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【24-49】血液生態系の研究で全身性疾患の解明を目指す(その1)

代小佩(科技日報記者) 朱珂影(科技日報実習記者) 2024年06月04日

実験室で血液サンプルを使って研究する科学者。(画像提供:視覚中国)

 中国医学科学院血液病医院(中国医学科学院血液学研究所)の程濤教授と王洪研究員がこのほど、学術誌「中国科学·生命科学(Science China Life Sciences)」に「血液生態系」の概念に関する論文を発表し、全身性疾患の研究における「血液生態系」研究の応用の見通しを検討した。

「血液生態系」とは何か? その概念を打ち出す必要があったのはなぜか? それにはどのような応用の見通しがあるのか? これらの疑問について、関連する専門家に尋ねた。

疾患研究における「木を見て森を見ず」を避ける

「血液生態系」を理解するためには、まず血液そのものをよく知っておかなければならない。

 全身に流れる血液は、各組織や器官の膨大な数の細胞において常に物質の交換を行い、エネルギーを放出しており、臨床において健康かどうかを見極める最も重要な窓口と見なされている。血液中にはT細胞やB細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫細胞、赤血球や血小板、造血幹細胞などの細胞成分、さらにはケモカインや細胞因子、代謝成分などの血漿中の各種たんぱく質など、細胞成分と非細胞成分が豊富に含まれている。

 王氏は「血液中の細胞成分と非細胞成分は密接に協力し合い、コントロールし合って、複雑なエコロジカルコントロールネットワークを形成し、体の生理学的バランスを維持している。血液生態系は、血液中のそれら相互作用の現象を描写している。血液生態系の研究は、血液中の生物学的成分および成分間の相互作用関係を分析する研究で、新たな研究パラダイムだ」と説明した。

 血液生態系の概念は、環境・エコロジカルの概念から大きな影響を受けていると言える。よく知られているように、環境・エコロジカルはバランスを維持しなければならず、このバランスはいったん崩れると、自然災害などの深刻な結果を引き起こす可能性がある。これに類似して、血液生態系中の細胞成分と非細胞成分も、正常に働いている時はバランスが保たれているが、一旦それが崩れると、往々にして病気の発生につながってしまう。

 同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)はその典型的なケースだ。健康なドナーの造血幹細胞をレシピエントの体内に移植する過程は、実際にはレシピエントにおける血液生態系の再構築と言えるだろう。王氏は「ドナーとレシピエントの血液が異なるため、造血幹細胞移植は移植片対宿主病(GVHD)や感染を起こしやすく、最悪の場合、レシピエントが亡くなることもある。それは、血液生態系のバランスが大きく崩れてしまったことによるものだ」と述べた。

 従来の研究思考では、ある遺伝子やたんぱく質、代謝物に焦点を絞って研究を行うように、1つの「点」から出発して疾患を研究するパターンが多い。王氏は「T細胞を研究する場合、T細胞がGVHDを引き起こす重要な役割を果たしていると仮定する。他の細胞を研究する場合も、その細胞が疾患のメカニズムにおいて主導的役割を果たしていると仮定しなければならない。これは『木を見て森を見ず』のようで、物事の一部しか理解できない。こうした研究の視点では、偏りが生じやすく、疾患の全体像を掴むことが難しい」と指摘した。

 血液生態系研究のパラダイムは、「面」全体から出発して疾患を研究すると主張している。それは体系的な思考を反映しており、血液生態系を構成する各要素の関連性、動態性、全体性を強調し、分子レベルと成分レベルの両面から、一つの疾患を同時かつ網羅的に分析することで、血液生態系のバランスを崩す『妨害者』を見つけ出すことができる。王氏は「血液システムのどの要素が重要かを仮定せずに、まず、血液中の各成分を分析し、生理学的状況と病理的状況を比較し、どの要素が破壊されているかを見つけ出す。すると、これらの要素が疾患を引き起こす重要な要素の可能性がある」と解説した。

その2 へつづく)


※本稿は、科技日報「血液生态研究可解析系统性疾病」(2024年4月2日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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