アフターコロナ時代の日中経済関係
トップ  > コラム&リポート 特集 アフターコロナ時代の日中経済関係 >  File No.21-22

【21-22】アフターコロナにおける日中韓産業チェーン提携および東アジア生産ネットワーク(その3)

2021年05月14日 張玉来(南開大学世界近現代史研究センター教授)

その2 よりつづき)

第3節 日中韓の産業分業と技術協力をいかに深化・推進させるか

 西側諸国では、経済のグローバル化をめぐり早くから意見の食い違いがあり、思想界では分裂すら起こっていた。こうした反グローバルの流れは、英国のEU離脱やヨーロッパの反移民運動、そして「米国第一主義」を推し進める真の要因となったと考えられる。米国トランプ政権が発動した米中貿易戦争の意図は、中国と米国との関係を再構築しようと試みるものであり、実際には前任であるオバマ大統領の戦略と大差なかった。ただオバマ政権は同盟国と共同で包囲する手段を講じようとして、7年の歳月をかけて環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の合意にこぎつけた。

 明確なのは、米国内部ではすでに中国と対峙すべきだとする考え方が基本的な共通認識となっていることで、したがって中国も心の準備および実際の準備が必要となってくる。日韓両国にとってもこれは決して「対岸の火事」ではなく、逆に三国の経済関係が非常に緊密であることから、「城門が火事になれば池の魚も苦しむ」といった状況にいつでも追い込まれ得ることを覚悟しなければならない。

 こうした背景の下、アジア経済発展の新たな突破口を開いて東アジアを大きく発展させるためには日中韓における産業分業と技術協力を推進させることが重要であり、ある意味で東アジア地域一体化における高度な発展の好機でもある。近頃、地域包括的経済連携(RCEP)が無事に調印され、東アジア地域経済一体化の過程における大きなマイルストーンとなった。

3-1 経済のグローバル化と自由貿易の枠組み維持の重要性を引き続き提唱

 米国経済との連携を強化することは、東アジアの力強い発展を実現させる重要な原因でもある。EUや北米一体化の流れと比べれば、長年、東アジア地域一体化の進展および効果は顕著ではなかった。しかし、各国は米国経済との連携強化に積極的な態度をとってきた。これは中国の改革開放に代表されるもので、それにより自らを世界最大の開放型経済圏へと転身させ、世界の工場へと成長したのである。日本は、2012年の民主党政権時代終了時から対外戦略を転換させ、安倍第二次政権時代には「自由貿易の旗手」という目標を掲げ、経済のグローバル化の流れと多角的自由貿易の枠組みを積極的に守ろうとしている。韓国はそれ以上に対外依存型経済であり、それは貿易がGDPに占める割合からも垣間見ることができるが、経済のグローバル化の一貫した守護者である。したがって、経済のグローバル化と自由貿易の枠組みを維持することは、明らかに日中韓に共通した基本的立場となり得るのである。

3-2 積極的に東アジア地域提携に参画し反グローバル化の圧力を緩和

 新型コロナの全世界への蔓延は、西側諸国、とりわけ産業チェーンの大規模な海外移転を目指してきた先進工業国の戦略転換を加速させ、米国においては現在の国際分業システムを変換して国内産業を再構築しようとしており、米中「分断論」が頭をもたげている。このような大きな流れの中、「地域化」がまさに「反グローバル化」の流れに対抗する新たな特徴となると考えられる。世界の製造センターである東アジア生産ネットワークは、地域一体化の面でEUや北米(USMCA)の後塵を拝しており、これもまた地域提携と発展の新たなチャンスとなり得る。日中韓は東アジア地域の大国であり、地域協力体制の構築の上でもより大きな貢献が求められる。

3-3 技術開発・イノベーションを推進しGVCでの存在感を高める

 日中韓は、改革の促進に先駆的役割を果たし、改革に基づいて現状を打破し、目標を掲げて課題解決に全力を尽くす必要がある。鍵となる部分をしっかりと把握し、積極的に対応し、改革の実質的効果を挙げ、グローバルな課題や地域発展情勢によりよく対応できるようにしていかなければならない。

 半導体技術を例にとると、技術開発やイノベーションを日中韓共同で推進していく試みは、米国の独占を打ち破る可能性がある。例えば、目下のグローバル通信基準は今まさに5Gから6Gへ移行しようとしており、自動車産業にもEVや自動運転の普及といった新たな流れが出てきた。こうした背景の下、伝統的なシリコン半導体は限界に直面することとなり、より高速で大容量通信に耐えられる化合物半導体の時代がまもなくやってくる。こうしたガリウム・アルセナイドなどの「化合物半導体」の知的財産使用状況から見れば、世界の特許総数取得は5千件に満たず、米国のインテル1社がシリコン半導体分野で有する特許数にすら満たない。そして、化合物半導体というこの潜在力を有する分野において、特許数トップ10の企業のうち7社が日本企業である。それと同時に、韓国は半導体メモリ技術および生産の面で優勢を誇っており、中国は半導体需要の面で莫大な需要を有し、かつAI、IoTなどの分野で優位性を示している。これらを勘案すると、日中間3三国が協力すれば、「共に勝利」する枠組みが実現可能と考えられる。

3-4 協力に対する非経済的要素の干渉を抑制

 日中韓三国関係は、全体的には改善される方向にあると考えられるものの、一部の構造的な課題は依然として深刻である。例えば、日中間に横たわる歴史問題、台湾問題、領土問題など昔からの問題を徹底的に解消するのは難しく、両国政府も関連する突発的な事象を常に抑え込むのは難しい。また、日韓の間には歴史問題によって作られた争いが未だに解消されていない。中韓関係もまた、THAADミサイル配備問題により、正常な軌道へは完全に戻っていない。このように日中間三国は、国民の相互認識や相互信頼で大きな課題を抱えており、三国間の関係の未来に不安定性ならびに不確定性という特徴をもたらすことになる。日中間三国としては、このような経済以外の面での各種要素に冷静に対応し、互いを刺激する措置をなるべく取らず、相手に疑いを抱かせる行動を行わないことが肝要となる。非常時においては自らを強く制御し、適度な柔軟性を持つといった態度こそ、東アジア経済の大局を維持するカギとなるのかもしれない。

 なおそのほかに見逃せない点として、日韓両国は米国の同盟国として安全保障領域において米国に深く連携しているため、第三国(この場合中国)に対しては慎重な対応が求められることを付言しなければならない。

3-5 中国の対応~率先して難局を打開し改革を深化させ対外開放を促進

 2018年のボアオ・アジアフォーラム開会式において中国の習近平国家主席は、「中国が開放した大扉は今後閉じられることはない。ますます大きく開かれるだけだ」と述べたが、このことは極めて重要である。実際中国は、対外開放政策を次々と打ち出し、より広い開放の道を歩み出している。新たな開放段階の目標として、いかに「公平性を保ち」、「透明性を高める」かが大事なカギとなるが、これには現代市場体系を次第に健全化させ、行政管理体制の改革を深化させ、全面的に開放していく必要がある。

 最近、中国は「双循環」概念を打ち出したが、この概念は国内経済循環を主体とし、国内と国際の二つの循環が相互に促進し合う新たな経済発展の枠組みを示したものである。反グローバル化、保護主義の高まり、米国第一主義といった国際経済環境の下、国内にある大規模市場という優位性を発揮し、国内と国際の二つ(双)の経済システムをしっかりと結びつけようとする中国の新たな経済発展政策である。この双循環政策の流れの中で、東アジア地域の経済一体化への方向性をしっかりと捉え、より地域性の特徴を備えたバリューチェーン体系を積極的に作り上げるべきである。

 第一に、経済のグローバル化の流れを徹底して守り抜き、自由貿易の枠組み体系を提唱し、国際経済システムにおける中国の魅力を引き続き保つことである。中国の経済は、40年にわたる改革開放政策により米国経済システムと深く結びつき、世界で最も発展性のある開放型経済圏へと変化してきた。今では年間で使用される外資の規模が1,400億ドルを突破し、米国に次いで世界第2位となっている。また、中国における外国企業の設立は累計で100万社を突破し、これらの企業による使用外資額も2兆ドルを超えている。トランプ政権後、米中経済の「デカップリング論」が幅を利かせているが、中国としては引き続き「中国の魅力」を保ち続け、管理体制の改革を強化させ、近代的な市場システムを完成させることで、国際的に十分に開放された新たな枠組みを形成していかなければならない。

 第二に、地域経済協力を推進し、高効率でスムーズな「地域循環システム」を作り上げ、それにより国際経済の循環システムにおける人為的障害を排除させていくことである。国際循環システムが毀損される恐れがある中、中国は日本や韓国の経済的な利害と一致する立場で、地域協力分野において新たな突破口を模索するよう力を入れていかなければならない。また、地域に対する政策を研究し、東アジア・デジタル貿易発展政策の空間を広げることも含め、ビザ、就業、税収、貿易などの面で優遇やサポートを行っていく必要がある。

 第三に、中国は新たな経済システムやその発展に向けて徹底改革を推進し、「人民の素晴らしい生活」を阻害するアンバランスや課題を解決し、健全で高効率な国内経済循環システムを構築することである。中国は、すでにハイクオリティな発展の新段階へと足を踏み入れており、新型工業化、情報化、都市化、農村近代化などいろいろな経済政策が順序良く展開され、それを支える国内需要は依然として巨大な潜在力を有している。しかし、新たな国内経済循環システムを形成しようとするには、産業チェーン、サプライチェーン、バリューチェーンを近代化し、科学技術イノベーションを大いに推進し、最終的に経済循環システム全体がスムーズで障害なく働くようにしなければならない。

 日中韓産業の徹底した分業と技術革新協力を着実に推進することは、中国国内の経済循環システムを形成する助けにもなる。例えば日本は、スマート製造、生命・健康、新材料などの戦略的新興産業分野において強大な国際競争力を備え、また環境保護、健康・介護、近代的な物流などの面においても成功体験を有している。これらを中国のIT応用や5Gなどの優勢分野と結合させれば、新型バリューチェーンを作り上げることが可能となる。

 中国において、国内と国際的な経済循環システムの効率的な統合を推し進め、双循環の相互促進と協調発展を実現させることが重要である。国際、国内の二つの市場の高効率統合を推進し、内外の二つの資源を高効率に利用し、双循環協調共進という新たな発展の枠組みを形成していく必要がある。「一帯一路」構想やAIIBなどは、中国が推進してきた優勢戦略資源ではあるが、日本や韓国に向けた開放性および「共に商い、共に享受し、共に建設する」などの原則は十分に達成されておらず、その実現に注力すべきである。

(おわり)