アフターコロナ時代の日中経済関係
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【21-21】アフターコロナにおける日中韓産業チェーン提携および東アジア生産ネットワーク(その2)

2021年05月14日 張玉来(南開大学世界近現代史研究センター教授)

その1 よりつづき)

第2節 米国再構築の傾向下における日中韓提携推進の可能性

 トランプ政権の「米国第一主義」およびその「分断論」の戦略目標は、米国国内産業の再構築にある。したがって、それが既存の国際分業システムに対して強烈なインパクトを与えるのは必定であり、この動きは米国経済に深く関連している国に対しても必然的に影響を及ぼす。東アジア生産ネットワークの核心である日中韓三国が、こうした大変革という巨大なプレッシャーに直面するのは明らかである。また、新型コロナの拡散・蔓延は世界経済により多くのダメージを与え、経済のグローバル化に対しても新たな衝撃を与えている。こうした背景の下、日中韓経済協力の推進により大きな可能性が期待される。

2-1 経済のグローバル化の流れに関する基本的立場が一致している日中韓

 日中韓三国はいずれも米国経済に深く結びついた国であり、現有のバリューチェーンに対するいかなる衝撃もしくは調整も、すべて各国の経済に重要な影響を与える。世界最大の発展途上国である中国は、文化大革命終了以来の改革開放の長期実施を通じ、開放型の市場体系を次第に作り上げ、世界最大の貿易国となり、対外投資の面でも米国、日本の両国に次ぐ世界第3位の大国となった。それにより、中国の経済システムがグローバルな経済へ深く依存することとなったのである。同様に、東アジア域内における2つの先進国(韓国は準先進国かもしれないが)である日本と韓国は国際化への道を積極的に歩み続け、両国の企業もグローバル経営戦略を実施して莫大な海外利益を得るとともに、中国など新興市場に対する大きく依存することとなった。したがって、経済のグローバル化の拡大を維持する必要があるという点において、日中韓三国の基本的立場は一致している。

 日本は第二次安倍内閣の際、貿易政策に実質的な転換が見られた。米国主導のTPP交渉に2013年に加入することを宣言し、その後、米国がTPPの枠組みから脱退すると、自ら積極的に交渉を行い、新たなCPTPPを合意させている。世界的に台頭する保護主義の圧力に直面し、日本は2017年、世界の「自由貿易の旗頭」を務めると明確に打ち出し、多角的自由貿易の枠組みを積極的に守ろうとする姿勢を鮮明化したが、これもまた日本と米トランプ政権の「米国優先」との間で形成された「路線争い」であった。

 韓国は経済構造の面で、より大きな対外依存特性を示している。韓国貿易協会、統計局、国際通貨基金の発表したデータによると、2017年の韓国対外貿易依存度は68.8%で、日本(28.1%)の2.4倍となった。また、輸出依存度(一国の輸出総額がその国のGDPに占める割合)から見ると、韓国のこの数字は42.8%となっている(2018年)。新型コロナ大流行以降、韓国政府もまた企業が海外から戻った場合の税収優遇政策などを打ち出したものの、韓国企業の大半がこの政策に疑問を呈した。例えば、韓国中小企業中央会の調査では、韓国とベトナムに生産基地を置く韓国企業の9割以上が国内にすべて移転することはないと答えている。大韓商工会議所(KCCI)の調査でも、94.4%の韓国企業が国内に撤退することはないとしている[9]

2-2 成長・アップグレードし続ける中国需要は日韓にとって魅力あふれる存在

 中国は、引き続き世界で経済成長が最も速い国の一つで、特に新型コロナと闘った2020年は、スピード経済回復を遂げた世界で唯一の国となる可能性がある。中国の経済成長は、国内に膨大な中産階級をもたらし、巨大な消費市場を作り出した。自動車産業を例にとると、電気自動車(EV)をメインに押し出す米国ベンチャー企業テスラが、中国市場を席捲して以降(2019年に工場を建て、一年足らずで生産をスタートさせた「二倍速」の投資現象)、中国市場を長年開拓してきたドイツのフォルクスワーゲンも、今後5年間で中国のEV市場に150億ユーロを投資すると宣言した。

 日本企業も、中国市場獲得戦略を加速させている。部分的な撤退現象は見られるものの、大勢としては依然として中国市場を極めて重視している。例えば、日本電産、資生堂などの日本企業は、コロナ禍においても中国市場へ投資拡大を進めている。韓国企業もまた中国重視の姿勢を見せており、例えばサムソン電子は西安に半導体工場を建設し、すでに稼働を開始している。

 中国が、2020年10月に第3四半期GDPの成長率が4.9%であったという経済データを公表したのに伴い、日本の経済界は中国市場の状況を注視し始めた。『日本経済新聞』は、「世界は中国経済復活という甘い蜜を享受できるか」、「中国が日本の輸出復活を導く」など、目を引くタイトルを使って中国の経済状況について報道した。市場の動きにも同様の兆しが見られ、東京株式市場における「中国関連株50指数」は1,767.81ポイントまで上昇し、また中国市場に関連が深いとみられる日産自動車、神戸製鋼、オークマなどの株が上昇した。日本企業は引き続き、中国への投資に積極的で、2019年に日本の対中直接投資143.7億ドルの新記録を達成したのに続き、今年上半期の対中投資もすでに64.6億ドルとなっており[10]、引き続き高い増加傾向を保っている。企業案件には、日野自動車が宣言した中国電池メーカー「BYD」との合弁会社設立による商用EVの開発、ホンダによる中国電池メーカー「寧徳時代(CATL)」への出資、日本電産による大連進出およびEV用モーター研究開発基地などのプロジェクトが含まれる。

2-3 GVC体系における補完性と従属性は共同革新の推進を可能に

 近年、中国における技術革新の勢いはすさまじく、人材の面でも世界のトップレベルに向かっており、こうした要素は日中韓経済の新たな提携における巨大な潜在力となる。中国の国際特許申請数も近年急激に伸びている。ただ、特許の質においては日本が中国を上回る。また韓国は、半導体などの関連分野の特許でリードを保っており、これらから日中韓による提携がグローバルな経済での勝者となる可能性を示唆している。

 そのほか、中国の技術的優勢は主にIT産業分野に集中しているが、生産設備、計測技術、発動機、自動車、ロボットなどの分野では日本に後れをとっている。こうした各自の優位な分野は明らかに日中経済における将来の提携に対し、大きな潜在的な可能性を提供する。すなわち、両国が協力して技術革新に取り組むことが日中の企業提携における新たなチャンスと新たな挑戦となる。

 最近、日本の経済界にも中国のベンチャー企業を注目する大きな流れが見られ、一部には「グローバルイノベーションの中心は中国などアジア地域に移ってきている」との考えを強調する向きもある。伝統的大企業の一部は、中国で躍進する一連のベンチャー企業をとりわけ注視し、場合によっては中国企業と提携した共同イノベーションを模索し始めている。例えば、トヨタ自動車は深圳物流ネット設備支援企業「ハードエッグ」と共に技術提携を展開するにとどまらず、清華大学系企業の北京億華通科技、北汽集団など5社の中国企業と共同で燃料電池の開発にあたっている。

 当然、日本のビジネス関係者の中には日中提携、とりわけ科学技術の最先端分野における提携に慎重な態度をとる人が少なからずいる。これには技術流出への不安も含まれるが、米国からの制裁の脅威に対する懸念、または関連技術が軍用転移される可能性、および中国の法体系の関連提携保護に対する懸念などが含まれる。

2-4 共通の利益に適った東アジア構築のバリューチェーン

 東アジア地域の三つの大国として、日中韓は多くの共通の課題に直面している。人口および環境など人類発展の共通の課題に対して三国が手を携えて協力することは、例えば災害に対する共同対応や関連資源の共同開発などで必要不可欠である。また、国連が打ち出した持続可能な発展目標(SDGs)では、各国企業の発展に対して新たな要求が提示されており、日中韓三国が関連分野において手を携えて協力する必要性はより高まっている。

 一般的に言えば米国の政策の転換は、先進国にとってコスト削減と生産効率の上昇をもたらし、国内産業の空洞化、ひいては失業率増加や収入格差の拡大などを引き起こしかねない。しかし、日本企業を対象とした実証的な研究が示すように、企業の海外進出は国内の就業率にそれほど大きな影響を及ぼさず、逆に国内生産部門に属する労働者の給料が上がる場合もある。これを低付加価値、労働密集型産業の海外移転と考えれば、国内生産効率を高め、それにより給料の増加を促進するからである。その上、東アジアGVCは関係が緊密となり、グレードアップし続けている。したがって、日中韓が東アジアGVCを共同で維持し推進していくことは、それぞれの企業の利益に有利となるだけでなく、地域の平和的発展も促進できると考えられる。

2-5 開放的かつ包容的な「一帯一路」構想と日韓企業

 2013年に、中国が「一帯一路」構想を提起して以来、日韓両国政府は表向き、警戒と不安を前面に押し出してきた。しかし、「共に商い、共に享受し、共に建設する」など一帯一路の原則が広まり、実践され、アジアインフラ投資銀行(AIIB)など新たなハイレベル・プラットフォームが運用・実践されていくにつれ、状況が変化していると考えられる。特に韓国は、いち早くAIIBへ加入し、また、日本企業の一部にも積極的に歓迎する態度を示すところも出てきた。

 実のところ、一部の日本企業は「一帯一路」がもたらす商機をいち早くつかんでいた。例えば、日本通運は早くから行動に移し、中欧班列(中国と欧州を結ぶ国際定期貨物列車)がもたらす利便性を利用し始めた。元々ヨーロッパにネットワーク基地を多く持っていた優位性を利用し、日本通運は船舶と飛行機を通じて日本と中国をつなげ、そこから中欧班列に直接接続し、日欧の間に一貫輸送サービスを実現させたのである。それだけでなく郵船ロジスティクスもまた、ドイツのデュイスブルクにある最大の倉庫を利用し、中国で部品を生産する欧米日中各企業に対するサービスを始め、物流効率は飛躍的に高まった。

その3へつづく)


9. JETRO『韓国の製造業、「リショアリング」に関心なし』2020年7月

10. JETRO『日本の国・地域別直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)』2020年10月