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【24-54】浙江大学の研究チーム、単細胞タンパク質の「全自動解読ライン」を開発(その1)

洪恒飛、孔暁睿、江 耘(科技日報記者) 2024年06月10日

プローブがターゲットの細胞を識別・捕捉し、ナノリットルスケールのマイクロリアクターに注入しているところ。
(撮影:洪恒飛)

 細長いプローブをサンプル容器の中に入れ、マシンビジョンシステムを通じてそれを識別すると、20秒以内に単一細胞を正確に吸い取り、それをナノリットルスケールのマイクロリアクターに注入することができる。隣にある顕微鏡の伝送画像によって、プローブの「視点」から、碁石が並んだ碁盤のように分布している容器内の各細胞の位置をはっきりと観察することができる。

 浙江大学杭州国際科創センター生物・分子智造研究院の方群教授率いるチームが開発した、全自動単一細胞プロテオミクス解析プラットフォームが、このほど発表された。方氏によると、このプラットフォームは強力な「細胞解読マシン」のようなもので、単一細胞レベルでタンパク質の発現状況を正確に検出することで、細胞間の共通性と差異を解明できる。プラットフォームの開発は細胞の成長や発育、疾患の発生や進行を理解し、治療薬を開発する上で、全く新しい視点とツールを提供することになる。

単一細胞オミクス研究の高い壁に挑む

 人体内の各種細胞の構成要素は複雑で、DNAやRNA、タンパク質、代謝産物などが含まれています。この中でタンパク質は、細胞の機能を直接実行するものだ。細胞はタンパク質やその翻訳後修飾を通じて、外部と内部の刺激を感知し、それに呼応することで、生命体全体の機能や状態に影響を与える。

 方氏は「細胞には異質性がある。例えば、同じがん細胞であっても、転移しやすいものもあれば、治療薬に対して比較的敏感なものもあり、それぞれ特徴が異なっている。従来の分析方法では、数多くの細胞を一つの容器に入れ、細胞を集団単位で分析するため、得られる結果は平均化されたもので、細胞の個別情報は埋もれてしまう」と説明した。

 こうしたニーズによって、単一細胞分析技術が開発された。同技術は単一細胞を一つずつ分析し、細胞内の各成分の構成や含有量を測定し、細胞の状態と機能を同定し、組織の中に存在している各種細胞のタイプを確定する。細胞間の異質性の研究を通じて、細胞が生命体内で果たす役割や生命活動に関与するメカニズムをより深く理解することができる。

 単一細胞分析技術は、ゲノムやトランスクリプトーム、プロテオームなどの具体的な分析ターゲットに応じて、異なるロードマップに分けることができる。タンパク質は体外では増幅できないため、単一細胞ゲノミクス技術とトランスクリプトミクス技術と比べると、単一細胞プロテオミクス技術の発展は相対的に遅れている。1つの細胞に含まれるタンパク質の量は約0.2ナノグラムで、その質量はアリ1匹の1千万分の1に相当する。さらに、この0.2ナノグラムのタンパク質は2万種近くのタンパク質で成り立っており、単一細胞レベルでのプロテオーム解析の難易度が想像できるだろう。

 方氏によると、単一細胞レベルで、細胞内で発現するタンパク質(プロテオーム)全てを対象に定性・定量分析することは、細胞の種類や状態を明らかにするために不可欠で、がんの異質性、幹細胞の分化、生殖細胞の発育、神経細胞の解析などの分野で重要な応用価値がある。単細胞タンパク質解析技術には、タンパク質をコードする遺伝子の蛍光標識法、抗体またはアプタマーに基づいた標識法などの手法があるが、これらの手法は単細胞タンパク質の同定レベルという点で大きな限界があった。

 同研究チームのメンバーで、浙江大学杭州国際科創センターの王宇博士は、「サンプルの準備は、プロテオーム解析の重要なステップだ。従来の手法では、単一細胞サンプルの前処理はナノリットルスケールのマイクロリアクター内で行うのが大半で、処理や移動の過程で、サンプルの大幅な損失が発生し、その結果、単一細胞プロテオミクス解析の同定レベルが大幅に低下してしまう」と説明した。

その2 へつづく)


※本稿は、科技日報「打造解码单细胞蛋白质的"全自动流水线"」(2024年4月10日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

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