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【21-08】中国人の科学技術、環境重視顕著 同志社大、電通総研調査で判明

2021年03月24日 小岩井忠道(アジア総合研究センター準備・承継事業推進室)

 延べ100以上の国と地域を対象にした同志社大学と電通総研の「世界価値観調査」から、科学技術と環境に対する中国人と日本人の考え方に大きな違いが見られることが明らかになった。論文の比較などから中国の科学技術力は日本を追い抜き、さらに差は開く一方。近年、さまざまな場で聞かれる指摘を補強する新たなデータといえそうだ。

 22日公表された「世界価値観調査」は、個人を対象に政治観、経済観、労働観、教育観、宗教観、家族観など290項目にも及ぶ設問によって、各国・地域間の価値観の違いを探るのを目的としている。1981年に最初の調査が行われ、7回目となる今回は、「世界価値観調査」と「欧州価値観研究」の共同調査として2017年から2021年にかけて実査が行われた。今回、公表されたのは2020年9月時点で集計が終了している77カ国・地域の調査結果を、池田謙一同志社大学教授と電通総研が独自の国際比較分析を行った結果。「世界価値観調査」と「欧州価値観研究」で調査票が完全には同一ではないことなどから、設問によって45カ国・地域から77カ国・地域と調査分析対象にばらつきがある。

 プレスリリースの中から、中国と日本の興味深い差が見られる項目を探すと、まず目を引くのが、科学技術に関する設問。「科学技術は生活をより健康に、楽に、快適にしている」という考え方に「賛成」と考える人が、日本は80.4%で48カ国・地域中18位。これに対し、中国は「賛成」が93.4%に上り、バングラデシュに次ぐ2位となっている。

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(電通総研プレスリリースから)

 さらに「科学技術によってより大きな機会が次世代にもたらされるだろう」という設問に対しても同様な結果となった。日本はこの設問に「賛成」が80.6%で48カ国・地域中16位だったのに対し、中国は93.0%とバングラデシュ、ベトナムに次ぐ3位。科学技術は社会を豊かにするものとして肯定的に捉えられているのは日本、中国共通だが、中国の方がより鮮明だ。

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(電通総研プレスリリースから)

 科学技術に次いで違いが目立つのが、環境保護と経済成長との関係についての設問に対する答え。「たとえ経済成長率が低下して失業がある程度増えても、環境保護が優先されるべきだ」と答えた人は、日本が34.2%と77カ国・地域中74位という低い数字だったのに対し、中国は68.6%(9位)と大きな差がついた。この設問に対する日本のもう一つの特徴は、「わからない」という回答が32.6%と、77カ国・地域中で最も多いこと。「環境保護」か「経済成長」かの二項対立では決めがたいとする考えがうかがえる、と調査チームは見ている。

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(電通総研プレスリリースから)

 このほか、家族観に関しても中国と日本の大きな差がみられる。中国も、世界に先駆けて高齢社会に突入した日本の後を追いかけるように急速な高齢化が進む。「成人したら両親の長期介護を担う義務がある」という考え方に対し、中国は「強く賛成」が61.4%、「賛成」が36.7%と賛成の合計が98.1%に上り、77カ国・地域中2位の高さ。一方、日本は「強く賛成」と「賛成」を合わせた数字が25.5%しかなく、77カ国・地域中73位と際立って低い。日本の低い数字について「介護サービスが普及しているからかもしれないが、そうした社会体制を維持できるかは日本の大きな課題の一つだ」と、調査チームは言っている。

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(電通総研プレスリリースから)

 両親の介護に対する中国と日本の、若者の考え方の違いは、澤田ゆかり東京外国語大学総合国際学研究院教授も2019年7月の科学技術振興機構主催の研究会で次のように指摘している。「国立青少年教育新興機構と青少年教育センターによる4カ国の高校生意識調査の結果、『どんなことをしてでも自分で親の世話をしたい』と考えている日本の高校生は37.6%にとどまるのに対し、中国では87.7%に上っている。この違いの原因として、親世代の蓄財の差が考えられる。文革時代に成長した中国の親の世代と日本の親の世代との裕福度は、持ち家率、貯蓄率からも明白。親を何としても自分で世話しなければならないという思いの差となって現われている」

関連サイト

同志社大学プレスリリース「同志社大学と電通総研、「世界価値観調査」分析から浮かび上がった"日本の9つの特徴"を発表

電通総研プレスリリース「電通総研と同志社大学、『世界価値観調査』分析から浮かび上がった"日本の9つの特徴"を発表

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