田中修の中国経済分析
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【21-07】「習近平経済思想」のバージョンアップ(その1)

2021年07月02日

田中修

田中 修(たなか おさむ)氏 :奈良県立大学特任教授
ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員

略歴

 1958年東京に生まれる。1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信 州大学経済学部教授、内閣府参事官、財務総合政策研究所副所長、税務大学校長を歴任。現在、財務総合政策研究所特別研究官(中国研究交流顧問)。2009年10月~東京大学EMP講師。2 018年4月~奈良県立大学特任教授。2018年12月~ジェトロ・アジア経済研究所上席主任調査研究員。学術博士(東京大学)

主な著書

  • 「日本人と資本主義の精神」(ちくま新書)
  • 「スミス、ケインズからピケティまで 世界を読み解く経済思想の授業」(日本実業出版社)
  • 「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)
  • 「検証 現代中国の経済政策決定-近づく改革開放路線の臨界点-」
    (日本経済新聞出版社、2008年アジア・太平洋賞特別賞受賞)
  • 「中国第10次5ヵ年計画-中国経済をどう読むか?-」(蒼蒼社)
  • 『2020年に挑む中国-超大国のゆくえ―』(共著、文眞堂)
  • 「中国経済はどう変わったか」(共著、国際書院)
  • 「中国ビジネスを理解する」(共著、中央経済社)
  • 「中国資本市場の現状と課題」(共著、財経詳報社)
  • 「中国は、いま」(共著、岩波新書)
  • 「国際金融危機後の中国経済」(共著、勁草書房)
  • 「中国経済のマクロ分析」(共著、日本経済新聞出版社)
  • 「中国の経済構造改革」(共著、日本経済新聞出版社)

はじめに

  習近平総書記は、1月11日、中央党校の「省部レベル主要指導幹部党19期5中全会精神貫徹専門課題検討班」開業式において、重要講話を行った。開業式には政治局常務委員、王岐山国家副主席、党中央政治局委員、国務委員、全人代常務副委員長、最高人民法院院長、最高人民検察院検察長、全国政協党員副主席、中央軍事委員、民主党派中央責任者、全国工商聯責任者等が出席し、李克強総理が挨拶を行うなど、物々しいものであり、この重要講話を全幹部に徹底させる狙いがあったものと思われる。

 この重要講話「新たな発展段階を把握し、新発展理念を貫徹し、新たな発展の枠組を構築する」の全文が『求是』5月1日号に公表された。本稿では、この概要を紹介するとともに、注目すべき部分を解説する。なお、重要な部分は、太字で示した。

Ⅰ.重要講話の内容

 党19期5中全会閉幕以降、各地方・各部門は党中央の要求に基づき、全会精神の学習・理解、宣伝・説明、貫徹・実施において、大量の活動を行い、積極的な成果を収めた。

 党中央が今回の専門課題検討班を挙行した目的は、深く検討し、体験を交流し、正確に把握することにより、新たな発展段階を正確に把握し、新発展理念を深く貫徹し、新たな発展の枠組を早急に構築して、第14次5ヵ年計画期間に質の高い発展を推進し、社会主義現代化国家全面建設の良好なスタート・歩み出しを確保することである。

 全会精神を学習貫徹することに関し、私は党19期5中全会、中央政治局常務委員会会議、中央政治局会議、中央経済工作会議、中央農村工作会議等の場で述べてきた。今日、私は再度重点的に4つの問題を述べる。

第1の問題 新たな発展段階を正確に把握する

 党と人民の事業が所在する歴史的方位と発展段階を正確に認識することは、わが党の段階的中心任務を明確にし、路線・方針・政策を制定する根本的依拠となり、わが党が革命・建設・改革で不断に勝利を得た重要な経験を理解することにもなる。

 新民主主義革命の時期、わが党は艱難辛苦の模索を経て、中国革命は新民主主義という歴史段階を経なければならないと、徐々に認識するに至り、この基礎の上に中国革命の任務と戦略・方策を提起し、人民を導いて中国革命の勝利を収めた。

 新中国成立の初め、わが党は、新民主主義社会から社会主義社会に進むには過渡的段階を経る必要があると深刻に認識するに至り、これにより過渡期における党の総路線を形成し、社会主義革命の任務を勝利のうちに完成し、社会主義建設の段階に進んだ。

 改革開放以後、わが党は、世界社会主義とりわけわが国社会主義建設のプラスマイナス両方面の経験を深刻に総括し、わが国が現在かつ長期に社会主義初級段階にあるという重大判断を行い、これに基づき党の基本路線を提起し、改革開放と社会主義現代化建設の斬新な局面を開いた。

 18回党大会以降、わが党は、これまで人民が長期に奮闘してきた基礎の上に、「五位一体」[1]の総体手配を統一的に推進し、「四つの全面」[2]の戦略手配を協調推進して、党・国家事業を推進し歴史的成果を収め、歴史的変革を発生させ、中国の特色ある社会主義を推進して新時代に入った。

 党19期5中全会が、小康社会が全面実現し、第一の百年奮闘目標が実現したことを提起して後、我々は勢いに乗じて上昇し、社会主義現代化国家全面建設の新たな征途を開き、第二の百年奮闘目標に向けて進軍しなければならない。これは、わが国が新たな発展段階に入ったことを示している。

 理論に依拠して言えば、 マルクス主義は遠大な理想と現実的な目標を結びつけ、歴史の必然性と発展段階を統一した理論であり、人類社会は必然的に共産主義に向かうと確信するが、この崇高な目標を実現するには必然的に若干の歴史段階を経ることになる。

 わが党は、マルクス主義の基本原理を運用し、中国の実際問題を解決する中で、社会主義は1つの長期的歴史プロセスであるのみならず、異なる歴史段階を画定区分する必要があると徐々に認識するに至った。

 1959年末から60年初に、毛沢東同志はソ連の『政治経済学教科書』を読んだとき、「社会主義という段階は、2つの段階に分けることが可能であり、第1の段階は未発達の社会主義で、第2の段階は比較的発達した社会主義である。後の段階は前の段階に比べ、更に長い時間を要する」と提起した。

 1987年、鄧小平同志は、「社会主義は元々共産主義の初級段階であり、しかもわが中国は社会主義初級段階、即ち未発達の段階にある。全てはこの実際から出発し、この実際に基づいて計画を制定しなければならない」と述べた。

 今日、我々は新たな発展段階、即ち社会主義初級段階の中の1段階にあり、同時にその中で数十年の累積を経て、新たな起点上の1つの段階に立っている。

 歴史に依拠して見ると、新たな発展段階は、わが党が人民を率いて「立ち上がり、豊かになる」から「強くなる」に至る歴史的に飛躍した新たな段階を迎えることになる。

 わが党は創立後、人民を団結させリードして28年の血みどろの奮戦・頑強な奮闘を経て、中華人民共和国を創立し、新民主主義から社会主義革命に至る歴史的飛躍 を実現した。

 新中国成立後、わが党は人民を団結させリードして社会主義改造を完成し、社会主義基本制度を確立し、社会主義経済文化建設を大規模に展開し、中国人民は立ち上がったのみならず、しっかり安定して立ち、社会主義革命から社会主義建設に至る歴史的飛躍 を実現した。

 歴史的な新時期に入り、わが党は人民を率いて改革開放という新しい偉大な革命を進め、広範な人民大衆の積極性・主動性・創造性を極大に奮い立たせ、中国の特色ある社会主義の道を開くことに成功し、中国を大きく踏み出させて時代に追いつかせ、社会主義現代化プロセスにおける新たな歴史的飛躍 を実現し、中華民族の偉大な復興という光明ある前途を迎えた。

 今日、我々はこれまで発展した基礎の上に、続けて社会主義現代化国家全面建設という新たな歴史を描いている。

 実際に依拠して言えば、我々は新たな征途を開き、新しく更に高い目標を実現するための豊富な物質的基礎を既に有している。

 新中国成立以降とりわけ改革開放40年余りの弛まぬ奮闘を経て、第13次5ヵ年計画の手仕舞いの時に至り、わが国経済実力・科学技術実力・総合国力と人民の生活水準は、新しい大きな段階に飛躍 し、世界第二位の大経済体・最大の工業国・最大の貨物貿易国・最大の外貨準備国となり、GDPは100兆元を超え、1人当たりGDPは1万ドルを超え、都市化率は60%を超え、中等所得層は4億人を超えている。とりわけ小康社会の全面建設で偉大な歴史的成果を収め、中華民族数千年の絶対貧困問題の解決で歴史的成果を収めた。

 これは、わが国の社会主義現代化建設のプロセスにおいて一里塚の意義を有し、わが国が新たな発展段階に入り、第二の百年奮闘目標に向けて進軍するために、堅実な基礎を打ち固めた。

 新中国成立まもなく、わが党は社会主義現代化国家建設の目標を提起し、13の5ヵ年計画を経て、我々は既にこの目標の実現のために堅実な基礎を打ち固め、将来30年は、我々はこの歴史的に偉大な志を達成する新たな発展段階である。

 我々は、既に将来発展の路線図・スケジュール表を明確にした。これは即ち、2035年までに3つの5ヵ年計画期間を用いて、社会主義現代化を基本的に実現する。その後、さらに3つの5ヵ年計画期間を用いて、今世紀中葉に、わが国を富強・民主・文明的で調和のとれた美しい社会主義現代化強国に築き上げる。

 現在、世界は百年未曾有の大変局を経ている。

 最近一時期以降、世界の最も主要な特徴は、「乱」の一字であり、この傾向は持続すると見られる。

 今回の新型コロナ感染症の世界的大流行に対応し、各国の指導力と制度の優越性はどうであったか、優劣を判断すれば、時勢はわが方にある。これは、我々の不動心・気概の源であり、我々の決意・自信の源でもある。

 同時に、我々は、現在及び今後一時期、わが国の発展は依然として重要な戦略的チャンスの時期にあるが、チャンスと試練にはいずれも新たな発展・変化があり、チャンスと試練の大きさは未曾有であり、総体としてチャンスが試練より大きいことをはっきり見て取らなければならない。

 古人[3]は、「容易な事に注意して対応することにより難事を避け、些細な遺漏を真剣に塞ぐことにより大禍を避ける」と言った。

 全党は謙虚・謹慎、刻苦奮闘を継続し、全ての団結可能なパワーを団結させ、全力で自身の事柄にしっかり取り組み、粘り強く進めて我々の既定目標を実現しなければならない。

 我々の任務は、社会主義現代化国家の全面建設であり、当然わが国が建設する現代化国家は中国の特色を備え、中国の実際に合致しなければならない。 私は党19期5中全会において5点を特別強調した。即ち、わが国の現代化は、①人口規模が巨大な現代化である、②人民全体が共同富裕となる現代化であり、③物質文明と精神文明が協調した現代化である、④人と自然の調和がとれ共生した現代化である、⑤平和発展の道を歩む現代化である。

 これは、わが国の現代化建設が堅持しなければならない方向であり、わが国の発展の方針・政策、戦略・戦術、政策・措置、施策・手配の中で体現し、全党・全国各民族・人民が共同推進してこのために努力しなければならない。

 新たな発展段階は、わが国社会主義発展プロセスの中の1つの重要な段階である。

 1992年、鄧小平同志は、「我々が社会主義を行ってからもう数十年になるが、まだ初級段階にある。社会主義制度を強固にして発展させるには、なお長い歴史的段階が必要であり、我々の数代の人・十数代の人々が必要であり、甚だしきは数十代の人々が弛まぬ努力・奮闘を堅持しても、決して高をくくり油断してはならない」と述べた。

 私の体験では、鄧小平同志がこの年にこの話をしたのは、主として政治面から述べたのであり、強調したのは、当時わが国の経済の基礎が脆弱な条件の下、長時間刻苦奮闘を要してはじめて現代化が実現できるということであり、同時に強調したのは、現代化を実現しても、わが国の社会主義制度を世世代代堅持するには、長期にわたり社会主義制度を強固にして発展させるという問題をしっかり解決せねばならず、一度苦労すれば後は末永く楽ができるというものではないということである。

 毛沢東同志は、「一切の事物には『辺』がある。事物の発展は、一段階、一段階と、不断に進むものであり、各一段階も『辺』である。『辺』を認めなければ、質の変化あるいは一部の質の変化を否認することになる」とのべた。

 社会主義初級段階は「1つの静態で、いったん成ったら変わらず、停滞し前進しない」段階ではなく、「自然発生的、受動的で、多大な気力を費やさなくても自然に乗り越えられる」段階でもなく、「動態的で、積極的に成果を出し、常に勢い盛んな生気・活力に満ち溢れた」プロセスであり、「段階的に進み、不断に発展・進歩し、質的・飛躍的・量的な累積と発展・変化に日増しに接近する」プロセスである。

 社会主義現代化国家の全面建設・社会主義現代化の基本的実現は、社会主義初級段階のわが国の発展のための要求であるのみならず、わが国の社会主義が初級段階から更に高い段階に邁進するための要求でもある。

第2の問題 新発展理念を深く貫徹する

 わが党が人民を指導して国政を運営するにあたり、重要な一方面は、どのような発展を実現し、発展という重大問題をどのように実現するかを、しっかり回答しなければならないということである。

 2015年10月29日、私は党18期5中全会において「理念は行動の先導であり、一定の発展の実践は、一定の発展理念によりリードされる。発展理念が正しいかどうかが、根本的に発展の成果ないし成否を決定づける。 実践は我々に、発展は不断に変化するプロセスであり、発展環境はいったん成ったら変わらぬものではなく、発展条件はいったん成ったら変わらぬものではなく、発展理念も自ずといったん成ったら変わらぬものではない ことを告げている」と述べた。

 18回党大会以降、わが党は経済情勢について科学的判断を進め、発展の理念と考え方について適時調整を行い、わが国経済発展を誘導して歴史的成果を収め、歴史的変革を発生させてきた。

 ここで、私はその主要な方面について、概要を述べたい。

①人民中心の発展思想を堅持する。

 2012年11月15日、18期中央政治局常務委員が内外記者と会見したとき、私は人民の素晴らしい生活への願望が我々の奮闘目標である と強調し、断固として共同富裕の道を歩まなければならないと強調した。

 2015年10月29日、党18期5中全会において、私は人民を中心とすることを堅持する発展思想を明確に提起した。

 2020年10月29日、党19期5中全会において、私は「人民全体の共同富裕促進で更に顕著な実質的進展をみるよう努力しなければならない 」と、明確に一層強調した。

②もはや簡単にGDP成長率をもって英雄を論じない。

 2012年12月15日、中央経済工作会議において、私は「客観条件を顧みず、ルールに背いて高速度を盲目的に追求してはならない」と強調した。

 2013年4月25日、中央政治局常務委員会会議において、私は「国家が確定したコントロール目標を各地方の経済成長の最低ラインとしてはならないし、まして相互に競い合い、甚だしきは幾層にも成長率をかさ上げしてはならない。質と効率の向上に立脚して、経済の持続的で健全な発展を推進し、実際の水増しのない域内生産値を追求し、効率・質が高く持続可能な経済発展を追求しなければならない 」と述べた。

③わが国経済は、「3つのタイミングが重なる」時期にある。

 2013年7月25日、中央政治局常務委員会会議において、私は「わが国経済は成長速度のギアチェンジの時期、構造調整の陣痛の時期、これまでの刺激政策の消化の時期が重なった段階にあり 、加えて、世界経済も深く調整され、発展環境は十分複雑であり、わが国経済発展の段階的特徴を正確に認識して、実際に即して正確な方法を見出し、改革調整を進めなければならない」と述べた。

④経済発展は新常態に入っている。

 2013年12月10日、中央経済工作会議において、私は「新常態」を提起した。

 2014年12月9日も、中央経済工作会議において、私は9方面の趨勢的変化からわが国経済発展が新常態に入っている原因を分析し、「新常態を認識し、新常態に適応し、新常態をリードする 」ことが当面と今後一時期、わが国経済発展の大ロジックであると強調した。

⑤資源配分における市場の決定的役割を発揮させ、政府の役割を更に好く発揮させる。

 2013年11月、党18期3中全会において、私は「市場による資源配分は、最も効率の高い形式であり、資源配分を市場が決定することは、市場経済の一般ルールである 」と強調し、「資源配分における市場の決定的役割を発揮させ、市場の役割について全く新しい位置づけを行わなければならない 」と強調した。

⑥緑の水と青い山こそが金山・銀山である。

 2013年9月7日、ナザルバエフ大学[4]で講演をした際、私は明確にこの観点を提起し、生態文明の建設、美しい中国の建設は、我々の戦略任務であり、天が青く、地が緑で、水がきれいな美しい故郷を子孫の代に残さなければならない 」と強調した。

 2014年3月7日、12期全人代第2回会議貴州代表団の審議の際、私はこの観点を一層強調した。

⑦新発展理念を堅持する。

 2015年10月、党18期5中全会において、私は「イノベーション、協調、グリーン、開放、(発展の成果を)共に享受」の発展理念を提起し、「イノベーションによる発展を重視することは発展の動力の問題を解決し、協調による発展を重視することは発展のアンバランスの問題を解決し、グリーン発展を重視することは人と自然の調和の問題を解決し、開放による発展を重視することは内外の連動の問題を解決し、(発展の成果の)共に享受を重視することは社会の公平・正義の問題を解決する 」と強調し、「新発展理念を堅持することは、わが国の発展の全局に関わる深刻な変革である」と強調した。

⑧サプライサイド構造改革を推進する。

 2015年11月10日、中央財経領導小組会議において、私は「サプライサイド構造改革の強化に力を入れなければならない」と提起した。

 2015年12月18日、中央経済工作会議において、私は「サプライサイド構造改革のカギは、『生産能力削減、在庫削減、脱レバレッジ、コスト引下げ、脆弱部分の補強』にしっかり取り組むことである」と強調した。

 2018年12月19日、中央経済工作会議において、私は「強固、増強、向上、円滑 [5]の8字新要求を提起し、この8字方針は、当面と今後一時期のサプライサイド構造改革の深化、経済の質の高い発展の推進の全てを管理する要求である」と強調した。

⑨発展がアンバランス・不十分である。

 2017年10月、第19回党大会において、私は「わが国社会の矛盾が、既に人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要と、アンバランス・不十分な発展の間の矛盾に転化 しており、これは全局に関わる歴史的変化である」と強調した。

⑩質の高い発展を推進する。

 2017年10月、第19回党大会において、私は、わが国社会の矛盾が、既に人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要と、アンバランス・不十分な発展の間の矛盾に転化しているという事実と、新発展理念の要求に基づき、「わが国経済は既に高速成長の段階から質の高い発展の段階に転換している 」と強調した。

⑪現代化した経済システムを建設する。

 2017年10月、第19回党大会において、私は「現代化した経済システムの建設は、関門を乗り越えるための切迫した要求、わが国の発展の戦略目標である 」と強調した。

⑫国内の大循環を主体とし、国内・国際2つの循環が相互促進する新たな発展の枠組を構築する。

 2020年4月10日、中央財経委員会会議において、私は「国内の大循環を主体とし、国内・国際2つの循環が相互促進する新たな発展の枠組を構築しなければならない」と強調した。

⑬発展と安全を統一する。

 2015年5月29日、中央政治局集団学習の際、私は「安全発展理念を牢固に樹立しなければならない」と強調した。

 2016年1月18日、省部レベル主要指導幹部特別課検討班において、私は4方面から我々の行う開放・発展が直面するリスク・試練を分析した。

 2018年1月5日、新任の中央委員会委員・候補委員と省部レベル指導幹部特別課題検討班において、私は8方面から16の高度に重視する必要があるリスクを列挙した。

 2019年1月21日、我々は特別に「最低ライン思考を堅持し、重大リスクを防止・解消する省部レベル指導幹部特別課題検討班」を開催し、私は開幕式で政治・意識形態・経済・対米経済貿易闘争・科学技術・社会・対外政策・党自身等の8分野の重大リスクを防止・解消しなければならない と分析し、かつ明確な要求を提起し、「我々は常に高度な警戒を維持し、『ブラックスワン』[6]事件を高度に警戒するだけでなく、『灰色の犀』[7]事件をも防止しなければならない」と強調した。

 私はこのプロセスを回顧し、18回党大会以降、我々は経済社会の発展について、多くの重大理論・理念を提起したが、このうち新発展理念は最重要であり、最も主要なものである と強調しなければならない。

 新発展理念は、系統的な理論体系であり、発展の目的・動力・方式・道筋等に関する一連の理論・実践問題に回答し、わが党の発展に関する政治立場・価値方向[8]・発展モデル・発展の道等の重大政治問題を説明した。

 全党は、新発展理念を完全・正確・全面的に貫徹しなければならない。

 以下の数点をしっかり把握することに注意しなければならない。

(1)根本宗旨から新発展理念を把握する

 古人は[9]、「天地は広大であるが、国家は庶民を根本とする」と述べた。

 人民は、わが党の執政の最も厚みのある基礎・最大の気概である。人民のために幸福を謀り、民族のために復興を謀る ことは、わが党が現代化建設を指導する出発点・帰着点であり、新発展理念の「根」「魂」である。人民を中心とする発展思想を堅持し、「発展は人民のために、発展は人民に依拠し、発展の成果は人民が共に享受する」を堅持 してこそ、正確な発展観・現代化観をもつことができる。

 ソ連は世界で初めての社会主義国家であり、輝かしい成果を収めたが、後に失敗して解体した。中でも重要な原因は、ソ連共産党は人民から乖離し、自身の利益を擁護するだけの特権官僚集団になってしまったことである。現代化した国家を実現しても、執政党が人民に背いて離れてしまえば、現代化の成果に損害を与えることになる。

 共同富裕の実現は、経済問題のみならず、党の執政の基礎に関わる重大政治問題である。我々は、貧富の格差がますます大きくなり、貧しい者がますます貧しくなり、富める者がますます富むことを決して許してはならず、富める者・貧しい者の間に越えられない溝を決して出現させてはならない。

 当然、共同富裕の実現には、必要性と可能性を統一して考慮し、経済社会発展のルールに基づいて順序立てて漸進しなければならない。同時に、この政策を待っていてはならず、

地域格差、都市・農村格差、所得格差等の問題を自覚的・主動的に解決し、社会の全面進歩と人の全面発展を推進し、社会の公平・正義を促進し、発展の成果の恩恵を更に多く更に公平に人民全体に及ぼし、人民大衆の獲得感・幸福感・安全観を不断に増強し、人民大衆に共同富裕が単なるスローガンではなく、目に見え、触れることができ、実感できるものだという事実を切実に感じさせなければならない。

(2)問題志向から新発展理念を把握する

 わが国の発展は、既に新たな歴史の起点の上に立っており、新たな発展段階の新要求に基づき、問題志向を堅持し、新発展理念を更に精確に貫徹し、発展がアンバランス・不十分である問題を確実にしっかり解決し、質の高い発展を推進しなければならない。

 たとえば、科学技術の自立自強 はわが国の生存と発展の基礎能力を決定づけるものであるが、多くのボトルネックの問題が存在 する。

 たとえば、わが国の都市・農村、地域の発展格差 はかなり大きく、この問題をいったいどのように解決するかは、多くの新たな問題について深く研究する必要があり、とりわけ地域ブロックの分化・再編、人口の地域を越えた移転の加速、農民の都市戸籍転換意欲の低下 等の問題の研究に急いで取り組み、考え方を明確にしなければならない。

 たとえば、経済社会発展の全面グリーン転換 を早急に推進することは、既に高度なコンセンサスを形成しているが、わが国のエネルギー体系は高度に石炭等の化石エネルギーに依存 しており、生産・生活体系をグリーン低炭素へと転換する圧力は大きく、2030年前に温室効果ガス排出をピークアウトし、2060年前にカーボンニュートラルにするという目標・任務の実現は極めて困難 である。

 たとえば、経済のグローバル化に逆流が出現 するに伴い、外部環境はますます複雑で変化に富み、皆が自立自強と開放協力の関係 をうまく処理し、積極参加と国際分業・国家安全保障との関係 をうまく処理し、外資利用と安全審査の関係 をうまく処理し、安全確保の前提の下で開放を拡大しなければならない と認識するに至った。

 つまり、新たな発展段階に入り、新発展理念の理解について不断に深化させ、措置を更に精確・実務的にし、質の高い発展を真に実現しなければならない。

(3)憂患意識から新発展理念を把握する

「早く考慮すれば困ることはなく、早く予想すれば窮することはない」[10]わが国社会の主要矛盾の変化と国際パワーバランスの深刻な調整に伴い、わが国の発展が直面する内外のリスクは空前の上昇をみせており、憂患意識を増強し、(最悪事態を想定して)最低ラインを守る思考を堅持し、更に複雑・困難な局面への対応を随時準備しなければならない。

 第14次5ヵ年計画「建議」は、安全問題を非常に際立てて位置づけ、安全な発展を国家発展の各分野・全プロセスに貫徹しなければならない と強調した。もし安全の基礎が堅固でなければ、発展というビルは大揺れとなってしまう。

 政治の安全・人民の安全・国家の利益至上を有機的に統一することを堅持し、大胆に闘争するだけでなく、上手に闘争し、自己を全面的に強化し、とりわけ威嚇の実力を増強しなければならない。

 マクロ経済方面では乱高下を防止し、資本市場では外資の大量流出入を防止し、食糧・エネルギー・重要資源では供給の安全を確保し、産業チェーン・サプライチェーンの安定・安全を確保しなければならない。資本の無秩序な拡張・野蛮な成長を防止し、さらに生態環境の安全を確保し、断固安全生産にしっかり取り組まなければならない。

 社会分野では、大規模な失業リスクを防止し、公共衛生の安全を強化し、各種集団的事件を有効に解消しなければならない。

 国家安全を保障する制度の建設を強化 し、その他国家の経験を参考にして、必要な「ガラスの門」をいかに設置するかを研究し、異なる段階で異なるチェーンを加えて、各種の国家の安全に係る問題を有効に処理しなければならない。

その2 へつづく)


1. 経済建設、政治建設、文化建設、社会建設、生態文明建設を一体的に進める。

2. 小康社会の全面的に実現、改革の全面深化、法に基づく国家統治の全面推進、全面的な厳しい党内統治。

3. 韓非子。原文は「慎易以避難、敬細以遠大」。

4. カザフスタンのヌルスルタンに本部を置く、カザフスタンの公立大学。2010年設置。

5. 意味は、「過剰生産能力の削減、過剰住宅在庫の削減、脱レバレッジ、企業コストの引下げ、脆弱部分の補強」の成果を強固にし、ミクロ主体の活力を増強し、産業チェーンの水準を向上させ、国民経済の循環を円滑にすることである。

6. 起こる確率は低いが被害が大きいリスク。

7. 高い確率で起こり被害は大きいが軽視されがちなリスク。

8. value orientation、善悪判断の原則(中国通信)。

9. 唐の太宗李世民の言。原文は「天地之大、黎元為本」。民を根本とする治国思想。

10. 唐の則天武后の言とされる。