロジーパーク115ヶ所の成果を評価し、国家大学テクノロジーパーク成果評価の結果に関する通知を発表した。同通知は、国家大学テクノロジーパークの国家級イノベーション拠点として位置づけを際立たせ、一歩踏み込んで改革を深化させ、メカニズムを改革し、能力を向上させ、大学「双一流」(世界一流大学・一流学科)建設や地域経済の質の高い発展にサービスを提供する必要があると指摘しているほか、優秀な各国家大学テクノロジーパークが大学の特色ある優位性をさらに活かして、科学教育資源を集積し、世界一流の国家大学テクノロジーパーク構築に取り組むことを望むとしている。

 1999年末、科学技術部と教育部は共同で、国家大学テクノロジーパーク建設のテスト事業の計画策定を展開した。そして、2001年5月、清華大学のテクノロジーパークを含む22大学のテクノロジーパークが第一陣として「国家大学テクノロジーパーク」に認定された。科学研究の優位性を誇る特色ある大学をバックに、大学の科学教育インテリジェンス資源と市場の優位性を誇るイノベーション資源を密接に結び合わせた国家大学テクノロジーパークができてから現時点で20年以上になり、国家イノベーション体制において重要な位置を占めるようになっている。

 新たな時期に突入している今、イノベーションを中国近代化建設の全局の中心という地位に据え続け、イノベーション能力を継続的に増強するというのは、国家大学テクノロジーパークの発展のために必要であるだけでなく、大学自身が「双一流」建設を推進するための重要なバックアップともなっている。

大学院生の卒業や指導教員の退職による科学研究中断を阻止

 今回の成果評価で「優秀」と評価された西南交通大学テクノロジーパークの従政・党支部書記は、「一流の国家大学テクノロジーパークは、一流大学の重要な証しの一つだ。国家大学テクノロジーパークは、国家イノベーション体制において重要な位置を占め、独自イノベーションの重要な拠点であると同時に、高等教育が産学研連携を推進し、イノベーション・起業人材を育成する重要なプラットフォームでもある」と語る。

 中国の「職務テクノロジー成果混合所有制改革」の発祥地である西南交通大学テクノロジーパークは「まずパイロット生産+その後に孵化」という技術移転、実用化のスタイルを積極的に推進している。西南交通大学テクノロジーパークの康凱寧・会長は、多くの修士課程や博士課程の大学院生は、学習期間中、指導教員と共に科学研究に参加する。しかし、ほとんどの大学院生が卒業後に大学に残って職に就くことはないため、進めていた科学研究が中断することになる。『まずパイロット生産+その後に孵化』というスタイルは主に、パイロット生産をメインとした『四川省の大学を跨ぐパイロット生産研究開発プラットフォーム』を構築し、一部の大学の博士課程や修士課程の大学院生が卒業後に、パイロット生産研究開発機関に就職して、引き続き指導教員と連携してパイロット生産研究開発を行い、論文志向の研究を市場のニーズ志向の研究開発に変えるようにサポートすることが目的」と説明する。

 そして、「このスタイルを採用することで、指導教員の退職による一部の成果実用化プロジェクトの中断という問題も解決できる。研究開発に参加するエンジニアは、成果共有者という立場で、パイロット生産における研究開発成果の知的財産権の一部を得ることもできる」とメリットを強調する。

 西南交通大学テクノロジーパークの陳桂兵社長は、「テクノロジー成果の実用化は、当校の学科建設を促進した。国家大学テクノロジーパークは、イノベーション実践プラットフォームという役割を十分に果たし、大学の重要・重点プロジェクトの成果の実用化を後押しする一方で、大学の人材の成長、学科建設、イノベーション人材育成にも恩恵を与える」と語る。

傾斜発展の状況を呈する国家大学テクノロジーパーク

 中国では国家大学テクノロジーパークが誕生してからのここ20年あまり、そのスタイルは日に日に多元化し、規模も拡大し続け、国家イノベーション体制において重要な位置を占めるようになっている。

 第一陣の国家級大学テクノロジーパーク建設の試行大学に指定された22大学の一つである電子科学技術大学国家大学テクノロジーパークの責任者・郝欽偉氏は、「大学はイノベーションの源、企業はイノベーションの主体、国家大学テクノロジーパークは大学と企業、地方を結ぶ重要な架け橋であり、企業や地方よりも大学を理解し、大学よりも市場を理解している。そして、イノベーション資源集積、テクノロジー成果実用化、テクノロジー起業・孵化、イノベーション人材育成、開放的な協同発展といった中核機能を備えている」とし、「大学をバックに建設した国家大学テクノロジーパークは、大学の科学教育インテリジェンス資源と市場の優位性、イノベーション資源を密接に結び合わせることができる。大学テクノロジーパークはイノベーション資源が集まるプラットフォームで、テクノロジー成果の産業化の重要な実行主体、イノベーション起業人材育成や大学生の『双実(実習、実践トレーニング)双業(起業、就業)』の重要な拠点であると同時に、大学と地方の協同発展を実現する架け橋でもある」との見方を示す。

 そして、「当パークは今後、大学イノベーション人材育成の『大学延伸パーク』、テクノロジーと経済の融合発展にエンパワーメントする『産業イノベーションパーク』、産業、都市、人・文化が融合する『人材パーク』となるだろう。電子科学技術大学は既に、『三パーク·六化』産業テクノロジーパーク体制を構築する大学テクノロジーパークのパーク運営のアプローチと発展理念を打ち出している」と語る。

 康会長は、「国家級イノベーション拠点としての国家大学テクノロジーパークは、専門の人材チームの立ち上げを通して、整ったインセンティブメカニズムを模索し、大学のテクノロジー成果実用化の成果を大幅に向上させ、大学の学科建設、科学研究の高度化、産学研連携、『双一流』建設を推進し、大学の経済・社会の発展にサービスを提供する能力を向上させる必要がある」と語る。

 所在地域や発展の段階、業界・分野などが違うため、国家大学テクノロジーパークの発展には現在、傾斜発展の状況を呈している。例えば、清華大学テクノロジーパークや北京大学テクノロジーパークのような発展が速いパークは、既に良好なブランドを構築し、他の地域でのサブパーク設立やマネジメントサービススタイルの共有といった方法で、ネットワーク化の計画を進めている。清華テクノロジーパークで誕生した「啓迪控股」のインキュベーター「啓迪之星」は、2014年以降北京のハイテクの中心地・中関村から80以上の都市・地域へと進出し、現地の産業の特色と結び合わせて、インキュベーターセンターを設置し、そこから立ちあがった企業が他の地域に進出するためのルートを開設するほか、各地に新しいイノベーションの活力を注入している。これまでに、46社が上場、誕生した企業は累計で1万2000社以上、運営するインキュベーター拠点は170ヶ所以上に達している。「啓迪之星」(四川)の宋志剛・執行社長は、「壁のない清華テクノロジーパークを構築するという発展理念を活かし、当社は既に、中国全土のイノベーション・起業の中核を担うようになっている」と語る。


※本稿は、科技日報「国家大学科技園 実現創新創業与高校発展共贏」(2021年12月02日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。