【24-55】浙江大学の研究チーム、単細胞タンパク質の「全自動解読ライン」を開発(その2)
洪恒飛、孔暁睿、江 耘(科技日報記者) 2024年06月11日
浙江大学杭州国際科創センター生物・分子智造研究院の方群教授らが開発した、全自動単一細胞プロテオミクス解析プラットフォームが、このほど発表された。方氏によると、このプラットフォームは強力な「細胞解読マシン」のようなもので、単一細胞レベルでタンパク質の発現状況を正確に検出することで、細胞間の共通性と差異を解明できるという。
(その1 よりつづき)
マイクロ流体力学を利用したサンプル純度の向上
浙江大学杭州国際科創センターの王宇博士によると、単一細胞プロテオミクス解析の同定レベルを向上させるには2つの方法がある。1つは、体積が小さなマイクロリアクターでサンプルの前処理を行い、マイクロスケール効果を活用して化学反応の効率を高めるという方法だ。もう1つは、全ての操作を一つにまとめ、サンプルの損失を減らす方法だ。しかし、この2つの方法には、高い技術やハイレベルな設備が求められる。
方氏率いる研究チームは長年にわたり、マイクロ流体力学を使った単一細胞プロテオミクス解析技術の研究に力を入れてきた。いわゆるマイクロ流体力学というのは、マイクロメートルスケール内で微量の流体を操作して制御する技術だ。この研究において、同チームは以前開発されたナノリットルスケールマイクロ流体力学液滴操作・制御ロボット、「ポイントピックアップ式」単一細胞プロテオミクス解析ワークフローに基づいて、全自動単一細胞プロテオミクス解析プラットフォームを構築した。同プラットフォームは、ロボットがサンプルの移動を行い、細胞の選別・捕捉やナノリットルスケール体積サンプル前処理、クロマトグラフィーサンプリング・分離、質量スペクトル検出、データ分析などができるようになっている。方氏によると、マイクロ流体力学技術を応用すると、化学反応の効率を大きく高め、サンプルの損失を減らすことができる。また、同プラットフォームで作業すると、1つのサンプルの前処理に必要な液体の体積は、一般的な手法の数十分の1になるという。
従来のプロテオーム解析技術の場合、1つの細胞につき、千種類ほどのタンパク質しか同定できず、単一細胞分析の分野においては、やや物足りなかった。研究チームはプラットフォームを応用し、哺乳類の細胞のタンパク質を最高で3000種類以上同定した。これはヒトゲノム全体に含まれるタンパク質をコードする遺伝子数(約2万個)の約15%に相当する。
従来の単一細胞プロテオミクス解析システムと比べると、同プラットフォームは、単一細胞のダイレクト捕捉、マルチステップ前処理、自動サンプリング、クロマトグラフィー分離、質量スペクトル検出など、単一細胞プロテオミクス解析の全プロセスの操作が自動化されており、単一細胞解析の情報の深さと幅が大幅に拡大しているため、解析の効率と信頼性が高まっている。
浙江省腫瘍医院・第I相臨床試験病棟の宋正波主任は「新しい抗がん剤が臨床試験段階に入っており、臨床医は『患者に薬剤耐性が発生すると、どのタンパク質が変化するのか?』や『薬剤耐性が発生する前に、どのように逆転させればよいのか?』といった問題に頭を悩ませている。全自動単一細胞プロテオミクス解析プラットフォームが発表されたことで、臨床医がこうした問題を解決しやすくなるかもしれない」と期待する。
西湖大学生命科学学院の特任研究員で、西湖実験室スマートプロテオームセンターの郭天南主任は「学科の融合により、タンパク質オミクスの研究に新たな方向性がもたらされた。同プラットフォームの産業化に期待している。実際の応用において、同プラットフォームはスループットを高めたり、コストを抑制する面でさらなる改善の余地を残している」との見解を示した。
方氏は「今後は、単一細胞プロテオミクス解析の同定レベルとスループットをさらに高めることで、技術の実用化を推進していきたい。また、生物医学専門家と協力して、生物学、医学、薬学などの分野で踏み込んだ応用を行い、単一細胞プロテオミクス学技術の急速な発展と応用の普及を推進したい」と語った。
※本稿は、科技日報「打造解码单细胞蛋白质的"全自动流水线"」(2024年4月10日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。
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