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【21-25】中国の国家計画と政策制定プロセス―第14次5カ年計画と2035年長期目標の要点―(その1)

2021年06月17日 張小勁(清華大学社会科学学院教授、政治学部長)

第1節 国家計画の重要性と役割

はじめに

 2021年3月5日に開幕した全国人民代表大会(全人代)第13期第4回会議において、「国民経済と社会発展第14次5カ年計画と2035年長期目標綱要(以下、計画綱要とする)」が承認された。また、これに先立ち、2020年10月に開催された中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議(五中全会)において、計画綱要の基礎をなすものとして「国家経済と社会発展第14次5カ年計画と2035年長期目標の策定に関する建議(以下、計画建議とする)」が承認された。これら両文書の承認は、これまで関係部局で2年間にわたり進められてきた政策策定プロセスの最終結果である。中国は建国以来、経済と社会に関する発展計画を重視した政策を進めており、今回もその伝統に則って両文書が策定され、今後5年間とより長期的な政策を規定するものである。

1-1 伝統の視点から

「5カ年計画」には、中国国民が容易に受け入れることのできる歴史的蓄積と世論の基盤がある。これまで、多くの中国の指導者と政治家たちは「不谋万世者、不足谋一时;不谋全局者、不足谋一域(長期的な国家政策を制定しない限り、国家安定は一時的なものとなるとの意味)」という古来の名言を治国の基礎としてきた。長期目標の設定、具体的な政策の制定、時間順による詳細な実行プロセスの文書化と説明は、国民の支持を得る最も有効な手段であり、国家の経済社会を発展させる原動力となってきた。これまでの歴代の中国の指導者は、この伝統的な治国方策に従ってきた。

1-2 現代的な視点から

 中国の「5カ年計画」は、建国後に旧ソ連の経済モデルを導入したことに始まり、現在の「5カ年計画」の制度的基盤を築いてきた。1953年から計画の制定と実行が開始され、これまで一度も中断されることはなかったが、基本構想や重点分野の設定などは大きく変化してきた。また、当初の計画経済から現在の混合経済体制へ、国有企業に対して生産目標と収支計画を直接指示することから、国内のマクロ経済状況と地域発展目標に基づいて計画構想と資源配置を与えることへと変化してきた。この転換と修正のプロセスにおいて、日本の経済発展計画と産業発展戦略の実行方策は、中国の「5カ年計画」制定と実行の一つのモデルとなり、混合経済時代においても国家計画が依然として重要である理由の一つとなっている。

1-3 国を治める視点から

 広大な国土と膨大な人口を持つ中国にとって「5カ年計画」は、中央政府が効率的なガバナンスを実施するための重要な手段となっている。中央集権的な政治体制は、中央政府が統治を着実に実施する保障であり、「5カ年計画」は中央政府が正常に経済運営を実施するための基本的なツールとなっている。中国の行政区分は、基本的には中央、省級、地(市)級、県級、郷級という5級行政区のピラミッド構造からなる。「5カ年計画」の制定と実施において、各級地方政府は中央政府に対して地方の要望と意見などを提出することができるボトムアップ型となっている。そして、中央政府は国家戦略と地域発展のバランスを配慮しながら地方の要望と意見を選別し、国家計画に取り入れる。その上で、各級地方政府は確定した「5カ年計画」に基づいて、新しい地方政策を再び調整・修正した上で実施する。

1-4 経済発展の視点から

「5カ年計画」は前の計画の実施結果と発展成果を考慮しながら、今後5年ないしより長期的な経済状況を予測しなければならない。近年、中国のグローバル化の推進、国際経済情勢の激変、いくつかの経済大国の経済状況や対中関係の変化などの要因も、新しい「5カ年計画」の枠組みに取り入れる必要が出てきている。長期的な発展目標の設定は、中国経済と国際経済を調整していく手段となっている。

 こうして「5カ年計画」は、中国にとって特別な意味と役割を持ち、常に中国政府関係者や国民の関心を引く重要事項となっているだけではなく、海外各国の重要な関心事の一つにもなっている。

第2節 習近平政権における国家計画の「新時代」

 2012年末に習近平氏が中国共産党中央委員会総書記に就任し、中国の最高指導者となって以来、「5カ年計画」の制定プロセスと結果が大きく変化し、計画の重要性と役割も明確に変わってきた。とりわけ、今回の「第14次5カ年計画」は、いくつかの面において進化している。

 一つ目は、中国共産党の関与の拡大である。「5カ年計画」は、国の包括的な計画としてより重要視されるようになり、中国共産党は国家を領導する立場から、「5カ年計画」の制定により大きく関与するようになってきている。これまでの「5カ年計画」策定においても、中国共産党「中央委員会全体会議」は、一貫して「5カ年計画」案について議論してきた。1978年に改革開放政策が実施されてからも、「第5次中央委員会全体会議(以下、五中全会とする)」において、新しい「5カ年計画」案に関する議論を行ってきた。2015年の第18期五中全会において、習総書記は国家指導者として初めて「第13次5カ年計画」の起草組組長(起草作業総責任者)となり、これまでのやり方を大きく変え、計画案の作成プロセスと内容について自ら関与した。つまり、これまでの「5カ年計画」は国務院中心の職務であったものが、前回の「第13次5カ年計画」から中国共産党中央委員会が直接関与することとなり、中国共産党の比重が飛躍的に高まった。共産党の「5カ年計画」への関与の重要性は、計画経済期はともかくとして、その後の改革開放以降の時代に比べて一層高くなっている。

 2020年10月の五中全会で承認された、「国民経済と社会発展第14次5カ年計画と2035年長期目標の策定に関する建議(計画建議)」により、今回の「第14次5カ年計画」の主な枠組みと基本施策がほぼ確定された。その後2021年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)では、「国民経済と社会発展第14次5カ年計画と2035年長期目標綱要(以下、計画綱要とする)」が承認されたが、これは基本的に「計画建議」の内容に沿う形となっており、計画実施に関わる各政府機関の作業分担と主管内容などを明確化したものとなっている。

 二つ目の変化として、今回の「5カ年計画」の制定ではより多くの要素と意見が取り入れられ、より多くの時間がかけられるようになった。図1のように、5年前の「第13次5カ年計画」などと比較すると、「第14次5カ年計画」に関する起草、議論、確定など全プロセスにおいて、より多くの時間がかけられたことがわかる。これには主に2つの要因がある。一つは、中国の国家計画の制定において、従来の国内の各要素だけではなく、国際的な影響と要素なども取り入れる必要が出てきたためである。近年、中国の経済社会発展による国内の変容は国境を越えて世界各国にさまざまな影響を及ぼし、同時に国際情勢にも大きく影響されるようになっている。国際情勢の変化要素は既に「5カ年計画」に影響する外的変量ではなく、徐々に影響力を増して内的変量になり、それをうまく計画に取り入れるにはより時間と議論が必要となった。もう一つは、今回の「第14次5カ年計画」の策定プロセスにおいて、初めて各分野の専門家と地方政府、ないし一般国民の声や意見(オンラインアンケートによる)が取り入れられるようになったことによる。国家計画の実現性、妥当性と網羅性を確認し、国民の声にも答えられるように、政策制定に時間をかけるようになった。

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図1 「5カ年計画」制定プロセスの変遷

 三つ目に、国家計画における中国近代化に対する考えも大きく変わっている。1970年に開催された「全人代」において、周恩来総理(当時)が初めて「4つの近代化(農業、工業、国防、科学技術の近代化)」を実現するといったスローガンを打ち出したことは、当時文化大革命に苦しんでいた多くの中国国民に大きな希望と光を与えた。この「4つの近代化」路線は、その後の1978年に改革開放時代を迎えてからも、国民から大きく期待され続け、中国の高度経済成長の原動力となった。2013年の第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)で提起された「国家ガバナンス近代化」は5番目の近代化といわれ、中国の政治制度改革を推進する原動力となっている。今回の「第14次5カ年計画」も中国の近代化の過程に関する新しい考えと反省を取り入れたものとなっている。「均衡、均質、均速」と認識された近代化に関する従来の考え方が、今回の新型コロナ禍の蔓延によって大きく疑問視されるようになってきた。これまで地域格差による貧困地域と貧困層が重要視され、多くの扶貧(貧困削減)政策が実施されてきた。しかし、高速で発展してきた豊かな都会においても、高層ビルが並ぶ綺麗な町並みの裏側に、衛生条件の悪い市場などの施設が存在することが、新型コロナウイルスの拡散にも繋がった。近代化に対する「不均衡、不均質、不均速」という認識が強まり、これまでの「小康社会の全面建設(ゆとりのある生活ができる社会)」、と今後の「近代化強国の建設」という2つの発展目標に、新たな課題が与えられた。

 四つ目に、今回の「第14次5カ年計画」に歴史的な意味が与えられたことである。「第14次5カ年計画」は2021年から2025年までの5年間だけではなく、「2035年への長期目標」も追加して制定された。図2のように、2021年は中国共産党設立100周年であり、「第14次5カ年計画」の始まる年でもある。そして、2049年は中国建国100周年となり、その中間点にある2035年は大きなターニング・ポイントとなる。2035年を境界として、その前後にはそれぞれ3つの「5カ年計画」がある。また2035年は、「近代化強国の建設」という新たな発展目標の実現がかかる重要な年となる。

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図2 「第14次5カ年計画」と「2035長期目標」の時間枠

その2 へつづく)