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【19-008】中国の自信とこれからの中国経済(その2)

2019年8月22日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
  • 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)

その1よりつづき)

農村も消費の牽引役になってきた

 中国の成長率は少しずつ低くはなるが、膨大な中間層が存在する限り急激な落ち込みはない。仮に年率で0.2%ずつ低下してもG20の平均成長率に行きつくまで20年近くある。

 0.1%なら40年で、その間、中国は世界経済を牽引する。

 最近、統計局が広東省の21市の2,000世帯に消費実態調査を行った。

 調査結果の要点は以下である。

・78.9%の世帯が今年は消費を増やそうとしている。

・10.7%の世帯が年内に車を買う計画を持つ。都市世帯は11.2%、農村世帯は9.5%が購入を予定している。

・購入予定の車の価格帯は以下だった。

自動車購入予定者の価格帯別割合
南方都市報2019年6月20日より作成
価格帯 割合
30万元以上 2.8%
20万元~30万元 8.9%
15万元~20万元 13.6%
10万元~15万元 42.5%
10万元以下 32.2%

・購入予定者の内訳は新規購入が56.3%、買い替えが22.3%、2台目以上が21.5%だった。

・41%の世帯に年内の旅行計画がある。都市世帯は47.6%で広州市と深圳市では54.5%が予定している。

・旅行計画のある世帯の所得別の内訳は以下だった。

世帯所得別での年内旅行計画割合
南方都市報2019年6月20日号より作成
世帯の一人平均可処分所得 割合
10万元以上 68.0%
7万元~10万元 64.1%
5万元~7万元 56.3%
3万元~5万元 48.9%
3万元以下 26.6%

・一人平均所得が10万元以上の世帯では40.1%が海外旅行を希望している。

 以上が消費実態調査の主な内容だった。

 調査では最も多い乗用車の購入価格帯は10~15万元で新規購入が56%だった。これは中間層が最大の購入層であることを現わしている。

 さらに農村での車の購入予定が都市と大差がなくなってきた。農村が消費の牽引役になってきたことも調査は示している。

 中国の都市と農村の100世帯当たりの自動車保有台数は次の表のように推移している。

都市、農村100世帯当たりの自動車保有台数推移     (台)
中国統計年鑑
都市世帯の自動車保有台数 農村世帯の自動車保有台数
2013年 22.3 9.9
2014年 25.7 11.0
2015年 30.0 13.3
2016年 35.5 17.4
2017年 37.5 19.3

 2017年までの4年間の保有台数伸び率は農村が都市を上回り、これから急速に農村での普及が進むと思われる。

 一方、旅行消費調査では平均可処分所得が3~5万元の世帯の半数近くで旅行予定がある。

 中国の都市世帯の一人平均可処分所得は統計上、次の5段階に区分され、3~5万元は中間層にあたる。

5段階の都市世帯一人平均可処分所得推移     単位:元
中国統計年鑑

 

世帯割合

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
低収入 20% 9,895.9 11,219.3 12,230.9 13,004.1 13,723.1
中の下 20% 17,628.1 19,650.5 21,446.2 23,054.9 24,550.1
20% 24,172.9 26,650.6 29,105.2 31,521.8 33,781.3
中の上 20% 32,613.8 35,631.2 38,572.4 41,805.6 45,163.4
高収入 20% 57,762.1 61,615.0 65,082.2 70,347.8 77,097.2

 さらに3万元以下の世帯でも27%で旅行の計画があり、中間層は全世帯の60%になる。以上の消費実態調査からも中国人の消費意欲は衰えず、膨大な中間層が自動車や旅行など消費社会の主役になりつつあることがわかる。

 中間層の台頭を裏付けるように、筆者が関係する工場がある広東省の工業団地では通勤車の駐車場確保が課題になっている。7年ほど前は車通勤の人はまばらで駐車場は閑散としていた。しかし最近、朝夕には団地の道路は通勤の車で渋滞する。車で通勤する人が幹部だけでなく一般社員や女性社員に拡がったからである。

中国の自信

 中米貿易摩擦で中国が強い態度を崩さないのは保守派の圧力との意見もあるが、政府の政治や経済への自信が背景にある。中国製造2025、経済構造の転換、一帯一路、科学技術、市場開放、環境や扶貧(貧困)対策が成果を見せ、それが政治の自信に繋がっている。

 今年5月までの実際外資投資は前年比6.8%の増加だが、製造業は12.4%、ハイテク製造業への外資投資は23.2%の高い増加率である。これは中国製造2025の進展を示している。

 また外資許可項目も増えて市場開放がさらに進むと共に、ドイツやEU諸国、韓国、アセアンからの投資が増え、脱米国も動き出している。

 政府の産業支援で科学技術の向上やハイテク企業の育成が進み、その成果も出ている。

 中米貿易摩擦で米国の標的になっている産業補助金は、多くの日本のメディアや識者もきっと中国企業だけが対象と思い込んでいるだろう。だがそうではない。100%外資すなわち独資企業にも補助金は支給されている。筆者が協力する日本企業も返済の必要がない数千万円の資金を貰っている。米国企業にも中国政府の補助金を貰っている企業があるだろう。

 米国企業が補助金で製造して製品を米国に輸出する。それも米国は批判する。まるで漫才のようだ。そんな事が起きているとはトランプ大統領は夢にも思っていないだろう。米国のなりふり構わない中国叩きを見ても、いかに中国の技術力に脅威を感じているかがわかる。

 米国第一主義は米国自身を大切に、先ず米国のことを考える、という意味ではなく、世界で君臨するのは米国でなければならない、中国、ましてアジアの国が台頭することは許さない、白人至上主義の延長線上にあるのが米国第一主義だろう。中米貿易摩擦で米国は中国の民主化や人権問題も持ち出し批判するが、仮にそれらの問題が無いとしても貿易摩擦は起こるべくして起きる。アジアの国が台頭することを許さないからである。中米貿易摩擦はそのようにとらえれば見えてくる。

 ウイグル問題ばかり強調する米国や日本のメディアの話題にならないが、習近平政権で成果が現れているのが扶貧(貧困対策)だ。2012年の貧困人口は9,899万人、2018年は1,660万人、今年は600万人に減少見込みである。中央財政の扶貧予算も2010年の223億元から2019年には1,261億元と5.7倍になった。実際、筆者が辺鄙な内陸に行くとこんなことにも扶貧資金が出ているのかと驚くことがある。扶貧は現政権の目玉の政策と言える。

 米国も中国の人権問題を批判する暇があるなら、毎年、何千人もの尊い命が銃の犠牲になっている国内の人権問題にまともに取り組めと思うのは筆者のひがみであろうか。数千人もの人、学生が銃の犠牲になる異常な米国社会は世界でも類を見ない人権軽視の社会とも思うが。

 そんな中国の種々の政治的成果に対する国民の評価も高い。それを反映してか、昨年末に中国共産党員は9,000万人を超え1億人時代に向かっている。しかも80後と90後の若い党員が3分の1を超え、大専と本科、大学院卒業生が過半数になった。

 このように中国に中米貿易摩擦で強い態度をとらせている背後には、政治的自信がある。

ネット通販の売上も中小都市や中間層が支える時代になった

 貿易摩擦の渦中でも経済が安定していることも政治の安定に繋がっている。それを支えているのが活発な消費で、消費を支えているのが地方都市や中間層である。

 中間層の消費が活発に見られるのがネット通販である。次のグラフは"猫拼狗"(猫は天猫、拼は拼多多、狗は猫に対抗する犬の京東)と呼ばれる大手ネット通販の阿里(アリババ、天猫)と京東、拼多多のGMV(ネット交易額)推移である。

阿里、京東、拼多多の交易額推移     (元)
南方都市報2019年6月28日号より作成
  2016年 2017年 2018年
阿里 37,670 48,200 57,270
京東 9,392 12,945 16,769
拼多多 1,412 4,716

 国家郵政局が発表した今年上期の1日当たりの速達(宅急便)取扱数は1.5億個、最高は1日2.4億個で、その大部分を"猫拼狗"関連の物流が占めている。

 また次のグラフは阿里と京東、拼多多の活動中の利用者推移である。

img

 毎年6月1日から6月18日は、双11(11月11日)と並びネット通販が活発になる時期である。各社が販促イベントを行い、年々驚異的に売上を伸ばしている。

 今年の618節(6月18日、京東の設立記念日)の京東の交易額は2,015億元で前年比26%増加した。新興の拼多多も前年比300%増を達成している。

 1、2級の大都市のネット通販市場が成熟する中で、今年の618節を支えたのは3級以下の中小、地方都市の売上である。

 3級以下の中小都市の携帯電話のインターネット利用者は6.18億人いる。今年、"猫拼狗"は"小鎮青年"と言われる中小都市の80後と90後世代に狙いを定めて売上を拡大した。

 今年の618節では、天猫のスマホのアップルの売上は3~6級都市で170%増加し、1~2級都市の売上を倍近く上回った。京東の中小都市の売上は前年比2倍だった。

 今年第1四半期の拼多多の新規利用客の約56%は3級以下の中小都市だった。

 今年の618節の郵便速達取扱量は31.9億個で前年比26.6%増加した。うち中部地域の増加率が33.8%で、農村でのネット通販の増加と1、2級都市への果物や生鮮食品のネット販売で農村の取扱量が急速に増加している。このように地方の中小都市や農村、そして膨大な中間層がEC市場を支える時代になっている。

 次に豊かになる人、中間層は中国経済の大きな"伸びしろ"で、中国経済の今後の希望である。しかし中間層や農民を格差でとらえた人も多い。だから限界説が生まれる。

 成長が止まった日本社会から、日本の経験で中国を見ても真の中国の姿は見えない。中国経済の限界を心配するより、金融政策だけに頼り、出口の見えない日本経済の限界を心配するほうがよほど理にかなっていると思う。

(おわり)