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【21-26】中国の国家計画と政策制定プロセス―第14次5カ年計画と2035年長期目標の要点―(その2)

2021年06月17日 張小勁(清華大学社会科学学院教授、政治学部長)

その1 よりつづき)

第3節 「第14次5ヵ年計画」の基本枠組みと強国戦略

 前述したように、今回の「第14次5カ年計画」に関して、2つの文書がある。一つは2020年10月の共産党五中全会で承認された「計画建議」であり、もう1つは2021年3月の全人代で承認された「計画綱要」である。前者は約2万字で、後者は約7万字となっている。計画建議は、戦略目標と重点分野を提起している。「計画綱要」は計画建議を基に、重点分野を細分化し、それを実行するための各担当機関の職責、分業内容を明確にした。両文書は戦略目標、基本枠組み、時間設定などにおいて、調和・統一されている。とりわけ、「強国目標」と「強国戦略」は、両文書にとって最も重要な基本構想となっている。

 なお、両文書において、「強国目標」と「強国戦略」というキーワードが20回以上言及されている。「社会主義近代化強国」の枠組みの下、「科技強国[1]、製造強国、質量強国、インターネット強国、交通強国、貿易強国、海洋強国、文化強国、学習強国、教育強国、人材強国、体育強国」、「健康中国、平安中国、デジタル中国、美しい中国」などのテーマと構想が、計画建議に挙げられている。これらのテーマを基に、多くの戦略措置と詳細項目が「計画綱要」に取り入れられた。計画建議で提起されたこれらの強国テーマには、計画綱要において適切な細分化と資源配置が行われたことから、それぞれの重要性と特徴が読み取れることができる(図3)。

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図3 「第14次5カ年計画」の強国戦略関係図

 まず、現在の中国が直面している重大な挑戦は、「科技強国」、「ネットワーク強国」、「海洋強国」に関わる課題であり、中国の未来発展に影響する最も重要なテーマとなっている。そして、この3つのテーマは「デジタル中国」構想と強く関係している。次に、「品質強国」、「製造強国」、「交通強国」、「貿易強国」は中国の伝統的な強みのある分野に関するテーマであり、いずれも今後「量」から「質」へのグレードアップが要求されるであろう。最後に、「文化強国」、「教育強国」、「人材強国」などは、これまでの中国発展の基礎に関わるテーマであり、今後も継続して強化されるべきものである。これらの中で「科技強国」は最もコアなテーマであり、すべてのテーマに影響し牽引する中心的なものとなる。2035年まで、中国はこれまで以上に、科学技術に対する資源投入を拡大し、科学技術イノベーションを推進することが「計画建議」と「計画綱要」に明記されている。

 計画綱要において、「科技強国」は最も重要視され、より多くの資源配置が投入されるべきとしている。総論のすぐ後に、「強国戦略」のトップとして提起され、「科学技術イノベーション発展を持続し、新たな優位性を全面的に発展する」ことをテーマに、7つの先端研究分野におよぶ50以上の詳細課題が設定された(表1)。これらの課題は大きな注目を浴び、国内の研究機関と大学およびハイテク企業の今後の研究活動の中心となるであろう。

表1 先端研究分野のブレイクスルー戦略

出典:「計画綱要」案

01 次世代人工知能
先端基礎理論におけるブレイクスルーを達成し、専用チップを研究・開発し、ディープラーニングフレームワーク等のプラットフォームを構築し、推理と策定、映像と図形、音声と動画、自然言語処理等の領域の革新を学習する。
02 量子情報
MAN、都市間および自由空間量子通信技術を研究・開発し、量子コンピューターと実用化量子シミューレータ―を研究・製造し、量子精密測定技術におけるブレイクスルーを達成する。
03 集積回路
設計ツール、重点設備および高純度ターゲット材等の重要材料を研究・開発し、先端工芸、IGBT、MEMS等特色のある製造技術のブレイクスルーを達成し、先端ストレージ技術を向上させ、炭化ケイ素(SiC)やガリウムナイトライド(GaN)などのワイドギャップ半導体を発展させる。
04 脳研究と脳型研究
脳認識原理を解析し、脳神経関連計画図を作成し、脳の疾病の原理と介入を研究し、子ども・青少年の脳と智能の発育、脳型計算、脳とコンピューターの融合技術を研究・開発する。
05 遺伝子とバイオテクノロジー
遺伝子学を研究・応用し、遺伝子細胞、遺伝子育種、合成生物、バイオ医薬品等の技術を革新し、ワクチンの革新、体外診断、抗体薬等を研究・開発し、農作物、畜産・水産、微生物等の新品種を改良し、生物安全技術を研究する。
06 臨床医学と健康
癌、脳心血管病、呼吸、代謝性疾病等の基礎発生メカニズムを研究し、健康介入技術を研究・開発し、再生医学、微生物組、新たな治療方法などの先端技術を研究・開発し、重要な伝染病、慢性非伝染病の重要な予防・治療技術を研究する。
07 深宇宙、深海および極地の探知
宇宙の起源と変遷、地球探知などの基礎科学を研究し、火星や小さい惑星などを探査し、新たなキャリアロケット、リサイクル宇宙運送システム、地球深部探査設備、深海運営維持と設備試験船、極地立体モニタリングプラットフォームおよび重型砕氷船を研究・開発し、月探査事業第4期、蛟龍号有人潜水調査事業第2期、雪龍砕氷船事業第2期を推進する。

 同時に、それらの研究活動を推進するため、政府出資による大型科学技術施設・設備のリストも公表された(表2)。

表2 国家重要科学技術インフラ整備

出典:「計画綱要」案

01 戦略主導型
地上空間環境モニタリングネットワーク、高精度地上タイムサービスシステム、大型低速風洞、海底科学モニタリングネットワーク、空間環境地面シミュレーション装置、核融合総合研究施設などを建設する。
02 応用支援型
高エネルギー放射光源、効率的な低炭素ガスタービン試験装置、超重力遠心シミュレーションと試験装置、加速器駆動核変換研究装置および未来ネットワークテスト施設などを建設する。
03 先見性牽引型
硬X線自由電子レーザー装置、高海抜宇宙線天文台、包括的な極限状態の実験装置、非常に深い地下と非常に低い放射線のバックグラウンドフロンティア物理実験施設、精密重力測定研究施設および強電流重イオン加速器装置を建設する。
04 民生改善型
医学研究の移転施設、マルチモーダルクロススケール生物医学イメージング施設、モデル動物の表現型と遺伝子研究施設、地震科学実験場および地球システムデータシミュレーションなどを建設する。

 また、さらなる科学技術力の向上による実体経済と企業の発展を推進するため、製造業のコア技術の競争力向上に関する取組みも取り入れられた。これこそ「科技強国」の最も重要なポイントと指摘され、8つの先端製造分野におよぶ70以上の課題が提起された(表3)。

表3 製造業コアコンピタンスの向上課題

出典:「計画綱要」案

01 先端新材料
ハイエンド希土類機能性材料、高品質の特殊鋼、高性能合金、超合金、高純度レアメタル素材、高性能セラミック、電子ガラスなどの先端金属と無機金属の突破を推進し、高性能繊維およびその複合材料、バイオベースと生物医学材料の研究開発・応用を強化し、メタロセンポリエチレンなどの高性能樹脂と集積回路のフォトレジストなどの電子高純度材料の重要技術のブレイクスルーを加速する。
02 重要技術設備
CR450高速度レベル中国モデル高速列車、中国モデル地下鉄列車、ハイエンド工作機械、先端工程機械 原子力発電所の主要コンポーネント、クルーズ船、大型LNG船舶、深海の石油およびガス生産プラットフォームなどの研究開発・応用を推進し、C919大型旅客機のデモンストレーション運行、ARJ21リージョナルジェット機の発展を促進する。
03 AI製造とロボット技術
分散制御システム、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)、データ収集とビデオ監視システムなどの工業制御設備を重点に研究・開発し、先端コントローラ、高精度サーボドライブシステム、高性能レデューサーなどのロボット技術のブレイクスルーを達成し、アディティブマニュファクチャリングを発展させる。
04 航空機エンジンとガスタービン
先端航空機エンジンの重要な材料の技術研究開発検証を加速させ、大きなバイパス比ターボファン航空機CJ1000の研究開発を推進し、ワイドボディ旅客機エンジンのキーテクノロジーのブレイクスルーを達成し、民間ターボシャフトエンジンの産業化を実現し、上海大型ガスタービン試験場を建設する。
05 北斗の産業化応用
コミュニケーションとナビゲーションの一体化融合技術のブレイクスルーを達成し、北斗応用産業イノベーションプラットフォームを構築し、通信、金融、エネルギー、民用航空などの業界で典型的な示範を実施し、車載ナビ、スマートフォン、ウェアラブルデバイスなどの消費業界における市場化かつ規模化の応用を推進する。
06 新エネルギー自動車とスマートカー
新エネルギー自動車安全性の高いパワーバッテリー、高効率ドライブバッテリー、高性能パワーシステムなどのキーテクノロジーを突破し、スマートカー基礎技術プラットフォームおよびハードウェア、ソフトウェアシステム、ワイヤーコントロールサイト、インテリジェントターミナルの開発を加速させる。
07 先端医療設備と新薬
内視鏡手術ロボット、体外式膜型人工肺などのコア技術のブレイクスルーを達成し、先端映像、放射線治療などの大型医療設備および重要な部品を研究開発する。脳ペースメーカー、完全に分解可能な血管ステントなどの介入商品を発展させ、リハビリテーションエイズの品質向上を推進する。重大な伝染病のワクチンを研究開発し、癌や脳心血管などの疾病の薬を開発し、漢方薬品のキーテクノロジーの開発を強化する。
08 農業機械設備
インテリジェント高馬力トラクター、精密シーダー、ブームスプレーヤー、肥料アプリケーター、効率的なコンバイン、果物と野菜の収穫機、サトウキビ収穫機、コットンピッカーなどの先端的な農業機械を開発し、丘陵地帯の効率的な農業生産専用機械を発展させる。食糧とオイル加工設備の研究開発と産業化を推進する。グリーンスマートファーミング 、環境管理、採集、肥料の利用、などの設備を開発する。

 米国トランプ政権により打ち出された「中国科学技術抑圧政策」は、今後のバイデン政権でも継続されることとなるであろう。このような中国に対する抑圧政策の実施は、中国政府のみならず国内科学技術界の強力な反発をもたらした。中国では科学技術イノベーションを推進する新しい「全国体制」が徐々に構築されつつある。従来の「5カ年計画」と違い、「第14次5カ年計画」は、政府投資による科学技術重大プロジェクトと課題の設定を示しただけではない。政府の資源投入と市場・企業発展との平行進行、バリューチェーン、資金チェーン、生産チェーン、研究チェーンの接合、科学技術イノベーションによる産業市場効果の最大化などといった、新しい産学研連携推進政策を取り入れている。

その3 へつづく)


1. 科技とは科学技術を指す。