田中修の中国経済分析
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【21-02】2020年中央経済工作会議の留意点(その2)

2021年01月08日

田中修

田中 修(たなか おさむ)氏 :奈良県立大学特任教授
ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員

略歴

 1958年東京に生まれる。1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信 州大学経済学部教授、内閣府参事官、財務総合政策研究所副所長、税務大学校長を歴任。現在、財務総合政策研究所特別研究官(中国研究交流顧問)。2009年10月~東京大学EMP講師。2 018年4月~奈良県立大学特任教授。2018年12月~ジェトロ・アジア経済研究所上席主任調査研究員。学術博士(東京大学)

主な著書

  • 「日本人と資本主義の精神」(ちくま新書)
  • 「スミス、ケインズからピケティまで 世界を読み解く経済思想の授業」(日本実業出版社)
  • 「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)
  • 「検証 現代中国の経済政策決定-近づく改革開放路線の臨界点-」
    (日本経済新聞出版社、2008年アジア・太平洋賞特別賞受賞)
  • 「中国第10次5ヵ年計画-中国経済をどう読むか?-」(蒼蒼社)
  • 『2020年に挑む中国-超大国のゆくえ―』(共著、文眞堂)
  • 「中国経済はどう変わったか」(共著、国際書院)
  • 「中国ビジネスを理解する」(共著、中央経済社)
  • 「中国資本市場の現状と課題」(共著、財経詳報社)
  • 「中国は、いま」(共著、岩波新書)
  • 「国際金融危機後の中国経済」(共著、勁草書房)
  • 「中国経済のマクロ分析」(共著、日本経済新聞出版社)
  • 「中国の経済構造改革」(共著、日本経済新聞出版社)

その1 よりつづき)

5.2021年の重点任務

 2021年は、以下の重点任務にしっかり取り組まなければならない。

(1)国家戦略科学技術パワーを強化する

 国家の重大科学技術イノベーションの組織者としての役割を十分発揮させ、戦略的な需要の誘導を堅持し、科学技術イノベーションの方向・重点を確定し、国家の発展・安全を制約する重大難題の解決に力を入れなければならない

 新たなタイプの挙国体制の優位性を発揮させ、重要な研究院・研究所・大学の国家隊としての役割を発揮させ、科学研究パワーの配分の最適化と資源のシェアを推進しなければならない。「基礎研究十年行動方案」を早急に制定・実施し、いくらかの基礎学科研究センターを重点的に配置し、条件の整った地方が国際・地域科学技術イノベーションセンターを建設することを支援しなければならない。

 科学技術イノベーションにおける企業の主体としての役割を発揮させ、リード役の企業がイノベーション連合体を組織することを支援し、中小企業のイノベーション活動を牽引しなければならない。国際科学技術交流・協力を強化しなければならない。

 国内人材育成を加速し、更に多くの優秀な青年が頭角を現すようにしなければならない。インセンティブメカニズムと科学技術評価メカニズムを整備し、難関攻略任務に「進んで手を挙げて挑む」等のメカニズムをしっかり実施しなければならない。科学技術倫理を規範化し、良好な学風・作風を樹立し、科学研究者の一意専心・着実な進取の精神を誘導しなければならない。

(留意点)
 科学技術イノベーションにおいて、国家は組織者の役割を果たし、あくまでも主体は企業であるとしている。19年会議では技術イノベーションにおける国有企業の役割が強調されていたが、今回はリード役の大企業のみならず、中小企業の役割も言及されている。

 また、基礎研究を重視する姿勢を示している。

(2)産業チェーン・サプライチェーンを自主的にコントロール可能にする能力を増強する

 産業チェーン・サプライチェーンの安定は、新たな発展の枠組を構築するための基礎である

 短所を補い、長所を鍛え上げることを統一的に推進し、産業チェーンの脆弱部分に対し、カギ・コアとなる技術の難関攻略プロジェクトをしっかり実施し、いくらかのボトルネックの問題をできるだけ速やかに解決し、産業の優位性のある分野で精緻に耕作し、更に多く独自の技能・真似のできない技術を作り出さなければならない。

 産業基盤再構築プロジェクトをしっかり実施し、基礎的な部品・基礎的な技術・カギとなる基礎材料等の基礎を打ち固めなければならない。トップダウン設計、応用牽引、完成品リードを強化し、共通技術の供給を強化し、品質向上行動を深く実施する。

(留意点)
 新型コロナで、産業チェーン・サプライチェーンが寸断され、また米中経済摩擦も激化しているため、産業チェーンの脆弱部分の補強が重視されている。

(3)内需拡大という戦略的基点を堅持する

 強大な国内市場の形成は、新たな発展の枠組構築の重要な支えであり、消費・貯蓄・投資等の合理的な誘導の方面で、有効な制度手配を進めなければならない。

(留意点)
「建議」で、「国内大循環を主体とし、国内・国際2つの循環が相互促進する新たな発展の枠組を構築する」とされたため、内需拡大・強大な国内市場の形成が重要課題となっている。世界経済の回復が不安定・不確定であり、米国が国際大循環からの中国経済の切り離しを図っている以上、中国としても内需拡大を重視せざるを得ないのである。

①消費

 消費拡大の最も根本は雇用の促進であり、社会保障を整備し、所得分配構造を最適化し、中等所得層を拡大し、共同富裕を着実に推進しなければならない。消費拡大を人民生活の質の改善と結びつけなければならない。

 消費・購入を制限するいくらかの行政的規定を秩序立てて廃止し、県・郷の消費潜在力を十分発掘しなければならない。職業技術の教育体系を整備し、更に十分で更に質の高い雇用を実現しなければならない。公共消費を合理的に増やし、教育・医療・老人ケア・幼児保育等公共サービスの支出効率を高めなければならない。

(留意点)
 雇用の促進が消費拡大のカギであるとしている。また、所得分配構造の最適化・中等所得層の拡大が、消費拡大の文脈で語られている。個人所得とりわけ都市部の個人所得の伸びの鈍化が消費の回復を遅らせているとの認識があるのだろう。

②投資

 投資の伸びの持続力を増強し、カギとなる役割を引き続き発揮させなければならない。

 外部波及効果が強く、社会効率の高い分野における中央予算内投資の誘導・テコの役割を発揮させなければならない。全社会の投資活力を奮い立たせなければならない

 デジタル経済を大いに発展させ、新しいタイプのインフラへの投資を強化しなければならない。製造業の設備更新と技術改造投資を拡大しなければならない。都市再開発行動を実施し、都市の老朽化した住宅団地の改造を推進し、現代物流システムを建設しなければならない。計画の統一とマクロ指導を強化し、産業配置をしっかり統一し、新興産業の重複建設を回避しなければならない

(留意点)
 消費の回復が弱いため、投資の伸びの維持に頼らざるを得ないが、外部波及効果と社会効率が重視されており、新興産業の重複建設回避にわざわざ言及するなど、やみくもな投資拡大を警戒している。新5ヵ年計画の初年度には、とかく乱投資が起こりがちだからであろう。また、デジタル経済・新しいタイプのインフラを重視しており、今後5G、AI、モノのインターネット、工業インターネット、(産業用モノのインターネット)、データセンター等への投資が強化されることになろう。

(4)改革開放を全面推進する

 新たな発展の枠組を構築するには、ハイレベルの社会主義市場経済体制を構築し、ハイレベルの対外開放を実行し、改革と開放を相互に促進しなければならない。マクロ経済ガバナンスを整備し、国際マクロ政策協調を強化しなければならない。

 「国有企業改革3年行動」を深く実施し、民営経済の発展環境を最適化し、健全な現代企業制度を整備し、コーポレートガバナンスを整備し、各種市場主体の活力を奮い立たせなければならない。

 市場の参入を緩和し、公平な競争を促進し、知的財産権を保護し、統一した大市場を建設し、市場化・法治化・国際化したビジネス環境を作り上げなければならない健全な金融機関ガバナンスを整備し、資本市場の健全な発展を促進し、上場会社の質を高め、各種の債務逃れ・踏み倒し行為を取り締まらなければならない。第3の支柱の年金保険を規範的に発展させなければならない。

 全面的で進歩したCPTPPへの参加を積極的に考慮しなければならない。国内監督管理の能力・水準向上に力を入れ、安全審査メカニズムを整備し、国際一般ルールの運用で国家安全を擁護することを重視しなければならない。

(留意点)
 2020年は債券のデフォルトが相次いでいる。21年になると、新型コロナ対策で元本償還・利払猶予となっていた貸出の償還期限が訪れるため、貸倒れのリスクを高めることになり、悪質な債務逃れ・踏み倒し行為を取り締まることが必要となる。

 また、CPTPPへの参加を積極的に考慮するとしており、米国の復帰への動きとともに、加盟国の反応が注目される。

 国家安全の擁護について、「中国の特色あるルール」ではなく、国際一般ルールに従う旨を明らかにしていることは注目される。

(5)種子・耕地問題をしっかり解決する

 食糧安全を保障するカギは、食糧は土地に依拠し、技術に依拠する戦略を実施することにある。

 種子遺伝資源の保護・利用を強化し、種子バンクの建設を強化しなければならない。科学を尊重し、監督管理を厳格化し、バイオ育種の産業化応用を秩序立てて推進しなければならない。種子資源のボトルネックの技術の難関攻略を展開し、志を抱いて種子業の復活戦を戦わなければならない。

 18億ムー(1.2億ha)の耕地レッドラインをしっかり守り、耕地の「非農業化」に断固歯止めをかけ、「非食糧化」を防止し、耕地の占用・補充のバランスを規範化しなければならない。国家食糧安全産業ベルトを建設し、ハイレベルの農地・水田建設を強化し、農地・水田の水利建設を強化し、「国家黒土保護プロジェクト」を実施しなければならない。食糧と重要農業副産品の供給保障能力を高めなければならない。農業面源汚染対策を強化しなければならない。

(留意点)
 突然、種子の問題がクローズアップされた点につき、新華社2020年12月19日は、中国の種子業市場は1,000億元近い規模で、世界第2位であるとする。

 そして「イネと小麦の種子の供給源は完全自給自足を達成し、競争力がある。トウモロコシと大豆の種子は基本的自給を実現したが、育種および栽培などの要因の影響で、単位面積当たり収量が世界の先進レベルに比べまだ差がある。少数の生鮮野菜品種はいまだに市場の多様化したニーズを満たすことができておらず、特に一部ハウス栽培に適した野菜や加工専用の野菜品種は依然輸入が必要だ」と指摘し、「種子は農業の『ICチップ』であり、わが国の種子業の自主革新レベルは先進国とまだ差があり、特にコア技術の革新が不足し、育種のコア技術イノベーションが待たれる」としている。

 このため、食の安全保障のためには、種子供給源の安全保障と、1.2億haの耕地最低ラインを固く守ることを、国の安全保障戦略レベルに引き上げて中止しなければならないとしている。

(6)反独占と資本の無秩序な拡張防止を強化する

 反独占・反不当競争は社会主義市場経済体制を整備し、質の高い発展を推進する内在的要求である

 国家は、プラットフォーム企業のイノベーション・発展、国際競争力増強を支援し、公有制経済と非公有制経済の共同発展を支援すると同時に、法に基づき規範的に発展させ、健全なデジタル・ルールを整備しなければならない

 プラットフォーム企業の独占認定、データの収集・使用・管理、消費者の権益保護等の法律・規範を整備しなければならない。規制を強化し、監督管理能力を高め、独占・不当競争行為に断固反対しなければならない。金融イノベーションは、プルーデンス監督管理の前提の下で進めなければならない

(留意点)
 「反独占と資本の無秩序な拡張防止」が盛り込まれた背景として、新華社2020年12月18日によれば、識者の見解を紹介している。

 中国貿易促進会研究院 趙萍副院長:「党中央が全面的に法に基づき治国する理念を深く推進するに伴い、法律活動も必然的にインターネットの分野に延伸することになり、インターネットが法の外の地となることは絶対にあり得ない。この2年、わが国は不断にインターネット空間の法に基づくガバナンスを推進しており、2019年の『電子商務法』の正式実施により、電子商取引分野の法律の空白を埋め、電子商取引の発展を法に拠るものとした。20年11月には『ライブコマース情報内容・サービス管理規定』を公開して意見を徴求し、12月7日には党中央が『法治社会建設実施要綱(2020-2025年)』を発している。これらの政策・法規の制定・実施は、いずれもわが国の現在のインターネット環境が不断に整備されてきていることを表明している。将来、インターネットも更に整備された枠組の下に入り、公正さを守ることとイノベーションを併せ考慮することになる。インターネット分野は、もはや市場参入の段階でなくなり、生活の各方面に浸透するに伴い、相対的成熟段階に入った。関連産業の規模は巨大で、巨大企業が多く、多国籍企業が多いため、反独占がようやく議題に上ったのである」。

 中泰証券 李迅雷チーフエコノミスト:「インターネット・ビッグデータ等の分野で新たな独占が形成されている。この独占が庶民・中小企業の利益を損なっているかどうかは、政策レベルの面で考量しなければならない。一部のインターネットプラットフォームのように、資本の力を借りて分野をますます広げ、新たな『大き過ぎてつぶせない』会社を形成しており、資本の無秩序な拡張はリスクをもたらす可能性がある」。

 反独占法の改正の動きもあり、今後の動向に注意を要しよう。

(7)大都市住宅の際立った問題をしっかり解決する

 住宅問題は、民生福祉に関係する

 「住宅は住むためのものであり、投機のためのものではない」という位置づけを堅持し、土地の事情に応じて施策を講じ、多くの措置を併せ打ち出し、不動産市場の平穏で健全な発展を促進しなければならない。

 社会保障的性格をもつ賃貸住宅の建設を高度に重視し、長期賃貸住宅政策の整備を加速し、公共サービスの享受において、徐々に賃貸住宅に同等の権利を持たせ、長期賃貸住宅市場を規範的に発展させなければならない。

 土地供給は、賃貸住宅の建設に傾斜させ、賃貸住宅用地計画を単独で策定し、集団建設用地と企業・事業単位が所有する遊休地を利用して、賃貸住宅を建設することを模索し、国有・民営企業は機能・役割を発揮しなければならない。

 低家賃住宅の税・費用負担を引き下げ、賃貸市場の秩序を整頓し、市場行為を規範化し、家賃水準に対して合理的なコントロールを進めなければならない。

(留意点)
 賃貸住宅、とりわけ社会保障的性格をもつ長期賃貸住宅を重視している。住宅価格の高騰に伴い、家賃も上昇しており、庶民の不満を鎮めるには、公的な長期賃貸住宅の供給が必要となっているのであろう。

(8)炭素のピーク到達、カーボンニュートラル(炭素中立)政策をしっかり行う

 わが国のCO2排出を、2030年前にピークに到達させ、2060年前にカーボンニュートラルを実現するようできる限り努力する

 2030年前に炭素排出量をピークに到達させる行動方案を早急に制定し、条件の整った地方が率先してピークに到達させることを支援しなければならない。産業構造・エネルギー構造の調整・最適化を加速し、石炭消費のできるだけ早いピーク到達を推進し、新エネルギーを大いに発展させ、全国でエネルギー使用権・炭素排出権の取引市場の建設を加速し、エネルギー消費の強度・総量の2つのコントロール制度を整備する。

 引き続き汚染対策堅塁攻略戦をしっかり戦い、汚染物質排出削減・炭素排出引下げの協同効果を実現しなければならない。大規模な国土緑化行動を展開し、生態システムの炭素貯留能力を高めなければならない。

(留意点)
 習近平国家主席は、2020年12月12日の世界気候サミットにおいて、「今年9月、私は中国が国家としての自主的貢献度を高め、より強力な政策と措置を取り、2030年までにCO2の排出量をピークにもっていくことを目指し、2060年までにカーボンニュートラルの実現を目指して努力すると宣言した。ここで私は、さらに2030年までに中国はGDPに対するCO2排出量を2005年に比べ65%以上減らし、非化石エネルギーの一次エネルギー消費に占める割合を25%前後にまでもっていき、森林蓄積量を2005年より60億立法メートル増やし、風力発電、太陽光発電の設備容量を12億キロワット以上にすることを宣言する」と述べており、21年はさっそくこの達成に向けた対策が発動されることになる。

(おわり)