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【24-42】中国で動力電池はどのようにリサイクルされるのか?

強郁文(人民日報記者) 2024年05月10日

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格林美の動力電池資源化分解ライン。

 現在、中国の動力電池産業は世界のトップランナーで、市場規模は8年連続で世界一となり、大規模な動力電池産業体制を構築している。このような状況下で、使用済み動力電池はどのように処理されるのか。湖北省の武漢市と荊門市で動力電池のリサイクルプロセスを調査した。

 武漢市内の移動交通サービスプラットフォームでは、電池容量の減りが早い新エネルギー車数台について、自動車メーカーのアフターサービス担当者が格林美股份有限公司の動力電池回収担当者に連絡を取っていた。

 その翌日、回収担当者がやって来て、取り外された動力電池を絶縁膜で何重にも覆い、格林美(武漢)都市鉱山循環産業パークへと運んでいった。

 動力電池が積まれたトラックの後についてパークへ行くと、作業場に運ばれた電池の容量の計測が行われていた。格林美グリーン産業(武漢)イノベーション研究院の別伝玉副院長は「容量が比較的大きいものは武漢で再利用し、かなり減少しているものは荊門にあるパークに送って処理する」と説明した。

 格林美が回収処理する動力電池は、中国国内の使用済み動力電池の約1割を占める。同社はこれまで使用済み自動車の回収を主要業務の1つとし、複数の自動車メーカーと安定した協力ルートを構築してきた。新エネ車の発展に伴い、使用済み動力電池の回収分野にも乗り出した。

 回収されるのは使用済み動力電池だけでなく、生産過程でセルに加工されなかった廃棄物も含まれる。

 格林美荊門パークからさほど遠くない場所にある湖北億緯動力の動力電池工場では、新しいリチウムイオン電池が次々とラインオフしていた。

 恵州億緯鋰能は、リチウムイオン電池生産のリーディングカンパニーの一つだ。前出の億緯の電池工場は同社が投資建設したもので、今では華中地域で最大規模の動力電池・蓄電池の生産拠点へと発展した。リーディングカンパニーに牽引され、100社近い関連企業が集まり、川上から川下に至る電池産業チェーンを形成している。

 格林美と億緯鋰能は戦略的協力協定を結び、億緯の動力電池生産で出る廃棄物を処理して原材料としたものを再び電池工場に届けている。このような回収モデルは「マテリアルリサイクル」と呼ばれている。

 回収ははじめの一歩に過ぎず、使用済み動力電池のリサイクルの道はスタートしたばかりだ。

 格林美武漢パークの動力電池カスケード利用工場では、測定して容量が大きかった電池が作業台へ送られ、モジュールやセルなどに分解され、小型自動運搬車で加工生産ラインへ送られる。作業員によると、こうしたセルは再構成され、家庭用エネルギー貯蔵キャビネットが製造されるという。

 工場の作業員は「使用済み動力電池の中には自動車の動力として使うには十分ではないが、分解して再構成すれば、低速電動自転車や通信基地局、エネルギー貯蔵キャビネット、ソーラー街路灯などに応用できるものがある」と説明した。

 格林美武漢パークの駐車場の近くにはエネルギー貯蔵キャビネットがいくつか見られた。別氏は「1セットのエネルギー貯蔵キャビネットはリサイクルされた動力電池パック数十個で構成され、一般的に8~10年の連続使用が可能だ」と述べた。

 容量が著しく減少した電池もリサイクルされる。電池生産時の廃棄物や使用済み電池からリチウムやコバルト、ニッケルなどの金属材料を取り出し、電池の生産に再利用する。リチウムを例にすると、回収率が1%増加するごとに、廃棄された動力電池1トンあたりの再利用価値が数千元(1元=約22円)上昇するという。

 第三者の回収処理機関と協力する以外にも、自前の電池回収事業を展開する自動車メーカーもある。

 武漢の東風鴻泰循環経済産業パークの生産現場では、カスケード利用電池を搭載した電動フォークリフトがあちこち動き回っていた。作業員によると、自社で開発したカスケード利用電池は従来の鉛蓄電池に比べて重量が軽くて動力が大きく、1回の充電で8時間使用できるという。

 東風汽車の子会社である東風鴻泰の関係者は「第三者の回収処理機関と比べ、自動車メーカーは電池の状態などの情報をより正確に把握している」と説明し、「動力電池の大量廃棄により、供給元が増加し、カスケード利用電池製品の開発・利用コストが大幅に低下する」との見通しを述べた。

 工業・情報化部(省)がまとめたデータによると、中国にはすでに動力電池回収サービス拠点が1万カ所以上設置されている。23年における新エネ車の廃棄動力電池の総合再利用量は22万5000トンに達した。

 関連研究機関の予測では、25年には中国で廃棄される動力電池は82万トンに達するという。「第14次五カ年計画工業グリーン発展計画」は、25年までに動力電池リサイクルシステムを整備することを掲げている。今後、より多くの動力電池がリサイクルの旅をすることになるだろう。

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