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【19-06】包商銀行の公的管理への移管

2019年6月28日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):帝京大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫、日本大学を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

 5月24日、中国人民銀行と中国銀行保険監督管理委員会は中国の地方銀行の一つである包商銀行を公的管理に移管すると公表した。

包商銀行の業況

 包商銀行は、1998年12月に内蒙古自治区内で最初の株式制商業銀行として設立された包頭市商業銀行が前身で、2007年9月に包商銀行と改名した。日本の地方銀行にあたる都市商業銀行に分類される。同行の2016年報によると、2016年末の総資産額は4315億元(約7兆円)、総預金残高1936億元(約3兆円)、総貸出残高1565億元(約2兆5千億円)である。総資産額は日本の地方銀行上位行並みであり、相当な規模の銀行ということができよう。従業員は約8,000人である。

 公的管理は人民銀行と銀保監会および関係先によって公的管理チームが組成され。そのチーム長には人民銀行の幹部、副チーム長には銀保監会の幹部が就任した。

 公的管理の期間は5月14日から1年間。公的管理の具体的内容としては、公的管理チームが包商銀行の経営管理権を全面的に取得し、具体的業務は5大銀行の一つである中国建設銀行に委託するというものである。

 人民銀行と銀保監会の公告では、公的管理に置いた理由を包商銀行に重大な信用リスクが明らかになったため、としている。そして、人民銀行、銀保監会、預金保険基金が、個人預金を元本・利息の全額保障し、入出金も自由で預金業務に何ら変更はないと公表した。また、個人向けの理財業務も影響を受けず、既存の契約はそのまま継続されるとされている。

 さらに5月26日には5000万元(約8億円)以下の企業預金と金融機関に対する負債について全額保証し、5000万元を超える部分については、一部カットすることが公表された。公的管理開始以降の新規増加分は個人預金、企業預金、金融機関負債とも全額保証される。

 中国でも銀行が破たんした場合の制度として預金保険が整備されているが、その場合保障される預金の金額は50万元(約800万円)に過ぎない。今回の措置は、破たんを回避し公的管理に置くことで、預金者など銀行の債権者の損失を最小限に抑えたものと言える。

 その後、6月2日に、人民銀行の責任者のコメントが公表され、その中で、包商銀行の大株主は明天集団であり、同集団が89%の株を保有しているが、この明天集団が包商銀行の大量の資金を違法に利用した結果、包商銀行の負債の返済に遅延が生じ、長期にわたって返済不能となる事態が発生したと述べられている。これが深刻な信用危機の内容である。明天集団は複数の企業や証券会社、銀行に投資し、経営をコントロールしている投資集団である。

 包商銀行のホームページをみると、2016年の年報までは公表されているが、2018年6月18日付で2017年の年報については、主要な株主が変動する可能性があり、しばらく公表を行わないとの公告が掲載されている。その後、2017年報は公表されていない。

 最後に公表された2016年報をみると、2016年末では自己資本比率は11.69%、中核となるtier1資本比率は9.07%となっている。また不良債権比率は1.68%である。純利益は42億元(約670億円)。これらの数字が正しいとすれば、この段階では、包商銀行の経営状況は問題ないものだった。包商銀行のホームページによると銀保監会による健全性のランクで、地方銀行としては最高ランクの二級に位置付けられていた。その後、明天集団によって資金が流用され、急速に経営状態が悪化した模様である。

公的管理移行後の状況

 前出の6月2日の人民銀行の責任者のコメントでは、5000万元を超える企業預金や対金融機関負債についてもその90%程度は保障される予定であることが述べられている。また、市場で、他にも公的管理に移行する金融機関があるのではないかとの憶測が流れていることに対しては、そのような予定はないと明言した。人民銀行は、公開市場操作などを通じて市場に十分な資金を供給しており、市場の動揺を鎮めたこともあって、5月末の短期市場金利は前月末並みとなり、金融市場は基本的に安定していたとも述べられている。

 公的管理移行後3週間を経過した6月16日に、人民銀行は改めて公的管理チームの責任者のコメントを公表した。それによると、5月24日以降個人預金については、人民銀行、銀保監会、預金保険基金が全額保障を提供し、新しい優遇金利で業務を行っている。また、6月7日までに、預金保険基金が出資して設立した預金保険基金管理公司が企業や金融機関向けの大口債権の買取り・受渡し業務をすべて終了した。このような買取り引受け方式によって、包商銀行の負債の保障レベルは高くなり、520万口座にわたるすべての個人預金、2.5万口座の5000万元以下の企業預金、対金融機関負債は全て保障され、20万口座の理財商品も影響を受けなかった。また、5000万元超の企業、金融機関からの負債も、その取引先数の99.98%は結果的に全額保障となり、少数の全額保障が行われなかった先についても、その金額の90%は保障された。

 このように市場の予想を上回る保障が提供されたこともあって、満期を迎えた300億元の金融機関向け大口負債のうち流出したのは10億元にすぎず、大部分は包商銀行にとどまり、優遇金利を享受している。結果として包商銀行のバランスシートの規模は小幅に増加した。また、包商銀行は6月3日から14日の間に銀行間市場で譲渡性預金を4度にわたり、総額32億元発行することに成功している。

今後の展望

 中国では、すでに2003年末以降、4大銀行の不良債権処理に、公的資金である外貨準備を利用して資本注入するという奇策が取られた。その後の経済の成長と、上場後の株価上昇により、結果的に出資者となった国有企業である中国投資有限公司には大きな利益が出た。今回も預金保険基金の資金が包商銀行の大口債権の買取りなどに使用されたが、過去に公的資金を投入した成功例があることもあって、速やかに公的資金が投入できたのではないか。一方で、負債については個人預金だけでなく、企業預金や金融機関に対する負債も大部分が救済された。しかし、わずかではあるが企業や金融機関に損失が発生している。これによって、銀行に対する信用供与が常に安全と考えてしまうモラルハザードを回避することと、金融市場の動揺を防ぐことの間の微妙なバランスが図られたとみることができよう。

 今後避けるべきは、今回の包商銀行の公的管理移管がきっかけとなって連鎖的に金融不安が拡大することである。包商銀行のほかに明天集団が出資している銀行は4行あり、報道によると、銀保監会が財務公司に対して、これらの4行の手形割引を行わないよう指導したという情報がインターネットで拡散した。6月18日の報道によると、これに対し公的管理チームは事実でないとの声明を発表した。中小金融機関の経営については、不良債権の増大という不安が残り続けるが、今回の件は明天集団による資金の不正利用という特殊ケースと位置付けられる。人民銀行、銀保監会は、包商銀行の債務の大部分を保護することや金融市場に対する潤沢な資金供給、流言の速やかな否定によって、当面そのような不安を抑え込むことに成功しているようにうかがえる。しかし、次に金融機関の信用不安が生じ、その処理を誤れば、危機が拡大する可能性がある。しばらくの間は、中国の金融機関の経営状態を丁寧にモニターしておく必要があるだろう。

(了)