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【20-03】成長率6.0%下回ってもわずか 李雪連氏が2020年の中国経済見通し

2020年2月4日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 丸紅経済研究所の李雪連シニア・アナリストが1月29日、日本記者クラブで記者会見し「中国経済と、米中対立が世界経済に与える影響」について詳しく解説した。中国の2019年の実質GDP(国内総生産)成長率は6.1%と1990年以来の低成長で、2020年はこれをさらに下回ると予測されている。しかし李氏は、中国政府が大規模な景気対策を温存していることを挙げ、6.0%から大きく下がることはないとの見通しを示した。一方、李氏は司会者や会場からの質問にも率直、丁寧に応え、大学が基礎研究に力を入れているものの商業化に発展するような付加価値の高い成果は日本や欧米に比べると少ない、など中国が抱える問題も認めた。

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李雪連丸紅経済研究所のシニア・アナリスト(日本記者クラブで)

 李氏はまず、1978年に始まった改革開放政策、1992年の社会主義市場経済建設宣言、2001年の世界貿易機関(WTO)正式加盟という「3つの開国」によって、中国の市場化と経済発展が進んだ歴史を種々のデータを挙げて示した。同時に、生産人口が伸び続けた「人口ボーナス」が終わり、各種コストも上昇している現状を指摘し、従来の成長モデルが限界に達し、当面は景気動向を見極める必要があるとの見方を示した。

 一方、中国政府が景気減速を容認し、景気対策に慎重な姿勢をとり続けていることにも注意を促している。具体的には、投資加熱を繰り返してきた不動産に対する購入規制の撤廃を見合わせていることと、大規模な財政出動や政策金利引き下げの発動を控えていることを挙げた。これら三つの温存されている対策が、成長率5%割れといったハードランディング(景気失速)を回避する最後の手段として活用可能だ、とみている。新型コロナウイルス感染拡大が成長率をさらに低下させるのではないかという司会者の質問に対しても「6.0%を少し下回る程度で収まる」との見通しを示した。

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 米中関係については、支配的な地位にある米国と台頭する中国との関係が、「構造的な競争時代に突入している」と見ている。「国有経済に支配される中国と米企業は公平に戦えない」、「中国の軍事力と、領土に関する主張は米国支配体制に対する挑戦」といった不満や懸念が米国内に蓄積、高まっていることを認めている。「米中貿易戦争は起こるべくして起こった」ことを裏付けるデータとして示したのが、米国が日本に対して厳しい対応をとった1980年後半の日米関係。当時、日本に対する米国の貿易赤字額と、貿易赤字の経済に対する規模(対GDP比)よりも、最近の中国に対する米国の貿易赤字額と貿易赤字の経済に対する規模の方が大きいことを示したグラフだ。

 米国と中国は1月15日に、中国の米国製品・農産物・エネルギー・サービスの輸入拡大目標などを盛り込んだ第一段階合意に署名した。しかし、この合意は対立の小さい分野に限定されたもので、大半の問題は残されたまま、というのが李氏の評価。李氏が紹介した米商務省の資料によると、2018年に米国が中国から輸入総額は5,395億ドル。これに対し、輸出は1,203億ドルにとどまる。第一段階合意には中国が米国からの輸入を今後2年で2,000億ドル拡大するという目標が盛り込まれた。しかし、輸入拡大幅の大きい農産物とエネルギーの目標達成は無理との見方が多く、合意通りの輸入拡大がなされないと米国が判断した場合に、貿易戦争が再燃するリスクが残っている、と李氏は指摘した。

 会場から、中国の全要素生産性(TFP)が低い状況では、成長率を維持するため資本投入を増やしても無駄な投資と効率の悪い設備が増えるだけではないか、という厳しい質問が出た。これに対し李氏は、現状でも過剰債務や過剰設備といった構造的な問題を抱えていることを認めた上で、さらに研究開発面で大きな問題があることも率直に認めた。他の研究者に引用される価値ある論文数で中国は米国に次いで多いなど、中国の研究力が急激に上がっていることをうかがわせるデータは多い。しかし、商業化につながるような付加価値のある研究成果は日本や欧米に比べると少ない、というのが李氏の評価。「売り上げの1割を研究開発に投資している企業はファーウェイ(華為)くらい」と基礎研究を重視しない中国企業のあり方を批判し、さらに「大学と企業がうまくリンクしていないため、せっかくの大学の成果がなかなか商業化できない」と厳しい見方を示した。

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会場からの質問に答える李雪連氏

 世界銀行が1月8日に公表した「世界経済見通し」によると、中国の2019年のGDP成長率は6.1%(推定)、2020年の予測は5.9%。また、1月20日に国際通貨基金(IMF)が公表した「世界経済見通し」では、2019年6.1%(推計)、2020年の予測は6.0%となっている。

 李氏は北京の外交学院を卒業し、北京のNEC関連企業 NEC Advanced Software Tachnology(Beijing)Co., Ltd」に入社した。早稲田大学アジア太平洋研究科修士課程修了後、2005年から丸紅経済研究所で中国全般、北朝鮮、米中関係を専門に研究を続けている。2013~14年には米国の戦略国際問題研究所(CSIS)中国部に出向した経歴も持つ。

関連サイト

日本記者クラブ 会見リポート・李雪連丸紅経済研究所シニア・アナリスト

YouTube 李雪連丸紅経済研究所シニア・アナリスト会見動画

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