【22-02】中央経済工作会議を読み解く(その2)
2022年01月07日
田中 修(たなか おさむ)氏 :奈良県立大学特任教授
ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員
略歴
1958年東京に生まれる。1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信 州大学経済学部教授、内閣府参事官、財務総合政策研究所副所長、税務大学校長を歴任。現在、財務総合政策研究所特別研究官(中国研究交流顧問)。2009年10月~東京大学EMP講師。2018年4月~奈良県立大学特任教授。2018年12月~ジェトロ・アジア経済研究所上席主任調査研究員。学術博士(東京大学)
主な著書
- 「日本人と資本主義の精神」(ちくま新書)
- 「スミス、ケインズからピケティまで 世界を読み解く経済思想の授業」(日本実業出版社)
- 「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)
- 「検証 現代中国の経済政策決定-近づく改革開放路線の臨界点-」
(日本経済新聞出版社、2008年アジア・太平洋賞特別賞受賞) - 「中国第10次5ヵ年計画-中国経済をどう読むか?-」(蒼蒼社)
- 『2020年に挑む中国-超大国のゆくえ―』(共著、文眞堂)
- 「中国経済はどう変わったか」(共著、国際書院)
- 「中国ビジネスを理解する」(共著、中央経済社)
- 「中国資本市場の現状と課題」(共著、財経詳報社)
- 「中国は、いま」(共著、岩波新書)
- 「国際金融危機後の中国経済」(共著、勁草書房)
- 「中国経済のマクロ分析」(共著、日本経済新聞出版社)
- 「中国の経済構造改革」(共著、日本経済新聞出版社)
(その1 よりつづき)
3.新たな発展段階の新たな重大理論・実践問題
新たな発展段階に入り、わが国の発展の内外環境は深刻な変化が発生し、多くの新たな重大理論・実践問題に直面しており、正確な認識・把握が必要である。
(留意点)
今回の会議の重点は、この部分と見られるが、実際に述べられているものは実践問題であり、重大理論は述べられていない。おそらくこれから第20回党大会に向けて、重大理論が構築されていくのであろう。
(1)共同富裕実現の戦略目標と実践経路を正確に認識・把握しなければならない
わが国の社会主義制度の下、社会の生産力を不断に解放・発展させ、社会の富を不断に創造・累積するだけでなく、両極分化を防止しなければならない。
共同富裕を実現するには、まず全国人民の共同奮闘を通じてパイを大きく好いものとし、その後合理的制度手配を通じてパイをうまく切り分けなければならない。これは長期の歴史過程であり、この目標に向け着実に邁進しなければならない。
質の高い発展を推進する中で、雇用優先の方向性を強化し、経済成長の雇用牽引力を高めなければならない。分配の機能・役割を発揮させ、労働分配を主体とすることを堅持し、要素に応じた分配政策を整備し、税制・社会保障・移転支出等の調節を強化しなければならない。意欲・能力のある企業・社会層が公益慈善事業に積極的に参加することを支援する。
力を尽くして実行し、力量を慮って実行することを堅持し、公共サービスの政策制度体系を整備し、教育・医療・高齢者介護・住宅等の人民大衆が最も関心をもつ分野において、基本公共サービスを精確に提供しなければならない。
(留意点)
ここでも、まず発展(パイの拡大)が重視され、次に「両極分化の防止」(パイの切り分け)が述べられている。そして、共同富裕の実現は長期の歴史過程であるとし、性急な再分配政策には慎重な姿勢を示している。
(2)資本の特性と行動法則を正確に認識・把握しなければならない
社会主義市場経済は偉大な創造であり、社会主義市場経済においては必然的に各種形態の資本があり、資本の生産要素としてのポジティブな作用を発揮させると同時に、そのネガティブな作用を有効にコントロールしなければならない。
資本のために「信号灯」を設置し、法に基づき資本への有効な監督管理を強化し、資本の野蛮な生長を防止しなければならない。
資本の規範的・健全な発展を支援し、社会主義の基本経済制度を堅持・整備し、いささかも揺るぐことなく公有制経済を強固にして発展させ、いささかも揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励・支援・誘導しなければならない。
(留意点)
21年会議では、「反独占と資本の無秩序な拡張の防止」であったが、今回は「資本の野蛮な拡張防止」となった。また、資本にはポジティブな作用とネガティブな作用の両面があることを明記し、資本への事前警告のための「信号灯」を設置するとしている。なお、人民日報2021年12月15日は、「資本の無秩序な拡張に歯止めをかけることは、資本が不要ということではなく、資本の秩序立った発展が必要だということである」としている。
左派の民営企業批判に対しては、2つの「いささかも揺ぐことない」を再強調し、「総括」部分でも、引き続き民営企業の発展を支援するとしている。21年8月以降、指導部はこの種の発言を繰り返している。
(3)一次産品の供給保障を正確に認識・把握しなければならない
節約優先を堅持し、全面節約戦略を実施しなければならない。生産分野において資源の全面的な節約・集約・循環利用を推進する。消費分野において全国民の節約意識を増強し、簡素・適度、グリーン・低炭素の生活方式を唱導する。
国内資源の生産保障能力を増強し、石油・ガス等の資源先進採掘技術の開発応用を加速し、廃棄物循環利用システムの構築を加速しなければならない。
農業総合生産能力の向上を更に際立てて位置づけ、ハイレベルの農地建設を引き続き推進し、種業振興キャンペーンを深く実施し、農機具の装備水準を高め、食糧を生産する農民の合理的な収益を保障し、中国人の食糧をどんな時にもしっかり自己の手中に収めなければならない。
(留意点)
2020年以降、経済安全保障が重視されているが、ここでは資源安全保障と食糧安全保障に重点が置かれている。国際一次産品価格の高騰が背景にあろう。
(4)重大リスクの防止・解消を正確に認識・把握しなければならない
引き続き、「大局の安定、統一・協調、施策の分類、精確な爆弾処理」の方針に基づき、リスク処理活動にしっかり取り組み、金融の法治建設を強化し、地方、金融監督管理部門、業種の主管部門の各方面の責任を徹底させ、企業の自力救済の主体責任を徹底させなければならない。
能力開発を強化し、金融監督管理の幹部陣容の構築を強化しなければならない。
リスク解消は充分な資源があることが必要で、リスク解消の政策を検討・制定し、広範に協調して、金融リスクの処理メカニズムを整備しなければならない。
(留意点)
危機に際しては、まず企業の自助努力、次に地方・金融監督管理部門・業種主管部門の責任が語られている。金融監督管理の幹部陣容の強化に言及があるが、最近金融監督管理部門の反腐敗調査が強化されており、紀律面で問題があるのであろう。
(5)炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラルを正確に認識・把握しなければならない
炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラルの実現は、質の高い発展を推進するための内在的要求であり、断固推進しなければならないが、一挙に全てを解決することは不可能である。
「全国統一・節約優先・両輪駆動・内外の円滑化・リスク防止」の原則を堅持しなければならない。伝統的エネルギーの段階的退出は、安全で信頼できる新エネルギーとの代替の基礎の上に確立しなければならない。
石炭を主とする基本国情に立脚し、石炭のクリーン・高効率利用にしっかり取り組み、新エネルギーの消化吸収能力を高め、石炭と新エネルギーの最適な組合せを推進しなければならない。グリーン・低炭素技術の難関攻略にしっかり取り組まなければならない。
科学的に審査し、新たに増えた再生可能エネルギーと原料用エネルギーは、エネルギー消費総量コントロールに組み入れず、条件を創造してできるだけ早く、エネルギー消費の「2つ(総量・強度[1])のコントロール」から、炭素排出の総量・強度の「2つのコントロール」への転換を実現し、汚染物質排出削減・炭素排出削減のインセンティブ・規制メカニズムの形成を加速し、単純な段階的分散を防止しなければならない。
エネルギー供給を確保し、大企業とりわけ国有企業は供給保障・価格安定を牽引しなければならない。エネルギー革命を深く推進し、エネルギー強国を早急に建設しなければならない。
(留意点)
21年会議では、「条件の整った地方が率先して炭素排出をピークに到達させることを支援しなければならない」と、地方をけしかけていたが、結果として地方が過剰反応し、石炭・電力不足が発生したため、今回は「一挙に全てを解決することは不可能」「安全で信頼できる再生エネルギーをまず確立」「石炭を主とする基本国情に立脚し、まず石炭のクリーン・高効率利用に取り組む」と大きくトーン・ダウンした。人民日報2021年12月15日は、「炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラルは、広範で深刻な経済社会変革であり、決して簡単に実現できるものではない」としている。
また、総量・強度のコントロール対象を、エネルギー消費から炭素排出に転換する旨を明らかにしている。
4.総括[2]
①「6つの安定」「6つの保障」政策とりわけ雇用・民生・市場主体の保障に引き続きしっかり取り組み、経済運営を合理的区間に維持することを軸に、マクロ・コントロールを強化・改善し、マクロ政策のクロスシクリカル(周期を跨ぐ)調節を強化し、マクロ・コントロールの展望性・的確性を高めなければならない。
②市場主体は数億人の就業・起業を担っている。引き続き市場主体に向けて新たな減税・費用引下げを実施し、彼らとりわけ中小・零細企業、個人工商事業者の負担軽減・困難緩和、回復・発展を支援しなければならない。
③実体経済に対する融資支援を強化し、中小・零細企業の資金調達の量増加・範囲拡大・金利引下げを促進する。
④重点層の雇用にしっかり取り組み、雇用措置をしっかりきめ細かく実施する。
⑤財政力の下方移転を推進し、末端政府の企業困難緩和支援政策の実施と基本民生・賃金・運営の保障を更にしっかり支援する。
⑥石炭・電力・石油・ガス・輸送等の調節を強化し、電力の充分な供給を促進する。
⑦重点分野の改革を深化させ、市場の活力と発展の内生的動力を更に大きく奮い立たせ、市場化メカニズムを運用して企業のイノベーション投入を奨励する。多様な所有制経済の共同発展を促進し、民営経済の発展環境を最適化し、各種市場主体の財産権・合法権益を法に基づき保護し、政策は(各種市場主体を)同一視し、平等に対応しなければならない。
⑧ハイレベルの開放を拡大し、多くの措置を併せ打ち出して対外貿易を安定させ、産業チェーン・サプライチェーンの安定を保障し、外資吸収を強化する。
(留意点)
「6つの保障」の中でも、雇用・民生・市場主体の保障が重視されている。これについて、国務院発展研究センターマクロ経済研究部の張立群研究員は、「雇用は民生の本であり、民生保障には雇用保障が必要であり、雇用を保障するには市場主体を保障しなければならない。この1.5億前後の市場主体は、雇用の基盤である」としている(人民網2021年12月13日)。
また、こちらでは、「民営経済の発展環境を最適化する」と、民営経済の発展支援を明確に打ち出している。
5.その他
(1)党委員会・政府の責務
各レベル党委員会・政府は、党中央との高度な一致を自覚的に維持し、政治判断力・政治理解力・政治執行力を高め、さらに歴史知識を学習し、文化の蓄積を厚くし、エコ観念を強化し、行動面では、党の路線・方針・政策を貫徹実施する実際行動上に体現し、質の高い発展を推進する実際行動上に体現し、党のために憂いを分かち、国のために責務を尽くし、人民のために貢献する実際行動上に体現しなければならない。
(2)経済政策の心構え
経済政策は客観的実情と大衆のニーズを尊重し、システム的思考をもち、科学的に計画しなければならない。
指導幹部は経済政策を指導する専門能力を高めなければならない。経済社会の発展は1つのシステム工学であり、政治と経済、現実と歴史、物質と文化、発展と民生、資源と生態、国内と国際等の多方面の要因を総合的に考慮しなければならない。
指導幹部は経済学の知識・科学技術の知識の学習を更に強化し、特に人民を中心とする発展思想をよく理解し、正確な政治業績観を堅持し、歴史・文化・生態を畏れ敬い、慎重に政策決定し、慎重に権力を用いなければならない。
調査研究を強化し、「三厳三実」[3]を堅持し、単純化・勝手な振舞いを断固防止し、無責任・不作為に断固反対しなければならない。
(留意点)
経済社会の発展をシステム工学と位置づけ、指導幹部はシステム的思考をもち、多方面の要因の総合的に考慮することが必要であるとしている。このため、経済学のみならず、科学技術の知識の習得も要求されるのであろう。
(3)国民生活の安定の保障
「外では疫病の輸入を防ぎ、内では疫病のリバウンドを防ぐ」ことを堅持し、疫病防御対策を科学的・精確にしっかり実施しなければならない。石炭・電気・石油・ガス・輸送の供給保障を統一的にしっかり手配しなければならない。食糧・食用油・肉・卵・牛乳・果物・野菜等についてしっかり供給を保障し価格を安定させる。出稼ぎ農民の賃金支払を保障し、安全生産・公共安全を強化する。
(4)結び
北京冬季オリンピック・冬季パラリンピックのサービス保障に全力でしっかり取り組み、簡略・安全・精彩を放つオリンピック大会の達成を確保しなければならない。
全党同志は習近平同志を核心とする党中央の周囲に緊密に団結し、「四つの意識」[5]を増強し、「四つの自信」5を確固とし、「二つの擁護」[6]を成し遂げ、党史学習教育の成果をうまく運用して、実際の行動により党中央の政策決定・手配を完全実施し、第20回党大会の勝利の開催を迎えなければならない。
(おわり)
1. GDP単位当たりの排出量を指す。
2. この部分は、李克強総理の総括講話の概要と思われ、「政府活動報告」の構成の柱になるものと考えられる。
3. 厳しく身を修め、厳しく権力を用い、厳しく自らを律することと、計画は現実的に立て、事業は着実に進め、人として誠実であること。
4. 政治意識・大局意識・核心意識・一致意識。
5. 中国の特色ある社会主義の道・理論・制度・文化への自信。
6. 習近平総書記の党中央・全党の核心としての地位を擁護し、党中央の権威と集中・統一的指導を擁護する。